(…疲れたな)
夏候覇は、ベットの中で天井を見上げながら思う。
じっとりと、汗が背中に張り付く。
もうすぐ夏が終わるというのに、今年の暑さはひく気配がない。
隣りでは、姜維がすやすやと微かな寝息を立てている。
そんな二人を、満月の光が照していた。
蜀に来てからというもの、
夏候覇は、姜維の補佐として、忙しい毎日を送っている。
しかし、ずば抜けた才能こそないが、
なんでもソツなくこなす器用さが災いし、
最近では、様々な役目を押しつけられる。
ストレスの溜まる夏候覇は、
夜には、昼間こき使われるお礼とばかりに姜維を苛めるのだが、
しかし、それとて体力を使うのだ。
思わず溜め息をつく。
「…眠れないのか?」突然、眠っているとばかり思っていた
姜維に声をかけられ夏候覇は驚く。
「貴女こそ…眠れないのですか?」
「いいや」
姜維は首を振る。
差し込む月明かりは、姜維の白い手足や、大きな瞳、
揺れるふわふわした髪を照
らす。
綺麗だな。
夏候覇は素直にそう思った。
「夢を見ていたんだ。…貴方と、初めて会った時の」
その言葉を聞き、夏候覇も、
姜維と会ったばかりのことを思い出す。
初めて会った時も、こんな満月だった。
(もう、だめかもしれない…)
夏候覇は、朦朧とした意識のなかで思った。
もう蜀の領内だから大丈夫だろう、と油断していたら、
意外にも、そこに待ち伏せていた追っ手の攻撃を、
まともにくらってしまったのだ。
夏候覇は、かなりの深手を負っていた。
(この地図によると、姜維殿とやらの屋敷は近いはず…)
支援者からもらった手紙には、城は警備が厳しいから、
初めに姜維の自宅に行き、姜維を通して劉禅に
接触するように指示されている。
だが、一向にそれらしき屋敷は見つからない。
ますます遠のいていく意識の中、
しばらくその辺りをさまよっていた夏候覇だったが、
ようやくそれらしき大きな邸宅を見つけた。(天の恵か…)
その時、こちらに向かって大勢の足音が向かって来るのが聞こえた。
追っ手か?
門番を通していては、時間がかかって見つかるかもしれない。
夏候覇は、最後の力をふり絞ると、邸宅の塀を乗り越えた。
ガタン…
僅かな物音に、姜維は書き物をしていた手を止め、
息を殺してそっと剣を手にとる。
姜維の寝室は、庭に面している。
そして、物音はその庭の方からした。
賊だろうか。
「…誰だ!」
姜維は、思い切り庭に面した引き戸を引いた。
「あっ…やんっ!」
しかし、予期せぬことに、戸を開けた瞬間、
そこにもたれかかっていた男が、姜維に覆いかぶさるようにして
倒れてきた。
「な…なんだお前!」
姜維が驚くのも無理はない。
何せ相手は黒ずくめの上、変な蝶の形をした仮面までかぶっている。
(やだ…変質者!?)
しかし、そんな考えは、すぐに吹っ飛んだ。
相手が大量に出血している事に気付いたからだ。
(と…取りあえず、手当てを…)
このままの姿勢ではキツい。
姜維は、背中に背負い、引きずって運ぼうと思った。
その時
「う…」
「…!気がつい…」
むにゅ
なんと、偶然にも、夏候覇は姜維のおっぱいを掴んだのだ。
>>