戦の熱にあてられて、どうかしていたんだと思う。


傷の手当てから戦場に戻ると、荀攸殿が城門の近くでたき火をしながらぼんやりとしていた。
ぼんやりしすぎなのかハの字眉の眉尻がいつもより下がっているようにみえる。
あんなに困ったような顔が似合う人もめずらしいなー、とか思いながら声をかけた。

「おっはよ〜ございます!」
「あっ。いやはや、元気ですなあ。文姫殿」
「えへへ、休んできたばかりですから!」

と、言ってみたものの本当は足の不調だけはどうにもなっていない。
理由は明白“踊りすぎ”。
軍に速さが必要とする戦が続いた。
曹操様が軍を速くするために選んだのが、私の飛天の舞だった。
連日舞い続けて、いつからか足から鈍痛がぬけなくなっていた。

私もたき火にあたろうと、火に近づこうとした。
たった数歩。
その数歩で、私は何もない所でつまづいて、あやうく火に飛び込むところだった。
荀攸殿がとっさに腕をのばしていて、私は後ろに引き戻された。 

「大丈夫ですか文姫殿。辛いようなら城に戻りましょうか?」
「え?でもみんな戦ってますよ……」
(そういえば、荀攸殿はなんでこんなところにいるんだろう……)

私は舞姫。荀攸殿は軍師。
戦はまだ続いていて、自分達も戦闘集団の一員だ。
最前線は無理にしても、後方には控えているべき人間なのに。

「無理をしては足がいかれますよ。
 ……まぁ、それに現在の戦況なら私たちは何もしなくても大丈夫でしょうなあ」

目をこらして前線地を見つめる。
敵軍の旗は次々と倒れ、その度に鬨の声と自軍の旗が高らかにあがる。
ドォォォンと城を攻める音が聞こえる気もする。
確かに荀攸殿の言うとおり、非力な自分達が何もしなくとも勝ってしまいそうだ。

「それに、足が辛いのなら尚更休むべきですよ。按摩くらいならできますぞ」
(荀攸殿……サボりたいのかな?)

足のことを理由に、休むことを勧められると断りきれない。
というか、足を揉みほぐされると楽になるので、すごく揉まれたい。
うーっと考えていたのはここまで。
もみ療治と甘いものの誘惑には勝てない。

「そ、ですね。じゃ、按摩してください!」
「承知しました」
そうして、私はは荀攸殿に促されて城に戻った。

荀攸殿を男性として見ていなかった、私が甘かったのかもしれない。

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