ぽかぽか陽気のマヨヒガに、間の抜けた欠伸が響き渡る。
 開け放たれた障子の奥、行儀よく布団にくるまっていた八雲紫が、長きに亘る冬眠を終えて覚醒を果たした瞬間である。うーんと気持ちよさげに両手を天に突き出し、背筋を伸ばす。瞳に溜まった涙は、身じろぎするとすぐに頬を伝って流れおちてしまった。
「ふあぁ、よく寝たわぁ……。藍。藍ー」
 あれこれ身だしなみその他に関する世話をしてもらおうと、何ヶ月かぶりに式の名を呼ぶ。すると、ものの数秒もしないうちに、金毛の妖孤、八雲藍が仰々しく膝を突いて参上する。その手には新聞らしき紙の束を握り、瞳はいつになく真剣である。
「藍。おはよう」
「おはようございます、紫様」
「早速だけど、髪をね」
「早速ですが、こちらをご覧ください。紫様」
「髪を、梳いてほしいんだけど……」
「ご覧ください」
 時折、主に逆らうことはあるけれど、基本的には従順な式が、主の起き抜けにただならぬ押しの強さを見せつける。紫も寝起きで頭がよく回っていないこともあり、怒るより先に藍が差し出した新聞の記事を素直に音読してしまった。
「えぇと……『賢者の淫行 幻想郷を犯し尽くす』……何これ」
「ご覧の通りです」
 呆然とする紫を尻目に、藍は深々と嘆息し、記事に載せられた写真を叩きながら説教を繰り広げる。
「紫様、私は残念です。いやらしい気分になる時というのは誰しもございます、けれどもこのように節操無く誰彼構わず接吻したり乱交したりしていては、他の者に示しが付かないではありませんか。仮に、周りの目が意識できぬほど溜まっていたのでしたら、その、私も未熟ながらご助力致しますし、むしろ天狗を懐柔するくらいの覚悟が――」
「……熱弁を振るってるところ悪いんだけど、これ私じゃないわよ。似てるけど」
「何を言ってるんですか。図書館でも触手三昧だったそうじゃありませんか。私にけしかけた触手の件、忘れたとは言わせませんよ」
「あの時の藍、良い反応だったわねえ……」
「そういうのはいいですから。座ってください」
「――藍。貴女は誰に向かってそんな口を」
「座りなさい」
 藍の気迫に押され、紫は渋々敷き布団の上に正座をする。それから小一時間、藍の説教は続き、覚えのない淫行と普段のだらしなさ、式に対する接し方、その他諸々の鬱憤を一通りぶつけられた紫は、寝惚けた頭でぼんやりとこの現状を憂えた。

 ……あれ、なんで怒られてるのかしら、私。

 

 








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2010年3月14日 藤村流


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