諸葛瞻は、疲労で軋む体に鞭を打ち立ち上がり、剣を手にとった。
綿竹城の家来達は諸葛瞻が自刃するものと思い、慌てて駆け寄った。
「諸葛瞻様!我々も最後まで戦います故、御考え直しを!」
諸葛瞻は家来達をなだめてゆっくりと立ち上がった。
「自刃などしません。ケ艾軍に一矢報いるまで僕も皆と共に戦います」
家来達はほっとした表情を浮かべ、刹那、戦に向かう漢の顔に変わった。
「諸葛瞻様は我々が守ります。もし、綿竹が陥落するような事があれば・・
その時は諸葛瞻様はお逃げ下さい。あなたは戦で死すべき人間ではございません」
「何かを守って戦場で死ぬのは男の役目です」
そう言うと、家来達は戦場に向かっていった。

「(私が女であることを)知っていたのですか?」
「いいえ、やはり姫君でしたか。御容姿や御声でそうでは無いかと思っておりました。
 ケ艾は貴女を狙っているとの噂も御座います。
 捕らえられるよりは・・あるいは・・」
「察しの通り実は僕は女です。でも今日はあなた達と最後まで戦います!」
家来は大きく頷き、槍を構えた。

「父さん、僕も戦ってみせます!」

「孔明殿、思遠様は御立派に成長されましたぞ」
かくして綿竹の城門は開門し、開戦した。


綿竹城を包囲するケ艾軍の軍勢は諸葛瞻が戦った緒戦とは比べ物にならなかった。
約10倍の兵数に、体格も大きな者達ばかりで編成されたその軍は、まさに大国家魏の勢いを象徴していた。
ケ艾は鬨を上げた。
「諸葛瞻!その首貰いに来たぞ!負け戦で恥を晒したくなければ降伏せよ!」

諸葛瞻は城門まで駆け付け、ケ艾に答えた。
「うるさい!お前に降伏する位ならとっくに自刃しているわ!」

ケ艾は高笑いをし、側近の大男達に何か耳打ちをした。
するとケ艾軍の士気は一気に高まり、おたけびがあがった。

そして両軍は一斉に馬を走らせた。

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