ニュースの時間です23

 

 

 

 こんばんは。
 多い日も安心。八雲紫のスキマニュースの時間です。
 それでは、最初のニュースです。


――鬼のパンツはいいパンツ?――


 幻想郷を騒がせた鬼のパンツ騒動。
 その発端の萃香(住所不定・無職)さんに新たな動きが確認されました。


 鬼のパンツは いいパンツ
 つよいぞ つよいぞ
 トラの毛皮で できている
 つよいぞ つよいぞ


 萃香さんがこのように歌っていたことから「何、本当か、ちょっと見せてみろ」と魔理沙さんがスカートを捲り、逮捕されたのが三日前。世論はむしろ犯人に同情的でした。
「何もスカート捲りくらいで、逮捕する事はないじゃないの!」と同職のアリスさんは強い憤りを見せましたが、発言から五秒とたたずに面会中の魔理沙に捲られました。 またアリスの誘い受けかと、世論はやっぱり捲った側に同情的でした。
 上白沢警部の取調べに対し魔理沙は「自分は正しいことをしたと思っている。パンツの強度を確かめられなかったことだけを、大変残念に思う」と犯行は認めるものの、そのコメントは正義と道徳に対し一石を投じ、法とは何なのか、パンツを守ることが法なのか、だったら履かなきゃいいじゃないか、と空前のノーパンブームを引き起こしましたが、紅魔館が外見年齢的に危険だとのことで二日で鎮火しました。
 メイド長ががっかりして寝込んでいます。


 しばらく報道陣の前に、姿を見せなかった萃香さん。
 今朝十時ごろ、博麗神社でお茶を飲んでいるのを、某天狗記者が発見。
 カメラを近づけると、奥の間から出てきた巫女さんに「取材は止めて欲しい、私が答えるから、彼女はそっとしておいてあげてください」と泣きながらカメラを粉砕されました。
 神社の巫女さんは「萃香のパンツはみんなが履いているものと同じです。歌は外の世界で有名なもので、特定の誰かを指しているものではありません」と強いパンツ説を全否定。
 それから、二度とこんな悲劇がないようにお願いします、と捲った側と煽った報道陣を激しく非難。
 文々。新聞から「いつも見えてるのに今更なんで隠しますか?」と辛辣な質問が飛び出したが「見せてるのよ!」といよいよ我慢が出来ないと怒鳴り散らしました。
 ますます匿った理由が解りません。
 乙女心は複雑です。


 それでは、次のニュースです。


――気圧が高いと……テンションも上がるッ!――


 えー、題目でお分かりかと思いますが、やたらとテンションの高いルナサ・プリズムリバーさんが各地で見られております。
 梅雨も明け、最近は空も高いですが、長い長い梅雨の季節は皆様青カビなどで苦しんだ事だろうと思いますが、そんな時、プリズムリバー一家は、気圧が下がったルナサさんの鬱に苦しんでいた、と末妹のリリカさんが語ってくれました。
 そうした長い梅雨が明けた反動なのか。
 今は、とにかくハイテンションで「海に行きましょう!」とただの湖である紅魔湖に向ったり、ビーチでもないのにビーチパラソルを突き刺して「後で昆虫採集をしようね!」と空を飛ぶリグルさんを指差したりと、かなりの暴走っぷり。
「大丈夫! リリカには浮き輪を持ってきてるわ!」などと人前で言わないで欲しいようなことも……リリカさんは耳を真っ赤にして羞恥に耐えていたそうです。
 ちなみに、同じく紅魔湖で先の泳いでいたチルノさん達に「あたいのラストリゾートを返せ!」と大声で怒鳴られたそうですが、ラストリゾートとは切り札の意味であり、あなたが考えているようなリゾート地とは全く関係ありません。
 大妖精の取り成しもあり、それ以上は喧嘩にならず、みんなで仲良く泳いだそうです。
 姉妹仲良く湿った土でお城やトンネルを作る姿も、目撃されています。
 夜は、シチューを食べて、メルランさんのトランペットで踊りながら、激しくキャンプファイアー。親睦と友好を深め、妖精達と別れた後にもルナサさんのテンションは下がらず、プリズムリバー邸の門の前に水入りバケツを置いて、花火を開始しました。
 ただ、花火の最中にリリカさんが突然泣き出しました。
 取材をしていた記者がどうしたのか、と尋ねると、鼻をすんすん啜りながら答えてくれました。


「ほんとはルナ姉、テンションは普通なんだ……ただ家族サービスが恥ずかしくてさ、それでテンションに頼っちゃってるんだよ……私ね、今日が誕生日なの」


 終わってみれば良いお話でした。


 それでは、次のニュースです。


――香霖堂。僕は褌店主じゃない――


 でたらめな報道により、著しく名誉が傷ついていると憤慨しているのは森近霖之助さん。
 取材に出向いた記者の前で、煮えくり返る胸の内をぶちまけました。
「信じられない思いだ。今日は裸じゃないんですね? と半霊の少女に真顔で言われてしまった」
 肩が下がりきったその姿からは、大変な苦労が見受けられました。
 まぁね、霊夢や魔理沙がネタで言うならね……と長い溜め息を吐いた後、話を続けます。
「あんな真面目な子までが言うなんて、もはやこれはネタ扱いじゃない。何者かの情報操作により、幻想郷全体が洗脳されているんだ。知的で大人しい僕が褌一丁でマッチョボディを見せびらかしているだって? こんな馬鹿なことがどうして通るのか! マスコミには勝手なイメージを作らないでもらいたい!」
 それでは、脱がないのですか? 
「脱ぐさ、ただしベッドの上でね……」
 ウインクして玄関を出ていった森近さんは、チルノでつるん、そこにレティがどすん! 可哀想にぺっちゃんこになってしまいました。
 気をつけましょう、冗談でも野郎のセクハラは、幻想郷では絶対に許されません。
 百合的なセクハラは当局では大歓迎の方向です。


 それでは、次のニュースです。


――サブキャラクター大人気!――


 小悪魔、大妖精、上海人形、などが人気になってきております。
 初回登場時に立ち絵すら貰えなかった、名無しッ子達が、各方面で鋭い活躍を見せているのは何故でしょうか? 停滞によるキャラの見直しが図られていて、今まで注目されていなかったサブキャラに火が付いたのでしょうか?
 真相は今も不明ですが「ピンは無理でもコンビなら自機による出場もあるかも知れない」と期待できそうな発言もちらほら。
 パチュリー×小悪魔、チルノ×大妖精、上海人形×蓬莱人形などがファンの間で期待されております。アリスさん? ボムで。
 それでは、次のニュースですが……。


――ナウマン象に乗ったアリス――


 アリスさんがナウマン象に乗って町を闊歩しておりましたが、おそらく上の記事により焦ってきた構ってちゃんなので放置します。象のパワーはレーザーを越えるわ! とか言ってました。


――文ちゃん、卵産むの?――


 幻想郷の出来事を記した本「三月精」により、鴉天狗は卵を産むことがわかりました。
 こうなると、当局とも懇意にさせていただいている鴉天狗の記者、射命丸文さんがどうなのか、俄然気になってきます。仕事帰りに自然な成り行きで「どうなん? 卵産むの?」と問いかけてやりました。
 射命丸記者は顔を真っ赤にして、セクハラです、訴えてやる、と繰り返しましたが、前述の通り百合的なセクハラは当局は大歓迎なので、妙にしおらしい射命丸記者をそのままスキマに詰め込んでねちっこく小一時間問い詰めたところ、誰に言ってるのか解りませんが「えっちって思う奴がえっち! 卵はえろくない!」と座り込んで泣き出してしまいました。
 私も年頃の少女に酷いことを言ってしまったとに気付き、一緒になって泣きました。
 それでもこうやってニュースにするあたり、私ってプロだなぁと思います。


 CMを挟みまして、いよいよ幻想郷最大の謎に迫ります。


〜CM開始〜


「紫と〜」
「藍の〜」
「隙間百貨店〜!」


BGM:ネクロファンタジア


「はい、いつもお世話になっております。お前、通販番組にこんな激しい曲あるか、と視聴者からありがたい言葉を今日もどっさり頂いているけど、そんな奴らにノーと言ってやるのが大好きだ! 隙間百貨店店長の八雲紫でーす」
「同じく店員の八雲藍です」
「今日は藍ちゃんから、とっておきの商品があるんだってね?」
「藍ちゃ――」
「あるんだってねー?」
「……紫様、多くは言いません。ご自分の年齢を考えてくださげはぁ!?」
「貴女は私が言った事だけ実行してればいいの」
「申し訳ございませんでした。今のラリアットはタイトルを取れると思います」
「それで何を作ったの?」
「はい、実はこの度、紫様が寝ている冬の時間を利用して、脳内分析器を発明致しました」
「へぇ、会話の真ん中に棘があった気もするけど、どんなのかしら?」
「こちらです、どうぞ!」
『商品No:198 八意式脳内分析器(有限会社八雲 特許出願中)』
「ヘルメットみたいね」
「ええ、これを被ってこのスイッチを押せば、こちら付属のモニターに脳の成分分析結果が出る仕組みです」
「良く分からないわ、実例はないの?」
「もちろん。被験者を何人か呼んでおりますので、スタジオで直接実験と参りましょう」


 エントリーNo1:メイド長 十六夜昨夜
「御機嫌よう、咲夜です」
「咲夜さんには早速ですが、こちらのヘルメットを被っていただけますか?」
「ええ、解りましたわ」
「では、スイッチオン!」
――成分分析開始――ピロピロピロ……チーン!


「妙な音だわね、藍」
「あまり音に拘ってる時間がなくて……ああ、結果が出ましたよ、こちらを御覧ください!」
「はいはい、どれかしら?」


 十六夜咲夜の脳内分析結果。
 レミリア様:100% 内訳(ちっこい:64% おふぁんつ:25% 八重歯:11%)


「瀟洒だ……!」
「瀟洒過ぎる……!」
「あら、良い数字がでましたわ」
「しかも、結果に満足してるというのか!?」
「全国放送なのに一片の照れもないっていうの!?」
「私はレミリア様のお世話がございますので、これで失礼致しますわ」
「くそぉ、何気にこの人頭にパンツ被ってた……!」
「瀟洒過ぎて逆に気がつけなかったわね。藍これじゃあ実験にならないわ?」
「残念ながら完敗です、今回はサンプルが適切じゃありませんでした、次に期待させてください」


 エントリーNo2:妖精族 大妖精
「初めまして〜、チルノちゃんから出て来いって言われて来ました。宜しくお願いしますー」
「動機なんて誰も聞いてないのに、わざわざ発言してくれるなんて、なんていい子」
「それだけ真面目な子なのです、今回は間違い無さそうでしょう?」
「まあね」
「それでは、こちらのヘルメットを」
「はーい」
「いきます! スイッチオン!」
――成分分析開始――ピロピロピロ……チーン!
 大妖精の脳内分析結果。
 チルノちゃん:100% 内訳(ときめき100%)


「一緒じゃねえか!!!」
「可愛い顔してチルノ一色! この女、役満テンパってやがった!」
「え!? わ、わ、こんな結果じゃないはずです、この機械おかしいですよ〜!」
「ここまで来てぶりっ子を止めない!」
「ある意味十六夜は潔かった!」
「潔かった!」
「あ、あの私の話も――」
「お帰り! あとで編集しといてあげるから! 妖精は湖にお帰り!」
「ふぅ……紫様、どうやら幻想郷は一筋縄ではいかないようですね」
「そうね、難しいわ。次は誰を呼んであるの?」
「チルノです」
「あかんわ、お前」


 エントリーNo9番:氷精 チルノ
「Noと番が重複してるけど?」
「番号が9なのに突っ込んでくださいよ、いいですけど別に」
「全国放送に出られるなんて、あたいって最強ね! その前にこら狐! あたいを解放しろ!」
「最強だってさ」
「一応、計ってみます?」
「何ごちゃごちゃ言ってるのさ、早く離しなよ!」
「はいはい」
「あーあ」
「なんだか態度がむかつくー! にゃに!? このヘルメットは一体!?」
――成分分析開始――ピロピロピロ……チーン!
 チルノの脳内分析結果。
 最強ね:34% 大ちゃんと遊ぶ:24% みんなと遊ぶ:21% 冬が待ち遠しい:21%


「ああっ!?」
「期待に反して馬鹿一色を回避!」
「遊んでばかりいる人で、ずっと馬鹿だと思ってた!」
「ごめんチルノ! 今まででお前が一番まともだ!」
「ごめんなさいチルノ! 今までで貴女が一番有意義な被験者よ!」
「な、なんなの? あたいの最強さが今頃分かった?」
「ああ……ああ……」
「泣かないで、藍……」
「ですが、紫様……この子は今までイメージ先行の不当な扱いを……」
「馬鹿ね、藍の発明で、彼女のイメージも払拭されるじゃないの……!」
「そう、そうですね。落ち込んでなんていられませんものね!」
「そうよ! それでこそ私の藍!」
「紫様!」
「藍!」
「紫様!!」
「藍〜!!」


 エントリーNo4:妖怪の式 八雲藍
「え? 私?」
「いやぁ、何だかふと思い立っちゃって、この機械を貴女でも試してみたいなぁって」
「ふっ……紫様、それは私の忠誠心を計るおつもりですか?」
「うん、まあそうね」
「笑止! この八雲藍、三千世界を統べる者は紫様において他はないと強く思っております故!」
「それは良く聞くんだけど、その気持ちを数値で表して御覧なさいよ」
「委細承知! いざ!」
――成分分析開始――ピロピロピロ……チーン!
 八雲藍の脳内分析結果。
 橙:82% 家事:9% その他:9% (その他内訳 油揚げ:7% 紫様:2%)


「……藍、放送事故になるから、ちょっと神社の裏においでなさい」
「紫様、お考え直しを。私達がここで抜け出しても確実に放送事故です。とりあえず日傘をギリギリ絞るのは止めてください、剣みたいになってます。私、実はこの装置は試作の段階から怪しいなぁって思ってたのですよ。あ、間違いありません、本当なら橙は90%を越えてます。そこじゃねえよとか仰らずに、ああ、尻尾を強く引っ張らないでください。私に死ねと言うのですか? 言うのですね。勘弁してください。すぐに作りなおしますので、大丈夫ですって、次はきっと上手くやって見せますから何卒私めに執行猶予をーっ!!」
*放送終了直後はスキマ回線が混戦する事もございますので、繋がらない場合はしばらく時間をおいてからのおかけ直しを宜しくお願い申し上げます:八雲紫。
〜CM終〜


 続いて、ニュースの時間です。


――神様は信じるかどうかじゃないわ、此処に私が立ってるから居るのよ――


 テロップが間延びしすぎて私の頬に食い込んでますが、どうかご理解ください。
 長い間、幻想郷の七不思議において、最も困難な謎と呼ばれていた私よりもよっぽど胡散臭い博麗神社の神様の謎。
 何を祭ってるのか、また祭っていないのか、だったら巫女って何だ? もう何でもいいじゃないの、そんな我々を苦しめた数々の疑問が今日を以って融解しそうなのです。
 現場に特班員の藍さんを派遣しています。
 藍さーん?
「…………」
 藍さ……これは! これは一体どういう事でしょうか!?
 神社の裏手で藍特班員がぼろぼろになって倒れております!
 彼女に何があったのでしょう!?
 幻想郷の禁忌に触れてしまった為、神による天罰が下ったのでしょうか!?
 む、待ってください。
 手元に小さく文字のようなものが見えますね……ダイイングメッセージでしょうか?
 これは重要な証拠になるかもしれませんよ!
 カメラさん、アップ! アップ! 
(紫)
 ……少々お時間頂けますでしょうか?
 ………。
 ……。
 …。
 はい、OKです。
(糸)
 糸、うーん、糸ですか。
 解りました、アリスに逮捕状を出しておきますね。
 難事件を解決した勢いで、博麗の謎にも迫りたいと思います。
 カメラさーん? あ、そうです、もう声出して結構ですよ、ええ、藍さんの代わりに特班員をお願いします。
「はい、こちら射命丸特班員です! カメラ役兼レポーターとして殉職した藍さんの分まで頑張りたいと思ってます!」
 あー、素晴らしい声、スキマの状態は良好ですね。
 それでは、射命丸さん、神社の前に回って、博麗霊夢とコンタクトを取ってください。
「合点!」
 あんまり古い返事をしてると、年齢がばれますよ射命丸さん。
 そんなにしょんぼりしないでください、そこまでショックを受ける場面じゃありません。
 どれだけ清純派のつもりなんですか、貴女は。
「神社の前に来ました、おや、あれは何でしょうか?」
 上手く話題を変えましたね、射命丸さん。
 妙にデコレートされた賽銭箱が見えます。いつもと全く趣が違いますが、これが博麗の神様の謎を解く鍵になるのでしょうか?
 あと、霊夢さん、呼び出しておいて、私達に姿を見せないとはどういう了見で……。
「ウェルカム! この素敵な神社にようこそ!」
 ようやく霊夢さんの登場――水着!?
 水着です、ピンクのシンプルなワンピースを着て登場です。
 この暑さに頭がイカレタ、と考えてそれが一番しっくり来る霊夢さんは恥ずかしいです。
「やっと来たわね、スキマ放送局! 貴社益々ご清栄のこととお慶び申し上げます!」
 挑発したいのか、仲良くしたいのか、どっちかはっきりしてください。
 射命丸さん、無視してインタビューを進めてください。
「待った! 私にインタビューする前に、じゃんけんで勝ってもらいましょうか!」
 じゃんけん?
 射命丸さん、じゃんけんは出来ます? やだ、一応訊いてみただけですよ、激しい憤慨を見せないでください。解ってますから。
 じゃあ、ちゃっちゃっとお願いしますね。
「駄目よ、インタビューの権利をかけてるんだから、あなた達にも代償が必要だわ」
 代償ですか。
 あ、良く見ると賽銭箱にじゃんけん一回百円と書かれてますね。
 やれやれ、馬鹿馬鹿しい。
 誰がお金まで払って巫女にインタビューしますか。
 実のところ神社の謎なんて幻想郷の十割がどうでもいいと思ってますから、この際、夏のぎりぎり水着ショーに番組の内容を変更してお届けしたいと思います。
 そのほうが視聴率取れますしー。
 さあ、カメラさん、ローアングルで迫って、ぐーっと。
「百円払って、私にじゃんけんで勝つとー!」
 それより、もっと舐めるように下から……! そうよ!
「インタビュー権利、プラス、着てるものを一枚脱ぐわ!」
 はいはい、一枚脱ぐのね。
 うーん、射命丸さん、悪いけど立替えといてください。
 何驚いてるんですか、やるに決まってるでしょう!
 神社の真実がかかってるんですよ? やらないという選択肢は初めから無いと思ってよ。
 違う、マッパ目当てじゃない! 知的好奇心だ!
 知的好奇心だ!(気に入った)
 とりあえず三百円出して。あ、お金の心配はいりません、後でちゃんと返しますからね。
「じゃーんけーん――」
 パーは無防備すぎるし、チョキは形が複雑だから、グーよ! 射命丸グーでいきなさい!
「ぽん!」
 ああ、パーか〜……。
 だからチョキを出しなさいと言ったのに。
 うるさい! 0.1秒で変化する気を感じ取れないで天狗を名乗るとは何事か!
「じゃーんけーん――」
 初回からいきなりパーを出すような相手は、勝ちに乗って続けて同じ手を出してくるわ! これ、スキマ流じゃんけん必勝法よ! チョキだ!
「ぽん!」
 だから何でグーなのよ! 貴女、人のお金を何だとと思っているの!?
 本気でチョキは難しくて出せないんじゃないんでしょうね!?
 え? どういうこと?
 今までのは布石で、次で仕留めるの? あ、解ったわよ、こっちはチョキを出さないと相手に思わせることが肝心なのね? 限定じゃんけんみたいで素敵よ射命丸!
「じゃーんけーん――」
 ふはは、巫女敗れたり! ゆけっ!
「ぽん!」
 ぐっは! ありえねー! 三回連続一発でじゃんけんに勝つなんて二十七分の一! おかしいわ、このじゃんけん、イカサマだわ! 射命丸、このイカサマを暴く為に次は千円投入するわよ!
 だから返すって、やだな、返しますってば、信用しなさいよ、私ってスキマ放送局の局長よ? 汚い話すると月幾ら貰ってると思ってるのよ?
 え……ああ、そうなの、貴女のお財布の中には三百円しか入ってなかったんだ。
 子供以下か、あんたは。
 今日び遠足のおやつでも五百円上限だってのに。


 しかし、最初から霊夢の行動は、我々を勝負へと誘ってるようにしか見えないわね。
 水着一枚で野球拳なんて、背水の陣もいいところだわ。
 どこかに仕掛けがあるのよ、んー。
 ほら、射命丸さん、貴女もよく考えて、でないとお金は戻ってこないわよ。
 泣かないで! やっぱりとか、こんな局もう辞めるとか言わないで! あなたの存在が幻想郷の真実を照らす光なのよ!
 ああ、いい顔になったわ文ちゃん。
 末永く宜しくね、今度チーフに取り立ててあげるから、日給は百十円になるわ。
 
 さぁ、霊夢のイカサマを暴いてやりましょう。
 霊夢の神がかり的な強さの秘密も、きっとそこにあるはずよ。
 ……神? 神がヒントに? うわ、射命丸さん、もう解っちゃったの?
 なに? なに? 霊夢にはじゃんけんの神様が降りている……あんた馬鹿ですか?
 チルノ呼びますか? 
「……!?!?」
 当たってるのかよ。
 物凄い汗掻いてるじゃないの。
 どちらかと言うと、イカサマがばれたことより、祭ってる神様のしょぼさがばれたことに焦りなさいよ。
 あ、いけない、逃げるわ! 射命丸さん、霊夢を追って!
 社から神社の裏に抜ける気だわ、裏口に回るわよ!
 裏には藍が倒れているけど……あれは解決済みの事件だから掘り起こさないでね? ね?
「く、くそっ、追いつかれたか!」
 さすが幻想郷最速の女、ホーミングと判定の少なさが売りの巫女なんて目じゃないわね!
 ああん、どうしてかしら、自分を責めてるような気分に。
「この女の命が惜しければ、そこをどきなさい!」
 しまった、落ち込んでる隙に、霊夢が藍を人質に取りやがったわ!
 しかも包丁まで持って、追い詰められた犯人が見せる火曜サスペンスED前の展開だわ!
 SEさん、汽笛を鳴らしてー!(雰囲気作り)
「さあ、どうするの? 私は本気よ!」
 あら、不安そうな顔しないでよ、文ちゃん。
 藍のことは考えなくていいから、貴女は霊夢を捕らえなさい。
 包丁一本くらいで藍がどうにかなりますかっての。
 それより霊夢を逃がす方が問題だわ。
 何を躊躇しているの! あの子なら木っ端微塵にでもしない限り復活するって!
「射命丸……もういいんじゃないの?」
 あれ? わ、何故か包丁が首から離れたわ! 今よ、射命丸さん! 霊夢に飛び掛って!
「紫さん、もうあなたの命令は聞けません」
 え? 何を言っているの?
 ちょ、ちょっと霊夢までぼんやりしないでよ、緊迫感が台無しよ。
 急にこの雰囲気はおかしいって。
 射命丸さん行って、チーフよ! これが終わればチーフに取り立ててあげるのよ!?
「哀れなスキマね」
「…………」
 どうして黙ってるの! 霊夢に言い返してやりなさい! 哀れなのは貴女の方だって!
 射命丸さん! いや、文ちゃん! 私と貴女の仲でしょう!? 
「そんな言葉が良く言えたものです……」
 ええ!?
「重なる卵セクハラ、返してくれないお金、日給百円という薄給、こんな酷い職場は見たこと無い。全く噂通りでしたよ!」
 そ、そんな、セクハラはただのお茶目じゃない、視聴率だって稼げるのよ? お金だってそのうち返そうと思ってたし、まだ、スポンサーが集まらないから薄給も仕方ないじゃないの! え? でも、噂通りって、どういうこと?
「私はスパイです、スキマ放送の被害者からのカンパで動いているスパイなのですよ!」
 な、なんだってぇ!? 計ったな射命丸!
「特に度重なる動物虐待は許せません! 朝ご飯のおしんこの長さも紫さんが5cmに対して、式の藍さんは2cmもなかったのです!」
 な、なんだってぇ! 計ったのか射命丸!?
「家庭内の精神的な暴力のみならず、仕事場でも藍さんは薄給で扱使われて、泣き言一つ言わず頑張ってました。それが紫さんの何でもない私情により、傘でぶたれて殉職です。可哀想に思わないのですか? しかも、自分の罪を無関係なアリスさんに擦り付けるとは、全くもって非道! 開いた口が塞がりませんよ!」
 ぐうの音も出ませんが、別に私の式だから、どう扱おうと私の勝手じゃないの。
 
 そ、そんな怖い顔しないで、でも、だとすると、じゃんけんの三連敗も二人が示し合わせていたから? あの霊夢が良く動いたわね?
「霊夢さんは五十円もあれば一日動きます」
 やっすいな、霊夢! 私の日給より酷いじゃないの! 霊夢にプライドはないんか! 
「式や天狗を薄給で働かせて、私情で切り捨てる、そんなスキマ放送のやり方が気に入らなかったのよ!」
 無理に正義面しないでよ、顔真っ赤じゃん!
 まあ、いいや、なんかやばそうだからスキマ閉じて一度スタジオに戻しましょう。
 安全第一よね。
「一つ、人のスカート捲り!」
 え?
「二つ、不埒なセクハラ三昧!」
 何? 霊夢さん決め台詞中?
「三つ醜い、スキマの穴を! 塞いでくれよう! お払い棒!」
――ガコン
「これでスキマを塞ぐ事は出来ないわ。この向こうよね紫? 今から二人でそっちに行くわ」
 ちょっ、馬鹿、マジで閉まらないわよ、これ。
 や、やばいわ、幾ら私が最強でも、あの二人相手にガチンコバトルは勘弁だわ。
 藍! 起きなさ――い、いや、起こしたところで、二対一が三対一になるだけっぽいな。
 そうだ、橙はどうしてたかしら? あ、雑魚ボス連合に遊びに行ってるんだった。
 
 くぅ、私としたことが、八方塞じゃないの!
「全殺し〜!」
「全殺し! 全殺し!」
 無茶苦茶敵の士気が高いわよ。ヒポポ族が狩りの時見せる顔よ。
 このままじゃ本当に殺されちゃうわ。
 や、奴らがスキマを潜る順番で揉めているうちに何処かに隠れましょう、そうだ、別のスキマの中に。
「ま、待て……!」
 誰、何の声? 霊夢達の動きが止まったわ! ラッキー! 今のうちに!
「紫様の所へ行くならば、私を倒してからにしろ……」
 ら、藍!? 嘘っ!?
「ぼろぼろじゃないの、あんた。そんなぼろぼろにした張本人の肩を持つの?」
「ああ」
「心配しなくてもいいですよ? 全殺しと言ったけど、半殺しにしたら帰りますから」
「関係ない、私は式だ。主の敵と言われて、おいそれと通すわけにはいかない」
 藍……貴女……。
「あんただって知ってるでしょう? 紫はともかく、スキマ放送局は一度潰さないといけない。ニュース番組なのに視聴率狙いで殆どバラエティになってるもの」
「知っている。だけど通さない」
「今後どんどんエスカレートするかも知れませんよ?」
「そうならないように、私がいる」
 どうしたのよ藍? 二人とも呆れているわ。
 そこまで私に義理立てすることないわよ、こ、こんなの私の暇潰しに……始めた……。
「仕方ない、紫はあんたを倒してからにするか」
「そうですね、残念ですよ。藍さんは心の根まで悪のスキマ軍団に染まっていたのですね」
「確かに悪かもしれない。紫様は粗雑で横暴で気まぐれで寝ぼすけだ。だけどスキマ放送を愛してる気持ちは、君たちが愛している神社や新聞のそれと何ら変わりない!」
 ば、馬鹿! 相手を挑発してどうするのよ! 同じにするなって明らかな嫌悪を見せているわ! 藍! 藍! 逃げて! どうして逃げないの!? 逃げてよ!
「藍ッ!!」
 あ。
「……ゆ、紫様?」
 これは、神社の土か……スリッパで来ちゃった。
 風鈴の音がするわ。ちょっと来なかっただけで、ずいぶん懐かしく感じる。
「藍、あなたの気持ちは良く分かった」
「紫様、お戻りください。放送はまだ続いております」
「いいのよ、放送なんて、全部私が悪かった。責任は取るわ、だから藍を虐めないで頂戴」
「……」
「……」
「スキマ放送局は本日をもって解散します、迷惑をかけた幻想郷の皆にも謝って回りますわ」
「紫様! それはなりません!」
「藍、もうここらで潮時でしょう?」
「数字が欲しくてちょっとセクハラに偏っただけです! スキマ放送はまだこれからじゃないですか! 他にやれる事はいっぱいあります! 待ってる人だって大勢いるのですよ!?」
「あらあら、視聴者の声なんて全然届かないのに……」
「初めて放送が成功した時を思い出してください! 殆ど反響なかったけど凄い喜んでたじゃないですか! 初めてのスポンサーなんて現品支給だったけど、みんなで食べる焼鰻の味は格別に美味しいわって笑ってたじゃないですか!?」
「無理言わないで。永遠亭がスポンサーを降りてから、こっちは赤字続きなのよ」
「き、規模を小さくして、路線を変えていけば……」
「スポンサーなかったら、経費だけで真っ赤になるじゃないの。苦肉の策の藍の発明品CM入れてなきゃ、もうとっくに不渡り出してるわ。視聴率が番組の全てなのよ、知ってるでしょう?」
「……」
「……ねえ、霊夢さん?」
「え?」
「なんか、今の話、私ちょっとだけ共感しちゃいました、私の新聞も真っ赤なことが多いから」
「……そう。私の神社も赤続きね。毎月赤が並ぶと辛いわよねー、先が見えなくてさ」
「まあ、私達は一人でやってる分、まだ気楽なんですけどね。紫さんは家族を抱えてたから焦りがあったんでしょう」
 意味わかんない、涙が出てきた。
「紫さん、止めるのも続けるのも自由ですが、けじめはあります。この放送だけは戻って最後までやるべきだと私は思いますよ?」
「紫、止めるなら止めるで、最終回らしいことをやって来なさい。それまで喧嘩は預かっとくわ」
「紫様、戻りましょう? 視聴者が待ってます」
「……」
「紫様?」


 …………。


 えー、失礼致しました。
 突然のアクシデントにより席を外したことを、心よりお詫び申し上げます。


 巫女と天狗との話し合いの結果、当局員、八雲藍は無事解放され、私も生還することが出来ました。巫女と天狗の配慮に感謝します。
 博麗神社の謎は、残念ながら解明には至りませんでしたが、代々巫女が守ってるのだから、さぞ立派な神様を祭ってるのだと思われます。ご利益が期待できそうなので、正月にはお参りをして、お賽銭を奮発するのも良いかもしれません。
 今後、神社の神様については、射命丸記者が独自の調査をして新聞で取り上げるとのことです。「文々。新聞」に注目が集まりますね。


 最後になりましたが、重大なお知らせがあります。
 八雲紫のスキマニュースは、本日をもって解散することが決まりました。
 長い間、皆様から格別のご愛顧を頂き、局員全員、有難うの気持ちで胸が張り裂けそうです。
 お世話になりました。本当に有難うございました。


 来週からのこの時間は、八雲紫のスキマニュース+をお送りいたします。
 今後とも皆様のご期待にお応えできるよう、八雲一家+αは一意専心努める決意でございます。
 皆様、良い週末を!


*この番組は、赤提灯の下にスマイルを「屋台のミスチー」の提供でお送り致しました。

 

 

 

 



→ 夜営抄 〜 Camping Night 〜

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発行:2006年9月24日
公開:2009年3月15日 はむすた

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