呪わしきハムレット11
男のみが出演する劇団KONのハムレットは、無事埼玉公演を終えることができた。
一番最初、台詞が飛んでいた高崎も、場数を踏むごとに余裕も出てくるようになって、最期の公演な
んか、稽古の時にはなかったアドリブも入れてくるようになった。
そんな高崎の演技を見て、俺は彼もまた強力なライバルの一人であることを実感していた。
高崎だけじゃない。
倬弥や晴沢も。
いつしか、一つの役を巡って争うライバルになり得る存在だ。
だけど、どんな相手が向かって来ようと、俺は全身全霊かけて演じるのみ。
今ある舞台を、この空間を味わい、最後には演じてて、楽しかったと思える世界を作り上げたい。
三日後、ハムレットの打ち上げがKONのスタジオ内で行われていた。
今さんの知り合いのシェフが作ったオードブルが並び、礼子さんをはじめ、KONメンバーの飲んべえ
たちが用意したお酒。もちろん飲めない人や未成年の為のソフトドリンクも豊富。俺は缶チューハイ飲
んじゃってるけどね。
ただ、空きっ腹に飲んでしまったせいか、思いの外アルコールの廻りが良すぎて、俺は酔い醒まし
に、屋上へ出ることにした。
相変わらず、解放感がないけど……今日は月が綺麗だな。
屋上の手すりに凭れ、一つ息をつく。
そこに。
「や、浅羽君!」
頬に冷たい感触。
振り返るとウーロン茶の缶を持った工藤さんがにこにこ笑って立っていた。
「あ、工藤さん」
俺はウーロン茶を受け取りながら、工藤さんに笑いかける。
それをどうとったのか。
工藤さんもまた嬉しそうに頷いて言った。
「良かった。浅羽君もいい顔しているね」
「工藤さん?」
「君も“ハムレットの舞台”をこなして、憑いていたものが取れたのかなって」
「じゃあ、工藤さんも」
不思議そうに尋ねる俺に、工藤さんも満面の笑みを浮かべて頷いた。
「うん。今回の舞台も凄く楽しかった。オフィーリアを演じきったことで、ハムレットを演じられなかった
後悔が解消されたっていうか……」
「あ、それ。俺も同じ気持ちです。なんかハムレットがいい思い出に変わった感じ?」
「そう!それ」
そう言ってから工藤さんは俺のウーロン茶に、自分の缶ビールで乾杯をする。
そっか。
工藤さんも同じ気持ちだったんだ。
なんか嬉しいな。
工藤さんは手すりに凭れ、空を見上げる。
美少女顔と呼ばれる工藤さんだけど、その横顔は男にはない凛々しさがあった。
そうなんだよな、この人本当は格好いいんだよなぁ。
「でも、いつかはハムレットもやりたいよね」
工藤さんの言葉に、俺は大きく頷く。
「そりゃそうですよ。でもハムレットだけじゃなくて……オセロやジュリアス・シーザー。
リア王もやりたいし……」
「あとはマクベス!!。永原さんのマクベスも格好良かったもん」
そうそう、そういえばこのハムレットの稽古が始まる前、工藤さんたちと永原さんの舞台見たんだよ
な。
そうだよなぁ。
いつかあんな凄いマクベス、俺も演じられたらいいよなぁ。
俺はウーロン茶の缶を開けて、一口飲んでから空を見上げる。
今日は良い天気だな。
こんな都会の真ん中でも、今日は星が綺麗に見えるし。
呪わしきハムレットは今日でさようならだ。
俺は空に向かって乾杯のポーズをとった。
その時、ばんっと勢いよく屋上の扉を開ける音がした。
びくっとして振り返ると……わわっ、なんだか意外な二人組。
倬弥と晴沢が肩を組んで、千鳥足で現れた。
「工藤さん……俺もう飲めません」
「浅羽ぁぁ……俺は諦めたわけじゃないぞぉぉ」
お互いの顔を両手で挟み言い合う二人。
だが、顔の認識が出来ていないぐらいに酔っ払っているのか、倬弥は晴沢のことを工藤さんと思い込
み、晴沢は倬弥のことを俺だと思い込んでいるようだ。
「あーあ、二人とも酔いすぎ」
工藤さんが肩をすくめる。
その声を聞いた倬弥はぎょっとする。
「あれ?工藤さんが二人??」
……ホントに酔いすぎだろ、お前。
顔全然違うし。
しかも晴沢も晴沢で、倬弥と俺を交互に見て。
「浅羽が二人……」
などと言っている。
なんか結構似たもの同士なのかな?こいつら。
二人はそのままずるずるとそこにへたり込み、ぐうぐうと寝息を立て始めたのであった。
その後、俺たちは倬弥と晴沢を引きずるようにして仮眠室へ連れて行った。
二人はそこで仲良く就寝。
翌朝、同じ布団で寝ている状態に、彼らが蒼白になったのは言うまでもなかった。
一番最初、台詞が飛んでいた高崎も、場数を踏むごとに余裕も出てくるようになって、最期の公演な
んか、稽古の時にはなかったアドリブも入れてくるようになった。
そんな高崎の演技を見て、俺は彼もまた強力なライバルの一人であることを実感していた。
高崎だけじゃない。
倬弥や晴沢も。
いつしか、一つの役を巡って争うライバルになり得る存在だ。
だけど、どんな相手が向かって来ようと、俺は全身全霊かけて演じるのみ。
今ある舞台を、この空間を味わい、最後には演じてて、楽しかったと思える世界を作り上げたい。
三日後、ハムレットの打ち上げがKONのスタジオ内で行われていた。
今さんの知り合いのシェフが作ったオードブルが並び、礼子さんをはじめ、KONメンバーの飲んべえ
たちが用意したお酒。もちろん飲めない人や未成年の為のソフトドリンクも豊富。俺は缶チューハイ飲
んじゃってるけどね。
ただ、空きっ腹に飲んでしまったせいか、思いの外アルコールの廻りが良すぎて、俺は酔い醒まし
に、屋上へ出ることにした。
相変わらず、解放感がないけど……今日は月が綺麗だな。
屋上の手すりに凭れ、一つ息をつく。
そこに。
「や、浅羽君!」
頬に冷たい感触。
振り返るとウーロン茶の缶を持った工藤さんがにこにこ笑って立っていた。
「あ、工藤さん」
俺はウーロン茶を受け取りながら、工藤さんに笑いかける。
それをどうとったのか。
工藤さんもまた嬉しそうに頷いて言った。
「良かった。浅羽君もいい顔しているね」
「工藤さん?」
「君も“ハムレットの舞台”をこなして、憑いていたものが取れたのかなって」
「じゃあ、工藤さんも」
不思議そうに尋ねる俺に、工藤さんも満面の笑みを浮かべて頷いた。
「うん。今回の舞台も凄く楽しかった。オフィーリアを演じきったことで、ハムレットを演じられなかった
後悔が解消されたっていうか……」
「あ、それ。俺も同じ気持ちです。なんかハムレットがいい思い出に変わった感じ?」
「そう!それ」
そう言ってから工藤さんは俺のウーロン茶に、自分の缶ビールで乾杯をする。
そっか。
工藤さんも同じ気持ちだったんだ。
なんか嬉しいな。
工藤さんは手すりに凭れ、空を見上げる。
美少女顔と呼ばれる工藤さんだけど、その横顔は男にはない凛々しさがあった。
そうなんだよな、この人本当は格好いいんだよなぁ。
「でも、いつかはハムレットもやりたいよね」
工藤さんの言葉に、俺は大きく頷く。
「そりゃそうですよ。でもハムレットだけじゃなくて……オセロやジュリアス・シーザー。
リア王もやりたいし……」
「あとはマクベス!!。永原さんのマクベスも格好良かったもん」
そうそう、そういえばこのハムレットの稽古が始まる前、工藤さんたちと永原さんの舞台見たんだよ
な。
そうだよなぁ。
いつかあんな凄いマクベス、俺も演じられたらいいよなぁ。
俺はウーロン茶の缶を開けて、一口飲んでから空を見上げる。
今日は良い天気だな。
こんな都会の真ん中でも、今日は星が綺麗に見えるし。
呪わしきハムレットは今日でさようならだ。
俺は空に向かって乾杯のポーズをとった。
その時、ばんっと勢いよく屋上の扉を開ける音がした。
びくっとして振り返ると……わわっ、なんだか意外な二人組。
倬弥と晴沢が肩を組んで、千鳥足で現れた。
「工藤さん……俺もう飲めません」
「浅羽ぁぁ……俺は諦めたわけじゃないぞぉぉ」
お互いの顔を両手で挟み言い合う二人。
だが、顔の認識が出来ていないぐらいに酔っ払っているのか、倬弥は晴沢のことを工藤さんと思い込
み、晴沢は倬弥のことを俺だと思い込んでいるようだ。
「あーあ、二人とも酔いすぎ」
工藤さんが肩をすくめる。
その声を聞いた倬弥はぎょっとする。
「あれ?工藤さんが二人??」
……ホントに酔いすぎだろ、お前。
顔全然違うし。
しかも晴沢も晴沢で、倬弥と俺を交互に見て。
「浅羽が二人……」
などと言っている。
なんか結構似たもの同士なのかな?こいつら。
二人はそのままずるずるとそこにへたり込み、ぐうぐうと寝息を立て始めたのであった。
その後、俺たちは倬弥と晴沢を引きずるようにして仮眠室へ連れて行った。
二人はそこで仲良く就寝。
翌朝、同じ布団で寝ている状態に、彼らが蒼白になったのは言うまでもなかった。
END
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