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「くそっ…」
「…ごめん」
同時に出た言葉に顔を見合わせた二人は、深いため息をついた。
「何もされてねぇか?」
「うん。僕のせいで…ごめん」
「いいや、俺も部屋を出るときに書置きか何か残しておけばよかったな」
「どこに行ってたんだい?」
「公爵の書斎だ。少し気になることがあってな…まぁ、それよりも」
「ここからどうやって出るかだよね…」
「…そうだな」
壁は内側から開かないようになっているし、窓とは名ばかりの明り取りしかない。
「…誰か気付いてくれるかな」
「薬師寺に期待したいところだけど…隠し部屋のことは聞いてないみたいだしな」
二人は再び深くため息をついた。
「そういえば、公爵の書斎には何しに行ったの?」
「ん?あぁ…ちょっと日記を取りに行ったんだよ」
「そういえば途中だったなぁ…」
読み返そうとしていた日に殺されかかったため、日記は手に触れないままだった。
「何か分かった?」
「あぁ、全部」
「全部?隠し子も?犯人も?」
「あぁ。読むか?」
内ポケットから取り出した冊子を手渡した男は、床に座って目を閉じる。
「こんな状況で寝る?」
そのまま寝息を零しはじめた男に呆れながらも、寿也は日記を読み始めた。天井近くから差し込む光が、徐々に昼間の太陽の色になった。
途中で目を覚ました男と話しながら日記を読み終えると、事件は解決してしまった。
ただ、それを依頼人に伝える術がないだけなのだ。
どこからか鳥の囀りが聞こえ、遠くから協会の鐘の音が聞こえる。
「腹、減ったな…」
「そうだね」
昨日の夜から何も食べていない二人の腹は、しきりに空腹を訴えていた。
「ここで飢え死にはしたくないなぁ…」
「そうだな」
彼らは顔を見合わせて、先ほど調べた壁に細工がないかを再び調べ始めた。
「ないか…」
「…だよね」
肩を落とした二人は、再び床に座り込む。
石造りの床のひんやりとした固い感触が伝わってきて、寿也はポツリと呟いた。
「ここで死ぬのかな…」
「助けが来るだろ」
「…どうしてそんな自信が持てるわけ?」
「何となく?」
笑みを浮かべた男は、寿也の髪をかき回した。
「心配すんな、大丈夫だって」
明るい笑みに、肩の力が抜けて自然と笑みが浮かんでくる。
「…そうだね」
「あ、俺思い残したことがある」
「何?」
「…言ったらお前、絶対怒ると思うけど」
「何?」
「うんって言ってくれたら、言う」
珍しくこちらの気配を窺うような視線に、寿也は首を傾げる。
「何?」
「…怒らないなら言う」
「内容によるけど…とりあえず、『うん』」
適当な返事に深いため息をついた吾郎は、ちらりと寿也の方を見てボソボソと口を開く。
「…死ぬ前に、お前と一発くらいヤりたかった」
「はぁ?」
「いや…悪い。三回くらいは当然だよな」
予想だにしない言葉とベッドの中で唇を奪われた感触が蘇り、寿也の顔に瞬時に血が昇る。
「な、何の話だよ」
「だから、お前とヤりたかったって話」
「冗談…」
「こんなときに冗談なんて言わねぇよ」
「え…いや、だって」思わず後ずさりをすると、男に腕を掴まれた。
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