第十六章「近藤さん」
(記:文矢さん)
賛美歌が終わりに近づいていっているのを感じていた。兵士達の顔が「もう少し」という顔に変わっていっているのを見たのだ。
やっと賛美歌を歌う時間が終わるのか。 俺は考え出す。今、ポケットの中にある武器は「954カスール・ジャンボ・ガン・α」ぐらいだ。
後は殺傷能力など、ほとんど無い。殺傷能力のある秘密道具をもっと持ってくるべきだった。だが、これだけでもかなりの威力だ。
近藤さんが作ってくれた銃。近藤さんが言った一つ一つの言葉が頭の中に響いてくる。周りの賛美歌の音がうるさい筈なのに、
耳には何も聞こえなかった。響いてくるのは賛美歌ではなく、近藤さんの言葉だけだった。
今焦っても、意味は無い。賛美歌を歌っている最中だから下手に動けば怪しまれてしまう。今は派手に動かない方がいい。
落ち着いて、作戦を考えるんだ。
研究所は中にも何人か警備員がいるだろう。「通り抜けフープ」は持ってきていない。侵入系の道具は「ドンブラ粉」が少量あるだけ。
しかもそれは脱出に使おうと持ってきただけだ。体中に塗りつけるともう無くなってしまうだろう。
壁を壊すか―― 思いついた作戦はこれだった。ポケットの中にある「どこかなまど」を開き、自分がいるのと
反対側の壁を「954カスール・ジャンボ・ガン・α」で壊す。すると警備員などはあちら側に行く。そして、こちらの壁を静かに壊して侵入する。
これが一番良い方法のように思えた。簡単に侵入できる。そして「アルティメットシイング」を、破壊する。
そうすれば何もかもが解決するんだ。
『賛美歌、終わり!』
音楽が止まり、歌声も消えた。これで賛美歌は終わったのであろう。やっと、やっとだ。
『全員、宿舎に戻れ!』
兵士達は動き始めた。宿舎にでも行くのであろう。一緒に行きたい所だが、宿舎に行ったら俺の部屋が無いのを必ず怪しまれる。
ポケットの中に何か道具はないか。ポケットを片手で探る。
あった。「石ころぼうし」だ。これで周りの奴らに気にされなくなる。急いで帽子を被り、端へと寄る。兵士達は気にせずに通り過ぎていった。
これで夜まで待とう。あの研究所へと、侵入するんだ。
頭の中には近藤さん、そして仲間達の顔が浮かんできた。「アルティメットシイング」を壊せばあの人たちとまた会える。あの人たちと、また。
近藤さん達の事を考えると、涙が流れた―― 近藤さんは自分の親みたいに慕っていた。
近藤さんがいなければ俺はずっと「アルティメットシイング」の襲撃に怖がっているだけの毎日を送っていたであろう。
あの人が、俺を誘ってくれなかったら。
俺達の未来を掴もう―― 近藤さんが俺達の初めての会議で言った言葉だった。もしかしたら俺達がまとまったのはこの
言葉の存在があったからかもしれない。
陽はどんどん沈んでいった。周りは夕焼けで赤く染まる。研究所では警備員があくびをしていた。
もうすぐ、お前らの所に突っ込んでやるよ。
心臓の鼓動が耳に入ってきた。頬に汗がつたる。
夜よ、やって来い――