第二十章
「能力」
(記:文矢さん)
よくよく考えれば全部、おかしいじゃねぇか―― 何でこんな刑務所に能力者を集めるんだ。俺は能力が無いし、
この天気さんは戦闘向きとはいえない能力だから脱出はできないが、超能力とかそういう能力の奴はこんな鉄格子、
へし曲げることができるじゃねぇか。
牢屋に入れとけば脱出できないとでも思っているのか。この刑務所の人間は。ありえない。俺達を怖がっているから
こんな所に入れたんだ。それを脱出して下さいとまで。
牢屋内を見渡す。まだ天気さんは瞑想を続けていた。よく飽きないな。俺だったら一分も経てば止めてしまうだろうに。
日本の女は全員、こんな感じなのか。俺のダチの女にやらせても、こんなに長くはやれないだろ。俺が出会った女の
ほとんどがそんな奴ばかりだ。まぁ、俺がろくな女に出会っていないだけかもしれないが。
その時、警備員が回ってきた。顔は不細工で、しかも馬鹿そうだ。思わず、鼻で笑ってしまう。だが、その警備員は
気づいていない。ただ、通り過ぎていっただけだった。鈍感な奴だ。ますます笑ってしまう。
「なぁ、天気さん。あんたって風とか雷とかも起こせんのか?」
不意に、脱出する方法を思いついた。だが、この天気さんがそれを受け入れてくれるかが問題だ。優等生ぶっているから、
脱出なんて許さないかもしれない。だから優等生ってのは嫌いなんだ。
「……起こせるけど」
少し間を空けて天気さんは答えた。雷も風も起こせる。という事は十二分に使える能力じゃねぇか。ラッキーすぎるぜ。俺。
「じゃあよ、強風を吹かしてくれねぇか。この刑務所が吹っ飛ぶくらいの」
またさっきと同じ感覚がくるのかと思ったが、今度は何も起こらなかった。ただ、天気さんは黙っているだけ。
脱出する為だと分かっている筈なのに。脱出をしたくないのか。
俺は大きくため息をつく。そして牢屋に大の字で寝転がった。
「能力……か」
天気さんが協力してくれないのなら、俺がやるしかない。だが、俺がどんな能力を持っているのかなんて、分からなかった。
どんな能力が目覚めるのかなんて、分からねぇ。
俺にも何か能力があるのなら、早く発動してくれ――