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※この作品は無理矢理描写、性描写、暴力描写を含みます。といっても桃川が書くのでぬるめのはず。


賭けをしよう  1

 闇が満ちる、しんとした所内。廊下の奥の方から物音が響いてくる。
 本来なら捕虜たちはもう寝静まっているはずの時間だった。昼間にしこたまこき使われ、夜は娯楽もない房に押し込まれるのだから、これはもう泥のように眠るしかないのだろう。
 そんな時間に、弾力のあるものを打ちつけるような物音。そして獣のような息遣いが聞こえるこの状況は。
 まだ若いイヴァンにも、答えを想像するのは容易であった。

「…………」

 またか、と思う。
 こういったことは何もこれが初めてではない。こんな掃き溜めのような場所でも、男の性欲というものは抑えられないものらしかった。
 ただもちろん、この場所にはその捌け口となる女が存在しない。
 そうなると必然的に、割合小柄な男がターゲットにされるのが常であった。

「ほんと悪趣味だよね」

 ため息をつきながらイヴァンは当該の雑居房へと向かう。
 もちろん覗きをしにいくわけではない。はっきり言って、男同士の性行為など見たいものではなかった。ただ適当なところでこの行為を止めておかないと、昼間の労働に影響が出てしまうのだ。
 それを防ぐべく、多少の不快感を募らせつつもイヴァンは薄い笑みを浮かべ房へと近づく。
 誰もが恐怖を感じざるを得ない、酷薄な笑み。
 今夜は満月でランプを持たずに巡回していたため、明りのせいで房の中の男たちに存在を悟られることはなかった。そうでなくても男たちは行為に没頭しているため、イヴァンの接近に気付かなかったかもしれない。
 こっそりと房に近づき、扉に取り付けられた覗き窓から中の様子をうかがう。
 この雑居房の中にいるのは、6人だった。
 そのうち2人は我関せず、といった様子で、隅の方で横になっていた。3人が1人を輪姦している、といった構図らしい。聞こえる悲鳴は1人が上げるものだけであった。
 襲われている側の男は力を振り絞って抵抗を見せている。けれど。

「あれじゃあ、かえって煽っちゃってるよね」

 イヴァンが心の中で呟くとおり、男たちは抵抗があるたびよりいっそう猛った自身を彼に叩き込んでいる。
 苦痛のうめきや悲鳴しか上がらないことから、襲われる男が被虐嗜好や同性愛嗜好などの特殊な性癖を持つ人間ではないことがうかがえた。
 正しく彼は、強姦されているのだ。
 まったく。いくら女日照りとはいえ、同郷の仲間を襲うなんて日本人はおぞましいものである。
 自国の囚人間でも同様の行為が存在することを棚に上げ、イヴァンは思う。
 汚らわしい獣どもの行為などこれ以上見たくなかった。イヴァンは罰を与えるべく声を上げようとした。
 その時だった。この暴力の被害者の顔が窓からの月光に照らされた。
 彼の表情を見て、イヴァンは声を上げるのも忘れ、菫色の瞳を興味深げに見開く。
 その日本人の外見自体は、極めて標準的であった。
 取り立てて美しい顔立ちというわけでもなく、肉付きがいいわけでもない。特徴と言えば、ただ少し小柄であることくらいだった。
 だがイヴァンにとってはそんなことはどうでもよかった。
 彼が興味を持ったのは、その日本人の目つきであった。
 このような目に遭った人間の目というのはたいてい、怯えきって弱々しいものだ。
 今夜の日本人も同様に恐怖に彩られた目をしているものの、その奥には確かに炎が燃えていたのだ。
 襲いかかる男たちへの反発心を燃やす、不屈の目。
 触れたら火傷ではすまなさそうな熱さがそこにはあった。この国に広がる、凍りついた大地を融かしてしまいそうなほどの。
 その日本人の目が、一瞬こちらに向けられた。

「あはっ」

 知らず、喉の奥から笑いが漏れる。
 彼の瞳の熱にあてられたのか、ウォトカを飲んだ時のように頬が上気するのを感じた。
 男たちは彼の目つきには気付かないようで、貪るように体を打ち付けるばかりであった。
 それでいい。イヴァンは安堵する。
 この目の光に気付くのは自分だけでいいのだ。
 奇妙な優越感に浸りながら、イヴァンはいつの間にか行為に見入ってしまっていた。
 彼の不屈の目がいつ光を失うのか、見届けたくて。
 その一方で、こんな行為なんかでこの光が奪われてほしくない、そう思う自分がいることをイヴァンははっきりと自覚していた。
 この光を奪うのは自分でありたい、と。





 結局、小柄な日本人が気絶するまで、男たちの狂騒は続けられた。
 そしてイヴァンは、本来止めなければいけない立場であるにもかかわらず、黙ってそれを見続けていた。
 男同士の性行為など、あんなに不快に感じていたというのに。
 全てが終わってからようやく、イヴァンは男たちを処罰すべく動き始めたのだった。
 何度も何度も犯され、ぼろぼろにされたその日本人。
 精液まみれの体はどこもかしこも痣だらけだ。
 しかし意識を失う瞬間まで、彼の瞳から強い光が消えることはついぞなかった。
 その事実に、イヴァンの背筋がぞくぞくと震える。
 あの目をもっと見てみたい。あの光が自分にだけ向けられればいい。
 ああ早く、あの日本人と遊んでみたいなぁ!
 男たちに処罰という名の折檻を与えながら、まるで新しいおもちゃを与えられた子供のように純粋な笑みをイヴァンは浮かべた。

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モブ菊。ひたすら菊様が可哀そうな話になる予定。




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