<砂漠の女王>2

 

テルパドールに帰還したアイシスはすぐに地下の自室にこもった。

宮殿を清める事を命じ、自分自身は何度も湯浴みを繰り返した。

普段から美容と健康には気をつけてはいたが、

皇后との謁見後は、さらにそうしたことに気を使う生活を己に課す。

化粧や装束は、もちろん吟味するが、決してそれに頼らない。

美貌と肉体の魅力は、毎日の努力の積み重ね──愛する男にそれを捧げる女の情念が生み出すものだ。

──十日ほど後、皇后が緊急事態と称して勇者をグランバニアに呼び出した頃、

アイシスは、自室の大鏡の前で会心の笑みを浮かべていた。

全裸の肢体は、若さと成熟の混じる年頃の美女の魅力を最大限に宿していた。

ここ数年、むなしく現状維持していただけの美しさが、女王の人生で最高の目標を得て、

最高の努力のもとに、最高の状態にまで引き上げられていた。

「……勇者様がいらっしゃる日から数日は、きっちり危険日」

傍らの暦を見ながら女王は微笑した。

「勇者様にぎりぎりまで今回の旅の「目的」を教えられないことだけが残念だわ」

当日の謁見に身に付ける予定の、テルパドールの古式にのっとった正装を

下着の一枚一枚までよく吟味しながら女王は呟いた。

「もし、教えて差し上げれば、きっと勇者様はどきどきしながらこのテルパドールに来ることでしょうに。

──最高の女が、最高のセックスを献じて差し上げるために、こうして準備している事を知ったのなら」

女王は舌なめずりをしている自分を鏡の中に見つけ、苦笑してそれを引っ込めた。

代わりに、聖母のような微笑を浮かべる。

それは、女王の本質である神秘的な雰囲気と入り混じって、

淫らな神に、淫らな捧げ物をする、淫らな巫女のような表情になった。

 

「砂漠の国も久しぶりだね!」

竜の背から降りながら<伝説の勇者>は、にっこりと笑った。

「あちぃー、あちぃーよ」

プオーンが膨れた腹を付き出しながら文句を言う。

「泣き言を言うな!」

勤勉なプチタークが、どちらかというと怠惰なプオーンを叱責する。

「見たところ、雰囲気に異常は感じられないようですな」

バトラーが冷静に意見を述べる。

勇者と同年代(?)で、ともすれば友人感覚なプチタークやプオーンとちがい、

もともとリュカ直属で、その腕と頭脳、それに戦闘経験を買われて勇者に付けられたヘルバトラーは、

勇者一行の中で参謀役とお目付けを兼ねる。

「うん。母上が、至急テルパドールの危機を救うように、と連絡くれたからびっくりしたけど、

なんだか平和な様子だね。──まずは王宮に行って、女王に話を聞こう!」

 

「よく参られました、勇者様!」

王宮の謁見の間で、アイシス女王は艶やかに笑って少年を迎え入れた。

「お久しぶりです、アイシス女王。──テルパドールの危機が迫っていると聞きました。

……敵はどこにいるんですか?」

勇者は勢い込んで尋ねた。

「たしかに、皇后様にご相談したとおり、テルパドールには深刻な危機が迫っております。

しかし、それは外敵によるものではございません」

女王は勇者を見つめた。

「え。じゃあ、何が……」

「ここではいささか話しにくいことですので、地下の私の部屋にいらしてください。──勇者様お一人で」

女王の言葉に、プチタークがむっとしたように前に出る。

「勇者の護衛として、それは聞けないな」

だが、ヘルバトラーがその肩をつかんで止める。

「──王宮内では、どんなことでも女王の指示に従う。それが問題解決への一番の近道。

出立前に皇后から指示があった事を忘れたか」

「だけど……」

「あ、そう言えば、母上がそんなこと言ってたね。言いつけ守らないであとでお小言貰うのもいやだし、

僕ひとりで行くよ。──大丈夫。アイシス女王は、父上の昔からの友人だ。何も心配はいらない」

プチタークを制しながら屈託なく笑った勇者は女王の後に続いたが、まだ幼い彼は、

自分が「女」という最も恐ろしい化物のあぎとに、今まさに飛び込もうとしていることを自覚していなかった。

 

「んー。相変わらず、綺麗な庭だなあ」

城の地下に広がるアイシスの庭園を眺め、勇者はにっこり笑った。

城下の地下水脈を利用して作った庭は、砂漠の国とは思えぬ色とりどりの花に満ちていた。

「ここは水が豊富ですから」

アイシスはにっこりと笑った。

「では女王、さっそくお話を──」

「まあまあ、そんなにお急ぎにならないで。まずは、湯浴みでもして旅の垢をお落としになってください」

女王は東屋の中に作られた浴槽を指し示した。

「砂漠のわが国にあっては、客人にお風呂を立てることは、最大の歓待でございます。

ぜひとも勇者様に私のもてなしを受け取ってもらいたく存じます」

「あ、うん。いいよ」

勇者は軽い気持ちで頷いた。

秘密の相談と言うことで、侍女を含めてまわりに誰もいない。

アイシスも、旅塵に汚れた服を洗濯に出すと言っていったん下がったので、

勇者は、広い地下庭園を独り占めするような気持ちで体を洗いはじめた。

「──うーん、気持ちいいなあ」

体を洗い終え、湯船にも一回浸かった勇者が、浴槽の縁に腰掛け、

鼻歌まじりに庭園を眺めはじめた時、──湯殿に人影が入ってきた。

「え……」

勇者は目を見張った後、あわてて浴槽の中に身を沈ませた。

「私もご相伴させていただけますか?」

そういいながら湯殿に入ってきたのは、全裸のアイシス女王だった。

 

「わわわ、アイシス女王、一体……」

湯の中に沈み込んだ勇者に、女王はにっこりと微笑んだ。

「せっかくですから、私も勇者様とお湯をご一緒させていただこうかと」

「女王ってば、は、裸だよっ……」

「ええ、湯浴みは裸でするものですわ。それが何か──?」

女王は、豊かな乳房も、張り詰めた腰も、艶やかな恥毛に守られた秘所も隠すそぶりがなかった。

爛熟した果実を思わせる三十路の女王の体は、しかし、結婚も出産も経験したことがないゆえか、

ぎりぎりのところで若い女のラインを保っていた。

「……それがって……」

勇者はことばを失った。

沈黙した少年に、アイシスは優しく追い討ちをかける。

「ふふふ、山奥の村では、着衣のままでお入りになられていましたか?」

「えっ!?」

女王の質問に、勇者は思わず顔を上げる。──そして、アイシスの裸体を見て慌てて眼をそらす。

「ビアンカさんは、勇者様とお風呂をご一緒にするときに、裸だったでございましょう?

──私と裸で混浴するのは、お嫌ですか?」

「ええっ、な、なんで知っているのっ!?」

勇者は湯船の中から飛び上がらんばかりに驚いた。

「アイシスは、勇者様にゆかりの王国、テルパドールの女王でございます。

私は勇者様のことなら、予言と夢見を通じてなんでも知っておりますわ。

もちろん、ビアンカさんが勇者様に何をお見せになられたのかも……」

「えぇぇっ!!」

アイシスの言ったことは、はったりにすぎなかったが、

女王歴二十年に及ぼうとする女の、威厳と神秘性に満ちた態度は、

年若い勇者を簡単にだますことができた。

勇者は、耳まで真っ赤になって、女王をそろそろと窺った。

「え……その……あの……」

「ふふふ」

ここではあえて追い詰めずに、アイシスは優しく笑って洗い場に向かった。

勇者は、女王が本当に山奥の村でのことを知ってるのか、動揺を隠せないでいた。

アイシスはそ知らぬ顔で体を洗いはじめた。

豊かな胸乳や腰に舶来のシャボンを塗りつけ、丹念に肌を磨き上げる様を、

メダパニをくらったように混乱している勇者は、思わずそれをぼうっと眺めていたが、

アイシスが小椅子を持ち出して勇者の目の前までやってくると、はっと目を伏せた。

女王は、気にした素振りもなく、少年の目の前に小椅子を置いて座る。

──勇者に向かうようにして、大きく足を広げて。

「ここは念入りに洗っておかないといけませんわね」

少年に聞こえるような──聞かせるための声で言いながら、女王は自分の性器を洗いはじめた。

宣言どおり、丹念に。

シャボンの泡のむこうにちらちらと見え隠れする陰毛と秘所は、いかにもエロティックで、

勇者は、湯の中で股間を押さえずにはいられなかった。

少年が、自分の事を視姦していることに気付かぬ振りをしながら、

アイシスは時々立ち上がって湯をかけたり、また座りなおして洗い直したりを繰り返した。

「──ああ、お尻のほうを忘れていましたわ。ここもよく洗っておかなければ……」

アイシスは、いかにそれに意味がある、といった様子で後ろを向き、勇者の方向へ尻を突き出した。

シャボンを臀部の割れ目によく塗りたくり、あわ立ちの中でゆっくりと肛門を洗い始める。

勇者は鼻血を噴き出した。

アイシスがすっかり体を洗い終えたとき、

勇者は、肝心な部分を湯気とシャボンでまったく見ていないのに、息も絶え絶えの様子だった。

しかし、女王の誘惑は、こんなものでは終わらなかった。

 

ちゃぷ。

茫然自失の勇者が我に変えると、アイシスが湯の中に入ってくるところだった。

「ご相伴いたします」

熟れきった美女が全裸で同じ湯の中にいる。

ビアンカ相手に経験したことのあるシチュエーションとは言え、神秘的な女王のそれは、

勇者の感性を極限まで刺激せずにいられなかった。

「あっ、あのっ──」

「なんでございますか?」

「い、いえ、その……なんでもありません……」

山奥の村の温泉で、ビアンカに裸を見せてもらっていることを本当に知っているのか、

と聞きそうになって、勇者は慌てて口をつぐんだ。

「──ビアンカさんのあそこは、綺麗でしたか?」

アイシスは、ここで切り札を使った。

駆け引きを知り尽くした女王が、完璧なタイミングで出したカードに、

勇者はこんどこそ、湯の中から飛び上がった。

「ど、ど、どうしてそれをっ!!」

「ふふふ、言ったはずですわ。私は、勇者様のことならなんでもわかる、テルパドールの女王でございます」

勇者は、女王の術中にはまった。

女王が、本当に自分のいろいろな事を知っている、と思って身を縮める。

アイシスは、にっこりと笑って、その目を覗き込んだ。

「ふふふ、私のも、ご覧になられますか?」

「ええええええええっ!?」

「私は、勇者様のお心がわかります。──私の性器もご覧になられたいのでしょう?」

「そ、それはっ!!」

混乱し、またアイシスに飲み込まれている勇者は、それが単なるカマかけと見破ることができなかった。

戦闘、戦術にかけては、父親のリュカを除けば天上天下最強の戦士も、

男女のことについてはまだ初心そのものであった。

「ご覧に、なられたいのでしょう?」

優しく、だが、有無を言わせず繰り返す女王に、勇者はしばらく固まっていたが、やがて、こくんと小さく頷いた。

アイシスの笑みが、さらに優しく淫らに深まった。

「ふふふ、ビアンカさんのと、比べてみてください」

湯の中から立ち上がった女王は、勇者の前にまわりこむと浴槽の縁に腰をかけた。

先ほどの洗い場の時よりもさらに大きく足を広げる。

勇者の視線は、アイシスの太ももの奥に釘付けになった。

「──!!」

「どうですか、私の性器は?」

「あ、……すごく、きれい……です」

「ふふふ、ありがとうございます。──ビアンカさんのよりも?」

「え……?」

勇者は言葉に詰まった。

目の前のアイシスの女性器もきれいだが、

山奥の村で見せてもらっているビアンカのそれも負けず劣らず美しいものだった。

髪と同じく黒い恥毛に守られた女王の性器は思ったより小ぶりだが、爛熟した花弁を思わせたし、

金色の飾り毛の下にある女魔法使いの性器は、乙女のもののように繊細だった。

「え……と」

返答に困る少年を、アイシスは更なる罠にいざなう。

「見た目で甲乙が付かないのなら、触ってみてはいかがですか?」

「え…い、いいのっ!?」

ビアンカには、まだそれをさせてもらっていない。

いや、女魔術師のほうはその気まんまんであったが、

なんとなく自分の母親がビアンカの事を快く思っていない事を悟っている勇者は

妙な罪悪感を感じてその勧めに乗ることができなかった。

だが、次回あたり、その一線を越えてしまいそうな気もしていた。

だが、その前に、アイシスが強烈に誘惑をしてきた。

勇者はふらふらと指を伸ばした。

「あっ」

柔らかい──と思った瞬間、少年の背筋を、猛烈な衝動が駆け抜けていた。

「──!!」

勇者は声にならない声を上げて、女王の秘所にむしゃぶりついていた。

 

「ふふふ、美味しいですか、私のあそこは?」

アイシスは、自分の股間に顔をうずめて夢中になっている勇者の髪を梳きながら微笑んだ。

いきなりクンニリングスに来るとは思わなかったが、ビアンカのものを見せられたときに、

すでに少年の中にそうした欲望は目覚めていたのだろう。

だとすれば、ビアンカは、アイシスのために、苦労して準備を整えてくれていたことになる。

やがて、アイシスの蜜液を唇や顎から滴らせながら、勇者が顔を上げた。

大魔王を簡単に屠る少年が、泣きそうな顔をしている。

「じょ、女王。ぼ、僕、もうっっ!!」

「わかっておりますわ。おち×ちんが、切ないのでございましょう?」

はちきれんばかりに怒張した少年の男を見つめたアイシスが、そっと唾を飲み込みながら答える。

「あ、あのっ……、そのっ……!!」

「ふふふ、私にお任せください。アイシスは、勇者様のそれを一番気持ちよくする方法を存じております」

女王は勇者を抱くようにして湯船から出、庭園に敷物を敷いて横たわった。

「さあ、勇者様、ここへ。ここへ、勇者様のそれをお収めになられるのです」

アイシスが自分の性器を指で開くと、そこは勇者の唾液とアイシス自身の蜜液とでとろとろに潤っていた。

「え、それって、せ、セックス……」

知識はあるのだろう、勇者は真っ赤になった。

「そうですわ。そして、テルパドールを危機から救う唯一の方法でございます」

「えっ!?」

自分がこの砂漠の国を救いに来た事を思い出して、勇者は絶句した。

「そ、それって!?」

「テルパドールは、後継者がおりません。私が子を産まなければ、王家の血が絶えてしまうのです。

勇者様が、私とセックスして、御子をお授けになられれば、危機を回避することができます」

「で、でもそれは──」

「これは、フローラ皇后陛下もお許しになったことでございます」

アイシスは二つ目の切り札を使った。

勇者は息を飲んで考え始めた。

少年の性行為への最大の障壁は、母親に対する罪悪感だ。

だが、アイシスは、ビアンカとちがってフローラのお墨付きがある。

はたして、勇者は頷いた。

「う…ん。それが、テルパドールを救う方法なら……」

「ありがとうございます。全てを私にお任せください」

アイシスは、とびっきりの微笑で勇者を迎え入れた。

この先、勇者が忘れられないような初体験を与えるために。

少年のこわばりを優しく指で導き、自分の入り口にあてがう。

とろけきった女性器は、勇者のこわばりを簡単にくわえ込んだ。

「うわっ──!じょ、女王っ!!」

自慰もろくにしていない年頃の少年は、初めての快感の波に身を震わせた。

「ふふふ、私のおま×こは、気持ちいいですか?」

女王は少年の口を吸いながらささやきかけた。

この交わりで自分が快楽をむさぼるつもりはなかった。──それは追々でいい。

今はこの少年に最高の初体験を与えることと、その精を子宮に収める事を考えればいい。

アイシスは勇者の腰に手をまわし、前後運動を促した。

「あっ、あっ、女王っ、僕、もうっ!!」

「良いのです。私の性器に、精をお出しになってください。

──勇者様の「はじめて」を、若くて濃い精液を、たっぷりと」

アイシスは勇者の唇を下から奪いながら、性器を締め上げた。

「ああああっ!」

少年は泣くような声を上げて、年上の女性の中に射精をはじめた。

勇者のはじめての性行為は短かったが、射精は長く長く続き、

テルパドールの女王の性器と子宮は、若い精液であふれかえった。

セックスそのものの快楽は楽しむ間もなかったが、アイシスはたっぷりと満足していた。

勇者の童貞を自分の肉体で奪った、という事実が女王にこの上ない誇りと悦びを与えている。

しかし、自分を与えることに貪欲な女王は、さらなる貢物を少年に捧げるつもりでいた。

「ふふふ、まだまだこれからですわ、勇者様。今度は私を悦ばせてくださいませ。

──もちろん、私も勇者様をたっぷり悦ばせてさしあげます。

私の口も、胸も、お尻も、なかなかのものでございますよ」

はじめての快感に、半ば失神してぐったりとしている少年を優しく愛撫しながら、

砂漠の女王は、妖艶この上ない微笑を浮かべた。

 

 

 

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