「ふうっ、ちゅる、は、あ、ふぅぅん・・・」
室内に闇が満ちると男の愛撫は激しさを増した。
口腔を蹂躙しつつ、ささやかな膨らみとその頂点を撫でさすり、余りの手では秘裂をまさぐる。
最初は緩やかで、徐々に強く、深く。
女の身体から硬さがとれ、しっとりとした潤いを薄布越しに感じる。
「ふ、もう濡れてきているぞ。」
「いや、そのようなこと、仰らないで…」
「こちらはどうかな?」
言いつつ、胸に手をあて、優しく揉み解す。
薄い乳房は両の手にすっぽりと収まってしまうが、その分感じやすいようである。
つんと尖った乳首をちろちろと舌先で転がす。
「ああ、そんなに胸ばかり、苛めないでください…」
「こんな可憐なものを見せられて、放っておく男などいるはずがあるまい?」
ひとしきり舐め回した後、痕が残るほどに強く吸い上げる。
「んんっ、だめっ」
身体を無理に捩り、劉備に背を向けてしまう。
「…やれやれ、仕方ないな。」
そのまま背に身を寄せ腕を絡み付ける。
濡れた肌衣を剥ぎ取り、指を挿し入れる。
耳たぶを齧り、蕾を摘み、菊座をほじる。
「はあぁ、んっ、げんと、くさまぁ、つよすぎますっ…」
劉備の愛撫から逃れようとして身をくねらせるが、かえって自ら甘い刺激を与えてしまう。
「そう、嫌がることはない。
私は、あなたに心地良くなって貰いたいだけなのだから。」
耳元で男が囁く。もっと淫らになれと。
でも――
男の手は止まらない。
嬌声が漏れるのを必死にこらえ、夫に訴える。
「もう、わたくし、十分ですから…、はぁっ、玄徳様と、ひとつにっ…」
いつもは達するのは劉備を受け入れたときだけだった。
愛撫だけで昇ってしまうと感じたときは何かとはぐらかして避けていたのだ。
しかし今は自由を奪われ、如何に身をよじり、急所を避けようとしても逃れることができない。
それどころか、身体は一方的に弄られることに悦びを見出しはじめているようだ。
麋の肢体は荒波にもまれる小船のようにのたうつばかりである。
自身の昂ぶりを抑えきれないと自覚すると、麋は怯えた。
一人だけで勝手に、しかも男と一つになりさえせず快楽を貪るなど、
自分の淫らさを証立てするようなものではないか。
そのようなことは許せない。
そのような薄汚い女など男は愛してくれはしない。
劉備の優しさを失いたくなど無い。
「――っはぁ、玄徳様、おやめください…っ…」
麋が掠れた声で哀願する。
「…なぜ止める必要がある?」
彼女の胸から唇が離れ、違う男の声が響く。
「なぜ、っ、て…?」
「俺はお前の乱れる様が見たい。俺の手ですべてを忘れて悶える様が。
お前こそなぜ俺をそうまで拒むのだ?」
そして男は麋の腰を持ち上げ、薄い茂みに顔を沈める。
まるで海老のように少女の体を丸め、両手で胸を鷲掴む。
「だめっ、ですっ、げんとくさま、ほんとうに、いたいのっ…」
麋の瞳に泪が滲む。
劉備は構わず揉みしだき、彼女の中を舌で掻き回す。
やがて後ろの窄まりにも舌を這わしてゆく。
「だめです、そこっ、だけはっ、そのような不浄なとこ、ろに、唇、などっ」
だが、劉備はそこと花弁を代わる代わる攻め続け、快楽は弥が上にも高まってゆく。
「いやっ、いやっ、いやぁぁぁあっ」
そして、果てた。
朦朧とした娘の脳裏に去来するのは疑問ばかりである。
私は何かいけないことをしたのだろうか。
どうして玄徳様は怒っているのか。
これは何かの罰なのだろうか。
いや、そもそもこの人は本当にあの優しい夫なのだろうか――
「ふん…」
呆ける身体を一瞥し、口元に残る蜜を拭う。
と、劉備は己のいきり立ったものを一息に押し入れた。
「はぁうっ――げんと、く、さまっ?」
自分の最も深いところを突かれて、麋は世界に引き戻される。
身体の上に黒い影がのしかかっている。
「はあっ、んんっ、すこ、し、やすま、せてっ」
「俺はまだ達しておらん――続けるぞ」
「そんな、ぁっ、ひどっ、い、わたくし、はぁっ、かんじすぎて――」
「好きなだけ感じるが良い――そして俺の全てを刻み込め」
狂ったように叩きつける。男の欲望が、娘の女たる部分を、抉り、掻き回し、貫く。
突き上げられるほどに、昂ぶった身体は淡い絶頂を繰り返す。
「はぁっ、だめっ、だめっ、だめぇぇっ」
蜜が絶え間なくはぜる。乾き、濡れた淫靡な雅楽が奏でられる。
生贄の透き通った肌には幾筋もの爪跡が走り、龍の顎に捕らえられたかのようである。
平生なら少なからず苦痛を伴うはずのそれらが、彼女を再び天空へと昇らせる。
「くぅぅっ、はぁぁ、いや、こんなっ、の、いや、こんなのっ――」
欲しくない。
私ではない。
夫婦ではない。
恋人でもない。
愛などではある筈が無い。
「はあああぁぁっっん!」
虚空に精が迸る。
刹那、少女は雷に打たれたようにのけぞり、一際大きく波打つと、白い海の中に崩れ落ちた。
雲が流れたのか、皎皎たる肌体が闇に浮かぶ。白い襦袢はしどけなく剥がれ落ち、
微かに震える薄い膨らみや、淡く煌く渓谷が余すところ無く露わである。
「……まるで天から嫦娥が降りてきたようだな。」
いつもと何も変わらぬ夫の声が目前の闇から響く。
―――この人は狡い。
私はもう何もかも暴かれてしまったというのに、
この人は、如何なる真実も私に与えてくれてはいなかったのだ。
不意に雫が落ちた。
嗚咽を抑えることができない。
何の価値も私自身には無かったのだ。
すべて偽りであったのだ。
「あーっ、びーちゃん泣かしてるぅ。」
あまりに場違いな、間延びした声が響いた。
「甘お姉さ、ま…?どうして…ここ、に…?」
霞んだ視界の中に燭台を手にした麋の良く見知った女性がいる。
「……俺が呼んだのだ。」
意外なところから返答があった。
「え……?」
思わず振り返ると、寝台の隅に男の背中がある。どこか落ち着かず、居心地の悪い様子である。
「駄目じゃないげんちゃん、女の子には優しくしなきゃあ。
それに私が来るまで何もしないはずだったでしょう?」
「む…、お前が来るのが遅いのだ…出来るだけ早く来いと言っただろう。そうすれば俺も――」
劉備の言葉に構わず、
「びーちゃん、大丈夫?…あー、もうひどいなあ。手首なんか擦り切れてるじゃない。」
甘は麋の戒めを解きながら溜息をつく。
「……どうでもいいけど、げんちゃん口調が素に戻ってるよぉ。」
「……ぐ。」
「てことは、我慢し切れなかったのね……ケダモノ。」
「だ、誰が…!」
薄布で汗や白濁を拭いつつ、
「ごめんねー、びーちゃん。しょーもない男で。」
「あの、お姉さま…?」
麋には何が起きているのか分からない。泪はいつの間にか止まっていた。
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