<BCF・アマズールの解放> 上・クワリ・クボナ編

 

「兄貴、こんな奴にやるのは<安っぽいアクセサリー>で十分だよ!」

キールのささやき声──にしてはずいぶんと大きい上に挑発的だ──にカーディナルは眉をしかめた。

もっともドラゴン族の神官である彼に眉毛はないので、目の上の硬い鱗をうごめかしただけだが。

魔術師は常に冷静冷徹を旨とするはずだが、<火の領域>に近しい魔術は、こうした激情家もよく受け入れるらしい。

自分を兄貴分として慕ってくれるこの人間族の少年は、そういう欠点を多分に持ちすぎている。

まあ種族云々というよりも、最年少の年齢が為せる短気のせいかもしれないが。

「……いいかげんにしなさいよ、キール」

ミモザの注意に、キールは不承不承ひっこんだ。

ラウルフのバルキリーたる彼女は、一行のモラルの代弁者である。

いかに鼻持ちならない相手とはいえ、この地の女王に喧嘩を売るような非礼は取らせない。

──まあ、キールの苛々もわからなくはない。

目の前の女王──アマズール・クイーンの偏狭さと驕慢さは特筆ものだ。

目じりに色濃く塗りたくられた化粧や、派手な衣装も異国情緒たっぷりだが、それがかえってこちらの神経を刺激する。

……フェルパーの女侍・ターキッシュがこっそりとあくびをした。退屈しきっているらしい。

激情家の魔術師と気まぐれな侍が何かしでかす前に、ここは穏当に収めるか。

相手は傲慢であるが、閉鎖的で無知な部族だ。

「……貢物を捧げよ」

アマズール・クイーンの呼びかけに、カーディナルは重々しくうなずいた。

「これを御身と御身の部族に捧げましょう」

恭しく取り出した物体は、はたしてアマズールが見たこともない物のようだった。

「これは?」

「<ルタバガ>と言いまして、栄養価が高く強壮の効果のある植物です」

「貴重なものか?」

「かつて<最後の食料>と呼ばれたこともあるそうです」

「よかろう、貢物として認める」

どこでも手に入るカブハボタンを大事そうに受け取って去る女王を見て、キールは噴き出しそうになった。

魔法使いの少年は、カブが大嫌いだ。

自分が嫌いなものを押し付けてこの場を収めたカーディナルの知恵に、ほとほと感心する。

声を上げて賞賛して、ついでにアマズール・クイーンの無知を大笑いしようとしたところをミモザにみぞおちを突かれて悶絶した。

「──カーディナル?」

アマズール・クイーンが去ると、ミモザが渋い顔を向けてきた。

「……嘘は、言っていない」

「……栄養価は高い。強壮効果もある。<最後の食料>と呼んでいる地方があるのも本当のこと。

もっとも、あまりにまずくて他に食べるものがなくなってから初めて食い始めるからだけど!」

キールが上機嫌で薀蓄を披露する。

「──あの女王様は、あまりに貴重だから最後の最後に手をつけるものだ、と解釈したかも知れんがな」

「上出来のジョークじゃない?」

ターキッシュがにやりと笑った。

女猫侍の言葉に、犬バルキリーはますます渋い顔になったが、それ以上は何も言わなかった。

いつの間にか女王の去った玉座の前に別の女が立っているのに気がついたからだ。

「面白そうなお話ね。私も混ぜてもらえるかしら?」

肌もあらわな美女──アマズールの宰相クワリ・クボナのいたずらっぽい笑顔に、

冒険者たちはバツの悪そうな顔をした。

 

カブハボタンの件があったにもかかわらず、クワリ・クボナは良い取引相手だった。

裕福な宰相は、余った薬品類の取引相手としては最高だったし、いくつか他の役立つ品も譲ってくれた。

「あのアマ、絶対何かたくらんでますよ」

キールのつぶやきに、カーディナルも今回は同意する。

「ま、何かをやってもらいたいというのは予想が付くがな」

「──それも、あなた方にとって悪くない取引の一つになると思うけど?」

「まるで娼館のやり手ババアだな。<どの娘もお奨めでござい、ご損はさせませんとも!>、だ」

にこやかさを絶やさない女宰相に、キールがそっぽを向いて吐き捨てる。

カーディナルはため息をついた。

この少年はどうにも女性全般に突っかかるくせがある。

そろそろ大人になってもらわないと困るのだが。

ラウルフやフェルマーほど種族的に差がある相手にはそれがないのだが、あいにくアマズールは生粋の人間族だった。

しかも男子禁制、男子蔑視の総本山的な種族──つまり、キールが敵意を燃やすのに最適の相手だ。

しかし、賢明な女宰相は、少年の挑発にのらなかった。

大人の女性の微笑を深めて、意味ありげに頷く。

「──あるいは、私の役目はそんなものかもね」

それきり、気にした風もなく話を進めたクワリ・クボナの提案は、冒険者たちをうならせた。

マウ・ムー・ムー。アマズールが崇め、彼女自身が巫女として仕えているはずの魔神──の殺害。

その依頼を冒険者たちは受けた。

魔神は彼らが必要なものを持っているはずだったし、クワリ・クボナは払いのよい取引相手だ。

カーディナルは商談の場を去るとき、ひとつ追加報酬を申し出たが、快く受け入れられた。

もっとも、それに対してはむこう側にも交換条件があった。しかし、それでさえも悪くはないものであった。

 

 

 

「……ふん、英雄のご帰還にしてはしけたもんだね」

──崇めていた魔人の消滅にとまどうアマズールたちは、結局、冒険者たちを無視した。

しかし、クワリ・クボナはこっそりと自宅に彼らを招いて宴席を張ってくれたから、

キールの文句はちょっと的外れと言えなくもない。

なにしろ、アマズール族の全権を代行する女宰相は、女王その人よりも裕福で、しかももてなし上手だった。

国中の女戦士たちをずらりと並べて感謝の意を表すことはできなくても、

国賓をもてなすよりも上等な料理と快適な部屋を用意していることは、キールでさえ認めざるを得ないだろう。

ぶつぶつ言いながら豪勢に盛られた肉と果物の山に手を伸ばした少年を、ドラゴン族の神官は眇めた目で眺めた。

──やはり、この先のことを考えると、キールにはもう少し成長してもらわねばなるまい。

カーディナルの心中を知ってか知らずか、魔法使いの少年は、満足しているのにぶうぶうと文句を言い、

酌をするアマズールの娘たちに大いに当った。

ミモザに後頭部をしたたかに殴られるまでに吐いた悪口雑言は、女戦士たちを激昂させていてもおかしくなかったが、

クワリ・クボナの侍女たちはよく躾けられているらしく、主人が招いた客人に無礼を働くことはなかった。

「──では、<追加報酬>をたのむ」

犬バルキリーの容赦ない一撃で床に伸びたキールを眺めて、カーディナルは立ち上がった。

「承知したわ。では明後日の朝、また」

クワリ・クボナは魅惑的な微笑を浮かべた。

種族を違えても、うっとりするような笑顔だ。

<追加報酬>の取引はよい選択だった、と、ドラゴン族の神官は確信した。

 

 

 

「ぅゎぁぁっ──!!」

キールは声にならない悲鳴を上げた。

ベッドの上で四肢をつながれ、四つん這いにされた魔法使いの少年に、三人の女がまとわり付いている。

一人はキールの背中にのしかかり、香油を塗った乳房で少年の背筋を撫で回し、首筋に甘い吐息を吹き付けている。

一人はキールの下にもぐりこんで、これも香油をふんだんに塗りたくった手で少年の陰嚢を丁寧に愛撫している。

一人はキールの背後から、これは香油ではなく何かの媚薬が混ざった唾液を塗りつけた少年の肛門に舌を差し込み奉仕していた。

責めが始まる前に、三人の娘にかわるがわる口移しで媚薬と<強い強壮剤>を飲まされた少年は、

身を焼くような情欲と快感に、釣り上げられたばかりの魚のようにびくびくと身体を痙攣させた。

だが、甘やかな吐息の他には無言の娘たちは、少年の男根にだけは触れることはなかったので、

キールは悪夢のような天国を延々と味わい続ける羽目になった。

「──ふふ、どう? 準備はできて?」

ベッドの反対側にある豪奢のソファに寝そべって少年の痴態を眺めていた美女が立ち上がった。

「はい、十分に」

娘たちがいっせいに頷く。

「そう、じゃあ、あとは私がするわ。お前たちはお下がり。──いいえ、そこで見ているほうがいいわね」

クワリ・クボナは自分の侍女たちに、ベッドの周りに控えるように命じた。

「な、なにを──」

「カーディナル殿に頼まれた<追加報酬>を払うのよ」

女宰相はにっこりと笑った。

「つ、<追加報酬>……?」

「そう。あの人、あなたが何時までも子供なのを心配しててね。──大人にしてやってほしいと頼んできたのよ」

「お、大人?」

「これから先、強敵ぞろいの迷宮に挑むには、一人前の冷静な魔術師が必要になる。

──女と見れば喧嘩を吹っかけずにはいられないお子様魔術師ではなくて、ね」

「そ、それが、なぜこんなこと──あうっ!」

キールが声を上げたのは、クワリ・クボナが彼の男根に優しく触れたからであった。

今日はじめての刺激に、魔術師の少年は身をよじったが、女宰相の手は羽根のように軽い愛撫以上にはならなかった。

「ふふ、男の子が大人になるのは、童貞を捨てるのが一番手っ取り早いわ。

そして、女の子を見ると喧嘩を売るような乱暴な子には、――女の身体を知ってもらうのが一番」

クワリ・クボナの唇に蟲惑的な微笑が浮かぶが、目の前が真っ白になっている少年には見えなかった。

もっとも見ていたら、今の状況でまともにそれを見てしまったら、官能のあまり失神していたかもしれない。

だが、女宰相は、少年を簡単に天国に連れて行くつもりはなかった。

──もっとこの甘美な地獄にひたってもらわなければ。

「さて、<やり手ババア>さんに、教えて頂戴。あなたは今、どうしたいの?」

耳元に唇を寄せてささやく。

さんざん媚薬を飲まされ、濃厚な香を嗅がされたのに、クワリ・クボナの息は爽やかに少年の鼻腔をくすぐった。

それはしかし、最も強力な媚薬に匹敵する刺激で男根を直撃する。

男にとって最高の媚香は、女の体臭──それも最高の女のそれならばなおさらだ。

「──っっ、は、はなせよぉ……」

少年は身をよじって抵抗した。

予想外の強情さに、女宰相はむしろ微笑した。

「あら、元気のいい子だこと。これなら<対価>も期待できそうね。──でも、今の言葉、本心かしら?」

クワリ・クボナは少年の男根から手をはなした。

「あっ!?」

触れるか触れないかの快感は、しかし、失われると凄まじい消失感を生み出した。

少年のうつろに霞んだ瞳が、おろおろと宙をさまよう。

「ふふ、手をはなしても、びくびくしているわよ、あなたの──」

クワリ・クボナのささやき声にキールはうろたえきった。

「ねえ、射精したいんじゃなくて、女の身体で? 本当は女の子が嫌いなわけじゃないんでしょ、あなた?」

「──だ、大嫌いだっ!」

反射的な声に、女宰相は片方の眉をわずかに吊り上げたが、唇の端は微笑みでそれよりももっと吊り上った。

──強情な男の子は嫌いではない。

「──くっ、この年増! 淫乱! 色キチガイ女!」

少年の罵詈雑言を、女戦士族の宰相はにっこりと笑って受け止めた。

「あら、その年増で、淫乱で、色キチガイの女を相手に、おち×ちんをこんなに硬くしている男の子はいったい誰かしら?」

指先でつまむようにして握り、何度がしごきたてると、少年は情けない悲鳴を上げた。

クワリ・クボナの微笑がより深く、より優しく、より淫らになる。

 

キールの男根を弄びながら、女宰相の問いは続いた。

「──あなたはどうしてそんなに女を嫌うのかしら? あなたの敵だから? あなたを馬鹿にするから?」

「りょ、両方だ!」

「あら、今この部屋にはそんな女は一人もいないけど?」

女宰相は魔術師の少年のおとがいに手をかけて上げさせた。

ゆっくりと首をまわすように導いて、ベッドの周りの侍女たちに視線を向けさせる。

キールは意外な光景を見た。

侍女たちは、熱のこもった視線をキールに注いでいる。

その上気した顔には、魔術師の少年が予測した敵意や軽蔑は微塵も含まれていなかった。

かわりに、その頬や瞳に浮かんでいるのは──異性に対する欲情だ。

アマズールの一人がキールの視線を受けて、せつなげに吐息を漏らした。

「ほら、私が言ったとおりでしょ? この部屋に、あなたに欲情している女はいても、あなたに敵意を持つ女はいないわ」

クワリ・クボナはキールの睾丸に再び手を伸ばした。

優しく揉みしだくみだらな手技に、少年は身もだえした。

侍女たちの、キールの股間にそそぐ視線がより熱く粘っこいものに変わる。

「ふふ、あの娘たち、どうして他のアマズールたちと違うのか、わかる?」

たしかに、クワリ・クボナの侍女たちと、アマズール・クイーンやその他の女戦士たちとは明らかに異質だった。

宴席でも彼女たちから敵意や警戒心を感じなかったのは、主人の命令だけではないのか。

魂を奪っていきそうな女宰相の手業から意識をそらそうとキールは必死で考える。

しかし、アマズールの全権宰相はあっさりと答えを与えた。

「あの娘たち、男を知っているのよ。それもアマズールのやりかたでなくて、普通の男女の交歓をね」

「!!」

「……あなた、私の事を<やり手ババア>と呼んだわね。──それ、正解。

私、あなたたちのような部外の人間とのやり取りで、必要ならあの娘たちに夜伽をさせるの。

もちろん、私自身もするわよ。それが、排他的だけど、それだけじゃ生きていけない小部族の宰相の役目」

クワリ・クボナの言葉に、キールは呆然とした。

「ふふ、でも同情なんかしなくていいわよ。これはこれで楽しい仕事ですもの。

第一、アマズールの捻じ曲がった「伝統的なしきたり」に身を任せていたら、いつか部族ごと狂ってしまうわ。

人間はオスとメスしかいない生物ですもの、いつまでも邪神を崇めて単性で繁栄することはできない」

「そ、それで俺たちに、マウ・ムー・ムーを斃させたのか……」

「鋭いわね。その通りよ。私はアマズールを普通の国にするつもり。長い道のりになるでしょうけどね。

邪神の討伐はその解放の第一歩。あなたたちにはとっても感謝している。

──だからあなたにも、いい目を見させてあげたいの。侍女たちも、私も、そのつもりでいるわ」

クアリ・クボナは指先を信じられないほど淫らに操った。キールは悲鳴を上げた。

「ふふ、びくびくと脈打っているわ。あなたのここは、精を放ちたいと言っている。

それを女の中に放ってみる気はない? ──きっと思いもしなかった素敵な体験になるわよ」

「──ううぅっ……」

キールは白くしびれる頭を振ってクワリ・クボナや侍女たちを見た。

蟲惑的な微笑が、頑なな魔術師の少年を優しく受け入れる。

「さ、殻をやぶるのは自分でなさいな。──女と交わってみたいかしら、キール殿?」

「──う……ん」

「ふふ、まだちょっと引っ掛かりがあるようね。じゃあ、もっとその気にさせてあげるわ」

女宰相が、香油の壷に繊手を浸した。

黄金色に光る油はまるで蜜のようだ。

手の平にすくったそれを、たっぷりと男根に塗りつける。──しごきたてた。

「うわああっ!」

キールは歯を食いしばろうとしたが、快楽の悲鳴をあげたために口を閉じることができなかった。

「ほら、ほら、とてもいいでしょう? 自涜をするよりもずっとずっと。

男の快楽は女が領分。──その逆も然り。それが自然な姿のはずよ。

さあ、キール、答えなさい。私たちの中に精を放ちたい?」

「──は、放ちたい!!」

キールはついに屈服した。

しかし、それは思ったような屈辱感も敗北感もなかった。

それはたぶん、クワリ・クボナや侍女たちがキールの言葉を聞いた瞬間に浮かべたものを見たからだろう。

勝ち誇るわけでも見下すわけでもない微笑。

自分が相手に受け入れられ、価値を認められたと知ったときの満足げな微笑み。

 

「いい子ね。……では、ここに──良く見て、ここよ──ここにあなたの精を注いで」

いつの間にかキールの前にひざ立ちになっていたクワリ・クボナが、桃色の腰巻を脱ぎ捨て、裸の下半身を前に突き出した。

魔術師の少年の前で、女宰相が、自分の性器を指で押し開いて見せ付ける。

そこはすでに香油の助けが要らぬほどに、蜜液で潤っていた。

自分の性器をキールにたっぷりと見せ付けてから、クワリ・クボナは四つん這いの少年の下にもぐりこんだ。

「ふふふ、腰を沈めてごらんなさい。ゆっくりとね」

キールの下で白い太ももを大胆に広げたクワリ・クボナは、足を少年の太もものあたりにからめた。

手を回して少年の腰を抱えて、引きつける。

ぬぷり。

少年は蜜の海に沈んだ。

「うわっ──何、これっ!!」

自分の先端が、今まで経験したことのない快感に包まれるのを少年は驚愕と茫然自失の二律背反の中で感じた。

「ふふ、いいでしょう? これが女よ」

クワリ・クボナは蟲惑的に笑い、少年の首に手を巻きつけて引き寄せた。

「あ……」

我に返るよりも早く、女宰相の唇がキールのそれに重ねられた。

自分の唇を割って入ってくるぬめぬめとしたいい香りの舌に、キールは翻弄された。

その間も、キールは無意識に腰を動かして、下半身からの快感を貪っている。

「ふふ、教える必要もないようね。やっぱり男の子、本能でわかるみたい」

ぎこちないが、自分と相手とを絶頂に導こうと奮闘する動きに目を細めたアマズールの女宰相は

自分を抱く少年に気付かれないように──もっとも夢中になっているキールは気付くことはなかっただろうが──

手をそっと秘所に伸ばし、自分の最も敏感な肉の芽を自分の指で弄った。

女体の上に覆いかぶさったキールの身体は、身長差のせいで下腹の辺りにちょうどいい隙間があったので、

少年に気付かれることなく、宰相は自慰を始めることができた。

香油の残りで適度なぬめりをもっている指先は、クワリ・クボナの真珠のような肉芽を嬲り、急速に官能を高める。

性に熟達した女宰相は、自分の肉体についてもよく熟知していた。

今はじめての交わりに、今にも果てそうな少年に合わせるため、クワリ・クボナの一人遊びは密やかに続いた。

「──ああっ、も、もうっ!」

少年が声を上げてのけぞったとき、クワリ・クボナも絶頂の寸前だった。

「いいのよっ、出しなさい、私の中に!!」

いつも冷静な女宰相が黒髪を振り乱して悶える様を見ながら、少年は彼女の膣に射精をした。

「うわわっ──!」

どくどくという律動の音は、心臓の音と重なって、キールとクワリ・クボナの脳裏に木霊した。

少年は、自分の魂が、精液とともに、すべて女の胎内に吸い込まれるかと思った。

だが精液はともかく、魂のほうはなんとか踏みとどまったらしく、キールは荒い息をついてベッドの上に倒れこんだ。

──いつの間にか、侍女たちが四肢の戒めを解いている。そんなことも気がつかないくらい夢中で交わっていたのだ。

「ふふ、すごかったわよ。久しぶりに乱れちゃったわ。──はじめてで私をいかせるなんて、才能あるわよ」

汗が薄く張り付く美貌がにっこりと笑いかけ、キールは赤面した。

「ほら、あなたの精が、こんなにいっぱい──」

クワリ・クボナは臆面もない動作で自分の女性器を指で広げて見せた。

キールが今放ったばかりの精液がどろりとこぼれて、クワリ・クボナの太ももを尻まで伝っていく。

魔術師の少年は顔面でファイヤーボールを作れるほどに真っ赤になった。

「これであなたも立派な<大人の男>ね。……ね、よかったでしょ、女って──」

「う、うん……」

「じゃ、もう少し、お勉強していきなさい」

「え……?」

キールは、自分の肌が柔らかくて暖かいものにまとわりつかれるのを感じた。

クワリ・クボナの侍女たちだ。

主人と客との性交を見て、欲情しきっている。

「ふふふ、<大人の男>は女に恥をかかせないものよ。あなたを慕っている娘たちを満足させてあげなさいな。

大丈夫、私が教えてあげたことは身体が覚えているはずよ。──あとは実践あるのみ」

<強い強壮剤>を口移しにキールに飲ませた女宰相は艶やかに笑った。

その微笑が、侍女たちの濡れる肌にとってかわり、キールは再び快楽の海に沈んだ。

 

──どこかで悍馬がいきり立っている。

いや、マウ・ムー・ムーの息吹だ。

ちがう、これは自分の呼吸音だ。

──ぜいぜいと荒い息を繰り返すキールをのぞきこむ者がいる。

「お目覚め?」

クワリ・クボナだ。

起き上がろうとして諦め、魔法使いの少年は横目でテーブルに向かうアマズールの宰相を見た。

果物の籠を手に戻ってきた女宰相がくすりと笑う。

「昨日は頑張ったわね。──本当に三人とも満足させるとは思わなかった。

──あ、私も含めて四人だったわね。やっぱり才能有るわ、あなた」

意味ありげに軽く腰を振ったクワリ・クボナに、キールはもぞもぞと下肢を動かした。

男根も陰嚢も痛いほどに酷使したというのに、今のしぐさを見るだけで、生殖本能が刺激されている。

「はい、一粒どうぞ。すっきりするわよ」

何かの果物をつまんだ指先がキールの口元に伸びる。

葡萄か何かくらいの大きさのそれは、今まで食べたことのない爽やかな甘みと瑞々しさを持っていた。

昨晩、膨大な体液を侍女たちに注いだ身体は、その水分で生き返るようだった。

キールは上半身を起こした。

「ふふ、元気ね。──これなら、<対価>もいい形で払ってもらえそう」

「<対価>──?」

昨晩ちらっと聞いた様な気がする。

こんな素晴らしい一夜は、マウ・ムー・ムーを斃した<追加報酬>には過分だ。

クワリ・クボナは過剰支払いになっているだろう。

お釣り──追加の<対価>を払わねばなるまい。

「何を、すればいい?」

悪魔に魂を売り渡すのはこんな感じかな、と思いながらキールはぼんやり質問した。

「ふふふ、今の君にはそれほど難しくないクエストよ」

クワリ・クボナは、開けっ放しになっている扉を示した。

「あの通路の向こう、突き当りの部屋に行って頂戴。

そこに、私があなたを大人の男にしてあげたように、あなたに大人の女にしてもらいたい娘がいるの。

そうね、それがアマズール族の解放の第二歩目、かしら」

女宰相は真剣な目でキールを見つめた。

「そ、その相手って、まさか……」

「そう、アマズール・クイーン。私の主君にして、手に負えない石頭娘。うまく導いてあげてね」

キールは、<災厄の王>と一騎打ちするよりも難しい戦場に送られる自分を自覚した。

 

 

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