『先輩と私』04

「もー! 先輩何やってるんですか!」  八重田の自室に入るなり、開口一番、陽野が叫んだ台詞がそれだった。  珍しくパジャマを着て、その上にカーディガンを羽織った八重田が、机の上にある同人 誌原稿に向かって一心不乱にペンを走らせている。  その顔面は青白いを通り越して土気色に近く、目の下の隈がはっきりと浮かび上がって いるのが離れていてもわかった。 「風邪引いてるんですから、ちゃんと寝てないとダメですよ!」   連日の疲れから八重田は体調を崩していたにもかかわらず、昨日、息を切らすほど激し く運動したのだから無理もない。しかも全裸で。  結果として学校を休むことになり、今日一日おとなしくしているものと思っていた陽野 だったが、そんな気は八重田にはなかったようだ。 「せっかくもっともな理由で学校を休めるのに、それを活かさない手はないでしょー?」  この調子だと前日から徹夜していることは確実だろう。  朝、学校を休むと八重田からメールを貰ってから陽野は心配していたが、不安は的中し てしまい、思わずため息をついて呟いた。 「自分の健康より同人の方が大事なんですか?」 「うん」  当たり前とばかりに即答された。  色々と言いたいことはあったが、陽野はひとまず部屋の中に入った。  床に散らばった漫画や資料用の雑誌、食い散らかしたお菓子や栄養ドリンクの空瓶を足 でかき分けながら陽野は二度目のため息をついた。  執筆が大詰めに入ると、部屋が散らかるのはいつものことだが、もう少し気遣いがあっ てもいい気がする。 (片づけるのはいつも私だし)  それが習慣になっているのか、陽野は率先して腰をかがめては床の上の散乱物をゴミと そうでないものに区別していく。  その中に『超解! 縛り方全集』という題名を載せた一冊の本が目に留まった。  こっそり頁を開いてみると、自分の知らない新世界が視界一杯に広がり、速攻で閉じた。 (何でこんなのを先輩がって、まさか!)  昨日、陽野は保健室で両方の手首と足首を包帯で縛られたが、八重田はそこから何か思 いつくものがあったのだろうか。  次回に似たような機会があれば、また新しい分野を開発させられるのかと思うと恐怖心 と共に、逆らいがたい期待感に陽野は身をよじらせた。 「何ひとりで悶えてんのヒノちゃん。もうちょっとで終わるから待っててよ」  その言葉通り、適当に部屋の中が小奇麗になる頃には八重田がペンを置いて大きく背伸 びした。 「終わったー。ヒノちゃん、後のベタ塗りお願いねー」  そう言い終えると、八重田が崩れ落ちるようにベッドに倒れこんだ。  机の上を見れば、薄手の厚みを持った原稿が積み重なっていた。あれこそが月末にある 同人誌即売会で販売する新刊なのだろう。  高い人気を誇る八重田の同人誌を誰よりも先に目にすることが出来るのは後輩としての 役得だった。  しかしせっかく見舞いに来たというのに、約束したとはいえ原稿の手伝いをさせられる のが物悲しくて、落ち込む陽野だったが、 「やっぱりあたしの原稿を任せられるのはヒノちゃんしかいないんだよね」 「やらせて頂きましょう!」  おだてられて立ち直るのも早かった。  お見舞いが終わったらすぐに帰るつもりだったが、どうやら後で両親に帰りが遅くなる ことを伝えなければならないようだ。  さっそく八重田に代わって机に向かい、原稿作業に取りかかる陽野の手つきは慣れたも の。漫画研究部に入部してから半年近く、八重田の元で仕込まれただけあってその技術は 部内でも重宝がられていた。  陽野は原稿の指定された箇所を黒く塗りつぶしながら、最近話題にすることが多くなっ た話を口にした。 「先輩。同人もいいですけど、今のままだと本当に高校落ちちゃいますよ?」 「わかってるわかってる」  全然わかってない口振りで八重田が答えた。  枕に顔を埋めて、まるで現実逃避をしているかのような彼女を横目に見ながら、 (おせっかいかな?)  と陽野は思う。  端的に言って、部活の後輩でしかない自分がまるで親や教師のように咎めるのは筋が違 うかもしれない。  だが八重田の両親と言えば、父親は放任主義で、母親はかつて同じ道を辿ってきただけ あって娘を応援するほどだった。  そういう環境で八重田を気にかけるとすれば同級生や担任、そして後輩である自分とい った学校関係者くらいなもの。  あまり口煩いと煙たがれるかもしれないが、いい加減本腰を入れてもらいところだった。 「だって先輩と一緒に高校に入学するなんてイヤですからね」 「うわ、ヒノちゃんそれはちょっとひどいんじゃないの? それってあたしが2年も高校 浪人しちゃうってことでしょ」  さすがの八重田も嫌そうな顔をするのを見て、陽野は初めて彼女を言い負かした気がし て嬉しくなった。  そんな陽野の態度が気に障ったのか、 「ヒノちゃん、お願いがあるんだけど」  八重田が固い口調で尋ねてきた。  悪い予感がして陽野は彼女に振り向くと、 「な、何ですか?」 「おしっこ飲んで」  脈絡のない頼み事に危うくベタ塗り用のペンを落としてしまうところだった。 「ヒノちゃん、原稿汚したらお仕置きだよー?」 「いきなり変なこと言うからですよ! トイレに行ったらいいじゃないですか!」  「だって面倒だし」  言葉少なだったが、八重田は本気で億劫そうにしていた。  彼女が漫画作業に集中すると出無精になることを陽野は知っていたが、まさか排泄行為 までものぐさになるとは思いもよらなかった。  そう言えば、以前夏の同人イベントの原稿作業で修羅場を迎えていた時は、風呂に入る のも面倒だと言われて、汗で汚れた八重田の全身を舌で舐めさせられたこともあった。  結局、余計に汚れてふたりで一緒に風呂に入ったが、その時も八重田から辱めを受けた ことを思い出す。 「ヒノちゃん、ぼーっとしてないで早く飲んでよ」 「で、でも私、そんなこと……」 「もうダメ間に合わない漏れちゃう」 「わかりましたよ!」  取り急ぎベッドに上がって、その勢いのままに八重田のパジャマの下を脱がした。する と、真っ先に無毛の割れ目が現れる。たとえ病気にかかっても下着まで身に着けるつもり はないらしい。  惜しげもなく性器を晒しているのは八重田だったが、何故か陽野の方が恥ずかしそうに 顔を赤らめた。  欲情している時はまだしも、素のままで目にするには躊躇いのある光景だった。  ともかく尿を飲めと言われて、どういうやり方がいいか陽野が逡巡していると、 「あっ、ダメ、ホントに出る」  急かすような言い方に慌てて八重田の股間に口を押し付けた瞬間、生温くて苦味のある 液体が口内に飛び込んでくる。 「んー! んふっ、ふっ、んっ、んんっ!」  思わずむせ返りそうな刺激臭に顔を離しそうになるが、八重田の両脚に頭を蟹挟みにさ れて動きが取れない。 「はぁあああ、気持ちいい〜」  満足そうに身を震わせて排尿の快感に浸る八重田とは対照的に、陽野は次から次へと漏 れ出てくる尿を飲み込むのに必死だった。  どれだけその小さな体に溜め込んでいたのか、一向に終わる気配を見せない。  時おり飲みきれない尿水が口の端から溢れて陽野の顎から喉元にかけて汚していく。 「はっふっ、んんー、んっんく、せ……ぱい、まだで、んっ!」 「ほらほら、こぼしちゃダメだって」 「んー!!」  八重田が頭を挟む脚に力を込めれば、密着度がより強まって陽野の口はおろか鼻まで塞 がった。  呼吸することすらままならず、少しでも早く尿が出し切らせようと陽野は尿道口を舌先 でくすぐった。 「きゃっ! こらヒノちゃん、何勝手なことしてるの!」  不意打ちを食らって思わず漏らした情けない声を誤魔化すように八重田が頭を叩いてく るが、気にすることなく小さなすぼまりを責め続ける。 「はっ、あっ。もう……後でひどいんだからね」  何がどうひどいのか陽野は気になったが、何度も排泄器官を刺激し続けたおかげで利尿 効果があったのか、流れ出る尿の勢いが次第に衰えてくるの感じた。  八重田も排尿に終わりが近づいているのを感じた様子で、最後にひとつ大きく身震いす るとすべての尿を出し切った。 「んっ、ありがとヒノちゃん」 「は……はい」 「でも、おしっこをこぼした罰として汚れた所をキレイにしてね」  脳に酸素が足りないせいで抵抗する考えすら失って、陽野は言われるがまま尿にまみれ た八重田の秘所を舐め回す。 「ん……、ふっ……む、んっ」 「はぁあん、上手だよヒノちゃん。あっ、はっ……あたし、気持ちよくなってきたかも」  確かに唾液や尿液とは明らかに違う粘り気を帯びた液体が膣肉を濡らし始めていた。  八重田を感じさせているとわかって、今までのお返しとばかりに陽野は舌先を激しく動 かして責め立てる。 「あ……はぁ、ん……んふぅうう」 「そ、そんなに気持ちいいんですか先輩!?」  淫らに艶めいた声に陽野は喜び勇んで顔を上げたが、 「ぐーぐー」  いつの間にか八重田は胡散臭い寝息を立てて眠っていた。 「嘘ですよね? 先輩……えっと、本当に寝ちゃったんですか?」  その問いかけに反応はなく、ただ緩やかな寝息が返ってくるだけだった。  もしかすると今までの喘ぎ声はただの寝言だったのだろうか。 「起きないと悪戯しちゃいますよ……?」  試すように右手指でもって八重田の膣口をくすぐるが目を覚ます気配はない。  よほど疲れていたのか、八重田は尿を出し終えた安心感から深い眠りに落ちてしまって いた。  肩を透かされた感じで陽野は、残念そうに視線を八重田の股間に落とすと、黄色い雫が 尻の谷間に垂れ落ちていくのを見た。 「……ここも綺麗にしないとダメですよね」  八重田に確認を取るというより自分に言い聞かせて陽野は生唾を飲み込んだ。  軽く八重田の腰を持ち上げて、両手で小振りの尻を左右に割り開くと、少し色の濃い肌 色をした肛門が見えた。  八重田の許可なくしては見ることも触ることも出来ない秘穴を目の当たりにして、陽野 は深く息を漏らした。 「先輩のアナル、可愛いです……」  陽野は恐る恐る舌を伸ばし、尻穴の縁に留まった水滴を舐め取ろうとした。  だがその時、 「ヒノちゃん」 「はいぃっ!」  誰何の声に驚き、陽野は飛び跳ねるようにベッドから降りて意味もなく正座した。  無闇に大きく鳴り響く心臓を落ち着けるために、深呼吸をしながら陽野は八重田の次の 言葉を待った。  ただの10秒がその何倍の長さで感じられるほど緊張を強いられつつ、1分、2分と時間が 流れていくが八重田が起き出す様子はない。  いぶかしんだ陽野は耳を澄ますと、八重田が口の中で呟いているのが聞こえた。 「ん〜……ヒノちゃん、ここがいいの? いいんでしょ? エッチなんだからもう……」  どうやら夢の中で八重田は楽しんでいるらしい。  時おり両手を浮かせて何か丸まったものをこねるような動きを見せる姿が印象的だった。 「せんぱ〜い!」  夢でも現でも恥辱的な目に遭っているのかと思うと泣けてきて、陽野は本気で仕返しを 考えた。だが、その思いとは裏腹に剥き出しになっていた八重田の下半身に下着を履かせ、 パジャマを元に戻してあげた。 「本当、私ってお人よしだなぁ」  どこまでも悪いことは出来そうにない自分に安堵する。  最後に八重田の体に布団を被せようとして、その寝言をはっきりと陽野は聞いた。 「ヒノちゃんはぁ、あたしだけのモノなんだから……。言うこと、聞かなきゃ、しゃ…… しんバラまいちゃうよー……ぐー」  やけに具体的な内容がおかしくて微笑み、そして首を傾げた。似たような台詞を最近ど こかで聞いた気もするが、いつのことだったかは思い出せない。  それでも陽野は心が浮つくのを止められなかった。 「私は先輩だけのもの」  それを八重田のどういった好意の表れか考えるのは難しかったが、少なくとも彼女にと って自分が必要な存在だと思われている確信はあった。 (本当は先輩に好きって言ってもらいたいし、言いたいけど)  いつかそうなればいいなと思いつつ、陽野は言葉の代わりにひとつの行為でもって気持 ちを表した。  それが眠っている八重田に伝わらなくてもかまわない。  陽野は恋人にするように、キスをしたのだ。                                      (Fin)

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