72時間後……
nupanさん 作
序章
真夜中の裏山。森林の爽やかな冷たい風が頬をなでる。
気温は氷点下よりギリギリ上という所だろうか。今日は、今年一番の冷え込みらしい。
手足の先が赤くなっているだろう。防寒着を羽織っているが、冷たい風が体を刺すように吹き抜ける。
その裏山に警官が二人、落ち葉で滑りやすい山道を慎重に、探るようにゆっくりと歩いている。
彼らの捜索はすぐに終わるはずだった。が、始めてもう二時間は経っているだろう。
不審者。そういう者は何時、何をするか分からない。もしかしたら、殴ってくるかもしれない。ナイフで刺してくるかもしれない。
だが、そんな危機感は微塵も感じていなかった。その時は……。
その時、偶然なのか、懐中電灯の光は何者かを差した。「誰だ!?」と警官の一人は光が映し出す影に問う。
何者かはとっさに駆け出した。踏まれる落ち葉の渇いた音がすぐに遠くなってゆく。警官の二人は頷き合い、何者かを追い始めた。
「待て!」と言うが、止まってくれることは無い。何者かは息を切らせながらも、逃げているようだ。
だが、体力とスピードは警官たちが上だった。何も見えないが、渇いた音が少しずつ近くなる。よし、もうすぐだ。
何者かは気配を感じたのか。全速力で駆け出したが、駄目だった。振り返ると警官がすぐそこにいる。
何者かは若い男だった。背丈は高いが、体付きはひょろっと細く、筋肉も殆ど無いようだった。
その男は鋭い目で警官を一瞬睨むと、すぐにうずくまってしまった。
警官は探していた不審者だと確信した。「話を聞きますので、ついて来て下さい。」と言うが、男は岩の如く動じない。
仕方なく、警官が男の手を引いたその時だった。
男は素早く立ち上がり、手に持っていたナイフを警官の一人の腹部に突き刺した。
力を加えると、筋肉が切り裂かれ、刃先は身体の内部まで到達していた。
そして、ナイフを引き抜くと、血管が破れ、切り口から激しい出血が起こった。
警官の意識はもうろうとし、涎交じりにうめいた。心臓は飛びだすような速さで脈を打っている。
そして、警官の顔の色は消え、その場に崩れ落ちた。
もう一人の警官は愕然としていたが、何とか男を取り押さえた。しかし、男も無言で警官の腕を離そうと抵抗する。
警官の力は目の当たりにしたショックで既に衰弱していた。男は不気味な笑いを浮かべ、真夜中の空に叫び、警官を突き飛ばす。
「や、止めてくれ……止めてくれ!」後ろに歩みを進めながら、警官は男に叫ぶ。だが、男はナイフを持つ手を思い切り振りかざし、心臓を狙い、刺す。
二人の警官は裏山で消息を絶ち、死体や遺留品が見つかることは無かった。
この話は続きます。