「んーとね、げんちゃんに相談されたのよ。
  びーちゃんがいまひとつ心を開いてくれない、どうしたらいいのか、って。
  だから私が――」
 「…私は寝るぞ。起こすな。」
劉備が寝台に身を任せた次の瞬間には、床に転げていた。
 「げんちゃん、一生起きれなくてもいいように手伝ってあげよっか。」
小物くさい舌打ち。
 「――だから私が、一肌脱いであげることにしたのよ。」
 「…はぁ。」
いま一つ分からない。今の話がさっきまでの行為とどう関係があるのか。
そもそも私が玄徳様に心を開いていないなどとは、どうして――
 「あのね、びーちゃんにはちょっと話したくないことだと思うんだけどね、
  げんちゃんが色々いやらしいことしてる時に、目を瞑ったり、顔を背けたり、
  手で押し退けようとしたりするでしょ。……なんで?」
 「そ、そんなこと……」
 「……そのせいで、げんちゃん、不安になっちゃったみたいなの。
  びーちゃんは、本当はお兄さんを立てているだけなんじゃないか、とか、
  他に好きな人がいたのに無理して嫁いできたんじゃないか、とか。」
 「………」

あるはずがない。
ずっと屋敷の中で育って、多くの者に傅かれてはいたが、
自分は‘主人の家の御令嬢’でしかなく、心を通わすような存在はいなかった。
いずれ誰とも知れぬ豪族か商家にでも嫁ぐのだと諦めて、
せめて良い妻となるようにと身だしなみを整え、恥をかかぬ程度に教養を身につけた。
それらはあまりに当たり前のことだった。自分の心に自由などは無かった。
劉備の妻となって、初めて心に安らぎが生まれ、
寄り添うことに喜びを感じるようになったというのに――


「 ……げんちゃんはね、本当にびーちゃんのことが好きなのよ。
  でも、びーちゃんのことをあんまり知らないから、かえって不安になるの。
  ――だから、びーちゃんの言葉で伝えてあげて。」
劉備の様子を窺うと、所在無く顎鬚をもてあそびながら月を見上げている。
 「……玄徳様。」
静かに男が振り返る。いつもの穏やかな眼差しは翳りを帯びていた。
 「…麋よ、……済まなかった……」
 「お顔をお上げください、玄徳様。
  私は、あなたをお慕いしています。
  ……その、秘め事の、最中でのことは、まるで、他意は、無いのです。
  ………ただ、本当に、恥ずかしくて――
  淫らな、私では、お傍にいられなくなる、と、思っ、て・・・…っ、きゃあっ」
消え入るような告白は唐突に遮られた。
 「もーう、びーちゃん可愛過ぎぃ。こんなの私でも狼になっちゃうよぅ。」
甘が背中に抱きついたのだ。
 「か、甘お姉様っ!?」
 「でも、びーちゃんは勘違いしてるよ。
  好きな人を気持ちよくするのって幸せなことなんだよ?
  びーちゃんだって、げんちゃんが気持ち良くなるのを見るのは幸せでしょ?
  逆に、気持ち良くしようとして拒まれたら悲しくなるでしょ?
  げんちゃんも同じなの。」
 「・・・・・・あ。」
そうか。
 「だから気持ち良くなっていいの。それで、お返しに相手ももっと気持ちよくしてあげるの。
  ・・・それって、凄く幸せなことだと思わない?」
 「・・・・・・はい。」 



 「よしよし。それじゃあ、げんちゃん?」
 「・・・・・・ああ、分かっている。
  ――しかし、お前の言い様では、私は、我慢の足らぬ孺子のようだな・・・」
 「あら、そのまんまじゃない。」
 「・・・お前はもう少し夫の面子というものを・・・」
 「今更そんなのあるわけないでしょお?」
 「・・・・・・・・・・ふぅ。麋よ、今一度・・・」
 「・・・はい。でも・・・」
甘を見遣ると、
 「ああ、気にしないでねぇ。私、びーちゃんのことも大好きだもの。
  二人にもっと仲良くしてもらうために来たんだし。それに――」
どこか邪な物を感じさせる笑みを浮かべる。
 「・・・?」
怪訝に思いながらも、夫に近づき、ふと眼差しを下げると、それは頭をもたげている。
恥ずかしさのあまり、顔を背けてしまうが、
胸が高鳴り、女の部分がじんわりと潤いを増す。
男の腕が華奢な肢体を絡めとる。しかし、
 「この度はわたくしが・・・」
言いつつ、縋り付く様に男の首に腕を絡ませ、片手で男を秘所にあてがい、中に導いてゆく。
女と男が擦れあうほどに、屹立は太さと硬さを増してゆく。
 「は、あ、あぁ、んんっ・・・」
男が満ちてゆく。それだけで麋は泪が溢れんばかりの悦びに打ち震える。
一つとなったとき、漸く自分は妻になれたのだと感じた。

 「はぁっ、ん、くはっ、ん、げんとく、さま、きもち、よろしい、ですか・・・?」
 「ああ、勿論だ・・・」
麋が腕の中にいる。
控えめに足を絡ませ、拙い腰使いではあるが、
できるだけ深く男を迎え入れようとしているのだろう。
今までこの娘は、自ら求めたことは無かった。
いや、それは今でも変わらないに違いない――
ただ俺のために、俺の欲望を満たすことこそを喜びとして、尽くしてくれているのだ。
そう考えると、止まらない。
 「ふぅぅん!?・・・はぁ、ん、はぁ・・・、ん、ちゅ、じゅる、ん・・・」
強引に唇を奪い、舌を絡め、唾液を送り、突き上げる。
麋もそれに応えるように、激しく、時にうねるように動かす。

ああ、凄い。
玄徳様が私をこんなにも求めてくれるなんて。
こんなにも悦びで満たされることがあるなんて。

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