同じ空の下 1




 明日……か。
 コンクリートに囲まれた部屋のベッドの上で、ケイスケは窓から差し込む月明かりを目で追いながら、一人そう思った。
 ここは日興連側の駐屯地の近くにある街。その一角にある小さなホテルの一室だ。もうこの部屋に身を置いて一週間になる。
 二人があの下水道を通ってたどり着いたのは、日興連側の駐屯地だった。
 こんな情勢だったため、CFCから日興連に逃げ込んでくる者も少なくはないらしく、友好的にそれを受け入れるというのが日興連側の見解だった。そのため二人は手厚く保護されこの近くにある街へと案内された。

「じゃあ、CFCにはもう戻らないってこと?」
「あぁ。俺はそのつもりだ」

 これからどうしていくべきなのか。それを話した時、迷うことなくアキラは日興連に残る。と言った。
「お前はどうする?」
 問いかけられた言葉に、ケイスケも迷うことはなかった。
 これからもずっとアキラと一緒にいたい。その気持ちは揺らぐことはない。今度こそアキラを守りたい。そして、償うためにも生きていきたい。
 そんな気持ちを真っ直ぐな視線に込めて、口を開く。
「俺は、アキラと一緒に生きたい」
「……そうか」
 わかったと頷くアキラに、ケイスケはもう一度頷いた。
 しかし、友好的に受け入れる。とはいえ、この情勢の中で市民権を得るためには簡単な調査を受けなくてはならないとこの街に案内される際に聞いたとき、ケイスケの中で小さな不安が生じた。アキラの“作られた罪”はどうなっているのだろう……と。
 トシマを出る直前。アキラをトシマに赴かせるために全て仕組まれたのだと知らされた。しかし、CFCで実際にアキラを連行したのは警察だ。国民全てを番号やデータで管理しているため、もしそのことが断片的にでも残っていたら、それが露見した時アキラはどうなってしまうのだろう。
 そしてケイスケのその小さな不安は、すぐに答えを二人にもたらすこととなった。

「待ってください! 本当にアキラはなにもやってないんです!」

 二人がトシマに入ってすぐにCFCとの情勢が急速に悪化したためそこで犯罪者リストの情報交換は途絶えていたらしく、残っていたのはアキラに科された罪を記すデータだった。
 そのため、アキラだけが数日拘留されることになってしまったのだ。
 ケイスケがそれを聞かされた時には、すでにアキラはその要求を承諾した後だったらしく、二人を担当した男にそう詰め寄ったが「彼の意思だから」と、聞き入れてはもらえなかった。
「アキラ……っ」
「落ち着け、ケイスケ」
「でも――」
 それでもと食い下がった結果、意外にもあっさりと面会を許され、わけがわからないままケイスケはアキラを前に動揺を隠せないでいる。
 せっかく生きてトシマから出ることができたというのに、そしてなによりもそれが大きな罪を犯した自分じゃないことに大きな憤りを感じた。

「あれは冤罪だ。今はそれを証明できなくても、いつかは必ず証明できる」

 冷静な表情でそう言ったアキラの話では、それが冤罪であること、そして無罪放免と引き換えにトシマに潜入して“王”を倒しヴィスキオを殲滅するためにイグラに行ったことを説明し、今までもCFCとは関わりがなく、そしてこれからも戻るつもりはないとハッキリ宣言したらしい。
 もちろんProject:Nicoleの事には一切触れていないようだった。当然そんなことを漏らしたら今度は別の意味で危機に陥る。それに理由としては元々念入りに罪を成立させるためのものだったのもあってイグラのことだけで十分だったらしく、それ以上の追求があったようにも見えなかった。
 それでもやはり緊迫している戦況のせいか、その存在を軽視できないと言う意見が少なからずともあったため、とりあえず話を聞くために拘留という形をとった。と、同席した担当の男にも説明され、渋々引き下がった。
「彼の今後についてはCFCとの決着がつくまで保留という形になるだろうね」
 ケイスケのために用意されたホテルに向かう途中、男がそう説明してくる。
「それは……、アキラの容疑は内戦が終わるまで晴れないってことですか?」
 その問いに頷いたのが見えて、ケイスケはそんな……と、絶望感にうなだれる。
「でも、全く自由がきかなくなるわけではないと思う」
 アキラが素直に拘留や問いに答えていたのはいい方向に作用したようで、男はケイスケを励ましたかったのか明るい声でそう告げた。

 それなら――。
 その言葉を信じて待った一週間はとても長い時間のように感じた。
 ようやく明日。正式な答えが出される日だ。
「アキラ……」
 毎日面会に行っていたとはいえ、やはり早く会いたくて仕方がない。とにかく話したい事がたくさんあった。
 これからのこと。そして他にもたくさんありすぎて困るくらいに。
 ベッドのスプリングを軽く軋ませて立ち上がり、窓のほうへと歩み寄る。部屋は小さな白熱球の明かりだけだったのに部屋が明るく感じたのは、見事に空に浮かぶ満月のおかげだろう。
 アキラも……見てるかな。
 拘留とはいっても、普通の部屋だと言っていて安心したのを思い出す。よくよく聞いてみれば、今ケイスケがいるこの部屋よりも設備的には充実しているようにも思えた。
 他に何かないのかと聞いて窓から空が見える。と返ってきた答えを思い浮かべながら、ケイスケは日が変わる時間まで黙って月を見ていたのだった。

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*あとがき*
場面の切り替えが多くなりそうだったので、
少しいつもと更新の仕方を変えて、1、2と進んでいくようにしてみました。
最初は前書きだったケイスケ視点の話ですが、状況説明がアキラ編で書いたときよりもすっきりしたため、さらに直して本編にしてしまいました(笑)
今回は少し短めですが、続きます。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
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