<地下9階>

 

「――気になりまして?」

通路の左右にずらりと並んだ小部屋を開けて回る、うんざりする作業を何度か繰り返していると、

ワードナの斜め後ろにぴったりと付いてくる魔女が、不意に声をかけてきた。

「何が、だ?」

思いっきり不機嫌な声で返答するが、内心ワードナは気まずかった。

魔女は、くすくすと笑った。

「――先ほどから、私の胸元に興味津々のご様子で」

「馬鹿なことを言うな」

魔方陣を探す単調な時間の中で、ついつい魔女の方へ視線がいくことは否めない。

戦闘は何の刺激にもならなかった。

地下9階にうろつく冒険者など、この女の腕の一振りで皆殺しだ。

もっとも、それは上層界の冒険者どもにとっても同じ運命なのだが。

かつて<メイルストロームの大迷宮>の支配者だった女の魔力は、桁違いだ。

……それにしても、いまいましいほどに魔女の胸は大きい。

身にまとう最上等の法衣は、ちゃちな布地ではないはずだが、

魔女の胸乳はそれに押さえつけられることなく、堂々と自己主張している。

しかも、どういうことか、歩くたびに、たぷたぷと見事にゆれる。

こんな乳が、いや女が隣にいて、そっちに目が行かない男はいまい。

地下10階での玄室での秘め事のときに、よく目に焼き付けておけばよかった。

考えれば、あの時魔女の痴態はさんざん見たはずなのに、乳房も、尻も、性器もよく思い出せない。

くそ、これも魔女の魔法か。

「もう一度見たければ、いつでも押し倒してくださいな」という誘いだ。

小癪な。

 

何十度目か、横目で眺めようとして、艶然と微笑む魔女と視線がぶつかり、あわてて目をそらす。

「ふふ、照れることはありませんわよ。

殿方が、女の乳房に興味がいくのは自然のことですもの。

それに、私の身体は髪の毛の先からつま先まで、ぜんぶわが殿のもの。

もちろん、これも、わが殿が好きになさっていい所有物」

繊手を自分の胸元にあてがい、さりげなく揺すってみせる魔女のしぐさに、

ワードナはすさまじい欲情をおぼえたが、なんとかおさえつけた。

「……うるさい、そんなもの、お前のを見なくてもいくらでも用意できるわ」

ちょうどその時、魔方陣のある小部屋を探し当てたことがワードナを強気にさせた。

「――出でよ、ウィッチども!」

魔女以外の4体の魔物すべてを、この階から呼び出せるウィッチにしたのは、単なる当てこすりだった。

だが、呼び出された低級魔女たちが、予想以上に美人で、しかも全員胸が大きいのがそろっていたのは、

運が良かったのかもしれない。

――あるいは、悪かったのかも。

 

「どうだ、わしの召喚術は?」

「――お見事、ですわ」

魔女はすました表情で答えたが、平静そのものの声を聞いた瞬間、ワードナはぞっとした。

今、魔女の目の中にちかちかと光っている怒りの炎に比べれば、

このフロアから行ける地獄の底で燃える業火などは、ものの数ではない。

だが、魔女は怒りを爆発させることはなかった。

まったく自然な足取りでウィッチたちの前まで歩いていく。

一瞬、ワードナは大虐殺を予想して身を硬くした。

だが、魔女の、夫とその召喚物への「お返し」は、予想外の形を取った。

魔女は、横一列に並んだウィッチのところまで行くと、腕を一振りした。

「きゃっ!?」

一瞬にして四人のウィッチは素っ裸にされていた。

「女の乳房を鑑賞するのに、裸に如くものはありませんわ」

ワードナの手間を省いてやった、といわんばかりの魔女は、

声を上げようとするウィッチたちに冷たい一瞥を投げかける。

とたんに、低級魔女たちは麻痺攻撃でもくらったように動きを凍らせた。

――彼女たちは本能で分かるのだ。目の前の美女がどれほど恐ろしい存在なのかが。

天と地ほどの差があるとはいえ同類の勘と、同性の本能で。

何か一言でも抗議の言葉をあげたら、<消滅>よりももっと恐ろしい運命が待ち構えていることが、わかるのだ。

 

「……ふむ。大きさは十分、でも肌に潤いが足りないわ。場末の娼婦並ね。一晩で銅貨二枚というところかしら」

一番右端のウィッチを見て、魔女は鼻先で笑った。

この声と口調で言われたら、たちまちのうちに生きる気力すら奪われかねない。

順番に辛らつな乳房批評が始まった。

「ずいぶん乳うんが大きいわね。これを薄く剥いでバックラーの表面にでも張りつけたら、いい値段になるかも知れなくてよ?」

「乳首が黒すぎでしてよ、あなた天使のように寛大なのね。今までに何百人の下衆男に吸わせてあげたのかしら?」

「ああ、まったく、だらしない形の乳房だこと、あなたは牛のライカンスロープ?」

おのおのが美貌と妖艶さには自信があるウィッチたちは顔色を失った。

指摘は、恐ろしく正確に彼女たちの秘めたコンプレックスと肺腑とをえぐった。

ウィッチたちの美貌が、屈辱と恐怖と絶望にゆがむ。

自分の低級な同類を、言葉だけでたっぷり辱めた魔女は、最後の仕上げにかかった。

――魔女は、並んでいるウィッチたちの真横に並ぶように立ち、

くるりと振り返ってこちらを―ワードナのほうを向いた。

「!?」

その瞬間、ワードナは自分が回転床の上にいるのかと錯覚した。

一瞬にして「場」の中心が魔女に移っていた。

裸の美女たち、乳も、尻も、秘所さえ隠すことがないウィッチたちがいるのに、

その横に着衣の魔女が立っただけで、それがすべて霞んで見える。

たちまちウィッチたちは背景にすぎない存在となった。

桁外れの美しさと色気の差だ。

魔女の美貌に比べれば、ウィッチたちの顔などは見る価値もないし、

魔女の胸元の盛り上がりに比べれば、ウィッチたちのむき出しの乳房などは、ただの脂肪と肉の塊にすぎない。

「……どういたしまして? お望みどおり、ウィッチたちのお乳を存分にご鑑賞くださいな」

自分の行為の影響を知り尽くした表情で魔女は笑い、

ウィッチたちは女として最高の侮辱を受けて紙のような顔色になった。

 

だがワードナは、哀れな低級魔女たちの表情を見ることはなかった。

よろめくようにして女どもの列の端、魔女にむかって手を伸ばしたからである。

あっと思ったときには、ワードナは法衣の上から魔女の胸を鷲づかみにしていた。

欲望のままに思い切り揉みしだく男の握力に、魔女は身をよじらせたが、拒絶する風はなかった。

代わりに男の死角を巧みに突くようにして手を動かし、

法衣のボタンをはずしたり結び紐を緩めたりして、ワードナが目的を遂げやすいように導く。

――魔女は、夫が求めるとき、自分の身体を与えることを厭わぬ女だ。

いや、厭わぬどころか、嬉々としてそれに応じる。

青い静脈が這う白くて大きな乳房をむき出しにすることが出来たとき、

ワードナは歓喜の声をあげ、子供のようにそれにむしゃぶりついた。

魔女の乳房は、ウィッチを虚仮にするだけあって完璧なものだった。

ワードナは、その造形美をたしかめることもなく、

飢えた獣のように乱暴に襲い掛かったが、魔女は気にした様子はない。

「乳とは、鑑賞の対象ではなく、男が頬をうずめ、顔を挟み、

鴇色の乳首にくらいつき、音を立てて吸うものなのだ」

とでも言いたげに、微笑を浮かべる。

驚いたことに、乳首を吸いたてるワードナの口中に甘いものが広がった。

――魔女の母乳だ。

「……!?」

「うふふ」

魔女は、乳に這う夫のしわだらけの手の甲の上に、白い繊手を重ねた。

力をこめて押し付け、自分の乳房を揉みしだく。

「もがっ……ぶぶっ……」

口腔に満ちる液体に、ワードナはもがきながらの魔女の乳房から逃れようとしたが、

聖母よりも優しい微笑を浮かべた美女は、やさしくその頭を押さえつけて逃さない。

老魔術師は、その液体を飲み下すしか他に方法がなかった。

ワードナの喉が鳴る。

夫が自分の母乳を飲み下す音を、魔女は陶然としながら聞いた。

「……う……おおっ!?」

白い暖かな液体は、胃の腑に満ちた瞬間、

ワードナの細胞の隅々にまでいきわたり、燃え上がらせた。

その効果と、ようやく認識できるようになったその味――神酒ネクタールにも勝る美味――を感じ取ると、

悪の大魔術師は、今度は我をわすれて魔女の母乳を吸い続けた。

魔女は、夫の髪をいとおしげに撫でながら、好きなだけ左右の乳房と母乳を与え続けた。

 

「……ふうう……」

満足するまで生命力の源を飲み込み続け、ワードナは唇を離した。

もどかしく自分のローブをはだけ、下半身をむき出しにする。

男根は怒張しきっていた。

魔女の大きな乳房に再び手を伸ばす。

大きく柔らかな二つの塊をこれでもかと言わんばかりにこねくりまわすと、魔女の乳房は白いしぶきをあげた。

魔女は悲鳴、いや嬌声をあげた。

胸の谷間に男根をはさむと猛烈な勢いでしごきたてた。

両乳の間で、魔女の母乳がぬるぬるとワードナの男根にからみつき、快感を倍増させる。

ワードナはたちまち達し、つづけざまに何度も精液を放った。

自分の乳房に母乳と同色の粘液をかけられるたび、魔女は悦楽にわななき、

自分で乳をこねくっては母乳をワードナの顔や男根におしげもなく振りかけた。

――甘いミルクにまみれて、ワードナはついに気を失った。

 

「さて、これからどういたしましょうか、わが殿?」

目覚めるとすぐに、魔女が問いかけてきた。

法衣の襟元は、毛筋の乱れもなく調えられている。

もう一度ひんむきたい欲望を押さえて、ワードナは目をそらした。

ウィッチたちがもう使い物にならないことは分かっていた。

魔力の源と言える女としての自信を完全に失ったウィッチなど、どんな力ももっていないだろう。

「上の階に上がる。道具が足りなければ、地獄の門をあけても意味はないわ」

「賢明なご判断です」

魔女の質問を、わざと別の意味に受け取った振りをして答えたが、相手は澄ましたものだった。

ワードナは忌々しげに舌打ちすると、ウィッチたちを召喚円の中に追い払った。

うまくすれば、あちらの世界で回復するかもしれない。

しかし、わしが呼び出すことはもうあるまい。

(わしは別にあの女に負けたわけではない。

ただ、あの女の乳が思った以上に良かったから、その褒美に、ここは引いてやるだけだ。

こういうときは、男のほうが寛大さを示してやるものだからな)

自分に言い聞かせて、魔物を召喚しなおす。

今度は、エアジャイアント、アークデーモン、ダイヤのロード、ハートのロード。

今までの「達成」の成果により、低層階でも呼び出せるようになった最強の魔物たちを呼び出した。

後ろで魔女が拍手をする。

「お見事ですわ。こんなに危険な迷宮ですから、前衛に呼び出すのは、そういう魔物こそふさわしゅうございます。

後衛でわが殿のお世話をするお役目は、私にお任せくださいな」

満足げに微笑んだ魔女は、何を世話するつもりでいるのか、はやくも頬を染めて小さく舌なめずりした。

 

 

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