第二十九章「悪夢」
(記:文矢さん)
寝るのが、怖かった。いつ、「アルティメットシイング」が俺の所に来るかも分からないし、何よりも自分がこの自然の中で
何も出来なくなるというのが怖い。そんな事を言っても、宿のある街まで行く事は出来ない。俺に残された選択肢は野宿しかないのだ。
どうして、俺がこの計画に参加してしまったんだろう―― あの日の事を、思い出そうとしていた。確か、俺は研究に参加する前に
大学院にいた。そして、ダチに誘われて……。
詳しい事は思い出せなかった。面倒臭い事はすぐに忘れてしまう。それが人間というものだろう。俺は楽しかった事は全て
思い出せる。「アルティメットシイング」の研究をしていた時の思い出も、一応ある。研究が完成する時の嬉しさからであろう。
頭の中に、奴の姿が浮かんだ。死刑囚を元にして、造ったのだが、できた時にはもう人の体だとは思えなかった。体は変色し、
爪はまるで刃物の様で、そして口には牙が生えていた。理性は、無い。
あいつに襲われた時の事も思い出した。玄関に入った途端、奴が現れたのだ。あいつは顔と体をやられ、俺はただ奴に震えている
だけだった。怪物。正しく、奴こそが怪物なんだ。
その時、街の方に何かがあったような気がした。第六感というやつか、それともただの勘違いか。だが、寝るよりもそっちの方が
今の俺には魅力があった。誰でもいいから人をみたいというのがあったのかもしれない。
街の方には、明かりが灯っていた。何をやるのかは分からない。だが街はほとんど破壊されていて、ここからでも赤い
血の色が見えた。「アルティメットシイング」が、ここまで凄いとは思わなかった。
そして、街の周りにはあの消防士の様なマスクを被った奴らがいた。昼間、俺に声をかけてきたあいつ。そして急に消えたあいつ。
あいつらが、街の周りを囲んでいるのである。
何をやる気だ。何をやろうとしているんだ。何がなんだか分からなかった。
そして、リーダーらしきマスクが叫ぶ。
「計画を、実行せよ!」