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「何で?」
「何がだよ?」
「何で…その…僕としたいの?」
「何でって…」
 寿也の問いに深いため息をついた男は、頭をかいた。
「好きな奴を抱きたいって思うのは、変なことか?」
「え…」
「…こんな時に言うのは反則だって分かってるけどな。死ぬ前にもう一回言うから、ちゃんと覚えとけよ」
 そう言って顔を背けた男の耳は、真っ赤になっている。
「あのさ…」
「何だよ」
「ここから出られたら…いいよ」
「へ?」
「だから…ここから無事に出られて、ベイカー街のアパートに帰ったら…いいよ」
「それって…」
 目を見開いた男は、寿也の腕を再び掴んで口を開いた。
「あのさ、ちゃんと答えてくれ。俺はお前が好きだ。お前は?」
「…好きだよ」
「本当に?あの犬より?」
「うん」
「おっさんが作るショートブレッドより?」
「もちろん」
「角のパン屋のスコーンより?」
「…さっきから食べ物ばっかりだね。もちろんだよ」
「…キスしていいか?」
「もちろん…えっ」
 抵抗する暇もなく、吾郎の唇が重なってきた。
 触れた唇は熱く、眩暈がしそうだった。
「…んっ」
 触れていた唇の輪郭を確かめるようにして舌がぞろりと上唇を舐め、下唇には甘く歯を立てられた。
 ぞくりと肩を震わせた寿也の腕から力が抜け、吾郎のシャツを握り締める。
「っ」
 身体を弄り始めた手が、ジャケットの裾をかい潜ってズボンの上から尻を触ってきた。
「!!」
 驚いて顔を背けると、我に返った吾郎が慌てて手を離した。
「悪い、調子に乗った」
「…」
「アパートに帰ったら覚えておけよ」
「…うん」
 最後に軽くキスをした男は、壁に凭れ掛かって目を閉じた。

 時間を追うごと部屋は暗くなり、窓から見える空は赤くなっていた。
「こっから出たらさ…何食べたい?」
「食えりゃ何でもいい…肉とかパンとか…お前は?」
「温かいスープかな…」
「腹減ったなぁ…」
「そうだね…警部たちは、もう来てるのかなぁ?」
「多分な…」
 どちらからともなく深いため息をついた彼らは、冷たい壁を睨んで肩を落とした。
 隣に座る男の肩にもたれて眠っていたらしい寿也は、微かな物音に目を開けた。
「…?」
 壁の向こうから、人の話し声がする。
「…」
 まさか江頭が戻ってきたのかと、身体を強張らせると壁の隙間から光が差し込む。
「えっ…」
 息を詰めて壁を凝視していると、隠し扉が開かれて蝋燭を持った樫本が顔を出した。
「あっ…!!」
「薬師寺さま!」
 執事の声に促された薬師寺が、薄暗い部屋に顔を出す。
「こんなところにいらっしゃったんですか!!」
「お探ししましたよ」
「好きでいたわけじゃねぇよ…」
「助かった…」

 大儀そうに立ち上がった二人は、足を引きずるようにして石の牢獄から出た。

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