<僕の夏休み> 三女:陽子 その2

 

 

──その日、神社の裏のほうにある沢で、沢ガニを取っていた僕たちは、いつもより遅くなった。

暗くなり始めた時点で帰ろうとはしていたんだけど、

陽子が岩穴に引っ込んだ大物をどうしても取るんだと言い張って、

もう一度出てくるまで待っていたので、気がついたときには日は暮れてしまっていた。

「げ、早く帰らないと、美月ねえに怒られるよ」

「……怒られたら、陽子のせいだぞ!」

「うー。彰だって止めなかったじゃないかぁ。早く帰ろっ!」

それでも、狙った獲物をみごと捕獲した陽子は上機嫌で、

今にもスキップしそうな勢いで駆け出し──立ち止まった。

「お堂の前に、誰かいる」

僕たちは、顔を見合わせて反射的に隠れた。

 

「あれ――千穂さん?!」

「あっちは吉岡さんだ」

神社の前で、向かい合っている二人には見覚えがあった。

どちらも志津留に代々仕えるお手伝いさん──僕たちは「使用人」という言い方が好きでない──で、

千穂さんはお屋敷で御飯を作ったり、お掃除をしたりしていて、

吉岡さんは、街にあるお祖父さんの会社で働いている人だった。

僕たちにとって、どっちも見慣れた人たちだったけど、

千穂さんがいつもの割烹着ではなく浴衣、吉岡さんがいつものスーツではなく私服、というのは、

まるで見知らぬ人のように思えた。

──話している内容も。

 

 

「……どうしても、結婚のお話を受けてもらえないんですか」

「わ、私はあなたより五つも年上ですし、……それに一度離婚している身です」

「そんなことは関係ありません!」

「吉岡さんのご家族は、やっぱり反対されるでしょう」

「いいえ、親父やお袋は僕が説得します。たとえ勘当されても」

「いけません。私は、勝手に東京に出て、出戻ってきたところを

志津留の御前(ごぜん)様に世話していただいる身ですが、

あなたは、ずっと御前様にお仕えして、目をかけていただいてる方ではありませんか。

私のような女と関われば、御前様やお嬢様方はお気にされなくても、

家中から後ろ指をさされて、きっと出世にも響きます……」

 

千穂さんは、ここにある実家から出て東京に行って、そこで結婚したんだけど、

その旦那さんがひどい人で、離婚して戻ってきたという話を聞いたことがある。

離婚の前は、家にいることも出来ずに、旅館の住込み仲居をしていたというので、

お屋敷での仕事もてきぱきとしていて、皆に評判が良かった。

でも、美人で、都会戻りで、……おっぱいがすごく大きくて目立つ人だから、

女のお手伝いさんの中には、あれこれ言う人たちも何人かいた。

吉岡さんは、ずっと地元にいて、大学だけ東京に出て戻ってきた。

とっても頭がいい人で、お祖父さんから可愛がられ、卒業後は秘書のような仕事をしている。

「ゆくゆくは、会社のひとつくらい任せたい」

というのが、お祖父さんの口癖で、志津留家中ではいわばエリートだった。

二人がくっつけば、なるほど何か言われるかもしれない──というのは後で気がついたことだ。

「貴方が心配していることにはならないでしょうし、また、なっても覚悟は出来ています。

……それとも……貴女は、やっぱり、元の旦那さんのことが忘れられないのですか……?」

「!!」

千穂さんは、息を飲んだ。

それから、地面に視線を落としてぽつりぽつりと答えた。

「……もう忘れた、と言ったら嘘になるかもしれません。……あんな男でも、私の夫だった人間ですから。

憎しみもありますし、恨みもありますし、……愛し合っていた記憶も残っています。

……あれは、遊び人でしたから、私の女の身体に忘れられないものをいくつも刻んでしまいました。

ですから、そういうものも含めて、……私は吉岡さんにふさわしい女ではありません」

いつも陽気な感じの千穂さんからは、想像がつかない憂い顔だった。

だけど、吉岡さんのほうも、いつもの物静かで真面目一辺倒の吉岡さんではなかった。

「千穂さんっ!!」

吉岡さんは、普段とはまるで別人のように、情熱的に千穂さんに抱きついた。

「それでも──僕は貴女が欲しい!」

吉岡さんは、抱きすくめた千穂さんに口付けした。

「んんっ!」

千穂さんは目を大きく見開いたけど、やがてそれを閉じた。

 

「――うわあ、キスだ……」

陽子が、かすれた声でささやいた。

「だまって……見つかっちゃうよ」

僕らは、石造りの狛犬の陰に隠れて、その様子をうかがっていたんだけど、

想像もつかなかった展開を目の当たりにして、身体も頭も働かずに、

ただそれを食い入るように見ているだけだった。

 

「ふわ……だめです、いけません。

……吉岡さんはお若いですから、きっと欲情と愛情をごちゃまぜにしているだけです……」

「そ、そんなこと、……ありま……せん」

キスを終えたところに、千穂さんからそう言われて、吉岡さんは傍から見ても分かるくらいに戸惑った。

浮いた話ひとつない生真面目な社長秘書さんには、我を忘れた情熱の経験が少ないので、

言われたことに自信を持って反論できなかったのかもしれない。

「……でも、それは……私も同じかもしれません……」

目を伏せていた千穂さんは、もう一度目を上げて吉岡さんの顔を見つめたあと、ゆっくりとひざまずいた。

「ち、千穂さん……?」

「あなたに誘われたとき、私はとっても嬉しかった。

こっちに戻ってきてから、一番嬉しいできごとでした。

でも、きっと、私の抱いている感情も、欲情と愛情をごちゃまぜにした衝動です。

前の夫が開発していった、私の牝の身体がうずいているだけ……」

「千穂さん……」

「……だから、今はこうして慰めあいましょう。

ことが終わって冷静になれば、きっと考えも変わりますから……」

千穂さんは、持ってきた手ぬぐいを、自分の膝の下に敷いた。

それから、絶句している吉岡さんのズボンに手をかけると、馴れた手つきでそれを引き下ろした。

「……まあ、ご立派……」

薄暗がりの中でもはっきり分かるくらいに、大きなものが、ぶるんと勢い良く跳ね出した。

「ふふふ、前の夫のよりも、大きいですわよ、吉岡さん……」

舌なめずりした千穂さんは、普段の明るく小気味いい感じとはまるで別人だった。

「ち、千穂さん、そんなこと……」

「こんなことをするのが、私です。あの男は、セックスの前に必ず口でさせました」

「……!!」

絶句する吉岡さんの性器を掴んだ千穂さんは、それをためらいもなく口に含んだ。

ちゅるちゅる、ちゅう。

ぴちゃぴちゃ、ぺろり。

何メートルも離れているのに、粘液質な小さな音ははっきり僕たちの耳元に届いた。

「うわっ……千穂さんっ……」

「ふふふ、いいでしょう、これ。仕込んだ夫も私のフェラチオにはぞっこんでしたから。

──おかげで執着されて、離婚するのに時間がかかってしまいましたけれど……」

「……」

返事を待たずに、また咥えなおした千穂さんが、さらに唇と舌を使ったのだろう、

吉岡さんはことばを封じられて身もだえするだけだった。

やがて──。

「あ、駄目です。千穂さん、離してくださいっっ!」

吉岡さんががくがく震えながら小さく叫んだ。

千穂さんは、妖しく微笑んで、その声を無視してフェラチオを続けた。

そして、最後の瞬間に、ちゅるんと吉岡さんのおち×ちんから口を離したから、

吉岡さんの勢いの良い射精は、みんな千穂さんの顔にかかった。

「あ、ああっ、千穂さんっ……!」

吉岡さんのおち×ちんから、夜目にもあざやかな白い汁が噴き出した。

それは、千穂さんの顔にかかり、髪の毛までを汚した。

「ふわ……熱ぅい……。顔がやけどしちゃいそう……」

千穂さんは、うっとりとした表情で、射精したばかりの男性器に頬を寄せた。

ぬるぬるとした精液を擦り付けるように、吉岡さんのおち×ちんに頬ずりする。

「ち、千穂さん……」

「ふふふ、気持ちよかったでしょう? あの男もよく私の顔に精液をかけましたわ。

離婚の話がでたあと、それはいっそうひどくなりましたわ

こうすることで、私を自分の縄張りの中に縛るんだって……。離れた心までは縛れっこないのにね」

「……ち、ち──」

「ふふふ、吉岡さんったら、まだこんなにおち×ちんカチカチ。

でも若い男の人が、もう三十路のおばさんにこんなに欲情してはダメよ。

今日だけは、うんとさせてあげるから、帰ったら忘れなさいね……」

吉岡さんの顔を見ず、千穂さんはそう言い、持ってきた小さなバッグから何かを取り出した。

「あ……」

「ふふふ、こんなもの持ってきちゃいました。やっぱり私もこういうのを期待してここに来たのでしょうね。

……だったら、お互い後腐れのないセックスを楽しみましょう」

その時は分からなかったけど、千穂さんが取り出したのはコンドームだった。

いま出した精液がこびり付いているおち×ちんをぺろぺろと舐めて綺麗にした千穂さんは、

魔法のような器用さでそれを吉岡さんに付けてあげた。

「お堂の中に入りましょう、いいものがあるんですよ」

千穂さんは、半ば呆然としている吉岡さんの手を引いた。

志津留の家の関係者ならみな知っているけど、カギはお賽銭箱の下に収めてある小箱の中にある。

誰も参拝に来ない神社だし、大切な神具などはぜんぶお屋敷のほうにあって、

必要なときだけ運んでくるものだから、そうしておいたほうが便利なのだ。

千穂さんは、そのカギを使ってお堂の中に入った。

 

「……?」

「……!」

僕は陽子と目と目の会話をした。

意見が一致した僕らは、そおっとお堂のほうへ近づいた。

 

格子になっているお堂の扉から中を覗くと、千穂さんが奥の物入れから何かを運んでくるところだった。

「――ほら、お布団」

千穂さんがくすくす笑いながらそれを敷く。

「……なんでそんなものがここに……?」

吉岡さんの疑問は、僕らの疑問でもあった。

「ふふふ、昔から、ここは志津留の者たちの逢引場所なのですよ。

代々お布団を隠してて、古くなったら入れ替えると、私の母から聞きました」

たしかに、千穂さんが敷いたお布団はまだ新しかった。

「シーツは、使った人間が買い足しておくのがマナーですから、明日、補充しておきましょう」

千穂さんは、これも物入れから取り出してきた新品のシーツの包装を破りながらそう言い、

てきぱきと夜具の用意を整えた。

「それじゃ、──しましょうか。吉岡さん……」

千穂さんは、浴衣をはだけてお布団の上に座った。

「千穂さん……」

「……千穂って呼んでください。夫にそう呼ばれてましたから。――セックスの時は特に」

「ち、千穂……」

もじもじしている吉岡さんに、千穂さんは、さりげない動きで浴衣を自分からさらにはだけた。

──今の美月ねえもすごいけれど、千穂さんは当時も今もそれ以上だ。

お手伝いさんたちのなかでも群を抜いて大きい。

半ば露出した巨乳に、吉岡さんがごくりと唾を飲み込みながら手を出す。

ためらいがちなその手を掴んだ千穂さんが、それを自分の胸にぐいぐいと押し当てた。

「ふふふ、お乳を吸って……」

ことばに操られるように吉岡さんは千穂さんのおっぱいにむしゃぶりつき、

先ほどまでの勢いをすっかり取り戻した。

「ふわ……そうよ。そう。――そしたら、片手はこっち……」

千穂さんは吉岡さんの右手をどこかに導いたようだった。

「ほら、濡れているでしょう? いじってごらんなさい……」

「あ、ああっ……」

吉岡さんが手を動くたびに、千穂さんは熱い吐息をつき、二人の動きはどんどん積極的になってきた。

やがて、

「いいわ。――私の中にいらっしゃい」

千穂さんが吉岡さんの頭を抱きながら、耳元でささやいた。

 

「……こ、こう?」

「ううん、もうちょっと下。……ここ……」

「ああっ、は、入った……!」

月光が差し込むお堂の中で、白い千穂さんの身体の上に、吉岡さんの身体が重なった。

真新しいシーツの上に横たわって大きく足を広げた千穂さんの中に

吉岡さんの腰が沈み込んで行く。

「くっ……ん……」

「うん……くふっ……」

吉岡さんがあえぎ声をあげると、千穂さんが呼応したように吐息をつく。

青白い月の光の中で、二人はたちまちに高みに上った。

「ち、千穂っ……」

「いいわ。出して──」

吉岡さんが裸の上半身をのけぞらせる。

千穂さんは、目を閉じてそれを受け入れた。

やがて、吉岡さんは横に崩れるようにぐったりと布団に沈み込んだ。

千穂さんは、添い寝するような感じで、その頭をなでる。

「……吉岡さん、気持ちよかった?」

「……はい……」

「ふふふ、いっぱい出したのね。……コンドームの中、こんないっぱいよ」

「……」

志穂さんは、自分の中から抜け出した肉の先端を握りながら言った。

吉岡さんのおち×ちんをきゅっとしごくようにしてから避妊具を外す。

「ほら、こんなにたくさん……」

「……」

「ふふふ、前の夫も、絶倫で精子いっぱい出す人だったけど、吉岡さんのもすごく濃いのね。

スキン越しでも、ゼリーみたいにたぷたぷしてるのがわかるもの……」

「……」

「すっきりしたでしょ? ……もう一度する? 今夜だけは、何度でもしてあげるわよ」

「千穂さん……」

──答えは、抱き寄せての優しいキスだった。

 

「……よ、吉岡さん?!」

「――駄目ですよ、千穂……いいえ、千穂さん。下手な演技は……」

「!?」

「貴女は優しい人だから、僕が貴女をあきらめやすいように

わざと前の旦那の話を持ち出しているんでしょう……。

前の男に開発され尽くした女だって、僕に見せ付けてあきらめさせようとしているのでしょう」

「……!!」

「でも、僕は、そんな貴女が好きだから、それは全然意味がないんです。

貴女が僕のことを好きになっていてくれるのなら、それだけで十分なんです。

年の差とか、離婚暦とか、前の旦那のこととか、全部関係ないんです」

「……吉岡……さん……」

吉岡さんは、千穂さんのことを優しく抱きしめた。

吉岡さんの腕の中で、千穂さんのすすり泣く声が聞こえた。

しばらくして、千穂さんは、顔を上げた。

「……吉岡さん……私のお腹に何か当たってます……」

「ええと……その……千穂さんが、可愛くて……」

「まあ……」

千穂さんは真っ赤になって吉岡さんをぶつ真似をした。

「――千穂さん……その……もう一度いいですか……?」

「は、はい──きゃっ!」

吉岡さんは、千穂さんの承諾の返事を聞くや、ぱっとその身体を抱きかかえた。

普段や、ここまでの吉岡さんとは全く違った勢いだった。

逆に、今まで吉岡さんをリードしていた千穂さんが受身にまわっている。

「よ、吉岡さん、コンドームを……」

「要りません」

「で、でも私、今日は大丈夫な日じゃないんです……」

「かまいません。親父やお袋も、孫ができればあきらめるでしょう」

「そんな……」

「子供を盾にするんじゃありません。……千穂さんに、僕の子供を産んでもらいたいのです」

「ああっ……」

吉岡さんにしがみついた千穂さんは、どんなことばよりもはっきりと答えを示していた。

吉岡さんは、そんな千穂さんにもう一度キスをして、――もう一度千穂さんとつながった。

 

「ふわあっ! ……吉岡さん、すごいです、すごいですぅっ……!」

「ち、千穂さんもっ……!」

避妊具なしに交わり始めた二人は、先ほどの何倍も乱れて燃え上がっていた。

息を潜めて見つめ続ける僕らの前で、二人の神聖な痴態は長く長く続いた。

やがて……。

「ああっ、千穂さんっ、僕はもうっ……」

「来てっ、吉岡さんっ。私に、私にあなたをくださいっ……」

「――くうっ!」

「──ああっ……!!」

感極まったように二人が震え、お布団の上に崩れ落ちた。

薄暗がりの中、しばらく、はぁはぁと言う二人の荒い息だけが続いた。

「――ふふ、私の中、吉岡さんの精液でいっぱい……」

「――千穂さん……」

「吉岡さん、私、とっても気持ちよかった。――前の夫とした何百回のセックスより、ずっとずっと」

「千穂さん……!」

「だから、もう、あの人のことなんか、今夜で全部忘れました。

今から、千穂は全部丸ごと、吉岡さんの女――そう思っていいですか……?」

「もちろん!!」

吉岡さんはもう一度千穂さんの上に重なった。

「あ……また、してくれるのですか?」

「もっともっと、貴女が僕の子供を孕むまで、何度でも……!」

「うれしいっ!!」

 

結局、吉岡さんと千穂さんは、そのあと五回も交わって、

暗闇の中で息を殺して最後までそれを見つめていた僕たちは、

すっかり帰りが遅くなって美月ねえたちからさんざん叱られる羽目になった。

 

千穂さんは、その何ヶ月か後に妊娠したことがわかって、

ちょっとした騒動にはなったけれど、吉岡さんと再婚した。

すぐに子供──ケン坊が生まれたんだけど、

計算してみると、どう考えても、あの神社での一夜がもとだ。

ケン坊にはないしょだけど、陽子と僕は、ケン坊が「出来た」ところを目撃したのだ。

 

「……」

「……」

僕らは、同じことを思い出していたのだろう、顔を真っ赤にしていた。

あのときは、はっきりいってよくわからなかった

──ただ二人が何かいやらしくて真剣なことをしていたことだけはわかる──けれど、

幼い網膜に焼きついたものは鮮明で、「そういうこと」の知識が備わるにつれ、

僕たちの中でものすごい経験に変わった。

今でも、心の準備なしに吉岡さんや千穂さんに出くわすと、陽子と僕はどぎまぎする。

僕らにとって、「上の神社」は、そうした記憶の象徴だった。

 

そして、今年、子作りを命じられた僕らにとっては──それは生々しい「お手本」でもあった。

 

「あたしらも──これから、ああいうこと、するんだよね……」

不意に、陽子が呟いた。

「こ、子供……ケン坊みたいな……?」

ついさっき別れたばかりの小学生と、その誕生の記憶は、

ものすごいリアルな現実としてのしかかってきた。

従姉妹とのまじわりに、まだ心の準備のつかない僕の上に、ずっしりと。

「……陽子……」

「あのさっ……。いつまでも考えても、らちがあかないだろうから、今夜、しちゃわない?」

「えっ……!?」

陽子の意外な提案に、僕は絶句した。

「あははっ、こういうのは勢いだって、千穂さんたちも見せてくれたじゃん」

そっぽを向きながら、陽子はくすくすと笑った。

男の子みたいにさばけているとは思っていたけど、これほどまでとは──。

「彰は、嫌なの?」

「い、いや、そういうことでは──」

「じゃ、決まりね。お風呂は入ったら、彰の部屋に行くからっ──!!」

陽子は、言うだけ言って、不意に駆け出した。

──僕はその背中を呆然と見送るだけしか出来なかった。

 

 

 

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