……アキラだ。
抱きしめた腕の中に、アキラの体温がある。毎日会ってはいたが、こうして温もりを感じられたのは一週間ぶりだ。そのせいか、自然と腕に力がこもる。
「お……おいっ」
苦しいから離れろ。と言われ、慌てて体を離すと、ムスッとしたアキラの顔が目に入ってきた。
「ご、ごめん。嬉しくって……つい」
思ったままの言葉が出る。
本当に嬉しかった。
もしかしたら、アキラの無実がわかるまであの場所から出られず離ればなれになっていたかもしれない。そう考えると、再びこうしてアキラが外に出れたことは、ケイスケにとって何よりも嬉しいことだった。
「……ケイスケ?」
「えっ?」
それをしみじみと感じていたせいか、声をかけられていたことに気がつけず、アキラの声に勢いよく顔を上げる。
「ごめん。何?」
「いつまでもここにいても仕方がないから、場所を移動するって言った」
「うん。あ、近くに公園があるから、そっちがいいかも。今日は晴れてるし」
ホテルに帰る。という選択肢もあったが、あの部屋は昼間でも薄暗い。そのため、面会に行った帰りにもすぐにホテルへと戻ることはほとんどなかった。そして一人で時間をつぶしていたのがその公園だ。
「わかった」
戻らない理由は特に聞かれず、アキラはそう頷き返すとゆっくりと歩き出した。ケイスケもその横に並んで歩きはじめる。
内戦が始まった。そうはいっても、少し離れたこの街にその戦火が届くことはないらしい。CFCの先制攻撃で開戦したとニュースでやっていたが、他の国の増援が一気に日興連側についたため、これから戦況は日興連に有利になっていくと言われていた。しかし、そんな状況よりもアキラの処遇が一段落したことの方がケイスケにとってよっぽど重要なことだ。
「結局、内戦が終わるまで保留って形になった」
公園に向かいながら、アキラが前を向いたままそう呟く。
アキラはなにもしていないのに。そう思う気持ちがケイスケの中から消えることはなかったが、どこか晴れ晴れとした表情を見せたアキラを見ると、ほんの少し安心できた。
「そっか……」
「あぁ」
毎日話をしていたというのに、いつものように言葉が出てこない。アキラもそうなのか、しばらく二人の間に不自然な沈黙が続く。
あんなに話したいことがあったのに――。
昨日の夜、眠れなくなってまで何を話すかを考えていた。それなのに今の状況を思うとどこか可笑しく思えたが、今はこうして並んで歩いているだけで満足だった。
「あ、あのベンチあいてるね」
「じゃあ、そこにするか」
「うん。それじゃあ俺、なにか飲み物買ってくる」
「あぁ」
アキラが座ったことを見届けてから、ケイスケは近くにある自動販売機へと駆け出した。
情勢が悪いこともあって、あまりこの公園に人の姿はない。それはケイスケが一人でここに来ていた間もそうだった。それでも数人の子供達が遊ぶ姿や、楽しそうな声がするのは、やはり救われた気分になる。
そんなことを思いながら飲み物を買い、ふっとアキラの方を見たケイスケは、思わず小さく息を飲み、出そうとしていた足がピタリと止まった。
視線の先には、どこか穏やかな表情で駆け回っている子供に目を向けているアキラがいた。優しい。というよりはやはり穏やかと言った方が近いだろう。それを見た瞬間、ケイスケの胸はグッと鷲掴みされたように苦しさを訴えた。
一週間ずっと考えていたことがあった。
今までのこと。
これからのこと。
自分はなにをしたのか。
自分はこれからどうしていくのか。
アキラがいない一週間はそればかりを考えていたようにも思える。
今までのことは、全て忘れずに刻み込んで生きていくと決めた。
そして、これから――その答えは今ケイスケの視線の先にある。
アキラを守りたい。
ずっと思ってきたことだったのに、少し前に考えていたそれとはどこか違っている。誰かと比べるのではない。アキラがトシマで自分に向かって言ってくれたように――。
「俺は、俺のまま……」
ああいう穏やかな表情のアキラも、もちろんいつものアキラも。そして、まだ自分が知らないアキラも――。
なにかに誓うように呟く。すると手元で小さな音が鳴り、思わず手にしていた缶を強く握っていたことに気がついた。それで我に返り視線をまた前に戻すと、遅いと思ったのか、アキラがケイスケの方に視線を向けていたため目が合う。
「あ……」
なにやってんだ。とでも言いたげに首を傾げ、アキラがこっちに来ようと立ち上がろうとする素振りを見せたため、ケイスケは慌てて走り出した。
「ごめん。遅くなって」
「どうかしたのか?」
「ううん。今日は空が真っ青だな……って、思ってたんだ」
とっさに言葉に出たが、本当に今日は天気がいい。すると、隣にいるアキラは一度空を見上げ、そうだな。とだけ呟いた。
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*あとがき*
一週間ケイスケがなにを考えていたか。がテーマでした。
アキラのことを含めた、自分のこと。もちろん軸になるのはアキラの言葉で。
人はたまーに自分をちゃんと見つめたりすると思うけど、ケイスケにとってそれはアキラと離れているときだったらいいな。って思って捏造しました(笑)
アキラありきのケイスケだからこそ、決心は一人で。みたいな。
書いててケイスケは褒めて伸びるタイプなんだと改めて思いました。
次はアキラ視点。本当は甘くする予定だったのが全くならなかったので、次こそは甘くしたいです。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
3/20