<私が私でいられる時>・6

 

 

どくん。

どくん。

心臓が早鐘のように鳴り響く。

下着姿で抱き合うと、互いの体温がじかに伝わる。

「あったかいね」

「……うん」

私は手を伸ばして新治君の髪の毛を梳いた。

少し湿った髪の毛は、私が今まで触ったことのない髪質。

女の子同士で三つ編みを編んであげたり、櫛をかけてあげたりしあうことは何回もあるけど、

こんな髪の毛には触れたことがなかった。

それが、私に「異性」を強く感じさせた。

「キス、して……」

かすれた声で、おねだりをする。

新治君は、すすんで唇を重ねてきた。

そう。

この男(ひと)は、したことがあることや、知っていることには積極的になってくる。

私とのキスには慣れてきた。

それなら、もっともっと私に慣れてくれればいい。

溺れるくらいに。

私が、新治君に溺れているのと同じくらいに。

キスを受け入れながら、新治君の手を取る。

ブラジャーの上に導き、私の手を重ねて、そこに押し付ける。

新治君が、はっとしたように目を見張った。

だけど、私は、私の胸の上に置かせた手に、もっと乳房を押しつけた。

「これ、今日から、新治君のものだから」

唇を離して、すぐに宣言する。

「ん。だから、……脱がせて」

 

フロントホックのブラは、剥ぎ取られるまで随分と時間がかかった。

新治君は可哀想なくらい動揺しながら、自分の彼女のブラジャーを外した。

水色の布きれに包まれていた丸くて白いものが、

その所有者の視線にさらされる。

新治君が、ごくりと唾を飲み込んだ音が聞こえる。

「下も……」

「え……いいの……?」

「見たい、でしょ? 女の子の……私の、おま×こ」

口にするのは恥ずかしかったけど、私は、はっきりとその単語を声にした。

「……!!」

「それとも、見たくない? 怖いなら、明日でも、いいよ?」

「……み、見たい……見たいよ、綾ちゃんの……!!」

ほんの少しの言葉のやり取りで、新治君は私の性器を目にすることに同意した。

自分の意思で。

これも、<妹>や他の女の子には、絶対に出来ないことだ。

龍ヶ崎彩が、もし、私のように身体を使ってこの男(ひと)を篭絡しようと思ったとしても、

あの女は新治君の羞恥心や恐怖心などの心の障壁を乗り越えることはできない。

見せるとしても、強制的に自分の裸を押し付けるしか、ない。

それは、レイプだ。

私は、そんなことはしない。

怯えきった野生の小動物に餌付けするときように、こわがりの男の子の警戒心を解きほぐす。

私の導くまま、真っ赤になりながら新治君はショーツに手をかけた。

するり。

女子高生の滑らかな太ももは、こうしたことに慣れていない手つきの前でも、

簡単にショーツを下へと引き落とさせることに成功した。

「あ……」

あまりのあっけなさに、新治君が思わず声を上げる。

「……」

そして、はじめて見る生身の女の性器に、息を飲んだ。

 

「ふふふ、これが、私の……おま×こ。

新治君のもの。今日から、新治君が、好きにしていいおま×こ」

私は、床にぺたりと座り込んで私の太ももの奥を見上げている。

「ん。もっとよく見せてあげる。でも、その前に……新治君も、脱いで……」

私は、できるだけ優しく、穏やかに言おうとしたけど、最後は声がかすれた。

私も、欲望を抑えているのだ。

愛しい人の、全てを見たいという欲望を。

「あ……」

羞恥心が舞い戻ったのだろう、新治君は真っ赤になった。

でも、一度火がついた情欲は、そう簡単には収まらない。

新治君は、熱しにくい性質(たち)だ。

そして、熱してしまえば、冷めにくい。

熱に浮かされたように、新治君は自分の下着に手をかけた。

「……私も、新治君のを、見たいの」

最後の一押し。

一瞬の躊躇の後、新治君はトランクスを下ろした。

「わあ……」

私は、言葉を失った。

ここまで計算どおりにリードしてきたけど、

男の子のそれを見るのは、産まれて初めて、だ。

そして、私じゃなくても、経験豊富な女だって、きっと息を飲むだろう。

新治君の、天を突いていきり立っている男性器は、ものすごく立派だった。

何年か前に、従姉妹が、赤ちゃんを産んだ。

遊びに行って、抱かせてもらった赤ちゃんの手足は、

ピンク色をして、私の手で全部を握れるくらいの太さだったけど、

新治君のそれは、まさにそれくらいの大きさだった。

色合いも似ている。

まだ穢(けが)れを知らない肌は、なめらかで、でも女の子のものとは明らかに違っていた。

びくびくと脈打つそれを目にして、私はわなないた。

 

「……お、大きいのね。それに、とても綺麗……」

私は思わずつぶやいた。

言ってから、恥ずかしくなって真っ赤になる。

「そ、そうかな……」

新治君もほっぺたを赤くしてうつむく。

そして、二人は、お互いの顔を窺って、――吹き出した。

「新治君、お顔、真っ赤っか。」

「……あ、綾ちゃんだって……」

名前を呼ばれて、私は、もっと気持ちが落ち着いた。

落ち着いただけでなく、軽くなる。

本当の自分、石岡綾子になっているのがはっきりと分かった。

だから、私は、素直に言った。

「だって、恥ずかしいもん」

「ぼ、僕だって恥ずかしいよ」

新治君も、素直に言う。

そんなことを言ったら、目の前の女はどう思うのだろう、とか、考えない。

何を言ってもいい、何をしてもいい。

石岡綾子とはそんな相手なんだ、と、新治君は認識しつつある。

だから、私は自然に微笑み、新治君も笑顔を見せた。

「恥ずかしい……けど、私の裸、新治君に見せたい。新治君の裸、見たい。

いやらしいでしょ、私。でも、それが私の、石岡綾子の本心なの」

「ぼ、僕も……綾ちゃんのを、見たい。」

「ね、お互いそう思ってるなら、もっとよく見せあいっこ、しましょう」

「……う、うん」

照れや、恥ずかしさは消えないけど、言葉にすると気持ちが落ち着く。

新治君とベッドの上に横たわる。

添い寝をしながら、肌をすり合わせるように密着する。

心も身体も裸になって触れ合うと、もっとお互いの気持ちが伝わってくる。

いつのまにか、私は上下を互い違いにして重なっていた。

シックスナインの形。お互いの性器を見せ合うには一番いい形だ。

 

「すごい……男の子って、こんなになるんだ」

近づくと、驚きはさらに増した。

新治君も同じだろう。

互いの性器を顔の前にした二人は、ペッティングをすることさえ忘れて

相手の器官をまじまじと見つめ続けた。

はじめてそれを目にする私にだって、新治君のそれが普通でないことはっきりとわかった。

ピンク色の肉筒は、まるで骨があるかのように固く思えた。

(こんなのが私の体の中に入ってきたら……)

今日、処女を捨てる――ううん、新治君に処女をあげることは決めていた。

それでも、いざ男性器を目の前にすると、性交経験のない女の持つ恐怖心が蘇る。

でも――。

「んあっ……こ、これが綾ちゃんの……」

私の体の下で、新治君が興奮しきった声をあげた。

私の性器を見て、興奮し、欲情した声。

それを聞いて、私は瞬時に覚悟を決め直した。

こんな大きくて、固いのを身体の中に受け入れたら、私のおま×こは壊れちゃうかもしれない。

でも、だから、――どうだっていうの?

壊れたって、血がいっぱい出たって、新治君が入ればいい。

だって、私は、一生、新治君としかエッチしないんだもん。

新治君の大きさに合わせておま×こが広がるんなら、それでいい。

割れ鍋に綴じ蓋。

きちんと重なるようにするためなら、ちょっとくらい壊れてもいい。

身体の傷はすぐに治る。そして治ったあとは、前よりももっと新治君にふさわしい身体になるんだ。

「あっ……綾ちゃん、これって……」

新治君が上ずった声を上げた。

顔の上にある私の性器が、突然蜜をあふれ出させ、その雫が二、三滴、顔にかかったから。

「あっ、ごめんなさいっ……」

「ううん、大丈夫。でも、これって……」

「うん。新治君のことを考えると、私、こうなっちゃうの」

私は、身体の奥底の器官が、今決めた覚悟に賛同しているのを悟った。

「……いっつもね、新治君のこと考えると、私のここ、こんなになっちゃうの。

新治君のこれを欲しいって、いつも思っていたの。」

「あ、綾ちゃん……」

「ね、これ、私のここにちょうだい……」

かすれた声に、新治君が息を飲む。

そして、

「……うん」

私を受け入れる一言。

そして、二人は、顔をさらに赤らめながら、協力し合ってその準備を始めた。

 

「こ、コンドーム、着けなきゃ」

新治君が、顔の汗をぬぐいながら言った。

「うん。……私は着けなくてもいいけど、まだ子どもは作れないよね?」

「う、うん……そりゃ……僕たち、まだ学生だし」

「うふふ、じゃ、それは大人になって、結婚してからね」

「えっ……、う、うん」

どさくさまぎれのプロポーズは、あっさり了承された。

私が新治君のお嫁さんになり、新治君の子どもを生むまでには、

もっともっと新治君と分かり合う必要がある。

お互いが、お互いを自分の分身と思うくらいに溶け合ったとき、

私は、この男(ひと)のつがいになり、その子孫を産むのだ。

今日は、そのための記念すべき第一歩。

新治君が童貞を、私が処女を、お互いに捧げる日。

だから、慣れていなくたって、ちっとも恥ずかしいことではない。

だから、準備万端整えて持ってきたコンドームがなかなか付けられないのは

それも、しょうがないことだったのだろう。

 

「ん……」

私は、焦りながら、手元を確認した。

隣街の自動販売機で買った避妊具は、なかなか愛しい人の性器を包めないでいた。

私がリードしなきゃ、と付けてあげることを申し出たはいいけど、

二回失敗して、これが三個目のゴムだ。

「ええっと……あの……」

新治君がためらいがちに言った。

「な、何……」

私はさらに舞い上がって上ずった声を出した。

「た、多分、それ、ちっちゃすぎるんだと思うよ……」

新治君も上ずった声で言った。

「え……」

「え、Mサイズだと、僕のおち×ちんに合わないんだ」

「……こ、コンドームって、サイズあるの?」

あわてて箱を見る。

たしかに、普通サイズと書いてあった。

「ごめん、最初に言えばよかったけど……綾ちゃんが……」

新治君は、ちょっとためらってから、机の引き出しから紙箱を取り出した。

私が買ってきたのより大きな箱に入っているコンドームは、中身も大きかった。

「し、新治君、使ったこと、あるの……?!」

思わず聞いてしまう。

「う、うん。お、オナニーするとき、時々。

根元をきゅって絞られると、気持ちいいんだ」

「そ、そうなんだ……」

他の女の子相手に使ったんじゃないと知って、ほっとする。

「これ、こうして……」

つけた経験があるだけに、新治君はいとも簡単にそれを装着した。

 

「……」

「……」

準備が終わる。そして、その先が始まる。

私は、ベッドの上で、自分から大きく足を広げた。

正常位。

はじめて、は、この体位に憧れがあった。

錯覚や思い込みの類かもしれないけど、大好きな人を受け入れる、というイメージに、

この体勢はすごく合うものがあったから。

頭の中で、新治君を自分の中に迎え入れることを考えたとき、

私はいつもこの格好で新治君を待っていた。

今のように。

「ほ、本当にいいの……?」

新治君が身体を震わせながら聞いた。

さっき、コンドームをつけたときとはまた形勢逆転だ。

それでいいの。

お互い、得意なこと、積極的になれることをやって、

苦手なこと、消極的になってしまうことは相手に勇気をもらえばいい。

今度は、私が積極的になって新治君を導く番だった。

「うん。いいよ。……ね、新治君」

「な、何?」

「その……入って来るとき……」

「……うん、わかったよ」

最後まで言わなくても、もう伝わる。

新治君は、私の添えた指が導くまま、私の性器の入り口に自分の性器をあてがった。

そして、ゆっくりと身体を私の中に沈めながら、ささやいた。

「行くよ……綾ちゃん……」

私の、すでにシーツまで垂れてしまっているくらいに濡れそぼった女性器は、

その言葉に、新たな熱い蜜をさらに吐き出した。

「綾ちゃん、綾ちゃん……綾ちゃん……」

そして、新治君は、私の願いどおりに、私の名をささやきながら、

私の中に入っていった。

 

潤んだ肉が、強引に割られる。

だけど、破瓜の痛みは、甘美だった。

「ふうっ、ふうっ……あ、綾ちゃん……」

「う……ん、もっと来て……もっと……」

新治君が、私の上で身体を前後に動かす。

「はじめて」でも、男の子の本能が、

そうすることが目的に叶うことにつながるとちゃんと分かっている。

私の身体も、女の子の本能が、

どうすればそれを上手く受け入れられるかをちゃんと知っている。

二人の初心者は、何億年前からずっと続いてきた営みに支えられている。

「あっ……綾ちゃん……僕、もうっ……」

「来てっ! 私の中でっ……私の中にっ……!!」

「くっ、あ、綾ちゃ……」

最後の瞬間、新治君は、私に、名前を呼ぶのを聞かせようとしたのだろう。

だけど、私は――その唇を、私の唇で塞いだ。

その瞬間、綾ちゃんと呼ばれるよりも、新治君とキスをしていたかったから。

「!!」

驚いた表情の新治君が、うめいて、目をつぶった。

びくん。びくん。

どくん。どくん。

私の中で、新治君の性器が跳ねる。

律動は、心臓の鼓動。命の鼓動。

それが、薄いゴムの膜を通じて伝わってくる。

(射精、しているんだ。新治君が……)

股間に宿る鈍い痛みは、もう、気にならなかった。

新治君と私は、その律動が完全におさまるまでキスをし続けた。

やがて、まだ私の中に入ったまま、ぐったりと身を預けてきた新治君が

かすれきった声でささやいた。

「あ……綾…ちゃん……」

息切れの合間に聞こえたその声で、私も、確かに達した。

 

「すごい……量……」

私の中から引き抜かれた新治君のおち×ちんは、

その先っぽに、白濁の粘液で膨らんだコンドームを付けている。

避妊具は、その役割をしっかりと果たし、

新治君の精液を余さず留めていた。

ゼリーみたいに濃くてたぷたぷの粘液は、ゴム膜越しにも温かかった。

「う、うん。出すのは、久しぶりだったから……」

新治君がどぎまぎとした様子で答えた。

男の人は、射精をすると急に冷静になるらしい。

熱狂で忘れていた恥ずかしさとか、警戒心とかが新治君に舞い戻ってきてしまったのを、私は感じ取った。

仕方がない。

――今は。

これから、ゆっくりと、じっくりと分かってもらえばいいんだ。

私は、にっこりと微笑んで、コンドームを外し始めた。

「……根元、きゅっとされると気持ちいいんだよね?」

「うあっ……」

外すときに、さっき聞いた事を実践してみる。

新治君の太い根元をから、ゆっくりと強めにしごくと、

尿道に残っていたのだろう、精液がちょっと先っぽから出てきて、ゴムの内側に溜まった。

コンドームを引っ張る。

外れた。

ちょっと手で引っ張って、口元を縛る。

うん、いい感じ。

中に驚くくらい大量の粘液を蓄えたコンドームは、外側が私の蜜でぬらぬらと光っている。

破瓜の血も。

「これ……貰ってもいい?」

「え?」

「新治君の、「はじめて」の……」

「……えええ!?」

答えを待たず、私はそれを宝物のようにそおっとティッシュで包んだ。

 

「ちょ、まっ……綾ちゃん……」

新治君が、パニックになった。

「うふふ、新治君の精子君、お持ち帰り〜!」

私は、今日という記念日の戦利品を大切にバッグにしまいこんだ。

「綾ちゃん、ダメだよ、そんなの……。か、返してっ」

新治君は狼狽しきっている。

私の全てを征服したばかりの男の子は、それに気がつかずに、

また臆病な人間に戻っていた。

だから、私は明るく笑って答えた。

当初からの予定通りに。

「うふふ。か・え・さ・な・い! 新治君には代わりにいいものあげる」

「……え?」

本棚のほうに向かった私を見て、新治君はきょとん、とした。

すぐにそれが、驚きと恐怖の表情に変わる。

私の手には、ビデオカメラが納まっていた。

「あ、綾ちゃん、それって……」

「ん。ビデオカメラよ。<妹>の様子を取るのも、私に命じられてるから。

家にはいっぱいこういうのあるから、私、撮影とか編集とか、得意なんだ」

ホームビデオの他に、<妹>の発表会や旅行のときのビデオ係はいつも私だった。

だから、さきほどの二人の初体験をおさめたビデオを撮れるよう

ベッドに向けてカメラを設置するくらいは朝飯前の仕事だ。

新治君がシャワーを浴びている間に、ちょうどいい位置にそれを設置しておいたそれは、

しっかりと二人の行為を録画していた。

「うふふ」

新治君の目が、怯えきっている。

私が、このビデオをネタに新治君を自由にしようとしている、と思っているから。

私は、新治君を欲しがっていて、このビデオは、その格好の材料だった。

「うふふ、ふふふ」

私は笑いながら新治君に近づき、

――ビデオカメラをその手の中に押し込んだ。

 

「……え?」

新治君は、何が起こったか、わからない、と言った表情で私を見た。

「あげる」

「えええ?!」

「今、撮ったの、新治君の好きにしていいよ。

綺麗に取れてると思うから、パソコンに入れて大事にしてね」

「……」

「本体は、来週あたりに返してくれればいいよ。家には別のカメラあるから」

「……な、なんで……」

新治君は予想外の私の行動に動転しきっていた。

「証明するって、言ったでしょ?」

「え……」

「私が、貴方のこと裏切らない女だって。だから」

私は新治君に顔を寄せて、その瞳を覗き込んだ。

「そのビデオはね、私からの人質。

新治君が、私が裏切ったと思ったら、それを好きに使って。

パソコンで編集すれば、私の裸とか、声だけ取り出すことできるでしょ?

ネットに流したり、近所に知られるように配るだけで、私の人生、終わっちゃうわ」

「!!」

私に怯える男の子を癒す方法は、――私より絶対優位にあることを悟らせること。

「ね、だから、私、もう新治君のこと裏切れないよ」

私はゆっくりとささやいた。

新治君に、その事実が染み渡るように。

「そんな……受けとれないよ、こんなのっ……。

ぼ、僕が、これで綾ちゃんのことを脅したりしたらどうするつもり!?」

爆弾を抱えて、新治君は必死で叫んだ。

「大丈夫。新治君は、私のこと、脅せないから」

「え……」

「だって、私、新治君の言うことなら、こんなもの無くったって、なんでも聞くもん」

「……!」

「知ってる? 脅迫だって、レイプだって、女の子のほうが受け入れていたら絶対に立件できないんだよ……」

「……あ、綾ちゃ……」

「私は、最初からそういうつもりだけど、それじゃあまだ、

新治君は納得するくらいに伝わらないと思ったから、こういう形で証明しただけ……」

私は、ビデオカメラを持ったまま固まっている新治君に抱きついた。

耳元でささやく。

「ね。もう一回……ううん、新治君が満足するまであれの続き、しましょ。

そのビデオで私の恥ずかしいところ、撮ってもいいよ。

世間に知られたら、私が生きていけないくらいに恥ずかしいところまで、撮っていいから……」

確かに、このビデオが出回ったら、私は首を吊って死ぬしかないだろう。

でも、恐怖心は微塵もなかった。

新治君を信じているとか、そういう理由だけではない。

だって。

このビデオが出回るということは、新治君が、私のことを捨てるということで、

そして、私は新治君から捨てられたら、どの道生きていけないのだから。

 

 

 

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