「やはりきみの扱いは保留という形で決定しそうだよ」
一週間二人の担当をしていた男がそう昼間に言っていた。
現時点で事実を確認する手段がないため、日興連としてもそうせざるを得ないのだろう。
その間はもちろんCFCに戻ること、そして居場所を明らかにすることが絶対条件になる。しかし、もともと向こうに帰るつもりがなかったアキラにとってみれば、自由にしていいと言われたのと大して変わりがない。
そして、その一歩となる日が明日だ。一週間過ごしたこの部屋にも、もう二度と来ることはないだろう。なんとなく高ぶった気持ちのせいか、今日は眠れそうになかった。
部屋から唯一外を見ることができる窓。することがなくて何気なく見ていた月は、一日一日満ちて今日は満月になっていた。今になって考えてみれば、こうして空を見上げることなどもう随分としていないように思えた。
――俺は、アキラと生きたい。
月の輪郭をなぞるように視線を動かしていると、ふと拘留される前に聞いたケイスケの言葉が思い浮かんでくる。
これからどうするのか。そう問いかけたのは、これから先に歩いていく道をケイスケに自分で決めて欲しかったからだ。
だからもし、あの時CFCに帰るという言葉が返ってきたとしても、それを受け入れるつもりでいた。自分は与えられた家族と上手くいかなかったが、ケイスケはそうではない。だから、帰るという選択肢もあると思っていた。
しかし、すぐに答えを返し真っ直ぐにアキラを見つめる瞳は、一切揺らぐことがなかった。真っ青な空の下で、その青さが真剣な瞳に映っていたのを、すぐに思い出すことができる。
「……っ」
あの時のことを考えると胸がぐっと締めつけられる。考える度にこうなるのは、一体なんなのだろう。
どこかはっきりと形にならない自分の気持ちに、視線の先に浮かぶ満月を見ながらアキラは小さく息を吐いた。
「本当に毎日来たんだよな……結局」
呆れるように軽く表情を緩め、この一週間を思い出すようにそう呟く。
激しい追及にあったわけでもないから大丈夫だと言ったにも関わらず、初日に毎日来るからと宣言した通り、ケイスケは一週間ここに通い続けた。
だから、目に見えて表れた変化に気がつかなかったわけではない。二日目、三日目、そして五日目と昨日。ここに訪れたケイスケの目の下には、見ただけでもはっきりとわかるくまができていた。
うなされるような夢を見たのだろう。アキラにはそれがすぐにわかった。
そして、ラインが抜けた後、ケイスケが夢を見たと言って話していたことが記憶に浮かんでくる。手にかけた人達の痛みが一気に押し寄せてくる……。と、声を震わせながら言っていた。
それでも、一緒に生きたいと言った時の強い瞳を信じて、アキラはその様子に対して何か言うことはしなかった。
――これからずっと続いていく悪夢。
その重さを分かち合うことはできないが、一緒に生きて見守ることならできる。
「……ケイスケ」
今日は眠れているのだろうか。そう考えながら無意識に呟いていた名前が、ゆっくりと薄暗い部屋の中に溶けていった。
「それじゃ、彼が使っているホテルはそのまま使ってくれて構わない」
「……わかった」
次の日、日興連側からアキラに出された答えは、伝えられていた通り“内戦が落ち着くまで保留”というものだった。それからそのまま釈放という流れになり、アキラは何かあったらすぐに連絡するように。と付け加えるように言った男に軽く頭を下げて歩きはじめた。
眩しい……。
扉を開けて一歩外に出た瞬間、強い光に瞳を細めた。全てが一瞬白くはじけてなにも見えなくなる。
「アキラっ!」
「ん? う……わっ」
すぐに誰のものかわかる声がした直後に大きな衝撃が体に走り、アキラは思わず勢いにつられ出たばかりの建物へ戻りそうになった。
「アキラ、アキラ……っ」
「おいっ、な……に、やってんだよっ。ケイスケ!」
突然の出来事にしばらく唖然としていたが、明るさに視界が慣れてくるにつれて、すぐに自分がどうなっているのかを理解する。そして、しがみついてくる体を離れろ。という言葉とともに押しのけると、目の前には今にも泣き出しそうな顔で笑うケイスケがいた。
Next→3
*あとがき*
アキラの処遇を捏造するのにいっぱいいっぱいになった回でした(笑)
場面がたくさん切り替わる話を書こうとしてるんですが、何度読んでも支離滅裂に見える。
次からは、ちょっぴり甘め?にしたいです。でも、外なのでプラトニックに。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
3/10