決戦前夜、三国志戦上最も若い諸葛瞻部隊が集まった。
諸葛瞻の本隊には秘書も加わり、片時も諸葛瞻の側を離れなかった。

諸葛瞻は父の形見の木像に祈り、勝利を願った。

ーそして決戦当日ー
広原に陣を取る諸葛瞻軍とケ艾軍は両極に対峙した。
諸葛瞻は、意外にも寡兵で駆け付けたケ艾軍と、大将のケ艾が自分より1回りも2回りも大きいことに驚いた。
そしてふいに、ケ艾が鬨(とき=大声)をあげた。
「よおよお!諸葛瞻様よお!あの手紙は読んだんだろう!?
俺はちゃんと通告したんだからなぁ、覚悟しておけよ!??」

諸葛瞻はケ艾の余裕に嫌な予感が走り、恐怖に苛まれた。
手綱を握る小さな手はふるふる震え、目には涙が浮かんだ。
諸葛瞻の心痛を察した秘書は傍らから手を伸ばし、そっと諸葛瞻の手を握った。
「行きましょう」

決戦の幕が切って下ろされ、両軍は一斉に走り出した。
秘書は後方の力持ちの男に合図をすると、その男は諸葛亮の木像を持ってきた。
「それは・・・」諸葛瞻は驚いた顔で振り返った。
「あなた(貴女)の父上も見守っていますよ、存分に戦いましょう」
秘書は諸葛瞻の手の震えが収まったのを見届け、諸葛瞻の手から手を離し、
馬を走らせた。
諸葛瞻も続き、それに木像持ちの男も続いた。

戦は十数時間にも及び、若くスタミナのある諸葛瞻軍がやや優勢と見られた。


木像は丁重に本陣に隠されていたが、戦で徐々に兵力が削られていくのを見た諸葛瞻の秘書は決定打として木像を使う事にした。
木像を持って高台に上り、諸葛亮の声真似をした。
「諸葛亮部隊、援軍に参ったぞ!」

ケ艾軍は遠方で諸葛亮(木像)の姿を確認すると一斉に退却していった。
こうして緒戦は諸葛瞻軍の勝利で終わった。

城に戻った諸葛瞻は、秘書に礼を言い、傷の手当を受けた。
小さな体で奮闘した為腕はほとんど上がらない状態まで疲労していた。
「こんな細腕でよく頑張られましたね、私は貴女に仕えて本当に幸せです」
秘書の言葉に諸葛瞻は嬉しそうに微笑んだ。

その時だった。

城中に敵襲の知らせが入った。
驚いた諸葛瞻の手当を終え、秘書は矛を手にとり立ち上がった。
「行かないで・・!」
諸葛瞻は疲れと痛みからすぐには立ち上がれず、叫んだ。
秘書は諸葛瞻の元に駆けより、自分の首に巻いていた桃色のスカーフを諸葛瞻の首に巻いた。
「ここでお別れです」
秘書はそう言うと、敵が割拠する城門の方へ走っていった。


諸葛瞻は本隊の者達に担がれ、なんとか退却に成功した。
そして綿竹城に行き着いた諸葛瞻は、秘書の戦死を耳にし、スカーフを握りしめ泣いた。
同時に、城への敵襲はケ艾軍であることも知らされた。

数日後、綿竹城に敵襲の知らせが鳴り響いた。

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