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 薄暗いと思っていた部屋には蝋燭の灯りが揺れて、眩しいくらいだ。

「どうして、こんなところに…」
「何なんだ?この部屋は…」
 不思議そうに部屋を観察する二人に向き直った探偵は、口を開いた。
「説明は後だ。とりあえず…メシ食わしてくれねぇ?」
「大貫警部がいらしていますが…」
「食いながら話す」
「…分かりました」
 頷いた樫本は厨房へ消え、薬師寺に促された二人は応接間へと向かう。

「…!!」
 扉を開けて現れた二人を見た江頭たちは、言葉をなくしたように立ち竦んだ。
 部屋の中央の椅子に座っていた大貫は、相変わらずパイプを燻らせていた。
「よぅ。相変わらずの悪人面だな」
「おう、まだいたのか。事件が解決できなくて、逃げ帰ったのかと思ったぜ」
 気心が知れているのか無礼なのか判じかねる挨拶を交わした二人は、立ち上がって握手を交わし寿也とも挨拶をした。
「お久しぶりです。警部」
「まだこんな男とつるんでるのか?早く別れろ」
 いつもの毒舌に苦笑した寿也の肩を抱いた吾郎は、鼻を鳴らして笑みを浮かべる。
「あいにくと、離れられない関係になったんでね」
「そいつは、おめでとう。まぁ、そんなことはどうでもいい…事件のメドは付いてるんだろうな?」
「あぁ」
 頷いた探偵は、運ばれてきたスープとパンを食べつつ頷いた。
「とりあえず、殺人の方から説明しておくか?それとも隠し子か?」
「俺の仕事は殺人事件の解決だから、そっちを先にしてくれ」
「じゃ結論から言うけど…犯人はいない」
「は?」
 大貫の手からパイプが転がり落ちそうになり、彼は慌ててパイプを持ち直した。
「どういうことだ」
「…」
 部屋の片隅で俯いている国分に視線を流した吾郎は、肩を竦めた。
「児玉は打ち所が悪くて死んだ」
「はぁ?」
「まぁ…突き飛ばされてはいるんだけどな。突き飛ばされてから、しばらく児玉は生きていた。
 多分、気絶して目が覚めた時に酒を飲もうとしてたんだろう」
「それでグラスが…」
「あんな上等な酒を全部飲めなかったのは、心残りだっただろうがな」
 椅子が引かれる音がして、国分が立ち上がった。
「もう、いいです」
「…」
「…僕が突き飛ばしたんです」
「そうか。どうして突き飛ばしたんだ」
 大貫の問いに、国分は唇を噛んで俯いてしまった。
「僕は…」
 気弱そうな男は、自分を見つめる探偵に頷くと顔を上げた。
「僕は雇われてここに来ました。江頭さんに雇われて、隠し子のふりをしていたんです」
「えっ…」
 仰天した薬師寺は、口を開けて国分を見つめる。
「…どうしてそんなことを」
 薬師寺は出入りの画商に視線を向けた。
「それはな、国分を当主にすればこの城を好きにできると思っていたからだ」
「城を?」
「あぁ…こいつはな、絵を勝手に売り捌いてる」
「は?」
「この城から持ち出した絵を売り捌いて、贋作とすり替えていたんだよ」
「…そんな」
「でたらめだ!!証拠は何もない!!」
 ようやく我に返ったらしい江頭が、声を荒げて反論してきた。
「アンタの画廊、経営が苦しいそうじゃねぇか」
「…苦しいときもありますよ。商売ですから」
「そこの探偵から言われて調べたんだが…この城にあるはずの絵が、どうしてロンドンの財務大臣の家にあるんだ?」
「えっ」
「俺は絵のことについてはよく知らんが…アンタ、随分と胡散臭い噂があるみてぇだな」
「何を…言いがかりだ」
「あんたの次のターゲットは、あの絵だったんだな」
「あの絵?」
 寿也の言葉に、吾郎は頷いた。
「眉村が殴られた部屋に飾ってあった絵だ。アイツが聞いた倒れた音ってのは、おそらく外した絵を倒したんだろうさ」
「…そう言われて見れば、絵を見た記憶がないな」
「…違う。私はそんなことはしていない」
「違わねぇな。第一、アンタは児玉が殺されたときにこう言ったよな?『眉村みたいに後ろから殴られたのか』って。
 あの時、寿也も俺も『後ろから』殴られたとは言ってないのに、どうしてアンタは知ってたんだ?」
「…勘ですよ」
「じゃ、どうして寿也を殺そうとした?寿也がエメラルドの指輪を持っていたから、本物だと思ったんだろ?」
「…殺されそうになっただと?」
 今度こそ、大貫の手からパイプが転がり落ちた。
「…私だという証拠があるのか?」
「違うなら、なんであの部屋に閉じ込めたんだ?」
「閉じ込めた?」
 吾郎の言葉に、大貫が眉を上げた。
「そ。オッサンがここに着いたときにいなかったのは、寿也が風呂で溺死させられそうになるは、
 コイツに閉じ込められたりしてたからだ。大忙しだったんだぜ?」
「…それを先に言えよ」
 深いため息をついて、大貫は立ち上がった。
「それじゃ…詳しい話は本庁で聞こうか。叩けばホコリが積もりそうなくらいに出そうだな」
「違う…!!私は何もしてない!!国分だ。国分が勝手に…!!」
「…話はロンドンで聞く。黙れ」
 控えていた警官を促し、大貫は江頭を連れて部屋を出ようとした。
「おい、ちょっと待て」
「ん?」
 探偵の言葉に大貫は足を止め、同時に江頭も立ち止まる。
「やり忘れたことがあってな」
「何だ?」
「…っ!!」
 江頭を殴り倒した吾郎は、続いて国分も殴った。
「連れていっていいぜ」
 腫れた右手を軽く振った男は、椅子に戻ると食事を再開した。
「…犯人たちが仲間割れしたみたいだな」

 ため息をついた大貫が肩を竦め、部屋から連行される国分が深く頭を下げていった。

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