両軍が突撃して間もなく、ケ艾軍の圧倒的な戦力の前に、
諸葛瞻軍は後退を余儀なくされた。

ケ艾「篭城戦か・・・くくく・・・望む所だな」
ケ艾軍の猛追で前線の諸葛瞻軍は壊滅し、城内に戻った兵力は僅かとなった。
諸葛瞻は秘書の形見のスカーフをリボンとして髪を結った。

間もなくケ艾軍の軍勢が城門を破り城内になだれこんで来た。
各持ち場を守る家来達の奮闘も虚しく、次々と突破され、ついに諸葛瞻軍は諸葛瞻と本体の側近達10人程になった。

「諸葛瞻様、貴女はここで死ぬには若すぎる。父上殿も兄上殿もそれを望んでいないでしょう」

諸葛瞻は剣を握りしめ、そこから逃げようとはしなかった。

ケ艾の部隊がついに諸葛瞻のいる天守閣まで到着し、ケ艾が現れた。
間近で見るケ艾は諸葛瞻が見上げるほどの大男で、周りの男達も同様であった。
「さぁ・・もう後がないぞ?諸葛瞻思遠姫。この猛者達に敵うと思ってはいないだろう?」
ケ艾はニヤリと薄笑いを浮かべ、ゆっくりと諸葛瞻の方で歩を進めた。

とっさに諸葛瞻の前を家来達がはばかり、構えた。
「諸葛瞻様には指一本触れさせん!」

ケ艾は歩を止め、呟いた。
「指一本で済む訳がなかろうに・・・」
そして再び歩を進めるケ艾達に、諸葛瞻の家来は一斉に飛びかかった。

諸葛瞻は極限の恐怖によってへたれこみ、その場に腰をついて目を閉じた。

そして大量の血しぶきが上がり、遂に残りは諸葛瞻一人になった。


諸葛瞻は右手に持った剣を構え目を開けた。
そしてケ艾を見上げ睨みつけた。

「女郎でよくここまで頑張った。さぁ剣を下ろせ、諸葛瞻よ」
ケ艾は血の滴る大剣を引きずり諸葛瞻に近付いた。

諸葛瞻は右手に持った刃の欠けた剣を胴前で構え、後ずさりした。
そして壁際に追い詰められた諸葛瞻にケ艾は歩み寄った。

「寄るな・・・!」
諸葛瞻は恐怖を噛み殺して声をあげたが、その声は震えていた。

ケ艾はそのまま歩を進め諸葛瞻の前に立ちはだかった。
諸葛瞻は剣先をケ艾に向けたままケ艾を睨んだ。
しかしその目には大粒の涙が溢れ、こぼれた涙は頬を伝って床に落ちていた。

ケ艾は太刀の血を布で拭い、ふいに太刀を一振りした。
「ぁっ・・・」
ガキンという尖った音と共に諸葛瞻の剣は弾き飛ばされてしまった。

諸葛瞻は覚悟を決めた。
(もうだめだ、ここで死ぬんだ・・・おにいちゃん・・・)
諸葛瞻はケ艾の顔から目を逸らした。

その時だった。
諸葛瞻の身体に大柄の男が覆い被さってきた。

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