春来10’
湊が使っているベッドは白い寝具で統一されていた。
ベッドの上に腰をかけた俺は、次の瞬間緊張が走った。
湊は背中を向けて、シャツを脱いでいた。
肩のラインが現れ、次によく引き締まった背中が現れる。
ズボンのベルトも外し、それから下着も。
男から見ても、背中から脚まで、文句の言いようがないボディーラインだ。
え……!?
ま、待ってくれ、俺。
相手は男だぞ!?
男なのに身体が反応するなんて。
「お前……まだ脱いでないのか?」
湊の裸体がこっちに近づいてくる。
やばい……今、服なんか脱いだら。
でも、このままだと変に思われるし、とりあえずシャツだけは。
落ち着け、俺。
お前は役者だろ?
うう……でも役者でもどうにもならないことってあるよな。
どうしても制御できない場所もある。
ゆっくりとシャツを脱ぐと、湊が横に座り、俺の腰に手を回し、唇を重ねてきた。
ぬるりとした感触が唇を割って入ってくる。
湊の舌先が口腔内の隅から隅まで愛撫する。
「あ……ふ……」
今までにない濃厚なキスだ。
まともに息が出来ないほど唇を塞がれて、舌と唾液がからむ音が部屋に響く。
演技でも、こんなに熱くて、こんなに感じるキスなんかなかった。
今までのは本当に演じていたに過ぎなかったんだ。
俺たちはそのままもつれ合うみたいになってベッドに倒れ込む。
キスは唇から首筋、それに鎖骨にも移動する。
優しく這う唇の感触は柔らかくて、温かくて。
それが胸の先端にたどりつくと、今度はぬるっとざらついた、冷たい感触がする。
そ、そんな所嘗められたら……身体がますます反応して。
「あ……っ」
びくんっ、と全身が震えると同時に、俺自身も次第に固くなってきて。
湊が俺のジーンズに手を掛ける。
「や……駄目だっ!」
慌ててそれを静止する俺に、湊が訝る。
今、脱いだら、ダメだ。
「何故?」
あくまで問いかける声は優しい。
「駄目なものは駄目だ……」
抵抗の声は弱々しくて、全然説得力がない。
それどころか、湊はくすりと意地が悪い笑みを浮かべている。
俺の弱々しい抵抗も空しく、ジッパーはおろされた。
前ボタンも外されて、湊の手によって下着ごとジーンズが引き降ろされる。
俺はついに湊に、一糸まとわぬ姿をさらすことになった。
だけど、肝心な部分は恥ずかしくて右の手で隠していた。
湊はそれもどかせようとするけど、俺はその部分だけは見せたくなくて、身体を丸めて必死に抵抗
する。
する。
「恥ずかしがることないだろう。俺だって同じなんだから」
「……」
確かに湊自身も……俺の身体で反応したってことだろうか。
俺も男だけど。
恐る恐る、俺は丸くしていた身体の力を抜いた。
湊に促され、隠していた手も退ける。
やっぱり恥ずかしい。
顔から火が出る思いだ。
湊の手が硬くなったその部分に触れてくる。
「や……やだ」
初めて他人に触れられた。
自分で触る感覚と全然違う。
お、俺だってオナニーぐらいはするからな。
熱い指がゆっくりとその部分をなぞり上げる。もう一方の左手は腰から下に回った。
指先が尻の割れ目をつっと撫で上げる。
「あう……」
指先が少し触れただけなのに。
まるで電流が走ったかのような衝撃を覚える。
その間にも湊は胸の先端を口に含み、軽く噛んでは嘗める行為を繰り返していた。
俺も湊自身に触れようと試みるけど、向こうの方が上手だ。
一度にあらゆる場所から刺激を与えられて、俺の身体は麻痺したように動かなくなる。
「み……みなと」
せいぜい名前を呼ぶのが精一杯で。
目も涙でぼやけて、まともに湊の顔を見ることすらできなかった。
「可愛いな」
湊の言葉に、俺は顔から足先まで熱くなる。
そんなこと言われても嬉しくなんか……。
むっとして軽く睨みかけたとき。
涙でぼやけていた視界が不意にはっきりと見えるようになる。
こっちを見詰める湊の目は凄く優しくて……優しいなんてもんじゃなくて。
どこか嬉しそうな、それでいて、どこか慈しむような。
なんでそんな目をするんだ?
「ムキになって睨む顔も可愛いな」
「……」
そんな顔されたら腹を立てたくても、立てられないじゃないか!
やっぱり俺、この人には逆らえない。
惚れた弱みって奴なんだろうか。
湊が喜ぶなら、可愛いでもなんでもいい。
そんな風に許してしまう俺は、本当にこの人のことが───
「洋樹」
さっきの優しい眼差しが別の眼差しに変わった。
真剣な……いや真摯な。
その目を見た瞬間、俺には分かってしまった。
この人が何を求めているのか。
俺は黙って頷いた。
暫く尻のラインを確かめるように軽く触れていたけれども、やがて指先が中へ割って入ってきた。
「はっ……うんっ……」
そんなところ、誰にも触らせたことなんかないから、にわかに俺の身体に緊張が走る。
長い指が一本入っただけなのに、きつくて、痛くて俺は硬く目を閉じる。
こんな状態じゃ先に進めない。
最終的には湊のあれが……指一本でこんな状態じゃ、とてもじゃないけど、受け入れられそうもな
い。
い。
すると湊は一度指を引き抜くと、ベッドから離れた。
「……?」
俺は訝しげに顔をあげると、湊は大阪公演から戻ってからそのままにしてあるボストンバックを開け
て中から瓶のようなものを取り出す。
て中から瓶のようなものを取り出す。
「なに……それ」
「オイル」
「オイルって……?」
「ホホバオイルって奴だ。妹からもらった化粧品の一種なんだが、肌荒れや虫さされ、傷にも効く万能
薬にもなる」
薬にもなる」
湊はベッドに戻ると、そのオイルを指先に垂らした。
瓶を床に置いてから、その手で俺の足を開いた。
そして、オイルの絡まった指が、入れる場所を押し広げた。
す……すごく恥ずかしい。
そんな風に広げられて、誰かに見られたことなんかなかったから。
ひやりとした感覚がしたと思ったら、ぬるりとした感触と同時に指が入ってきた。
今度はスムーズに指の付け根まで入った。
指は一本から二本に増え、中を丹念に押し広げる。
オイルのおかげか、先ほどよりも窮屈感もなければ痛みもない。
「う……」
さらに指がくわえられ、俺は呻いた。
少しきつい……だけど気遣うようにゆっくりと入ってきた指もまた、だんだん中で馴染んでくるのが
分かった。
分かった。
しかも。
「あぅ……」
突然窮屈感も吹っ飛ぶような快感が全身を貫いた。
湊がその時、ふっと笑みを浮かべた。
なに……この感じ。
やばい……やばいっ!
「……っ!」
一気にその部分を攻められ、俺はこれ以上になく目を瞠る。
こんな……こんなの初めてだ。
これ以上、こんなことされたら。
既に先端に透明な液を滴らせている俺自身が限界の声を上げている。
不意に湊は指の動きを止めた。
ほっと息をついたのもつかの間、指が引き抜かれる。
「うっ……」
突然消え失せた快楽。
俺はその時、懇願するような目で湊のことを見ていた。
止めないで欲しい。
もっと触って欲しい。
恥ずかしいとか、そんな概念が吹っ飛んでいた。
身体を貫いたあの快感がそれを全部打ち消していた。
「……分かっている」
湊は頷いて、今度は両手で俺の足を広げた。
そしてオイルで馴染んだその部分に、先ほどよりも熱くて硬いものがあてがわれる。
「あ」
息が止まった。
再び圧迫感が襲う。
さっきと違って徐々に太さが加わるわけじゃない。
「一度呼吸するんだ」
来嶋の声に俺は一度深く深呼吸をした。
息を吸って吐いた瞬間、反射的に力が抜ける。
その瞬間、俺の身体は異物の侵入を許した。
熱くて硬い湊の先端が入り、ゆっくりと奥まで押し進めてゆく。
「う……うう……」
「力を抜いて」
む、無理。
身体が引き裂かれそうだ。
痛みで気が遠くなる。
だけど湊の手が俺自身を掴んで、愛撫を繰り返してくる。
その気持ちの良さは、後ろの痛みが少し紛れた。
俺の中に湊がいる。
身体の奥まで湊が入ってくるのが分かる。
「洋樹……」
その時、湊がまた何とも言えないぐらいに、嬉しそうな笑みを浮かべる。
その顔を見て、全部入ったんだ、と俺は確信した。
最初はかなり痛かったけど、次第に中で馴染んでいくのを感じる。
「動くぞ」
湊の言葉に俺は頷いた。
身体はもう一杯一杯で、どうしていいか分からないけど。
この人が今一番求めていることに答えたかったから。
俺の中にある熱いそれは、ゆっくりと中で動き出した。
「あ……っ!」
俺は目を見開く。
また、だ。
さっき指で散々刺激を与えられた場所。
今度は湊自身の熱くて大きなそれが擦り上げてくる。
俺は首をのけぞらせ、なんとか湊の名を呼ぶ。
「や……み、みなとぉっ……」
湊の動きは次第に速く、激しくなる。
俺はその首に手を回し、必死にすがりつく。
「あ………あ……あんっ……」
自分でも信じられない声だ。
こんな声が出るなんて。
俺、なんかヤラシイ。
「洋樹、お前最高だよ」
湊が熱い声で囁いて、唇を重ねてきた。
身体と身体が本当に一つになったみたいだ。
俺は湊の背中に手を回す。
やっぱり、この人が好きだ。
湊の身体がこれ以上になく俺を満たしてくれる。
湊の指が俺自身に絡まった。
腰の動きと同時に締め上げてくる刺激に、俺は気が遠くなりそうだった。
このままあの世に行ってしまいそうだ。
まだ死にたくないけど。
だけど全身がもう湊で一杯になって。
意識が消えそうになる。
「洋樹っ……」
湊の声が、俺を現世に留めた。
そして次の瞬間。
快感は最高潮に達し、俺と湊は同時に果てたのだった。
気が付くと、俺はベッドの上で微睡んでいた。
そして湊も。
何だか無邪気な顔をして寝てる。
さっき俺を求めていた時とは別人だ。
「……」
不意に俺は先ほどの行為を思い出して、顔が真っ赤になる。
そ、そうなんだよな。
俺、この人とセックスしたんだ。
今更ながらに恥ずかしくなって、俺は思わず湊に背中を向けて寝返りを打つ。
うわ……今頃になってドキドキしてきた。
「洋樹」
不意に声を掛けられ、俺はびくっと肩を上下させる。
「逃げるなよ、洋樹」
後ろから抱きしめられる。
「べ……別に逃げているわけじゃ……ただ、何か恥ずかしくなって」
「恥ずかしい?こうすることが?」
湊の指が俺の胸の突起を撫で回す。
「う……ば、馬鹿……」
「本当にここ、弱いんだな」
「う、うるさい」
「今日、稽古は何時からだ?」
「え……!?あ……ああ、三時からだよ。軽いリハと打ち合わせだけだし」
「三時か。それならもう一度ぐらいできるな」
「え!?……な、何を」
首筋に口づける湊に、俺の身体はびくんと震える。
も……もう一度って。
「嘘。お前が稽古中倒れたらいけないから、一回で我慢しておく」
そう耳元で囁く声は、妙に温かくてくすぐったい。
だけど一回で我慢だなんて……こいつ何回やるつもりなんだろうか。
もうしない、とか言いながら、湊の指は胸の先端を弄っていたり、もう一方の手も下腹部のあたりを
撫で回していて。
撫で回していて。
軽く触れているだけなのだけど、その軽くがなんともいえない感触で、また変な気分になりそう。
「み、湊……もう……」
触るのを中断して欲しい。
と言う言葉が出てこなかった。
もう止めて欲しいと思う一方、このまま触っていて欲しいという思いが邪魔をしている。
「どうした?洋樹」
俺のそんな心情を読んでいるかのように、来嶋はくすくすと笑いながらわざとらしく問いかける。
「う……っ」
俺はその問いに答えられなかった。
湊の手が俺自身を優しく撫で上げたからだ。
あくまでソフトタッチなのが、もどかしさとある種の期待感をかき立てて、俺自身は意志に反してだん
だん固くなってきた。
だん固くなってきた。
「ちょっと触っただけなのに……やらしいな」
湊の言葉に、俺は顔が真っ赤になる。
そ、そんなこと言われても、そんな風に触られたら誰だって。
「や、ヤラシイのはあんただろ!?」
必死になって言い返すと、湊は俺の首に腕を回し、身体をくっつけてきた。
そして。
「ああ、その通りだ」
あっさり肯定したと同時に、俺の太腿あたりに固いものが当たる。
それが湊自身だと分かった瞬間。
俺の片足は持ち上げられて、広がった入り口に固くなったものが入れられた。
さっきのセックスで、俺の中には湊が出したものが残っている。それが潤滑剤の代わりになり、先ほ
どと違って、今度はあっさりと湊自身の侵入をゆるし、根元まで受け入れてしまった。
どと違って、今度はあっさりと湊自身の侵入をゆるし、根元まで受け入れてしまった。
「すまない……もう一度お前が欲しくなった」
「馬鹿……湊の馬鹿……っ!!」
言いながらも、素直な俺の身体だ。何度も突き入れてくる湊自身に歓喜し、すっかり固くなってしま
っていた。
っていた。
結局もう一度、俺も湊も同時にいってしまった。
湊の馬鹿……。
この後稽古もあるのに、これでぶっ倒れたら湊のせいだ。
つーか、俺も馬鹿だ。
本気で抵抗しようと思ったら出来たのに。
「洋樹……」
湊は再び後ろから俺を抱きしめてきた。
今度はどこかしら触るようなマネはせず。
ただ抱きしめるだけだった。
「湊?」
首を傾げる俺に湊は言った。
「此処は近々引き払うことになると思う。少し広い部屋に変えようと思ってね」
「え……」
思わず俺は湊の顔を見上げた。
「条件付で、お前も住まわせてやってもいいぞ」
「条件?」
「ああ。これからは同居じゃなくて同棲すること」
「……っ!」
湊は俺の肩に顎を置いて囁いた。
とても甘い声で。
「俺の恋人としてずっと傍にいること。それが条件だ」
つづく
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