:
「それで持って帰ってきたの?」
夕食の席で、スープをよそっていた泰造は肩を竦めた。
「しょうがねぇだろ?パブに置いて来ようと思ったら、
店のオヤジからは訪ねてきた奴には事務所に行けって言うからって、押し付けられちまったんだから」
「随分と高級な封筒ね」
「あぁ」
生成りで厚めの封筒には、封蝋がしてあり印璽には流麗な文字の『S.O』の文字が見えた。
「何の鍵なんだろうね。宝石箱か何かかな?」
封筒の中には、鍵のようなものが入っており振ると微かに音がする。
「そうねぇ…家の鍵にしては小さいし。妖精の家の鍵かしら」
「その顔で妖精とか言うなよ、オッサン」
「うるさいわね、乙女はロマンチックなものが大好きなのよ」
「乙女って…」
げんなりした吾郎は、黙々と食事を進めることにする。
「見慣れない顔だったし…身なりは悪くなかったから、どこかのお屋敷のお使いの人かもしれません」
「あらあら、余計にミステリアスね」
ふふっと笑った家主は、吾郎の求めに応じて厚切りのハムを皿に追加してやった。
「妖精の家の鍵か、謎の宝石箱か…ロマンね」
「ロマンって顔かよ」
「明日の夕食のスープになりたいの?」
「けっ…乙女が若い男を引っ張り込んだりするなよ」
「え?」
吾郎の言葉に、泰造と寿也は顔を見合わせた。
「若い男?」
「そんなことしないわよ〜」
「は?俺が外から帰ってくるときに、階段の踊り場から外を見てる男がいるの知ってるぜ?」
「え?」吾郎がハムを口に入れた 時、玄関から呼び鈴が聞こえた。
:
: