BATTLE DOYALE 
Dream of start of nightmare

名無しさん

 

第十四話 「Person who kills and killed person」

―残り7時間08分―

 日の光は西から射し、空は昼の顔から、次第に夜の顔に変わりつつあった。
太陽の近くは黄や橙に輝き、それから遠ざかる毎に紫、青、そして黒と色が移り変わっている。
 そして島中に響き渡る放送。
『諸君にちょっとした知らせだ。日没と同時に洋館が「出現」する。具体的に言えば、今から約2時間後だ。
 場所は、前回の放送で言った地点と変わりはない。
 では、死亡者を伝える。

 【男子18番】ピーブ
 【男子20番】リアン
 【女子3番】ジャイ子
 【女子9番】プピー
 【女子12番】クク
 【女子15番】フー子

 以上だ。では、諸君、時間には遅れないように。諸君らが、再びこの放送を聞けることを祈っているよ』

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ククル(男子10番)は、洋館が出現するエリアからさほど遠くはない地点にいたので、少しばかりの休憩を取っていた。
デイパックの中から水と食料を出し、口へと運ぶ。
このような状況下で、自分が生きていると実感できるのは、やはり食事の時間ぐらいだろう。
 体力を回復させたククルが、歩き出そうとした時、草むらの向こうで何かが動いたように見えた。
警戒心を高め、その場へとゆっくりと歩み寄るククル。

「なんだ……?」

 草むらを覗き込んでも、特に変わった点は見当たらない。草木が風に吹かれて、揺れているだけだった。
安心したククルが、元の場所に戻ろうとした直後、突然何者かが鋭い刃物のようなものでククルの喉笛を切り裂いた。

 


「っか……ハ……あ……!」

 周りが一瞬にして鮮血に染まっていく。頚動脈を傷つけられ、成す術もなくその場に倒れこむククル。
大量に流れ出るその血は遂に致死量まで達し、ククルは息絶えた。
 倒れたククルの陰から姿を現したのは、血塗られた包丁を片手に持った美夜子(女子4番)だった。

「殺される者と殺す者……。今、この島にあるのはその関係だけ――」

 ククルの亡骸を見下ろして言う美夜子。
その表情は、狂気を帯びてはいたものの、どこか悲しげだった。

【残り21人】

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 出木杉(男子15番)とスネ夫(男子27番)は塹壕を離れた後、森林の端で休憩を取っていた。
あの爆風で飛ばされた破片が、2人にも少なからず損害を与えていた。

「出木杉くん……大丈夫――?」

 スネ夫が心配そうに出木杉を見る。出木杉は破片が足に当たり、出血していた。
服の袖を破いて包帯代わりにしたものの、血はなかなか収まらなかった。
 それでも、必死に出来る限りの処置を施したおかげか、なんとか出血を止めることが出来た。

「何とか血は止まったけど……これじゃ、あまり動けないな――」

 出木杉が申し訳なさそうに呟く。
それを聞いて、スネ夫が励ますように言った。

「僕のことは気にしないで。もう少しよくなるまで一緒に待つから」

「ありがとう、スネ夫くん。君がいて助かったよ」

 2人の間に少し和やかな雰囲気が漂う。
だがその直後、銃声が鳴り、あたりの草や葉が宙に待った。

慌てて身を屈める2人。反撃に転じようとするも、相手の姿が確認できない以上、どうする事も出来ない。
しかし、このままの状態だと危険は増す一方。スネ夫は覚悟を決めて、出木杉に言った。

「ぼ、僕が飛び出して攻撃するから、出木杉くん、援護お願い!」

 出木杉は驚いた。ひき止めようとしたが、それを待つことなく、スネ夫は飛び出してしまっていた。

「くそっ! どこだ、どこにいるんだ!?」

 態勢を低くしながら走るスネ夫。銃弾が飛んでくる方向、銃声を頼りに、回りを見回す。
すると、木の陰で何かが光っている。それを見たスネ夫はいちかばちかで、その光めがけ銃の引き金を引いた。

「うわああぁぁああぁ!!」

 5つの銃声。それが鳴り止むと、銃弾は飛んで来なくなった。
スネ夫は深呼吸して、光のあった方へと向かう。

「血だ……」

 スネ夫が目にしたのは、木に付着した無数の血痕。

「ということは、僕の弾が――」

 そう呟いて、下を見た瞬間、スネ夫の目に飛び込んだのはフレイヤ(女子11番)の死体だった。
彼女に体からはとてつもない量の血が流れていた。傍には、恐らくフレイヤが使っていたものと思われる、
ブローニングM1910自動拳銃が落ちていた。

「ア……あ……」

 スネ夫は動揺のあまり、その場に座り込んでしまった。
その姿は、まるで糸の切れた操り人形のようだった。
 何も聞こえなくなったことで、出木杉は体を起こして、辺りを見回す。

「スネ夫くん……?」

 痛む足を引き摺りながら、スネ夫を探す出木杉。すると、どこからかすすり泣くような声が聞こえる。
その声の元へ向かうと、其処にはスネ夫が座り込んで涙ぐんでいた。

「どうか、したのかい?」

 出木杉の呼びかけにもスネ夫は反応しない。
それを見た出木杉が、しばらく1人にしたほうが良いと思い、元いた場所へと戻ろうとした時だった。

 後ろから響く銃声。出木杉が振り返った先で見たものは、右手に銃を握り、
こめかみの辺りから血を流して横たわっているスネ夫の姿だった。

「………」

 出木杉は何も言わず、スネ夫の手から銃を取り、彼のデイパックの中身を自分の物へと移し変えた。

「馬鹿野郎――」

 そう言い残して、出木杉はその場を後にした。

【残り19人】

 

第十五話 「Superior that exists in inferior」

―残り6時間29分―

 ドラえもん(男子1番)は洋館の出現地点から、700m程離れたところにいた。
小さいながらも、先ほどから聞こえてくる銃声に恐怖感を憶えながらも、少しずつ、かつ慎重に洋館を目指すドラえもん。
地図を片手に道なき道を進んでいく。

「あと、1キロもないな。何とかして時間までに辿り着かないと……」

 いつもの首輪の上から取り付けられている銀色に光る首輪をさすりながら、ドラえもんは歩いていく。

 洋館までの距離が、残り400m近くになったところで、ドラえもんは休憩をとる事にした。
かといって、警戒心は解く事はない。いつ、誰が来てもいいように、武器であるH&K MP5短機関銃は傍らにおいていた。
 デイパックの中から水を取り出し、急ぎ気味に口へと運ぶ。
飲み終わったらすぐさま元に戻し、辺りを見回す。
 短機関銃を構えながら周りの様子を伺う。
目はもちろん、耳も澄まし、最大限に注意を払う。


「大丈夫かな……?」

 警戒しながら、後ずさりするドラえもん。
と、その時、何かを感じ取ったのか、ドラえもんは自らの右前に向かって、短機関銃の銃口を向けた。
向けるやいなや、躊躇わずに引き金を引く。
 1分間に800発という発射速度をもつMP5短機関銃。
もし何者かがその先にいたならば、一瞬にして蜂の巣になっているだろう。

「どうだ――?」

 ひとしきり撃った後、ドラえもんは銃を下げた。
しばらく放置しても、変化は見られない。
 ドラえもんが警戒心を解いた瞬間、後方から突然の銃撃。
視界が悪かったのか、弾は全てドラえもんには命中せず、周りの木々を傷つけるに過ぎなかった。
 ドラえもんはすぐさま草むらに飛び込み、銃弾が飛んできたと思われる方向を凝視した。
しかし、視界が悪いのはドラえもんも同じだった。

周りは木々に囲まれ、見通しが利かない上に、太陽は既に沈みかけ、薄暗くなっていた。

「これじゃあ、何も見えない……!」

 もしも赤外線アイが壊れてなければと、ドラえもんは心のなかで地団駄を踏んだ。
反撃に出たいのだが、相手の姿が見えない以上、こちらの居場所を教えてしまうことになる。
だが、それは相手も同じ事であるはずだと、ドラえもんは考えた。
こうなりゃ根比べだ――ドラえもんは、MP5短機関銃を握りしめた。

 それから数分、数十分経った。
ドラえもんは待ち続けた。相手が根負けして飛び出してくるのを。ドラえもんは待っている間にこの付近の地理関係を把握していた。
しかし、分かった事はどう見てもこちらが有利になる状況ではなかった。

「相手が上にいるのか――。こりゃあ、まずいな……」

 ドラえもんがいる所は、丁度斜面の下部分で、相手に上をとられている状況なのだ。
敵が上にいるのは、戦いの上で厄介極まりない。
はっきり言って、ドラえもんが圧倒的に劣勢なのだ。

「くそっ!」

 どうしていいか分からなくなったドラえもんは、ふと上を見た。
すると、何か金属的に光るものが一瞬だけ目に映った。

「あれは……!」

 ドラえもんは直感した。あれは間違いなく銃口だと。

ドラえもんは見出した。


『劣勢』のなかにある『優勢』を――


「一か八か! やってみるか!」

 ドラえもんは、身を翻しその『光』めがけ短機関銃の引き金を引いた。

 ドラえもんの所持しているMP5短機関銃は、その命中精度に高い評価を受けている。
ドラえもんはそこにも賭けたのだ。

 放たれた弾丸は、『光』に向かって一直線に飛んでいった。

 銃声の直後に聞こえた悲鳴。そして飛んで来なくなる銃弾。

「やった!」

 命中を確信したドラえもんは、すぐさま立ち上がって、森のなかへと消えていった。

【残り19人】

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「う……ぐ……」

 リルル(女子5番)はたった今行われた銃撃戦で被弾していた。
相手の上を取ったことで油断し、安易に交戦してしまったことが失敗だった。
 彼女は、右腕、左脇腹に銃弾を受けていた。
それも一発ではなく、数発ずつ。
 視界が悪かった所為か、相手の姿は確認できなかったが、その去り際の声に聞き覚えがあった。
独特のドラ声。彼女はハッとなって思い出した。

「まさ……か……ドラえ……もん?」

 痛みをこらえて立ち上がるリルル。
傷ついた体に鞭打ちながら、洋館へと向かう。

「確認……しなきゃ……。本……当に……そうなの……か」

【残り19人】

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 灯台にいたグースケ(男子22)達も洋館に向かい、移動を始めていた。
歩いていては、時間も体力も消費する。そこで、彼らが取った移動手段は……

「キャー! も、もっと高く飛んでよ! ぶつかっちゃうわよ!」

 そう、低空飛行だった。それも超低空。地面から3mほどの高さを飛んでいた。
ちなみにチーコはミルクが抱えている。

「あんまり高く飛んだら、見張りにやられるんだ。だから、我慢して」

「見張りったって……!」

「大丈夫よ! ちゃんと抱えてるから、安心して」

 
 あっという間に、洋館から100m程の地点に着いてしまった3人。

「ここからは、歩いていこう」

「さ、賛成〜」

 チーコが疲れきった表情と声で言う。

「なんであなたがそんなに疲れてるのよ……」

 ミルクが腕組をしながら、少々呆れ顔で言う。それを見て、チーコは少しムッとしながら言い返した。

「あ、あのね! 飛ぶって言ったら誰でももっと高いところで飛ぶのを想像するわよ!
 そしたら、あんなスレスレの所で! あんなスピードで!!」

「そんなに速くなかったわよ?」

「先が思いやられる……」

【残り19人】

 

第十六話 「Inscrutable plan」

―残り5時間09分―

 全てが始まったあの刑務所の中。そこには誰もいないはずだった。
だがそこに、小さくて大きい存在が居た。
 ――【男子6番】パピ。彼は、その小ささゆえに看守の男がパピの存在を見落としていたのである。
 パピは、鉄格子の隙間から外に出た。――もしかしたら此処に何か脱出方法があるかもしれない。

パピはそう考えた。彼の首には、あるはずの首輪がない。パピは首輪の電気回路を操作し、それを外していた。
弱冠10歳にして大学を卒業した彼にとっては、朝飯前だった。

 パピは刑務所内を探索している中、一風変わった扉を目にした。
他の扉はいかにも武骨な外観をしているのに対して、その扉は、普通の一般家庭にあるような扉だった。

「此処だけ、雰囲気が違うな……入ってみるか」

 幸いにも扉は半開きになっており、背丈の低いパピでも入る事が出来た。




 その扉の向こうは、暗闇に支配されていた。一筋の光も射さない闇の世界だった。
嫌な予感がしたパピは振り返って、戻ろうとした。だが、半開きになっていた筈の扉が完全に閉まっていた。

「くそ……出られなくなってしまったか……」

 どうしようもなくなったパピは覚悟を決め、前へと歩き出した。
暗闇のなかを歩くのは恐怖感が厭というほどつきまとう。
何も見えないということほど不安で、恐ろしいものはないだろう。
 それでもパピは勇気を振り絞って、前へと歩く。この惨劇の孤島から脱出するために。
 この空間に立ち入った時、パピは嫌な予感と共に、何か重要なものがある気がしていた。
それは何か分からないが、何かがある。そんな気がしてならなかった。

「しかし、一体いつまで続くんだ……ん?」

 体力も限界に達する寸前、パピの目に映ったものはぼんやりと光る青白い光。
疲労しきった体に鞭打って、パピは歩いた。

「あの青白い光、一体……何なんだ?」

 だんだんとぼやけた光が鮮明になっていく。
そして、遂にその光の光源へとたどりつた。そこでパピが見たものは――

「モニター……? しかも、結構な数だ――」

 パピが見上げる先には、大小あわせて25個のモニター。
どれも青い画面しか映っていない。パピが調べようと近づいた時、後ろから足音が聞こえてきた。
 すぐさまパピはそこから離れようとしたが、その青白い光がパピに影を落とす。
このまま走ってしまえば、影を見つけられてしまうのは分かりきった事。
そう判断したパピは、すぐそばにあった椅子の陰に身を隠した。
 足音が近づいて来るにつれて、不安と緊張、そして恐怖がいっぺんに襲ってくる。
胃が痛くなりそうな状況のなかをパピは耐え続けた。

「さて、そろそろ時間だな」

 足音の主が、パピの隠れている椅子に座った。
そしてその声に、パピは聞き覚えがあった。どこかで聞いたことのあるこの低い声。
 少し考えた後、パピは思い出した。――コレが始まる前にモニターから聞こえてきたあの声だ。

「さあ、ショーの始まりだ」

 男の声が聞こえるのと同時に、とてつもなく大きな揺れが発生した。

「うわわっ!」

 その揺れに耐えられず、パピはしりもちをついた。
パピは慌てて立ち上がり、脱兎のごとく駆け出した。
 男はそれに気付いていない様子だった。だが、それを確認する余裕も、今のパピにはなかった。


 全力で走るパピの目の前に、何かが立ちふさがった。
パピから見れば、天にも届くかと思うほど巨大なものだが、それは人間にとって見れば作業用のデスク。
 パピがそれを見上げていると、見覚えのある顔がひょこっと現れた。

「ド、ドラえもんさん!?」

 パピは一瞬ひどく驚いたが、冷静に見てみると何かが違う。
パピが見たのは、ドラえもんではなくミニドラだった。
 ミニドラは四次元ポケットの中から『タケコプター』を取り出し、パピの元へと放り投げた。

「おっと!」

 それを受け取ったパピは、ドラえもんが使っていたときのことを思い出し、自らの頭部に装着して起動させた。
見る見るうちに、自分の体が地面から離れていく。
そして、あっという間にデスクの上に辿り着いた。

「ありがとう、お陰で助かったよ」

『君の事はドラえもんから聞いてるよ。ぼくはミニドラ。よろしく、パピ君』(パピの翻訳ゼリーの力でミニドラの言葉を自動翻訳中)

「こちらこそよろしく。ところで、君はこんなところで何を……?」

『事情は後で説明するけど、君にはまずコレを食べてもらおう』

 ミニドラはそう言うと、思っただけで相手に言葉を伝えられる「テレパしい」を取り出し、パピに差し出した。
パピはそれを手に取り、口に運ぶ。それを見てミニドラもそれを口にした。

(『どうだい? 喋らなくても、僕の声が聞こえるだろ?」)

(「本当だ! コレで、声を出さずにすむから見つかる可能性がうんと減るわけだね」)

(『そゆこと』)

 テレパしいの効果を実感したところで、ミニドラは自分が此処に来た経緯、目的をパピに伝えた。
パピはそれを理解して、ミニドラに協力する事を決めた。

(「それで、まずはどこから調べようか?」)

(『とにかく、足元にあるのから調べようか』)

(「足元?」)

 ミニドラに言われて足元を見るパピ。そこには、文字がまるで道のように書かれたいた。
パピが今までデスクの表面だと思っていたのは、実は書類だった。彼らはずっと、膨大な量の文書の上に立っていたのだ。

(「これ、全部調べるのかい……?」)

(『大変だよね……』)

 2人は心が折れそうになるも、気合をいれ、一つ一つ調べ始めた。
だが、1枚調べるのにかなりの時間がかかる。このままでいたら、一体いつまで続くか分からない。

(「流石に、これは無理があるよ」)

(『う〜ん……あっ! そうだ!!』)

 ミニドラは何か思いついたのか、四次元ポケットのなかをまさぐり始めた。
少し慌てているのか、なかなかお目当てのものを見つけられないでいる。

 しばらくして、ミニドラは「スモールライト」を取り出した。

(『これでこのプリントを小さくしちゃおう!』)

 早速ミニドラは、足元に広がる書類にスモールライトを照射した。
あっという間にあの巨大な書類が、ミニドラたちに丁度いいサイズになった。ただし、膨大な量には変わりないが。
だが、これで楽になったことは間違いない。

(『さ、作業に取り掛かろう!』)

 ミニドラはまず、手近にある書類の山から調べ始めた。
パピもそれに習いミニドラの山とは違う山を調べる事にした。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(「これは……。ミニドラ、ちょっと来て」)

 パピに呼ばれて、ミニドラは急いで彼の元に向かう。

(『どうしたの?』)

(「これを見て! このプログラムの参加者名簿!」)

(『参加者名簿なら、僕も持ってるよ。ほら』)

 ミニドラが名簿を出そうとした時、パピはミニドラにそれを突きつけた。

(「ただの参加者名簿じゃないんだ! とにかく見て!」)

 パピの態度に、ミニドラは何かがあると感じ、パピからそれを受け取って見た。

それを見たミニドラは驚愕した。

(『なんだこれ……。顔写真に、プロフィール。そして、ランク付けされている……?』)

 その資料に書かれたいたのは、参加者一人一人の詳しい情報。
そして、謎のランク付け。アルファベッドのA〜Dまでで付けられていた。まるで通信簿のようだった。

(『このランク付けには、何の意味が……?』)

(「ミニドラ、今の時点で生き残っている人を確認できる?」)

 パピの問いに、ミニドラは『う〜ん』といいながら、四次元ポケットのなかを探り始めた。
少しして、ミニドラが取り出したのは「あっちこっちテレビ」。これで生存者を探そうというのだ。

(『コイツで探そう。でも、何か理由があるのかい?』)

(「僕の予想が正しければ、この記号は対象の能力を現してると思うんだ。
  だから、それを確認するためにね」)

(『なるほど。じゃあ、飛ばすよ!』)

 ミニドラの合図と共にカメラが飛んでいく。それを見たミニドラとパピは、再び作業に戻った。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 カメラが飛んで行ってすぐに作業を再開した2人に、ある資料が出てきた。
その資料こそ、この惨劇の真相を解き明かすもの。そして、この惨劇が終わったら訪れる『悪夢』に関しての記述もあった。

(『こんな計画が……。本格的にやばい事になってきたな……』)

(「早く何とかしないと! みんなの目を覚ませないと……!」)

(「『終わらせなきゃ………この【夢】を!!」)

 

第十七話 「Start of "End of dream"

それは突然だった。
突如として起った地震と共に、地面から現れたのは『洋館』だった。
 揺れがおさまると、その洋館はまるで最初からそこに建てられていたかのように彼らの前に立っていた。
 のび太(男子9番)はただただそれを眺めていた。その洋館の造りの美しさに見惚れていた。
だが、その美しさの奥には危険があるのをのび太は感じ取っていた。

「キレイな建物だけど、なんだかイヤな感じもするなぁ……」

 のび太は辺りを見回しつつ、一歩ずつ洋館へと進んでいく。
数mほど歩いたところで、のび太は何かの気配を感じた。
少々慌てながらもデイパックからイングラムを取り出し、身構える。

「誰か――いるの?」

 イングラムを構えながら、気配のした方向へとゆっくりと歩み寄るのび太。
元いた場所の手前まで来たとき、悲鳴のような声と共に金属的な光沢をした物体が、
ものすごい速度でのび太の横を通り抜けて行った。
 いきなりの出来事に驚いたのび太は、しりもちをついた。

「なんだ!? 今の!」

 何かが飛び抜けていった方向を見ると、既に何も無く、ただ洋館の入り口が見えるだけだった。

「洋館の中に……入ったのか――?」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ―残り1時間21分―

 首輪が爆発するまで、約1時間。
ところが、未だ誰一人として洋館の玄関をくぐったものはいない。
 

 しかし、それもそのはず、洋館の入り口は1つではなかった。
洋館の外壁にはいたるところに裏口があり、生き残っていたものたちの殆どは、自分の近くにあった裏口から洋館へと入っていた。
 だが、ただ1人、ベティ(女子10番)だけは裏口の存在に気付いていなかった。
彼女は他の者達が全員洋館に入った後に来てしまったため、みなが玄関から入ったものと思い込んでいた。

「ここが入り口か。時間ギリギリで間に合ったみたいだな」

 そう呟きながら、巨大の扉を開けるベティ。
その向こうにあったのは、今まで見たことの無いような豪華な広間。
足元は赤い絨毯、天井には一際目立つシャンデリア。正に絵画のような風景だった。

「はぁ〜すごいな。宝箱とかありそうだな」

 冗談交じりにそう言って、1歩踏み出した時何かのスイッチが入ったような音がした。
ベティが何かと思って下を向いた瞬間、何処からともなく飛んできた矢が彼女の腹部を貫いた。

「っ!?」

 激しい痛みがベティを襲った。痛みに耐えながらも前に進もうとする彼女を更に痛めつけるかのように、
数本の矢がベティの体に突き刺さった。
大量の血を吐き出すベティ。もはや動く事も出来なくなった彼女に、止めとなるであろう1本の矢がその左胸を貫いた。

「ジャ……ック……ごめん……カタキ……とれ……なかった……」

 薄れゆく意識の中で、ベティの脳裏に浮かんだものは弟同然に可愛がっていたジャックの笑顔だった。
赤い絨毯に、深紅の血が染み込んでいく――。

【残り18人】

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 ミクロス(男子7番)は洋館の1室の隅でしゃがみこんでいた。
その理由はただ1つ。恐怖感からだった。
 彼は洋館に向かう途中で、主であるスネ夫(男子27番)の亡骸を発見してしまった。
それの所為で、彼の精神の風船は破裂した。だから、洋館が出現した直後に入ったのだ。

 ミクロスは、手近の裏口から洋館に入ってすぐに見つけたこの部屋に、閉じこもっていた。
洋館に入りどれ位たっただろうか。不思議な事に銃声やらの類は一切聞こえてこない。
 ――もしかしたら此処じゃないのかもしれない。そんなはずは絶対に有り得ないのだが、
既に精神が破綻している彼には、そういう風に思えてきてしまっていた。

 覚悟を決めて、部屋の外へと出るミクロス。
そのドア1枚の向こうで違っていたのは風景だけ。震えがくるほどの沈黙や、絶対的な恐怖は変わらなかった。
 彼が歩を進めるたびに、足音が響く。その音が響くたび恐怖感は膨れていった。

 ふと、ミクロスの目に止まったのは、何の変哲も無いドア。先ほどまで自分が閉じこもっていた部屋のドアとなんら変わりは無い。
だが、彼はこのドアに何かを感じた。まるで暗闇が晴れていくかのような、希望に満ち溢れたドアに、ミクロスには見えた。
 操られているかのようにドアノブへと手をかけるミクロス。
そして、ドアを開いた。





 そこに広がっていたのは、青空でも、希望でもなく、寧ろ正反対の暗闇だった。
しかしミクロスには自分の目の前に夢のような楽園が広がっているように感じた。
 暗闇の向こうから、主との明るい思い出があふれ出してくる。

『夢』のように楽しかったあの日々に、彼は帰りたい一心で、暗闇へ向かい歩き出す。




 その瞬間、彼の胴体は轟音と共に四散した。
刹那、彼が感じたのは悪夢から目が醒めるような感覚だった。




爆音だけが響き渡った後、ドアの向こうからミクロスの破片が飛び出した。


【残り17人】

 

第十八話 「The noise 3」

薄暗い部屋のなか、ベッドに潜り込んで静香(女子1番)は怯えていた。
その訳は、孤独と恐怖からだ。
 今まで何度も冒険して、ここまでの極限状態に陥る事は何度もあった。
命の危機、世界の危機に、一体何度直面してきただろうか。数えたらキリがないかもしれない。

それらを乗り越えられたのは、他でもない、仲間がいたからだ。

信頼し合い、支えあってきた仲間がいたからそれらに打ち勝つ事が出来、今ここにいる。
 だが、今その仲間はいない。いつものあの顔は、此処には無い。
生きているかも分からない。静香の心にあるのは不安だけだった。


のび太さんは無事だろうか――?

ドラちゃんや、武さん、スネ夫さんも……。



また、みんなの顔を見れるのかな………?






 静香は支給されたスタンガンを握り締めながら、思った。





「皆と……また、会いたいな――」



 静香はそう呟き、ベッドから出た。そして、静香は覚悟を決めた。

「とにかく、生きよう――」

 静香は、この「現実」と戦うことを決めた。
仲間ともう1度笑い合う為に。

「何か、役に立ちそうなものは……」

 静香はまず、ベッドのすぐそばにある棚に手を伸ばした。中を見てみたが、この状況で使えそうなものは見当たらなかった。
だが、静香は諦めずに探索を続けた。




「これが、最後の棚ね」


 部屋中を漁りに漁ったが、これといった物は見つからず、遂に最後の棚が残った。
静香は「神様、お願いします」と小さく呟き、両手を合わせた。
そして、一呼吸おいて棚を開けた。

 中に入っていたのは『9x19mm Parabellum』と書かれた箱だった。
静香はそれを手に取ってじっくりと眺めた。

「パラ……ベラム? 何のことかしら?」

 静香は首をかしげながら、中身を出した。

「銃弾……! でも、銃を持ってないから意味無いわね」

 静香はガッカリした様子で、箱を元に戻した。と、その時、全く唐突に銃声が鳴り響いた。それも、かなり近い。
いきなりの出来事に混乱し、静香は思わずその場に伏せた。

「な、何?!」

 数秒程すると、銃声は一旦止まったが、またすぐに鳴り始めた。
とにかくこの場を離れようと、静香は少々遠いところにあるドアまで這って行くことにした。

「大丈夫……よね?」

 時間はかかったものの、無事ドアの目の前まで来る事が出来た。相変わらず銃声と共に、銃弾が壁にめり込む音が耳に届く。
 静香は焦りながらも、ドアノブに手を掛けた。ドアが開くと同時に、銃声が大きくなった。
静香は慎重に顔を出し、辺りの様子を窺がう。誰もいないことを確認すると、その部屋から飛び出した。

 部屋を出てすぐに、交戦している地点に、静香は着いた。
壁に隠れながら進んでいくと、ある人物が静香の目に飛び込んだ。

「で、出木杉さん?!」

 壁に隠れながら応戦している出木杉の姿を見て、静香の心のなかに安心感と不安が同時に涌き出た。
出木杉の表情を見ると、状況はあまり芳しくないらしい。
 大声で出木杉を呼んでみたが、けたたましく響く銃声にかき消され、出木杉には届かなかった。

「なにかできることは……あっ! そうだわ!」

 静香はハッとなって、先ほどの部屋へと走った。
そして、部屋に着くなりあの棚を開けた。

「これを出木杉さんに!」

 箱を持って、出木杉の元へと急ごうと部屋を出たとき、何者かが後ろから静香を押さえつけた。

「え!?」

 そのはずみでスタンガンが落ちてしまった。
必死にもがくも相手の力が強く、静香は何も出来なくなった。
そして、そのまま部屋のなかへと引きずり込まれてしまった。

【残り17人】

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 

洋館のある一角で交戦は始まった。
今から数分前、出木杉(男子15番)は曲がり角に差し掛かったところでグースケ(男子22番)達を見つけた。

彼らは最初、出木杉の存在に気付いてはいなかった。それを確認した出木杉は、先手必勝、一気に攻め立て優位に立とうとした。
だが、肝心の初撃が外れ、その結果苦戦を強いられる事になってしまった。
 出木杉の持っている銃弾はそこが見え始め、この状況が続けばジリ貧になるのは目に見えていた。
どうにかして突破口を切り開こうと、突撃も考えたが、あまりにもリスクが大きすぎる。

 壁から少しだけ顔を出し、相手が使っている武器を確認する。
顔を出した瞬間、無数の弾丸が飛んできた。慌てて身を隠す出木杉。

「あの形は……AKか」

 一瞬だけ見えた銃の姿。それはソ連が開発した、信頼性の高いアサルトライフル、『AK−47』に間違いなかった。
特徴的な、大きく突き出た弾倉。それが出木杉の目に映った。

「厄介だな――」

 出木杉は小さく舌打した。他の銃器なら、弾詰まりなどが期待できたのだが、AK−47の場合は殆どといっていいほどそれが無い。
多少扱いが雑であっても、確実に動作する事で有名だからだ。それこそが、この銃の売りでもある。

「くそっ!」

 出木杉は一か八か、壁から身を乗り出しウージーを乱射した。
すると、上手くタイミングが重なったのか、がむしゃらに放たれた一発の弾丸が相手の胸に命中した。
 出木杉は予想していなかった結果に驚き、思わず再び壁に身を隠した。

「や、やったか……?」

 そっと顔を出し、状況を確認する出木杉。彼の目に映ったのは、うつ伏せに倒れている鳥と人間が合わさったような姿をした少年。

それでも出木杉は、あくまで慎重だった。焦らず、相手が本当に死んでいるかをその目で確かめようとした。

 その時、出木杉は少し違和感を覚えた。確かに弾は命中した。その証拠に相手は倒れている。そう、死んでいるはずだ。
だが、何かがおかしい。その答えが分かるのには、少々遅すぎた。
 身を乗り出していた出木杉の左肩に、銃弾が撃ち込まれたのは、直後の事だった。




「ぐあっ!!」



 突然、倒れていた筈の「死体」が起き上がり銃弾を放った。
あまりに唐突な出来事に頭の中が混乱の渦に叩き落とされる。
 そして、直前の違和感の正体がハッキリした。あの時、『死体』の手には、しっかりと銃のグリップ部分が握られていた。

普通なら撃たれた衝撃で、落とすか、それでなくとも銃を撃つ際のように力は入らないだろう。
しかしあの時、確かに、そして、力強く握られていた。出木杉はそれに気付くのが遅すぎた。

 出木杉は手痛い傷を負った。左肩からは血が流れ出ていく。

「くっ……! でも、何でだ? 何で奴は血を流していないんだ……?」

 出木杉の頭のなかで様々な憶測が飛ぶ。
痛みをこらえながら、直前の状況を頭をフル回転させながら思い出す。
目を閉じながら考える。時間はもう無い。早く結論を出さなければ、そして、その結論を元に行動を起こさなくては――!
この時、出木杉の集中力は最高潮に達した。

 

















何かが、割れるような「音」。
ガラスが粉々になるような「音」が、出木杉には――聞こえた。

決して「雑音」ではない、「音」。


漫画で見たことある、閃いた時に出るような音が、出木杉の頭を、いや、体中を駆け巡った。




「そうか、そういうことか!」

 極限の状態の時、人間というものは、とてつもなく冴えるというが……




 それは、本当なのかもしれない――

【残り17人】

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「グースケ、大丈夫!?」

「平気さ、ミルク! それよりも、弾は?」

「バッチリ! まだまだ、たくさんあるわよ!」

 通路の向こうに居る見えない相手と、グースケ(男子22番)達は戦っていた。
先ほど突如として飛んできた弾丸の嵐。そのどれもが壁だけに当たったのは幸運だった。

そして更に幸運は続いた。慌てて入った部屋のなかには、AK−47アサルトライフルと、部屋中に散らばっている弾倉。
「ツキはじめると止まらない」と言うが、正にそうだった。
もしこれらが無かったら、とっくのとうにやられていただろう。だが、今や状況は一変し、勝利は目の前だ。

「よし! このまま一気に押し切ってやる!」

 目前に迫った勝利を掴むため、グースケは自らを鼓舞するように言った。
相手からの攻撃はほぼ無くなった。恐らく弾薬が底をつきかけているのだろう。
焦る気持ちを抑えるため、1度深く深呼吸をして気分を落ち着かせる。
 直後、グースケは勢い良く壁から飛び出した。

 決着をつけてやる―― 向こう側に銃口を向けたと同時に、右胸を中心に強い衝撃と共に激痛が走る。
グースケはそのまま前のめりに倒れた。後ろから聞こえたミルクの悲鳴。

 うつ伏せに倒れたグースケ。彼はピクリとも動かなかった。
だが、グースケはまだ死んではいない。再び防弾ベストが彼の命を救ったのだ。
 撃ち込まれた銃弾は、グースケの体には届かず、防弾ベストの中で止まっていた。

それが分かっているのは当のグースケだけ。グースケは右手に握っているAK−47のグリップを小さく握り直した。
 しばらく死んだフリをしていれば、相手が油断して身を乗り出してくるだろう――。

グースケは倒れながら考えていた。あらゆる神経を耳に集中させ相手の動きを探る。

 そして、一瞬だが何かが壁と擦れ合うような音が聞こえた。グースケは音を信じて飛び起き、前方に銃を乱射した。

「ぐあっ!!」

 刹那に見えたのは肩口に銃弾を撃ち込まれ、慌てて身を隠す出木杉(男子15番)の姿だった。

グースケの考えは見事に的中し、更に勝利を確実なものにした。
このまま止めを刺すために、グースケは出木杉の元へと突っ込んでいった。

「悪いね、君の負けだ」

 そう言って、座り込んでいる出木杉に銃口を向けた。

いつでも引き金を引き、出木杉を死体に変えることも出来る。グースケの勝ちは決まったも同然だった。
 グースケは出木杉の様子を確認した。
右手には弾薬の尽きたウージー。肩を撃ち抜かれた左腕は、使い物にならないだろう。グースケはそう判断した。

「さよならだ」

 その声と同時に、洋館の一角に一発の銃声が鳴り響いた。

【残り17人】

 

第十九話 「Intention and volition」

 壁が真紅に染まる――。
真っ赤になった壁の反対側に、1人の少年が座り込んでいた。

 その少年――出木杉(男子15番)の正面には鳥のような姿をした少年、グースケ(男子22番)が仰向けに倒れていた。
グースケは微塵も動かなかった。その理由は、壁についた大量の血。
そして、彼の眉間にある銃痕から流れ出る夥しい量の真紅の液体。
 急所を撃ち抜かれたグースケに、もはや命の炎はない。
ただ、「物」となったそれが倒れているだけだった。

 あの時、グースケは確信していた。自らの勝利(生き残る事)を。

しかし、その確信が死を招いた。引き金を引くのが一瞬遅れた。
その一瞬が彼に引導を渡した。
 グースケが引き金を引くわずかその前に、出木杉がスネ夫(男子27番)の物であった、
S&WM1917でグースケめがけ銃弾を放ったのだった。
そう、まさに一瞬だった。決して出木杉は狙って撃ったわけではない。
相手のどこかに当てられればいいと思って撃った弾が、偶然急所に当たっただけなのだ。

その証拠に、出木杉は俯きながら銃を撃っていた。
いくら出木杉といえど、射撃の天才でもない限り、そんな事が狙って出来るわけがない。

「さよならするのは君のほうだったな……。鳥人間くん」

 出木杉は勝ち誇ったような笑みを浮かべて呟いた。
だが、まだ安心できる状況ではない。その事を、出木杉は良く分かっていた。

「まだ死ぬ訳には……」

 出血がひどくなってきた左肩の傷口を押さえながら、スネ夫の形見を携え壁から飛び出す。
みると、予想通りグースケの取り巻きらしい人影が確認できた。

今手元にある銃の弾薬は底を尽きていると言っていい。長期戦になれば圧倒的に不利であるのは目に見えていた。
一発で勝負(生死)を決めなければならない。

「よし――行くか」

【残り16人】


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ミルク(女子13番)とチーコ(女子16番)は不安に駆られていた。
止めを刺しに行ったはずのグースケ(男子22番)が銃声が鳴った関わらず帰ってこないからだ。
不安というよりも、既に悟っていた。グースケがやられたしまった――と。
 ミルクは覚悟を決め、チーコに言った。

「チーコ。私、行ってくるね」

「えっ!?」

 チーコは驚いた。それも当然だ。グースケがやられたであろう今、相手の元に向かうのは自殺行為といってもいい。
彼女らの武装は、銃に比べればあまりにも薄弱だ。返り討ちにあうのは目に見えている。

「そんな、死にに行くようなこと……! 私がやるわ!」

 チーコはそう訴えたが、ミルクの意志は揺るがなかった。
ミルクは何も言わず首を横に振って、チーコの肩に手を乗せて自らの『意思』と『意志』をチーコに伝えた。

「ミルク……でも――」

 チーコは俯いた。そして、彼女の目から涙が溢れ出した。
小さく震えるその肩を見て、ミルクは優しく微笑んだ。
ミルクはチーコの耳元で小さく囁いた。それを聞いてチーコはゆっくりと顔を上げて、泣きながら頷いた。
チーコにとって、それは最初で最後の安らげる時間となった。



「物語はハッピーエンドとは限らないよ?」

 場の空気が一瞬にして張り詰めたものに変わった。
ミルク達の目の前には銃を片手に、冷たい笑顔を浮かべる出木杉(15番)がいた。
その顔は、出血のためか青くなり始めていた。それが不気味さを引き立たせていた。

「チーコ逃げてええぇぇっ!!」

 ミルクが叫んだ。それを聞いてチーコは走り出す。
同時に出木杉も動いた。銃を構え、照準を合わせる。銃口は、だんだん遠ざかっていくチーコの背中に向けられていた。
準備は全て整った。後は引き金を引くだけ。

「アンタなんかにやらせはしない!!」

 ミルクは再び叫んで、チーコから貰った釵を出木杉に突き立てようとした。
だが、それはかなわなかった。ミルクよりも出木杉の方が早かった。

放たれた弾丸は、ミルクの腹を貫いた。ミルクの体が瞬きするまもなく、赤に染まった。

とめどなく流れる血は治まることを知らず、ミルクは倒れた後、二度と動く事は無かった。

【残り15人】


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ドラちゃん! もう、びっくりさせないでよ!」

「ご、ごめん、静香ちゃん。驚かせるつもりは無かったんだけど……」

 あの時、静香(女子1番)を抑えたのはドラえもん(男子1番)だった。

ドラえもんは、銃声の元へと向かう静香を見て危険だと判断し多少強引にそれを引き止めた。
 2人は状況が収まるまで、この部屋でおとなしくしていた。
 しばらくすると、銃声は止み、静寂が戻ってきた。ドラえもんが状況確認の為にドアを少し開け、周りの様子を窺がう。
見ても、誰か人が近くにいるような気配はしない。耳を澄ましても何も聞こえない。

そこには先ほどと打って変わって、耳に痛いほどの静寂に包まれたいた。
 ドラえもんは絶対安全だと判断し、静香を呼んだ。静香も少々不安げにドラえもんの近くに駆け寄る。

「大丈夫……かな? よし、行こう。静香ちゃん」

 周りの様子を観察しながら、ドラえもんは言った。
それに応じて、静香も恐る恐るドアをくぐる。

「行くって言っても……どこに?」

 静香の問いかけに、ドラえもんは言葉を詰まらせた。
少し考えた後、ドラえもんは口を開いた。

「そうだな……。とりあえず、このフロアで何が起ったのか調べてみよう」

 静香はそれに対し、未だ不安げな表情を浮かべながら首を縦に振った。
 ドラえもんはすこし辺りを警戒しながら曲がり角を曲がった。


 その先に待っていたのは、信じたくも無い光景だった。

「静香ちゃん……下がってて」

「え?」

 ドラえもんは静香を下がらせ、前へと歩を進める。
目に映るのは、無数の銃痕。そして――

「グースケ……くん……」

 天井を見ながら息絶えているグースケの変わり果てた姿だった。
眉間からは血を流し、流れ出たその血が辺りを染めていた。
 ふと壁に目をやると、撃たれた時に飛び散ったと思われる血痕がびっしりとついていた。

「ドラちゃん、どうし……キャアッ!」

 突然目に飛び込んだ衝撃に、静香は思わず顔を背けた。
それを見たドラえもんは、すかさず静香の元へと行った。

 2人はまた、過酷過ぎる現状に向き合わされてしまった――

【残り15人】

 

この話は続きます。

 

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