「ゼロの使い魔」二次創作短編(ifもの)
(2012年 2月 投稿分)

『無敵超人リーヴスラシル3』
もしも「無敵超人ザンボット3」みたいな世界だったら
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『無敵超人リーヴスラシル3』

 第一話 ガンダールヴ登場


「諸君! 決闘だ!」

 ギーシュが薔薇の造花を掲げた。
 うおーっと歓声が巻き起こる。

「ギーシュが決闘するぞ! 相手はルイズの平民だ!」

 魔法学院では決闘は禁止されているのだが、なんだかんだとこじつけて、結構頻繁に行われていた。
 ただし決闘といっても昔とは違って、ほとんど人死には出ない。たまに腕の一本ぐらいは折れるが、命のやり取りよりはマシ。地球で言えば、悪友同士が暴走バイクで争うようなものであった。
 だから生徒たちは、気楽な野次馬気分で、ヴェストリの広場に集まっていたわけだが......。

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「オールド・オスマン! たた、大変です!」

 学院長室では、教師コルベールが泡を飛ばして、学院長オスマンに説明していた。
 使い魔召喚の儀式で、ルイズが平民の少年を呼び出してしまったこと。
 契約した証明として現れたルーンが気になったこと。
 調べてみたら始祖ブリミルの使い魔『ガンダールヴ』に行き着いたこと。

「あの少年は『ガンダールヴ』です! これが大事じゃなくて、なんなんですか! オールド・オスマン!」

「ふむ......」

 コルベールとは対照的に、オスマンは冷静な態度を取り続けている。しかし、その瞳の奥に動揺の色が隠されているのを、コルベールは見落とさなかった。

「オールド・オスマン......? この件に関して、何かご存知なのですか?」

 コルベールがオスマンを問い詰めようとした、ちょうどその時。
 ドアがノックされ、秘書が一つの報せと共に現れる。

「ヴェストリの広場で、決闘をしている生徒がいるようです。大騒ぎになっています」

 ギーシュが、ルイズの使い魔の少年と決闘を始めた......。
 それを聞いて、オスマンがガタッと椅子から立ち上がる。

「いかん! すぐに止めるのじゃ! その少年に......『ガンダールヴ』の力を使わせてはならん!」

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 ギーシュの二つ名は『青銅』。だから彼は青銅のゴーレム『ワルキューレ』を出現させて、それに才人を殴らせていた。
 もちろん、生身の肉体が青銅製の拳に勝てるはずもない。あっというまに才人はボコボコである。
 途中、ルイズが「もうやめて」と止めようとしたが、才人は言うことをきかない。
 ギーシュはギーシュで、杖を振って剣を作り出し、

「君。これ以上続ける気があるのなら、その剣を取りたまえ。そうじゃなかったら、一言こう言いたまえ。ごめんなさい、とな。それで手打ちにしようじゃないか」

 しかし。 
 こうして武器を提供したことが、事態を一変する。
 剣を握った瞬間、才人の左手のルーンが光り、彼の動きが大きく変わったのだ。
 
「......っ!」

 ギーシュが声にならない呻きを上げる前で。 
 粘土のように斬り裂かれる『ワルキューレ』。彼は慌てて六体の増援を出したが、全てバラバラにされてしまう。
 ギーシュは蹴り跳ばされ、おそるおそる目を開けた時には、才人の剣が右横の地面に突き刺さっていた。

「続けるか?」

「ま、参った」

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「遅かったか......」

 つぶやきながら。
 オスマンは、学院長の椅子に深く沈みこんでいた。
 秘書には『眠りの鐘』を使うように命じて送り出したのだが、どうやら間に合わなかったらしい。
 オスマンの傍らには、一緒に『遠見の鏡』で一部始終を見届けたコルベールが立っている。

「オールド・オスマン」

「うむ」

「やはり彼は『ガンダールヴ』! ......さて、そろそろ教えていただきましょうか。何かご存知なのでしょう?」

「うむむ......」

 コルベールに詰め寄られ、オスマンが語り始めようとした時。
 地面が揺れた。

 ゴゴゴゴゴ......。

「な、なんだこりゃ!?」

 激しい揺れで、オスマンの机に手をつくコルベール。
 オスマンは長い口ひげをこすりながら、小さくつぶやく。

「ついに始まったのじゃな......『大隆起』が」

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 愛と勇気と力とが、静かに眠る土の底。
 そこから今、巨大戦艦が飛び立とうとしていた。
 ......なお『愛と勇気と力』であって『愛と勇気と希望』ではない。『愛と勇気と希望』では、魔法姫さま変身ものになってしまうので。

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「始祖ブリミルは......ハルケギニアとは違う、どこか別の星から来た人間だったそうじゃ......」

 オスマンは窓際へと向かい、遠い歴史の彼方へ想いを馳せるような顔で、コルベールに説明する。

「......彼は、自分が乗ってきた『ブリミル・ビアル』を三つに分割し、子供たちに託したのじゃ。ブリミルの子らは、分かたれた巨大船を、それぞれが開いた国の地中深くに埋めて......」

 そこまで聞いて、コルベールにも一つ理解できたことがあった。

「......ということは......この地震は......!」

「そうじゃ。虚無の使い魔『ガンダールヴ』の覚醒を感じ取り......『ビアル・トリステイン』が今、地中深くに眠る風石の力を借りて、地上に浮かび上がろうとしておる!」

 二人が目を向けた窓の外で。
 魔法学院の敷地の一画が盛り上がり、ついにそれが姿を現す。
 見るからに巨大なフネであった。
 翼の差し渡しは、おおよそ百五十メイル。船体部分の形もハルケギニアで使われているフネとは違っており、異様な雰囲気をそのフネに与えていた。
 全体的に丸みを帯びたデザインの、白い巨大戦艦......『ビアル・トリステイン』である!

「すごいフネじゃな......。いや見事じゃ」

 オスマンは白くなった髭をこすり上げた。話には聞いていたが、彼も実物を目にするのは初めてなのである。

「そもそもトリステイン魔法学院とは、この『ビアル・トリステイン』を隠す意味で、その上に造られた学校だったのじゃ。もしも『ビアル・トリステイン』が現れた際にはその管理をするというのが、代々の学院長の本当の役割であった」

 話を聞きながら、コルベールは、あらためてオスマンの横顔に目を向けていた。
 老人の顔に刻まれた皺が、彼が過ごしてきた歴史を物語っている。百歳とも二百歳とも言われているが、本当の年齢は誰も知らない。本人すら忘れているかもしれない......。

「このフネ......『ビアル・トリステイン』のことは、もはやトリステイン王家でも知らぬ者が多いであろうな。この話は国家機密に類するもの、他言は無用じゃ。ミスタ・コルベール」

「は、はい! かしこまりました!」

 しかし。
 虚無の使い魔『ガンダールヴ』の覚醒を察知したのは、魔法学院の巨大戦艦だけではなかったのである......。

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 トリステインからは遥か東方......エルフの国ネフテス。
 海岸に突き出る形で位置した首都アディールは、もしもハルケギニアの人間が見れば、その視界を圧倒したであろう。
 海上にいくつもの同心円状の埋立地が並び、その間を無数の船が行き交っている。建築物の規模も違う。中世然としたハルケギニアの都市に比べると、その技術力が二歩も三歩も抜け出ているのは明白であった。
 そんなエルフの城に、今、一人の少女が呼び出されていた。

「お待たせしました。エスマーイル同志議員殿」

 ファーティマは、胸を手に当てて敬礼する。軍のものではなく、党の敬礼である。
 民族の敵は全て抹殺せよという教義を妄信する、エリート主義に凝り固まった狂信者たち......。それが『鉄血団結党』であった。

「君に仕事を持ってきた。同志少校」

 エスマーイルは笑みを浮かべながら、ファーティマに説明する。
 トリステインという蛮人の国で、悪魔の末裔の力が覚醒したということを......。

「やつらが攻め込んでくる前に、こちらから出向いて、抹殺して欲しいのだ」

「光栄至極であります! そのような大きな任務をわたくしめにお任せくださるとは......」

 ファーティマの頬が紅潮する。それ見たエスマーイルは、満足げに頷きながら、

「そうとも。我ら鉄の団結を誇る砂漠の民は、悪魔を滅ぼし続けるのだ。復活するというなら、何度でも。それこそが『大いなる意志』の御心に沿うことにもなろう」

「ですが......私の指揮下の隊だけでは、戦力が心もとありません」

「尖兵として用いる機械増幅竜(メカブースト)と、支援するための巨大機動要塞を預けよう」

 こうして、今。
 エルフの一団『鉄血団結党』の魔の手が、トリステインに迫ろうとしていた......。

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 朝の光で、才人は目を覚ました。体中に包帯が巻かれている。
 そうだ。
 自分はあのキザなギーシュと決闘して、ボロボロに叩きのめされて......。 
 でも何故か、剣を握ったら逆転して......。
 それから気絶したのだ。
 意識が少しずつ覚醒して、周りを見回す才人。

「......どこだ、ここ?」

 ルイズの部屋ではない。知らない部屋のベッドで寝かされていた。
 傍らの椅子では、ルイズが突っ伏して眠っている。看病疲れで寝ているのだとしたら、起こして事情を尋ねるのも気が引ける......。

「いや、ルイズに限って、それはないか。あのルイズが、つきっきりで看病なんてしてくれるわけないもんな」

 その時。
 部屋にシエスタが入ってきた。相変わらずのメイド姿で、カチューシャで髪をまとめている。

「お目覚めですか? サイトさん」

「うん......俺......」

「あれから大変だったんですよ。サイトさん、三日三晩ずっと寝続けて......。目が覚めないんじゃないかって、皆で心配してました」

「もしかして、ずっと看病してくれたの?」

「違います。私じゃなくて、そこのミス・ヴァリエールが......。ずっと寝ないでやってたから、お疲れになったみたいですね」

 シエスタに言われて、才人は再び、ルイズに目を向けた。
 ルイズは、柔らかい寝息を立てている。長いまつ毛の下には、大きなクマができていた。
 相変わらず寝顔は可愛い。人形みたいだ。優しいところあるんだな、と思ったら、激しく可愛く見えた。
 そうやって眺めていたら、ちょうど目を覚ました。

「ふぁあああああ」

 ルイズは大きなあくびをして、伸びをする。
 それから、ベッドの上で目をぱちくりさせている才人に気づいた。

「あら。起きたの。あんた」

「う、うん......」

 才人は顔を伏せた。お礼を言おうと思った。
 しかし。

「じゃ、行くわよ」

「......え?」

 ルイズが立ち上がり、才人に近寄る。毛布を引っぺがすと、才人の首根っこを掴んで、ベッドから引きずり出した。

「お、お前! 怪我人だぞ!」

「それだけ話せりゃ十分よ。......シエスタ、サイトに事情は説明したんでしょ?」

「ミス・ヴァリエール、それがまだなのです。ちょうど今から話そうとしていたところで......」

「そう。じゃ私が教えて上げる。サイト、あんたが寝ている間に、砂漠のむこうからエルフが、竜の化け物で攻めて来たの。私たちメイジの魔法じゃ太刀打ちできなくて、戦えるのは『ガンダールヴ』のあんただけ」

「......付け加えますと、それで魔法学院も酷い有様になってしまって。なお、ここは学院の一室ではなく、学院の下から出てきた『ビアル・トリステイン』っていうフネの中なのです」

 ルイズとシエスタが、二人がかりで説明する。しかし聞けば聞くほど、才人は混乱するばかり。

「エルフ......? ガンダールヴ......? ビアル・トリステイン......?」

「......はあ。バカ犬には難しすぎたかしら。とにかくあんたは、これを持って戦えばいいのよ」

 壁に立てかけてあった剣を、ルイズが才人に渡す。

「よろしくな、相棒」

「剣がしゃべってる!?」

「あんたのためのインテリジェンスソードよ。ちよデルフとか、デルにしきとか、好きに呼べばいいわ」

 バカ犬の武器など、ルイズから見れば犬も同然。だが剣にしてみれば、犬のような愛称をつけられては困るし、嫌だ。そんなもの死亡フラグである。

「ちがわ! デルフリンガーさまだ! おきやがれ!」

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「これ、シエスタの故郷の近くから運んできたそうよ。『竜の羽衣』って言うんですって」

 ルイズに連れられて甲板に出た才人は、目を丸くして『竜の羽衣』を見つめていた。
 巨大戦艦『ビアル・トリステイン』の甲板上に仮設された滑走路。そこに、くすんだ濃緑色の機体が安置されている。ハルケギニアの者が『竜の羽衣』と呼ぶそれは......。

「ゼロ戦じゃねえか、これ」

 才人はゼロ戦に触れてみた。すると左手の甲のルーンが光り出し、中の構造や操縦法などが、頭の中に鮮明なシステムとして流れ込んでくる。 
 これもガンダールヴの能力なわけだが、そこまで才人は理解していない。きっと三日三晩寝ているうちに、睡眠学習でも受けたのだろう、と間違って納得していた。
 ともかく。

「あらサイト、知ってるものなの? なら、ちょうどいいわ」

 ルイズと共に、才人はゼロ戦に乗り込んだ。
 パイロットスーツなんてあるわけもなく、いつもと同じ、青と白のパーカー。しかしある意味、主人公らしい声が出そうな組み合わせの色である。

「相棒、貴族のメイジに頼んで、前から風を吹かせてもらいな。そうすりゃ、こいつはこの距離でも空に浮く」

 操縦席に立てかけたデルフリンガーのアドバイスもあって。
 ガンダールヴが今、ゼロ戦で出撃する!

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 大空を舞う、二匹の鉄の竜。
 ハルケギニアの者の目から見れば、そうとしか見えない戦いだった。

 ドンドンドンッ!

 鈍い音とともに機体が震え、ゼロ戦の二十ミリ機関砲が火を吹いた。
 命中。
 普通の火竜ならば翼をもぎ取られたであろうが、才人の敵は、ただの竜ではない。エルフが送りこんできた機械増幅竜(メカブースト)、その名はドミラ!
 メイジの魔法などものともしない装甲は、ゼロ戦の機関砲でも容易に貫通できなかった。

「相棒! もっと近づかなきゃダメだぜ!」

「サイト! 反撃されるわ! しっかりなさい!」

 ドミラの武器は、増設された長い腕。竜の四肢というより触手のようなそれが、才人の駆るゼロ戦に迫る。

「......ちっ!」

 才人は右のフットバーを踏み込み、機体を滑らせる。回避運動の勢いをつけたまま、敵の死角へ一気に接近する。
 狙いをつけて、発射。
 至近距離から胴体に何発も食らった機械増幅竜(メカブースト)は、苦しそうに一声鳴くと、地面めがけて落下。大爆発を引き起こした。

「やった! やったわ!」

「どんなもんだい」

「さすがは相棒だな。......俺さまの出番はなかったけどよ」

 こうして。
 才人たちは、『鉄血団結党』との初戦に勝利した。
 しかし......。

「......まあ、いいだろう。今日の機械増幅竜(メカブースト)は、しょせん偵察用だ。悪魔も、悪魔に協力する者たちも、これからゆっくりと殺し尽くしてやるぞ......」

 巨大機動要塞の中でつぶやくファーティマの言葉を、彼らは知らない......。

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 第二話 萌える死神の花


「まったくあなたは勝手なことして! エルフとの戦争? あなたが行ってどうするの! いいこと? しっかりお母さまとお父さまにも叱ってもらいますからね!」

 ブリッジに響く言葉に、一同が恐れおののく。
 ビアル・トリステインに、ルイズの姉エレオノールがやってきたのだ。目的は、ルイズを家に連れ帰ることである。

「で、でも......」

「でも? 『はい』でしょ、おちび! ちびルイズ!」

「ふえ、うぇ、あだ、あねさま、ほっぺあいだだ......。あう......」

 言い返そうとしたルイズは、ほっぺをつねられる。ブリッジには大人たちもいたが、エレオノールの剣幕に逆らえる者はいなかった。
 魔法学院崩壊後、オスマンに率いられる形で、教師やメイドたちの大半がビアル・トリステインに乗り込んでいる。コルベールは艦長席のオスマンに視線を向け、指示を仰ぐが、オスマンは首を横に振るだけだ。

「......ラ・ヴァリエール家の理解も必要なのじゃが......」

 オスマンが小さくつぶやく間にも。
 エレオノールはルイズを連れて、出て行ってしまった。

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 その頃。
 才人はビアル・トリステインから少し離れたところで、大空を飛び回っていた。

「相棒。これ......飛行訓練のはずだな?」

「そうだよ、デルフ」

「それにしちゃおめ、遊んでねえか?」

「んなわけないだろ」

 言葉では否定するが、剣の言うとおりだった。
 さきほどから才人は、曲芸飛行っぽいマネばかりしているのだ。

「......ちょっと休憩するか」

 下の広場に着陸する才人。
 すると、二人の少女が駆け寄ってくる。
 ......そう、才人は女の子にカッコいいところを見せようとして、それでアクロバティックな操縦をしていたのだ。

「凄いわね、さすがダーリンだわ!」

 赤毛の女性が、才人に抱きついてくる。才人は、彼女の肩を押し戻した。

「......おい、キュルケ。ダーリンって呼ぶのはやめてくれ」

 口ではそう言うが、顔はニヤけてしまう。豊満なバストの持ち主に抱きつかれて喜んでしまうのは、男の本能である。

「なあ。タバサも何とか言ってくれよ」

 助けを求めるかのように、才人は、もう一人の少女に目を向けた。
 青い髪の小柄な少女、タバサ。無口で無表情で、キュルケとは正反対だが、二人は姉妹のように仲が良い。
 二人とも、ヒロインになってもおかしくないくらいの美少女たちである。しかし才人視点では、ルイズの魅力にはかなわない。ルイズと比べてしまえば、いわばブスペアである。合掌。

「......」

 タバサは才人の言葉を無視して、本を読んでいた。
 読書好きなタバサである。
 そんなタバサが、突然、顔を上げる。

「......落ちてきた」

 空から隕石が降ってきたのだ。
 才人たちの場所に直撃したわけではないが......。

「何かしら? 王宮の近くみたいね。見に行きましょうよ」

「......そうだな」

 キュルケに促され、ゼロ戦に再び乗り込む才人。

「ねえ。せっかくだから、あたしたちも乗せてよ」

「タバサの風竜があるじゃん」

「いいじゃないの。こんな機会なんて、めったにないんだし」

 キュルケは髪をかき上げると、色っぽく笑った。
 むんとする色気に押されて、才人は思わず首を縦に振る。

「......あとで怒られても知らねえぞ、相棒。そこは娘っ子の席だろうに。しかも二人も乗せるなんて......」

 剣の言葉は聞かなかったことにして。
 後部座席にキュルケを、その膝の上にタバサを座らせて、才人はゼロ戦を発進させた。

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「今現在、王宮の上空は飛行禁止だ! ふれを知らんのか!?」

 才人は、まだハルケギニアの地理には疎かった。隕石落下現場へ真っすぐに向かったら、王宮の真上を通過してしまったのだ。
 トリステインの王宮から飛び立ったマンティコアが三匹、才人のゼロ戦を追う。

「怪しい奴! とまれ!」

「......んなこと言われてもなあ......。こっちは正義の味方だっつの」

 ビアル・トリステインのことは、原則として秘密。さすがに王宮のトップは知っているはずだが、魔法衛士隊でも下っぱ連中にまでは知らされていなかったらしい。いやしくも魔法衛士隊は近衛隊だというのに。

「降下しろ! しなければ撃墜するぞ!」

「......ねえダーリン、あんなこと言ってるわよ?」

「ちょっとキュルケは黙っててくれ」

 まともに戦えばゼロ戦が負けるはずがない。しかし相手はトリステインのお役人、本気で戦うわけにもいかなかった。

「なんだい、相棒。あんなもん振り切れるだろ。......後ろの嬢ちゃんたちを気にせず、本気を出せば」

「......それもそうか」

 火力だけではない。スピードだって、ハルケギニアの幻獣とはケタ違いなのだ。
 別に才人は、キュルケやタバサを気遣って、速度を抑えていたわけでもないのだが......。

「そんじゃちょっくら本気出すとするか」

 才人が操縦桿を握り直した瞬間。

 どーん。

 マンティコアの一匹が翼をもがれて、地面に落ちていく。

「僚騎が撃墜された!」

「魔法で応戦を!」

 残り二人の魔法衛士が騒ぎ始める。

「ちょっと待った! 俺じゃねえぞ!?」

 慌てて否定の言葉を叫ぶ才人。
 その間にも再び攻撃を受け、もう一匹、マンティコアが墜落した。

「ほら! 見ただろ! 下からだよ、下から攻撃されてるんだよ!」

「......わかった」

 ようやく理解してくれた魔法衛士。だが直後、彼のマンティコアも撃ち落とされた。
 これで空に残るのは、才人のゼロ戦のみ。

「......あっというまに三騎もやられちまった......」

「こりゃあ隕石なんかじゃねーな。きっと機械増幅竜(メカブースト)だぜ、相棒」

「そうだな。なら......俺がやってやる!」

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 王宮の近くとはいえ、さいわい隕石落下現場は、トリスタニアの街中ではなく、郊外の森の中だった。
 緑が吹き飛ばされ、土や岩肌がむき出しになっている。

「隕石なんて見当たらないな。やっぱり機械増幅竜(メカブースト)みたいだ」

「とりあえず、降りて調べてみましょうよ。ダーリン」

 キュルケに促され、才人はゼロ戦を現場に着陸させるが......。

「うわっ!? ここの土、ザクザクだ!?」

 泥地ではないが、まるで底なし沼のように、機体がズブズブと埋まっていく。

「相棒! 後ろの二人に協力してもらえ!」

「わかった! ......キュルケ! タバサ! 頼む!」

 キュルケに『レビテーション』で浮かせてもらい、タバサの魔法でプロペラに風を送ってもらい、なんとか再び空へ。
 そうこうしているうちにも、地中から火炎球の攻撃を食らう。

「うわあっ!?」

 ゼロ戦のコクピットは、もう、しっちゃかめっちゃか。機体がバラバラにならなかっただけでも、もっけものである。

「くそう、この火の球め」

「ダーリン、なんとかしなさいよ。いつまでもこんな状態じゃ......」

 姿を見せぬ敵に苦戦する才人。だが敵の方でも、火球だけではゼロ戦を落とせず、焦れてしまったらしい。
 ついに地中から姿を見せる敵......機械増幅竜(メカブースト)ジドビラー!

「あれ? 意外にちっこい奴だな。こんなもん、軽い、軽い」

 ゼロ戦で敵に向かう才人。
 しかし、背後から攻撃をくらってしまう。

「何やってんのよ、ダーリン!」

「わかった! 敵は二匹いるんだな? 目の前の奴と、火の球を撃ってくる奴と......」

 そうではなかった。
 敵が地中から全身を現したところで、才人たちは驚愕する。ジドビラーは、巨大な機械増幅竜(メカブースト)だったのだ。
 人馬が一体になった獣のようでもあり、満開に咲いた花のようでもあり......。ともかく、竜らしくない形の機械増幅竜(メカブースト)だ。

「こんな大きな機械増幅竜(メカブースト)......いったい、どう戦ったらいいんだ......?」

 戸惑う才人の耳に。
 遠くから聞こえてきたのは、救援の叫びだった。

「......見ていられないね、君は。助けに来たよ」

 一匹の風竜が、戦場に飛来する。その背に跨がっていたのは、左右の目の色が違う少年。『月目』と呼ばれて、地方によっては不吉なものとして忌み嫌われる特徴だが、そんな欠点など吹き飛ぶくらいの、妖精のような美少年だった。

「あら! いい男!」

 うっとりとキュルケはつぶやき、タバサは才人を見て「三日天下」と言っている。
 才人としては、面白くない。

「誰だ? お前」

「君の兄弟のようなものだよ、サイト。『ヴィンダールヴ』のジュリオだ」

 ジュリオは右手の手袋を外して、ルーンを見せた。たしかに、才人の左手に光るガンダールヴの印と、似たような文字が躍っている。

「......まあ、詳しい話は後回しにしよう。援軍は、もう一人いるからね」

 ジュリオが示す方向に目をやれば。
 鎧を着たゴーレムのような巨大な剣士人形......ヨルムンガンドが、こちらに向かっていた。その肩には、妙齢の女性らしき人影も見える。

「彼女はシェフィールド。神の頭脳『ミョズニトニルン』だ」

 今ここに。
 虚無の使い魔が三人、集結した!

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 ミョズニトニルンの能力は、あらゆる魔道具を使いこなすこと。
 彼女が持参してきた魔道具により、敵の弱点が明らかになった。

「上半身にある首の穴が弱点だよ!」

 彼女の指示どおりに攻撃する才人。
 いかに巨大な機械増幅竜(メカブースト)とはいえ、弱点を突かれれば、ひとたまりもない。
 ジドビラーは爆発炎上。トリスタニアの郊外に、爆煙の華を咲かせた。
 王宮からも見える煙は......。
 敵の狼煙のようでもあり、また、トリステインに対する宣戦布告のようでもあった。

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 ちなみに。

「こ、これじゃ戻れないじゃないの!」

 今回の戦闘の影響で、トリスタニア近郊の街道は、あちこち封鎖。
 戦闘を近くで目撃したこともあって、意外に怖がりなエレオノールは、ラ・ヴァリエール公爵領まで帰る気力を失い......。

「でも、これじゃ王都トリスタニアも危険だわ!」

 やむを得ず、ルイズと共に、ビアル・トリステインに帰還。
 こうして、なし崩し的に、エレオノールも艦のメンバーに加わるのであった。

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 第三話 リーヴスラシル3出現!


「甘いぞ、君たち! もっとしっかりやりたまえ!」

 廃墟と化した魔法学院の敷地に、叱咤激励の声が飛ぶ。

「もうやめようよ、ギーシュ......」

 泣きごとを口にするのは、マリコルヌ。親友ギーシュの頼みだからこそ、こうして騎士試合のための特訓につき合っているわけだが、もう疲労の限界なのだ。

「何を言ってるんだ。今日の奉納騎士試合には、あのサイトも出場するかもしれないのだぞ!? ならば、うやむやになった決闘のケリをつけるには絶好の機会ではないかね!?」

 トリスタニアの寺院で行われる奉納騎士試合。始祖ブリミルへ奉納するという意味を込めた、特別な騎士試合である。

「......うやむやになった、どころか......あれはギーシュの負けじゃないか......」

「マリコルヌ。君は何を勘違いしているんだい? あの時の決闘は......エルフが攻めて来たために、途中放棄されてるじゃないか!」

 二人の会話を耳にしながら。
 レイナールは、黙って小さく、首を横に振っていた。
 ......ギーシュの言葉は、事実とは違う。エルフの攻撃で魔法学院が崩壊したのは、ギーシュと才人との決闘の後だった。
 あの騒ぎの中、ギーシュは、最愛の女性モンモランシーと生き別れになっている。彼のエルフに対する憎しみは、人一倍、大きいのだろう。
 しかしハルケギニアの民にとって、エルフは強大すぎる敵。だからギーシュは、頭の中で自らの記憶を改竄して、憎しみの対象を才人に転化しているのだ......。

「......本来ならば......決闘の後でサイトとの間に友情が芽生えていたかもしれないのに......」

 レイナールは悲しげに、誰にも聞こえぬ程度の小声でつぶやくのであった。

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「機能のチェックかね、ミスタ・コルベール」

 ビアル・トリステインの船室にて。
 通りかかったオスマンが、コルベールに声をかけた。

「はい、オールド・オスマン。それぞれの能力も素晴らしいのですが、三人の連係次第で、より強力な戦闘ができるはずなのです!」

「なるほど......。さすがはミスタ・コルベールじゃ」

 口ひげをこすりながら、オスマンが満足げに言う。
 対照的に、ジュリオとシェフィールドは、げんなりとしていた。ビアル・トリステインに来て以来、コルベールから質問攻めにされていたからだ。
 そんな二人を見て、オスマンがふと、

「......そういえば、もう一人はどうしたのかね?」

「サイトくんならば......。偵察に行く、と言って、出ていきましたよ」 

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 才人は少し、ムシャクシャしていた。ジュリオやシェフィールドとチームを組むように、と言われたからである。
 まあ、妙齢のお姉さんシェフィールドと組むことは、才人としても嫌な気はしない。問題はジュリオの方だ。

「なんで俺が、あんな奴と......」

 一人で歩きながら、ブツブツつぶやく才人。
 心配したかのような、からかっているかのような、微妙な声色で剣が尋ねる。

「どうしたい、相棒。やきもちかい?」

「ちげーよ」

「レディとして扱われて、娘っ子、まんざらでもない、って顔だったなあ」

「だから! そんなんじゃねーってば!」

 才人は語気を荒くする。これでは、肯定しているようなものだった。
 ......キュルケやタバサは艦のメンバーではないので、才人を慕っていようが、他の男性になびこうが、才人としては構わない。しかしルイズは、共に戦う仲間であり、何よりも、才人の主人メイジなのだ。

「まあ、いいさ。ちょうど、うさ晴らしには格好の機会が、向こうからやってきたもんな......」

 騎士試合で戦おう、というジュリオからの連絡。
 才人は今、そのために、試合会場である寺院へと向かっていた。

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「機械増幅竜(メカブースト)です! 機械増幅竜(メカブースト)が現れました!」

 ビアル・トリステインのブリッジが、騒然となる。
 実際には、まだ機械増幅竜(メカブースト)自体の姿は確認されていなかった。しかし、トリステインの各地で、寺院が突然急激に凍りつくという怪事件が発生したのだ。魔法では不可能なほどの冷気を浴びて、一瞬でバラバラに砕け散る......。
 機械増幅竜(メカブースト)の仕業に違いない、というのが、ブリッジの共通見解であった。
 使い魔三人衆、緊急出動! ......と、いきたいところだが。

「サイトは? サイトはどこに行っちゃったの?」

 ルイズがわからないのであれば、誰もわかるはずはない。ジュリオが肩をすくめる。

「仕方ないね。では、僕とミス・シェフィールドの二人で出撃しますよ」

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「とりあえず、逃げずに来たことは、褒めてやろうじゃないか」

「誰が逃げるか。お前なんて、ボコボコに出来るっつの」

 幸か不幸か、奉納騎士試合の会場となる寺院は、まだ謎の冷気攻撃を受けていなかった。
 由緒正しい奉納試合にて、ギーシュと才人が対峙する。

「今日こそ......この間の決着をつけるぞ、サイト!」

「はあ? お前、あの時『まいった』言ったじゃん。もう忘れたのか?」

 デルフリンガーを構える才人の前で。
 ギーシュは『ブレイド』を唱えて、薔薇の杖を一本の剣と化していた。

「これは奉納の騎士試合! ゴーレムなどではなく、僕が自ら相手してやろう!」

「......くっ......」

 ギーシュの言葉に、才人は焦る。
 青銅ゴーレム相手ならば、ばったばったと斬り倒してしまえばいいが、生身のギーシュが向かってくるのでは、そうもいかない。
 そもそも、今回の才人は、デルフリンガーという専用の剣まで手にしているのだ。手加減しなければ、ギーシュなんて即死である。「むしゃくしゃしてやった」では済まされぬ大惨事になってしまう!
 才人の頬に、一筋の冷や汗が流れた。

「フフフ......どうやら恐れおののいているようだね、サイト!」

 ますますイライラする才人であるが、逆に、どう手を抜くか、考えなければいけなかった。

「......これじゃかえってストレスたまりそうだぜ......」

 来るんじゃなかった、と才人は思った。

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 風竜を駆るジュリオと、ヨルムンガンドに乗るシェフィールド。
 冷凍光線を武器とする機械増幅竜(メカブースト)ガビダンを相手に、二人は苦戦していた。
 その戦況は、『遠見の鏡』により、ビアル・トリステインのブリッジにも伝わっていた。
 ......こんな時に才人は何をしているのか。しかし、この状況では、才人一人が加わったところで無駄かもしれない......。
 口にこそ出さないが、誰もがそう思っていた。
 場の空気が重くなる中。

「おお! これだ! これしかないですぞ!」

 古い書物を調べていたコルベールが、大声で叫ぶ。

「いいですか、オールド・オスマン。なんと始祖ブリミルの使い魔には......合体機能があったのです!」

「合体?」

「そうです! 神の心臓『リーヴスラシル』を『器』として......他の三つの使い魔が合体することにより、無敵超人が誕生するのです!」

「どうやって!? どうやって使い魔が合体するの!?」

 ルイズがコルベールに問いただす。自分の大事な使い魔がおかしなことになっては困るのだ。

「いや、それに関しては......『記すことさえはばかれる』とだけ......」

 コルベールの言葉が、尻すぼみになる。
 ......それじゃ役に立たないじゃないか......。
 誰もがそう思った瞬間。

「虚無魔法『生命』を使うのです」

「そのために、わざわざトリステインまで来たのだ。ロマリアの虚無と、ガリアの虚無が」

 落ち着いた静かな声と、対照的な大きな声。
 新たにブリッジに入ってきたのは、二人の男性......ロマリア教皇ヴィットーリオとガリア王ジョゼフだった。
 驚く一同に、二人は、連れて来た女性を紹介する。

「こちらは、ミス・ウエストウッド。......アルビオンの虚無です」

「......ティファニア・ウエストウッドです。よ、よろしく......」

 こわごわと挨拶する少女。人間とは思えぬ豊かなバストを持った彼女は、大きな帽子で頭を隠している。実はハーフエルフなのである。

「アルビオンに立ち寄ってティファニア嬢を加え、そしてトリステイン王宮からこれを借り受け......これで四人の虚無と秘宝と指輪が揃ったわけだ」

「始祖の力は強大でありました。彼はそれを四つに分け、こう告げたのです。『四の秘宝、四の指輪、四の使い魔、四の担い手......四つの四が集いし時、我の虚無は目覚めん』と」

 ただし。
 ティファニアには、まだ使い魔がいない。事情を理解した皆の前で、取り急ぎ、使い魔召喚の儀が行われる。
 すると......。

「......俺、ギーシュと試合中だったのに......これじゃ『また逃げた』とか言われそうだ......」

 呼ばれて飛び出たのは、才人だった。

「なるほど! 今代では、ガンダールヴがリーヴスラシルも兼ねるわけか!」

「......まあ、四人合体よりは三人合体のほうが、無理は少ないでしょうからね......」

 すっかり解説役の王様と教皇さま。
 そして才人は、美少女のキスなど拒めるわけもなく......。めでたく、ガンダールヴ兼リーヴスラシルとなった。
 ちょっとルイズと揉めているようだが、その傍らで。

「余のミューズよ。神の右手を連れて、ここに戻ってくるのだ」

 シェフィールドと遠隔通信できるジョゼフが、使い魔を呼び戻す。
 こうして。
 ビアル・トリステインに、必要な全てが集結して......。

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 正義の姿、巨大使い魔!
 その名も、我らのリーヴスラシル3!

「......うわあ......」

 虚無魔法『生命』により誕生したその姿に、歓声やら悲鳴やらため息やら、色々と入り交じった声が投げかけられた。
 なお、どこがどう合体したのか、具体的には記述できない。合体の詳細は、記すことさえはばかれるのだ。
 ともかく。
 リーヴスラシル3のメインは、リーヴスラシルである才人。さいわい彼はガンダールヴでもあるので......。

「待ちくたびれたぜ、相棒。ようやく出番が来たみたいだな」

 満足そうなデルフリンガーを手にして、リーヴスラシル3となった才人が戦う。
 武器を振るえば、まさに無敵超人だった。

「リーヴスラシル十文字斬り、決まったかあ......なんちゃって。ギーシュとやるより、ラクだったもんね」

 苦戦していた機械増幅竜(メカブースト)にも圧勝。
 戦い終わって合体を解除した才人のところに、ルイズが一番に駆け寄った。

「すごいわ、サイト! さすが私の使い魔ね!」

 嬉しそうに才人へ抱きつくルイズ。
 それを見て、剣がポツリ。

「......やっぱり娘っ子には相棒がお似合いだぁな......」

 主人との抱擁に忙しい才人の耳に、この言葉は届いていない。
 しかし、わざわざ言われずとも、それくらい才人にはわかっているのだった。

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 第四話 集結! ブリミル・ビアル


 それぞれの使い魔、そして虚無の担い手に遅れる形で。
 ビアル・トリステインのところへ、別の巨大戦艦がやってくる。

「あれが『ビアル・アルビオン』......我らロマリアの者たちが使わせてもらっているフネです」

 教皇ヴィットーリオが、黄色の巨大戦艦を指さした。
 ビアル・アルビオンは、その名のとおり、本来はアルビオン王家に伝わるもの。しかしアルビオン王家はレコンキスタの反乱により壊滅状態なため、フネを持たぬロマリア勢が代理運用しているのであった。

「余の『ビアル・ガリア』は、あれだ」

 ガリア王ジョゼフが指し示したのは、ビアル・トリステインと似た感じの、白い巨大戦艦。
 実はアルビオンの内乱を裏で操っていたのは、他ならぬガリア王ジョゼフなのだが......。
 彼の意図は、ハルケギニアの征服ではなく破壊。ある時から何に対しても感動できなくなった彼は、「地獄を作り出せば心が震えるかもしれぬ」という理由だけで、悪の覇業に着手したのだった。
 そんなジョゼフだから、悪から正義に立場を転じるのも容易な話。「エルフと全面戦争をすれば心が震えるかもしれぬ」という理由で、それまでの政策を放り出し、ブリミル・ファミリーの一員として、この戦いに参加しているのだ。けっして本心から『正義』を信じているわけではない、ある意味、危険な男であった。

「......うむ。これで『ブリミル・ビアル』に合体できるな......」

 ビアル・トリステインの艦長席で、オスマンがつぶやいた時。
 まるで合体を妨害するかのように、機械増幅竜(メカブースト)が出現する!

「リーヴスラシル3! 出撃じゃ!」

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 今回の機械増幅竜(メカブースト)ドヨズラーは、タコのような吸盤付きの触手を持つ敵である。
 巻き付かれて苦しむ才人たち三人を見て、オスマンが叫ぶ。

「合体じゃ! 合体して『ブリミル・ビアル』となって、リーヴスラシル3を支援するのじゃ!」

 異を唱える者はいない。それぞれの艦のメンバーが、合体準備に入った。

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「......いいかね、ミセス・シュヴルーズ?」

「こちらの方は大丈夫です」

 ブリッジ右の操作盤を担当するシュヴルーズが、オスマンの言葉に笑顔で返す。

「......えっと......これがこっちで、あれがあっちで......」

「もう! ちびルイズったら、見てられないわ! 私にかわりなさい!」

 左の操作盤は、担当がルイズからエレオノールに変更となった。エルフとの戦いには乗り気でないエレオノールだが、それでも彼女は、王立魔法研究所(アカデミー)の研究員。こうした操作は、学生のルイズよりは、よほど上手いのだ。

「ビアル・ガリアの様子はどうかね?」

 前部中央のコルベールを心配することはなく。
 オスマンは、別のフネに連絡を取る......。

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 ビアル・ガリアでは。
 ドッキング部分の手動操作のため、一部の者たちが、場所を移動していた。
 ブリッジを離れられないジョゼフの代理である。それなりの者が出向く必要があり、娘のイザベラと、情婦のモリエール夫人とが、その役を担っていた。

「王女である私が、こんなに走り回らないといけないだなんて......。まったく、父上にはついていけないわ」

 愚痴を吐きながらも、イザベラは、言われたとおりに動いている。
 エルフとの全面戦争......。最初に話を聞いた時は、恐怖で体が震えたものだ。それでも、こうしてフネに乗り込み、ついてきてしまったのは、やはり娘だからなのだろう。それに、最近の父王はどことなく、以前より優しくなったように感じられていた。

『ビアル・ガリア、前へ』

 指定された持ち場で、イザベラは、ビアル・トリステインからの指示を耳にした。
 続いて伝声管から、ブリッジにいるジョゼフの言葉が聞こえてくる。

「接合面を開くぞ。いいな、イザベラ」

「いいですわ、父上」

 彼女の了承と同時に、大扉が開く。

「うわあ」

 外からの風で、王族ゆかりの長い青髪がなびいた。

「......父上......こわいよ......」

 誰にも聞こえないからこそ、彼女は正直に叫んだ。
 ここは開口部右側の操作所であり、今、イザベラは一人きり。ブリッジから一緒に出たモリエール夫人は、左側の操作所にいる。大きく口を開いた接合部の向こう側に、小さくなった彼女の顔が見えた。

「気をつけてくださいね!」

 大声で叫んでいるらしく、風に乗って、彼女の声も聞こえてくる。
 しかしイザベラに、返事をしている余裕などない。『数字がゼロになったらレバーを倒すように』という命令だけに意識を集中して、操作桿を強く握りしめていた。
 そして。
 いよいよ、初めての合体である。
 ビアル・ガリアの後ろから、ビアル・トリステインが、ゆっくりと......。

「は、入ってくる......」

 思わずつぶやくイザベラ。一見あざといセリフであるが、元ネタでもこの場面で少女が口にするセリフであった。

 ガシャン。

 二つの巨大戦艦が合体し、イザベラの目前のパネルに『ゼロ』と表示される。
 イザベラがレバーを倒すと、船体下部から補助アームが伸びて、しっかりとホールド。

「ふう......」

 ホッとして、イザベラは尻餅をつく。
 彼女の仕事は、無事、終わったのだ。

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 次はビアル・アルビオンの番である。
 こちらも、教皇ヴィットーリオはブリッジから動けない。もう一人の虚無であるティファニアも、何かあった時に備えて、ブリッジ待機。
 手動操作部には、聖堂騎士隊の隊長カルロと、巫女たちの代表ミケラが向かっていた。

「いいですね? ゼロになったらレバーを引くのですよ」

「は、はい......。わかっております」

 右からかけられた声に、ミケラは震える声で答えた。
 そこに、ビアル・トリステインからの連絡が。

『ビアル・アルビオン、いきますよ』

 同時に。

「離れた!?」

「わっ」

 カルロとミケラの間で、フネは左右真っ二つに分離。
 両側から挟み込む形で、先に合体していた二艦にドッキングする。
 合体のタイミングで、ゼロを示すパネル。カルロとミケラが、レバーを引く。
 接合部分の内部で、補助パーツが組み合わさり、これで合体は終了。
 今、ここに......『ブリミル・ビアル』が復活した!

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「ブリミル・ビアルのパワーで、リーヴスラシル3を助けるのじゃ!」

 巨大母艦ブリミル・ビアルに引っぱり上げてもらう形で、才人たち三人は、吸盤触手地獄から抜け出すことに成功した。

「助かったぜ! こうなったら、もうこっちのもんだ! ......リーヴスラシル必殺! ブリミル・アタック!」

 額がピカッと光って、よくわからない新必殺技も発動して。
 リーヴスラシル3は、敵の機械増幅竜(メカブースト)を撃破した。
 ブリミル・ビアルの者たちは、喜びに沸くが......。

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「ちくしょう! あいつら、街を無茶苦茶にしやがって......」

 激しい戦闘の余波は、トリスタニアの街に、少しずつ損傷を与えていた。
 市民の間に生まれる怨嗟の声を、ブリミル・ファミリーは、まだ知らない......。

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 第五話 街が怒りに染まる時


 今日のルイズは、ちょっとウキウキ気分。サイトと二人で、王都トリスタニアまで買い出しに出かけるのだ。
 二人きりということで、ルイズは一応おめかしをしていた。
 最近街娘の間で流行しているらしい、胸のあいた黒いワンピースに黒いベレー帽。そうしていると、生粋のタニアっ子に見える。

「よ、よお」

「何やってるのよ! 遅いじゃないのよ!」

 艦の出口で、頬を膨らませるルイズ。
 そうした仕草も、才人にとっては可愛く見えてしまう。ルイズの魅力にかなう少女は、かつての魔法学院にも、今のブリミル・ビアルの艦内にも、そういない。
 あー、御主人様、一応可愛いなー、とポカンとしていると、足を蹴っ飛ばされた。

「ほら、行くわよ。買わなきゃいけないもの、たくさんあるんだから!」

 なんだか照れたような声で、ルイズが言う。
 才人は頷き、歩き出そうとした。しかしルイズは動こうとしない。

「なんだよ?」

「もう! ちゃんとエスコートしなさいよ!」

「えすこーとぉ?」

「そうよ。ほら」

 ルイズは才人の腕を引っぱった。

「へ?」

 才人がぼけっとしていると、そこに腕を通される。
 ......まるっきりデート気分の二人であった。

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 しかし。

「何よ......これ......」

 いざトリスタニアに来てみると、幸せ気分は、いっぺんに吹き飛んでしまった。
 にぎわっているはずのブルドンネ街も、もう見る影もない。本来ならば、道端で声を張り上げて、果物や肉や籠などを売る商人たちの姿があるはずなのに......。

「へえ。王都って言っても、けっこう寂れてんだな」

 在りし日の姿を知らぬ才人は、のんきな感想を口にする。ルイズは、顔をしかめるしかなかった。

「そんなわけないでしょ。ここはトリステインで一番大きな通りなのよ。前は露店がたくさん出ていたのに......」

 露店どころか。
 建物のお店も、閉めているところが多かった。
 いや『閉めている』のは、マシな方だ。中には、家屋が半壊し、もう営業不可能となった店もあった。

「......なんで......こんなことに......」

 唖然とつぶやくルイズ。
 隣のサイトは、どう声をかけていいのか、わからない。
 そんな二人の後ろから、聞き覚えのある声が。

「君たちのせいだよ」

 振り返ると。
 崩れた建物の陰に、金髪の少年が立っていた。
 ギーシュ・ド・グラモン。
 荒廃した街の中、それでも薔薇を手に、キザなポーズを決めている。

「ギーシュか。どういう意味だよ?」

「どういう意味も何も。君たちのせいで、エルフが化け物を送りこんで来てるのだろう? そして君たちは、エルフの化け物と一緒になって、暴れ回って......その結果が、この有様さ」

「......!」

 才人は大きな声で叫びたかった。違う、と。街のみんなのために戦っているのだ、と。
 だが、隣で泣きそうな表情のルイズを見れば、何も言えなかった。才人が大声を出しただけでも、ルイズの目から、涙がこぼれてしまいそうなのだ。
 少しの静寂の後。
 ガバッと背を向け、ルイズが走り出す。
 
「待て! 逃げるのか!」

 ギーシュが叫ぶが、才人は無視する。黙って主人を追うしかなかった。

「ルイズ! 君は貴族のくせに、敵に後ろを見せるというのか!」

 ギーシュなんて、敵ですらない。そう思って、才人はルイズを追った。
 だが。

「きゃっ!?」

 俯いて走っていたルイズは、前方不注意。角を曲がってくる二人組に、思いっきり衝突してしまった。
 その光景に、追いかけていた才人は驚く。

「キュルケ!? それに、タバサじゃないか!?」

 二人組は、知己の者だったのだ。
 才人に好意を寄せているはずの、美少女二人組。さらにキュルケは、ルイズとはケンカ友だちであり、顔をあわせれば悪口の応酬が始まる仲だったが......。

「......」

 キュルケもタバサも、ルイズや才人に気づいておきながら、何も言わない。暗い目をして、ただ背を向けるだけであった。
 もとから無口なタバサは別として、キュルケからこういう扱いを受けるのは、才人にもショックだった。
 悪口を言い合う方が、無視よりもマシ......。ケンカするほど仲が良い、という言葉の意味を、才人は実感した。
 茫然とする才人。そんな彼の遥か頭上を、鳥のような巨大な影が通過する。
 見上げた才人は、思わず叫んだ。

「......! 機械増幅竜(メカブースト)だ!」

 たとえ街の人からは感謝されないとしても。
 それでも、放っておくわけにはいかない。

「艦に戻ろう、ルイズ」

 才人が手を取ると、彼女は顔をそむけたまま、小さく頷いた。

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 記すことさえはばかれる合体により、リーヴスラシル3となって。
 才人は今日も、命がけで戦う。
 今日の敵は、空飛ぶ機械増幅竜(メカブースト)ガルンゲ。
 激しい空中戦の末......。

「必殺! ブリミル・アタック!」

 トリスタニアの空で爆散する機械増幅竜(メカブースト)。
 その破片は、当然のように街へと降りそそぎ、新たな傷痕を生む。
 だが、それをどうすることもできない才人であった。

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 第六話 母がやってきた日


「今、『虚無』と言われましたか?」

 ラ・ヴァリエール家の居間では、王宮からの使節を囲み、秘密の話し合いが行われていた。
 暖炉のそばには、ラ・ヴァリエール公爵が椅子に座り、言葉少なく、燃え盛る炎を眺めている。彼を挟んで、公爵夫人カリーヌと、娘の一人カトレアが、神妙な面持ちで話に聞き入っていた。

「そうです。ルイズの目覚めた系統は、あの伝説の系統......『虚無』なのです」

 上座に腰掛けているのは、王女アンリエッタ。なんと一国の姫である彼女が、王宮からの使節として、公爵家に来ていたのだ。
 それだけ深刻な話なのである。たとえ信じがたい内容であっても、信じるしかなかった。
 ラ・ヴァリエール公爵は、しばらく口ひげをいじっていたが、やがておもむろに口を開く。

「なるほど。だからエルフとの戦いの最前線に投入されている......というわけですな」

「はい。わたくしも、実際に当の巨大戦艦に足を運んだわけではありませんが......そのように聞いております」

 アンリエッタの言葉は、公爵を安心させるものとは、ほど遠かった。
 結局アンリエッタは、実状を知らないのだ。
 トリスタニア近郊に浮かぶ巨大戦艦の噂は、公爵も耳にしている。真偽のほどは定かではないが、ガリア王族やロマリアの教皇一派なども乗り込んでいるらしい。それなのに、肝心のトリステイン王家からは、誰も参加していない。魔法学院の学院長だったオールド・オスマンに任せっぱなし。
 おそらく、下手に関わると王家が民衆から支持されなくなるのでは......という心配から、王政府がノータッチを決め込んでいるのだろう。なにしろ巨大戦艦は「あんな連中がいるから、エルフが攻めて来るんだ!」ということで、街の人々から反感を買っているそうだから。

「姫殿下。我が娘は大砲や火矢ではありませぬ。姫殿下が娘に対して何らかの勘違いをなさっておられるならば......」

 言っても無駄であろう、と知りつつも。
 公爵は、王女に向かってバシッと言ってのける。

「我らは悲しいことに、長年仕えた歴史を捨て、王政府と杖を交えねばなりませぬ」

「それは大丈夫です。ルイズを武器扱いだなんて、わたくしがさせません」

 微笑みながら保証するアンリエッタ。しかし、事態をよく知らぬ王女が軽々しく『保証』すればするほど、逆に、その『保証』は脆いと言っているようなものだった。
 内心で苦笑するしかない、ラ・ヴァリエール公爵。
 そんな夫の様子を見て、カリーヌが言葉を挟む。

「そういうことでしたら、わたくしが参りましょう。『ビアル・トリステイン』とやらで、ルイズの面倒をみます」

「カリーヌ。何もお前が自ら......」

「他人には任せておけませんから」

 鋭い目を光らせて、カリーヌは言い切った。

「でも母さま。そのおフネには、すでにエレオノール姉さまが行っているのでしょう?」

 少し困ったような声で言うカトレア。ルイズを迎えに行ったはずなのに何故か艦に留まっているエレオノールのことは、ヴァリエール家では、ちょっとした問題になっていた。

「何を言っているのです。エレオノールなど、まだ子供ではありませんか。このような大事を任せられる相手ではありませぬ」

 王女の前であろうが関係ない。カリーヌは毅然とした態度を見せる。そんな彼女に反対できる者は、王女を含めて、誰もいなかった。
 こうして。
 ルイズの母カリーヌが、巨大戦艦のメンバーに加わることになった。

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「か、かかか、母さまが来るの!? ここに!?」

「そうだよ、ミス・ヴァリエール。トリステイン王家とラ・ヴァリエール公爵家との間で、そういう話に決まったらしい」

 コルベールから衝撃のニュースを聞かされて。
 艦のブリッジで、ルイズは思いっきり動揺していた。

「な、何も母さま自ら来なくてもいいのに......。ねえ、ルイズ?」

 エレオノールまで、珍しく作り笑いを浮かべて、態度が少しおかしくなっている。
 ......二人の母親というのは、なんだか凄い人らしい......。
 ブリッジにいた全員が、同じことを思った瞬間であった。

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「これが機械増幅竜(メカブースト)というものなのですか!」

 老いて巨大なマンティコアを駆り、一人、ブリミル・ビアルへと向かうカリーヌ。彼女は途中で、機械増幅竜(メカブースト)エレギンに襲われていた。
 カリーヌは、かつて『烈風』カリンとしてその名を轟かせたスクウェアメイジである。いくら敵が強大であろうと、むざむざやられはしない。

 ゴォオオオオッ!

 反撃の『カッター・トルネード』だ。
 一見ただの巨大竜巻であるが、間には真空の層が挟まっていて、触れると切れる。人間相手ならば絶大な効果を発揮する、恐ろしいスクウェアスペルなのだが......。

「なるほど。その名のとおり、金属で覆われて、色々と増幅されているのですね」

 敵の攻撃に押されつつも、冷静に状況を分析するカリーヌ。
 機械増幅竜(メカブースト)の装甲が硬すぎて、彼女の魔法では、表面にかすり傷をつける程度なのだ。
 しかも敵は、攻撃力も高いようだ。今のところ、カリーヌは巧みにマンティコアを操り、攻撃をかわし続けているが、一発でも当たったら、どうなることやら。

「せめて弱点が判明すれば......『ブレイド』でそこに斬り込むという手もあるのですが」

 彼女がそう考えた、ちょうどその時。
 リーヴスラシル3が、戦場に駆けつけた!

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「一気に決めるぞ! シェフィールドさん、いつものように魔道具で弱点を探ってくれ!」

 強くルーンを輝かせて、才人が叫ぶ。
 ブリミル・ビアルが機械増幅竜(メカブースト)の襲来をキャッチした時、「よりによって母さまを!」と悲鳴を上げたルイズ......。そのときの光景が、彼の目に焼きついていた。

「弱点は......二カ所あるようだね。ただし二カ所同時に攻撃しないとダメみたいだ」

「なんだって!?」

「背中の真ん中と、尻尾の付け根。その二点を同時にやらないと効果ないよ」

 リーヴスラシル3が無敵超人であるのは、一つには、いつも敵の弱点を的確に攻撃しているからである。だが今回は、ちょっと苦労しそう。二カ所同時攻撃しないといけないならば......。

「......話は聞きました。尻尾の方は、わたくしに任せてもらいましょう」

「わかりました。では、そちらの合図で、俺たちは背中を」

 マンティコアを寄せてきたカリーヌと、急いで打ち合わせ。
 そして......。
 騎上のカリーヌが『ブレイド』で杖を光らせ、マンティコアで突進。その勢いも加えて、尻尾の付け根を貫く!
 同時に、リーヴスラシル3はデルフリンガーで背中に斬りかかる!

「やった!」

 弱点をやられて、機械増幅竜(メカブースト)が火を吹く。
 とどめとばかりに、才人は、必殺のブリミル・アタックを叩き込んだ。

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 こうしてカリーヌは、無事、ブリミル・ビアルに合流した。

「母さま!」

「大変だったでしょうね、ルイズ。『街の人々から色々誤解されている』という話も聞きました。でも、たとえ民衆から理解されずとも、それでも彼らを守るために戦う......。それが王族や貴族の役目。そのためにこそ、わたくしたちは日頃、君臨するのを許されているのです」

 この艦にトリステイン王家の者はいない。王家に代わり、公爵家の代表として、彼女は高貴なる者の心得を説いて聞かせる。

「母さま......」

「もう大丈夫ですよ。これからは、母も一緒に戦いますからね」

 抱きつくルイズを、カリーヌは優しくあやす。
 そんな母娘の姿を見て、才人は、ふと故郷の母親を思い出し、秘かに涙するのであった。

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 第七話 さらば! 友よ


 機械増幅竜(メカブースト)クモガニラが、トリスタニアの街を焼く。
 慌てて出動するリーヴスラシル3だったが......。

「あれ? 機械増幅竜(メカブースト)なんていねーぞ?」

「どうやら逃げてしまったようだね、サイト」

「ジュリオの言うとおりだよ。......これは、ちょっと厄介なことになるかもしれないね」

 才人とは違い、ジュリオとシェフィールドは理解していた。敵は直接リーヴスラシル3と戦うより、大衆の殺戮を優先する策に転じたのだ。

「......よくわかんねえけど、ともかく、このままにはしておけねえだろ」

「ああ。王宮から衛士が来ているとは思うが......。僕たちも、人々が避難するのに手を貸そう」

 ジュリオの意見はもっともだった。
 三人は、記すことさえはばかれる合体を解除。手分けして救助活動にあたるため、それぞれ別々の方向へと散った。

「こりゃあ、ひでえや......」

 崩壊したトリスタニアの街を、一人で歩く才人。
 ルイズと共に来た時も、壊れた建物などは目にしたが、あの時とは比べものにならない。今の王都は、もはや瓦礫の山と化していた。
 荒廃感を増すかのように、強風が吹く。風で飛ばされてきた布が、顔に貼り付いて、才人の視界を覆った。

「ん? これは......魔法学院のマントじゃないか!?」

 持ち主は怪我をしているらしい。血に染まったマントだった。
 女性のものなのだろう。良い香りがする。ただし香水ではなく、女性特有のフェロモンといった感じの......。
 こんな荒れ果てた街中で、なおも色気を振りまく女性など、才人は一人しか知らなかった。

「これはキュルケのマントだ!」

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「キュルケ! タバサ!」

 チクトンネ街の裏路地......だった場所。
 半壊した建物の陰で二人が休んでいるのを、才人は発見した。

「ひどい怪我じゃないか!」

 キュルケは動くこともできないようで、地面に敷いたタバサのマントの上で、静かに寝かされていた。
 タバサは軽傷だが、キュルケに『治癒(ヒーリング)』をかけ続けて、精神力が消耗している。それでも治せないくらい、キュルケは重傷なのだろう。

「こんなところじゃロクに治療も出来ないだろ。ブリミル・ビアルに運び込もう」

 こうして、キュルケを艦に連れていくことになった。

「タバサ、お前も来るだろう?」

「......行かない」

 ただ首を横に振るだけでなく。
 タバサはハッキリと、そう口にした。

「え? なんで......」

「......私は行かない。今のあなたは嫌い」

 そのままクルリと背を向けて、歩き出すタバサ。
 彼女の気持ちなどわからず、才人はただ、黙って後ろ姿を見送ることしかできなかった。

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 タバサは、実はガリア王族の少女である。
 だが父はガリア王に殺され、母も薬でおかしくされて、床に伏せっている。
 タバサ自身、ガリア王の娘イザベラにこきつかわれて、色々と裏仕事をさせられてきた。一連のエルフの侵攻が始まってからは、イザベラとは連絡がとれなくなり、自然に解放された形になっているが......。
 ようするに、タバサはガリア王家を憎んでいるのだ。
 そんな彼女にとって、ガリア王ジョゼフやその使い魔シェフィールドと共に戦う才人など、もはや友人でも何でもなかった。

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「タバサ!? タバサじゃないか!」

 トボトボと街を歩いていたタバサは、ギーシュとその仲間たちに発見された。ギーシュが昔の騎士団の名を拝借して『水精霊騎士隊(オンディーヌ)』と名付けた集団である。

「キュルケは一緒じゃないのかね?」

 ギーシュは、当然の疑問を口にする。タバサとキュルケが姉妹のように仲が良いのは、ギーシュたちも知っていたのだ。

「......ケガした。治療のため、サイトたちのフネに連れてかれた」

「なんだって!? あんなフネに行ったら、治るものも治らなくなってしまうよ!」

 才人たちを悪役と決めつけているギーシュには、とても許せない話だった。

「婦女子を見捨てては騎士の恥。これは助け出しに行くべきだろう」

「え? どういう意味だい、ギーシュ?」

 ぼくわからないよ、といった顔のマリコルヌに向かって、

「サイトたちがいるからこそ、エルフが攻めて来るのだよ! サイトたちのフネこそが、災いの元なのだ! 今こそ元凶を断つべき! そして、その元凶に連れ込まれた友を救うのだ!」

 ブリミル・ビアルを壊しに行く、と主張するギーシュ。
 マリコルヌとレイナールは、肩をすくめて、顔を見合わせる。反論しても無駄だとわかっていたからだ。

「......私は行かない」

 ポツリとつぶやくタバサを放置して。
 ギーシュとその仲間たちは、ブリミル・ビアルへと向かった。

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「機械増幅竜(メカブースト)の動きをキャッチしました! 今度は......どうやらラ・ロシェールを襲うつもりのようです!」

「まあ! 私の故郷タルブの近くですわ!」

 ちょうどブリッジにお茶を運んできたシエスタが、悲鳴を上げる。

「任せろ! 村は俺が守ってやる!」

「お願いします、サイトさん!」

 急いで出動するリーヴスラシル3。
 その後を追うように、戦闘支援のため、ブリミル・ビアルもラ・ロシェールに向かうつもりだったのだが......。

 どーん。

「艦内で爆発!」

「航行不能! 緊急着陸!」

「なんだ!? エルフの破壊工作員が潜入したのか!?」

 ブリッジは騒然となった。

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「ギーシュ......もうやめようよ。これじゃバレちゃうよ」

 艦内で暴れ回っていたのは、ギーシュとその仲間たちである。

「何を言ってるのかね。これは正義のための破壊活動なのだ。恥じることなく、堂々としていればいいのだよ」

「えー。こういうのはさ、女子風呂を覗くみたいに、こっそりやるもんじゃないのかなあ?」

 破壊活動をそんなものに例えるとは......。
 ギーシュとは違う意味で、マリコルヌは馬鹿だ。
 レイナールは、頭が痛くなった。

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「ぎぃやああああああああああ!」

「うわぁああああああああああ!」

「いやぁああああああああああ!」

 ギーシュたちは、駆けつけてきたカリーヌに一掃された。

 バシンッ!

 リーダーであるギーシュには、さらにカリーヌの平手打ちが飛ぶ。

「あなたはグラモン伯爵の御子息なのでしょう!? お父上がこんな姿を目にしたら、どう思うでしょうね!?」

 カリーヌの目の輝きは、ギーシュの父を個人的によく知る者のそれだった。
 まるで父親から怒られているかのように......。
 ギーシュの胸に、熱いものがこみ上げる。父親にも殴られたことなどなかっただけに、その衝撃は大きかった。自分でも気づかぬうちに、涙が流れていた。

「......ミスタ・グラモン......。これで少しは、私たちのことも理解してくれるとよいのだが......」

「本当ですわ! ったく! 最近の若い者ときたら! いったい、どういう教育を受けているのか......」

 コルベールの言葉に、年長者らしく相づちを打つエレオノール。ギーシュたちを魔法学院で教育したのは他ならぬコルベールなので、何気にキツい言葉である。
 そして、彼女の言葉に食いついた若者が一人。

「だって......ボク、本当に若いし......お姉さんみたいに老成してないし......」

「はぁ? 老成ですって? あなた! いったい何を言いたいの?」

「......ボク、別にお姉さんを年増とは思ってませんよ。行かず後家だなんて、口が裂けても言いませんよ」

「はぁ? あなた! 自分の立場がわかってるの? あなたたちは今、説教されてるのよ! それなのに! このッ! 能なしの豚がッ!」

 怒ったエレオノールの杖の先に、ピキーンと鞭が伸びる。それで散々にマリコルヌを叩き始めた。

「ああ!? いくらなんでも、やりすぎですぞ!?」

 周りは止めようとするが......。
 レイナールにはわかっていた。マリコルヌは喜んでいるのだ、と。わざと怒らせているのだ、と。ギーシュとは違ってマリコルヌには更生の余地などないのだ、と。

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 ギーシュたちは、傷の癒えたキュルケと共に、艦から降ろされた。
 彼らが艦内で暴れていたのは、時間にすれば短いものであったが......。
 彼らが艦に与えた被害は、けっして小さなものではなかった。

「......ギーシュのやつ......」

 ブリミル・アタックで機械増幅竜(メカブースト)を倒し、タルブの村を守って意気揚々と戻ってきた才人は、艦の惨状を見て愕然とするのであった。

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 第八話 廃墟に誓う騎士


「やれやれ。なんとかレーダー回路の修理だけは終わりましたぞ」

 ブリミル・ビアルは、修理作業に大忙し。今のままでは、飛ぶことも出来ないのだ。

「ご苦労様です。ミスタ・コルベールのような優秀な学者が、ぜひロマリアにも欲しいものです」

 ブリッジに来ていたヴィットーリオが、コルベールの労をねぎらう。
 お付きの巫女ミケラも、ヴィットーリオと一緒に来ていたのだが......。
 そこに、聖堂騎士隊のカルロまでもが飛び込んでくる。

「大変です!」

「どうしたのです? あなたには、ビアル・アルビオンを任せていたはずですが......」

「申し訳ありません! 反乱です! 一部の聖堂騎士が、ミス・ウエストウッドを人質にして、ビアル・アルビオンのブリッジに立てこもってしまったのです!」。

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 聖堂騎士は、人一倍信仰心が厚く、だからこそ、始祖ブリミルに与えられし使命として、エルフと戦ってきた。
 しかし、彼らの戦いは、民衆には理解されていないらしい。昔ならば、反対する者は全て「異端だ!」と狩ってしまえばよかったのだが......。
 なにしろ、数が多すぎる。従来の聖堂騎士のやり方は通用しなかった。

「私たちは、こんな戦いは、もう嫌なのです!」

「このままでは、民の心は離れていきます! ブリミル教そのものが崩壊してしまいます!」

「教皇聖下! なにとぞ再考のほどを!」

 それが、ビアル・アルビオンを占拠した者たちの主張であった。

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「そのような話、聞き入れるわけにはいきません」

 ヴィットーリオは、頑として、首を縦には振らない。

「ああ! なぜ彼らはわかってくれないのでしょう!? 未曾有の危機だからこそ、この時代に、四つの虚無が復活したというのに......。この戦いこそが、始祖ブリミルの御心だというのに......」

 ヴィットーリオは、目頭を押さえた。ジュリオが、その肩に優しく手をおいた。ミケラも、小さな手を主人のもう片方の肩におく。
 だが、反乱グループには、教皇の気持ちなど伝わらない。『遠見の鏡』に映し出されるのは、ビアル・アルビオンが合体を解除し、二艦を放置して離れていく光景だった。

「そうか......ブリミル・ビアルとしては動けなくても、分離すれば、それぞれは飛べるのか......」

 冷静につぶやく、ちょっと学者馬鹿のコルベール。
 そして、この時。
 修理したレーダーが、機械増幅竜(メカブースト)ガルチャックの接近をキャッチした。

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 いつものように出撃するリーヴスラシル3。

「サイト! 艦内がゴタゴタしているのだから、早くやっつけて戻らないといけないよ!」

「言われなくてもわかってるさ、ジュリオ!」

 才人としても、苦戦するつもりなどなかった。

「シェフィールドさん! この機械増幅竜(メカブースト)の弱点は!?」

「うーん......おかしいねえ......。ちょっとよくわからないよ。まるで何かよほど硬いもので覆われているかのように、内部の様子が見えなくて......」

「それなら、一番の必殺技を叩き込んでしまおう! ブリミル・アタック!」

 しかし。

「うわああああああ!?」

 必殺のブリミル・アタックが、跳ね返されてしまった!

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「余のミューズも苦戦しているようだな」

 知った顔で、ジョゼフがブリッジに入ってくる。
 戦況を見つめる面々の中、彼はルイズとヴィットーリオを見て、

「いつもいつも使い魔に頼るのではなく......たまには担い手のほうが活躍してもよいのではないか?」

「ガリア王......! あなたは攻撃魔法が使えるのですか!?」

 ヴィットーリオの呪文は『世界扉(ワールド・ドア)』や『記録(リコード)』であり、直接の攻撃力は持たない。
 ジョゼフの虚無魔法のストックには、一応、破壊力のある呪文もあるのだが......。

「俺よりも、もっとふさわしい人物がいるだろう?」

 彼の視線は、ルイズに向けられていた。

「わ、私?」

「そうだ。何を唱えても爆発してしまう......。それはつまり虚無魔法『エクスプロージョン』に違いないぞ」

 ただしルイズの爆発魔法は、本物の『エクスプロージョン』ではない。まだ彼女は、虚無の呪文を習得していないのだ。
 しかし艦内には始祖の秘宝も指輪もあるので、ルイズに魔法を覚えさせることなど簡単だった。

「エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ......」

 ルイズの呪文詠唱が始まった。

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 才人は信じられない光景を目の当たりにした。今まで散々自分たちの攻撃を跳ね返していた機械増幅竜(メカブースト)が......。
 光の球に包まれたのだ。まるで小型の太陽のような光りを放つ、巨大な球に。
 そして。
 光が晴れた後、機械増幅竜(メカブースト)は爆発炎上していた。

「なんだったんだ、今のは......?」

 ルイズの十数年分の精神力が込められた、二度と再現不可能な超強力エクスプロージョン。その威力が、機械増幅竜(メカブースト)の反射能力の限界を上回ったわけだが......。
 才人がそれを聞かされるのは、ブリミル・ビアルに帰還した後であった。

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 戦闘終了後ほどなくして、ビアル・アルビオンも戻ってきた。再び合体して、ブリミル・ビアルとなる。

「では、これからも始祖ブリミルのために戦ってくれるのですね?」

「もちろんです! 教皇聖下!」

 聖堂騎士たちは、別に改心したわけではない。自分たちの叛意も含めて、一連の騒動をケロッと忘れていた。
 ......なまじティファニアなど人質にしたから、虚無魔法『忘却』を食らったのである。

「なんだったんだ、いったい......」

 呆れながら彼らを眺めるサイトに、

「見てくれ。幸せな騎士たちさ」

 皮肉な口調で言うジュリオであった。

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 第九話 危うし! ブリミル・ビアル


 ブリミル・ビアルの修理ははかどらない。修理には、技術だけでなく資材も必要なのだ。
 しかし、トリステイン王家も表立った援助はしてくれず、また大衆の支持も得られない状況では、資材購入は難しかった。
 そんな時。

「王家の資材の横流し......?」

「はい。トリステインのリッシュモン高等法院長から、そのような申し出が......」

 金しだいでは王族すら他国に売り渡すであろう、リッシュモン。そんな守銭奴は、平時ならば極悪人であるが、今のブリミル・ビアルの面々にとっては、ありがたい話でもあった。

「許せないわ! そんな奴!」

「ルイズ。仕方ないことなのですよ」

 正義感からプンプンしているルイズは、大人のカリーヌがなだめて。
 あれこれと商談が進んでいくうちに......。

「機械増幅竜(メカブースト)、接近!」

 まるで荷物の積み込みを妨害するかのように、敵が現れた。

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「あれ? 思ったよりあっけなかったな......」

 必殺技を発動させるまでもなく、機械増幅竜(メカブースト)アモンスガーはバラバラになってしまった。
 破片はブリミル・ビアルに降りそそぎ、船体に貼り付いていく。

「ちょうどいいや。これもフネの修理に使う資材にしちまおうぜ」

 のんきなことを言う才人であったが......。

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「オールド・オスマン! たた、大変です!」

「なんじゃね?」

「艦に引っ付いた機械増幅竜(メカブースト)の破片......あれは爆弾です!」

 放射能こそ出さないもの、ひとつひとつが水爆級の破棄力を持つ、恐ろしい爆弾だ。

「なんじゃと!?」

 ブリッジは騒然となった。

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 ただちに始まる爆弾撤去作業。
 リーヴスラシル3が力づくで、あるいは、艦内のメイジたちが魔法で。
 そーっと、そーっと。なるべく震動を与えぬように、爆弾を剥がしていく。
 それでも。

「うわああああ」

 作業中に、数個が爆発してしまった。
 ブリミル・ビアルの船体には大きな穴が開き、また、荷物を運んでいた輸送船団も、何隻か沈んでいく。
 なお、この爆発に巻き込まれる形で、リッシュモンも命を落とした。

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「で、こいつら、どう処理したらいいわけ?」

 とりあえず艦からは剥がしたが、さて、どうしたものか......。
 困る才人たちの前で。
 破片は寄り集まって、再び機械増幅竜(メカブースト)となる。
 いつものように戦うリーヴスラシル3。
 しかし。

「サイト! 気をつけて戦わないと! 下手に攻撃したら大爆発だ。ブリミル・ビアルも巻き込んでしまう!」

「わかってるさ、ジュリオ! でも......じゃあどうしろっていうんだよ!? シェフィールドさん、こいつの弱点は!?」

「弱点も何も......爆弾の塊だからねえ」

 そんな無敵超人に救いの手を差し伸べたのは、教皇ヴィットーリオだった。

「みなさん! 私の魔法で『扉』を開きましょう! 遠い世界に送りこんで......そちらで爆発させるのです!」

「なんだかよくわかんねーけど......それしかないんだな!?」

 十分理解しないまま。
 ヴィットーリオが開いた『世界扉(ワールド・ドア)』に、機械増幅竜(メカブースト)を押し込んで......。

「必殺! ブリミル・アタック!」

 才人が必殺技を叩き込むと同時に、ヴィットーリオが『世界扉(ワールド・ドア)』を閉じる。爆発の余波は、まったく伝わってこなかった。
 厄介な敵が片づいて、勝利に沸く一同の中。

「チラッと見えた景色......どっかで見たような景色だったけど......気のせいだよな?」

 虚無魔法『世界扉(ワールド・ドア)』で見た光景を振り返り、少しだけ嫌な予感がする才人であった。

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 第十話 巨大機動要塞あらわる!


 ブリミル・ビアルは、合体を解除することになった。
 手に入った資材で修理の目処は立ったが、まだ『ブリミル・ビアル』としては航行できない。それならば、修理をしながら、動ける状態で別々に行動した方がよい......という判断である。
 四人の虚無メイジと三人の使い魔はビアル・トリステインに残して、他の二艦は、ガリアとロマリアへ戻っていく......。

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 その頃。
 廃墟と化したトリスタニアの中央に、エルフの巨大機動要塞が降り立っていた。
 ただし、これはエルフの侵略行為ではなく、トリステイン王家も認めた行動。エルフの『鉄血団結党』とトリステイン王国との間で、和平交渉が行われることになったのだ。

「大臣。我ら和平交渉使節団は、エルフとの交渉を絶対に成功させねばなりませんぞ」

 馬車の窓から、荒れ果てた街の惨状に目をやって。
 マザリーニ枢機卿は、同乗している大臣に声をかける。

「そうですな」

「まったくです」

 同僚たちの生返事を聞いて、マザリーニは心配になった。はたして、本当に彼らは状況を理解しているのだろうか。
 彼らの心に訴えかけるべく、マザリーニは、言葉を続ける。

「見てごらんなさい、このトリスタニアの有様を。トリステイン中の街や村を、同じ目にあわせてはいけないのです......」

 やがて。
 一行の馬車は、約束の場所に到着した。
 そこにそびえ立つのは、巨大な鉄の城。トリステインの宮殿ほどではないが、それでも、動くなどとは思えぬシロモノ......。
 エルフ『鉄血団結党』の巨大機動要塞であった。

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「こんな......若い娘が......」

 交渉の席に現れた指揮官ファーティマは、妖精のようなエルフだった。
 美しい透き通るような金髪に、これまた澄んだ垂れ気味の碧眼。とんでもない美少女にしか見えないが、澄んだ瞳は冷たい何かに彩られている。そして、氷のようにその表情は動かない。

「よくぞいらした。会談は食事が終わってからにしましょう」

 言葉だけは丁寧に、しかし視線は冷たく。
 ファーティマは、マザリーニたち使節団に、テーブルの上を指し示す。
 正体不明の豪勢な料理が並んでいた。エルフのものが人間の口にあうかどうかわからないが、それでも一応、精一杯のもてなしのようだ、

「まずは乾杯を」

 ファーティマに促され、マザリーニたちはグラスを掲げる。
 すると......。
 グラスの底から木の枝のようなものが伸びてきて、使節団は全員拘束されてしまった!

「ファーティマ殿!? これはいったい、どういうことなのですか!?」

 マザリーニの問いかけに対して、ファーティマは冷静にグラスの酒を飲みながら、

「これから楽しい狩りを始めるのだ。......蛮人狩りという狩りを」

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「なんだって!? 和平交渉!?」

「そうです。マザリーニ枢機卿を団長とする和平交渉使節団が、エルフの巨大機動要塞に向かったとか......」

 ブリミル・ビアルにも、ようやくその報せは届いてた。

「あのエルフの連中と、和平なんて出来るわけないだろ」

 異世界から来た才人にもわかる。敵は、とても交渉などできる相手ではないのだ。

「そうよね。いったい王家は何を考えているのかしら。姫さまだっていらっしゃるでしょうに」

 幼少時の友のことを思い出しながら、ルイズも才人の意見に賛成する。
 ハルケギニアの民にとって、エルフは恐怖と嫌悪の対象。交渉など、もってのほかである。

「普通に考えれば......罠でしょうな」

「まあ! 大変ですわ! それでは枢機卿の身に危険が!」

 冷静なコルベールのコメントを聞いて、慌て始めるシュヴルーズ。どうやら彼女、マザリーニ枢機卿の熱烈なファンだったらしい。
 ともかく。
 使節団救出のため、リーヴスラシル3が出動した。

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「......はあ......はあ......」

 マザリーニは、両手を縛られた状態で、森の中を走り回っていた。
 髪もひげも既に真っ白、伸びた指は骨張っているマザリーニであるが、外見ほど年は食っていない。逃げ回る程度の体力はあった。

「......これでは......まるで......けもの扱いだ......」

 エルフの蛮人狩り。それはちょうど、貴族たちが行うきつね狩りと同じようなもの。きつね狩りにおける犬や勢子の代わりに、エルフは、大砲付きの車を持ち出していた。ハルケギニアの人々が知らぬ兵器......戦車である。

「......くっ......」

 マザリーニ以外の大臣たちは、もう『狩られて』しまったらしい。
 和平交渉に来たはずだったのに......。
 話し合いすら出来ないとは......。
 悔しがるマザリーニの目前に、突然、不思議な人影が出現する。

「エルフが放った化け物か!?」

 そうではなかった。
 記すことさえはばかれる姿をした救世主......リーヴスラシル3である!

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「結局、救い出せたのはマザリーニ枢機卿だけか......」

「サイト。一人だけでも助けられたことを、良しとしようじゃないか」

 マザリーニを安全なところまで送り届けた後。
 才人たちは、エルフの巨大機動要塞へと向かう。一気に敵の本陣を叩いてしまおうというのだ。
 だが、行く手を遮るかのように、今日も機械増幅竜(メカブースト)が現れる。いくつもの戦車が合体したような姿の機械増幅竜(メカブースト)、トラシッドである。

「なんだよ、これ!? どっからどう見ても戦車の寄せ集めだろ! もう『竜』でもなんでねえじゃん!」

「サイト。そんなの、今さらだよ。そもそも『竜』っぽい機械増幅竜(メカブースト)の方が少ないだろう?」

 無数の砲台に苦しめられながらも......。
 才人は、必殺技を叩き込む。

「必殺! ブリミル・アタック!」

 機械増幅竜(メカブースト)、撃破。
 その勢いで、続けて巨大機動要塞に突撃するが......。

「うわああ」

 リーヴスラシル3は、途中で弾き返されてしまった。

「なんだ、今のは!?」

「見えない壁のようだね」

「バリヤーだよ! 巨大機動要塞には、強力なバリヤーが張られていたんだ!」

 敵の中枢を目前にして、これでは為す術もない。
 茫然と立ちすくむ、リーヴスラシル3であった。

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 第十一話 決死の潜入作戦


 巨大機動要塞から少し離れたところに着陸して。
 ビアル・トリステインの艦内では、作戦会議が行われていた。

「せめて私の精神力が、もっと溜まっていたら......」

 残念そうなルイズ。初めてのエクスプロージョンほどの威力があれば、巨大機動要塞のバリヤーも貫けるかもしれないが、今のルイズでは、そこまでパワーのある魔法は放てない。ある意味、機械増幅竜(メカブースト)ごときに使ってしまったのを、惜しく思うのであった。

「直接攻撃ではなく、補助的な虚無魔法を使えばよろしいのでは......?」

 教皇ヴィットーリオが提案する。

「バリヤーといっても、完全に密閉されているとは思えません。中の者の出入り口として、どこかに隙間があるはずです」

「でも......その隙間をどうやって探るので......? あ、そのための『補助的な虚無魔法』ですか」

「いいえ。わざわざ探す必要はないのです」

 教皇は、にっこりと微笑んだ。

「穴が開いている、というのであれば......『瞬間移動』で中に入れるはずです」

「......瞬間移動!?」

「私には使えませんが、そういう虚無魔法がある、というのは確かです」

 ここには、ヴィットーリオ以外にも三人、虚無の担い手がいる。また、始祖の秘宝も指輪もある。誰か一人くらいは習得できるだろう、ということで試してみたら......。
 ルイズが『瞬間移動』を覚えた!

「......なんだか御都合主義な展開だな」

「失礼なことを言うね、サイトは。これは始祖ブリミルの思し召しだよ」

 才人がジュリオに怒られた、ちょうどその時。

「機械増幅竜(メカブースト)、接近!」

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「基地突入どころじゃなくなりましたねえ」

「いや、むしろチャンスじゃよ。ミスタ・コルベール」

 オスマンの言葉に、ヴィットーリオやジョゼフといった重鎮たちは、無言で頷く。
 だが若者の多くはわからないという顔をしているので、オスマンはさらに説明する。

「リーヴスラシル3が機械増幅竜(メカブースト)と戦って、敵の注意を引きつけている間に、別働隊が要塞に潜入して、中からバリヤー発生装置を壊すのじゃ!」

 別働隊とは、もちろんルイズのこと。彼女の『瞬間移動』しか、潜入手段はないのだから。

「ルイズがそんな危険なところへ行くっていうなら......俺も......」

 彼女の使い魔として。
 才人はルイズを心配し、同行を申し出るが......。
 許可されるはずもなかった。

「ダメよ! あんたはリーヴスラシル3となって機械増幅竜(メカブースト)と戦わないと!」

「でもよ......」

「それならば......ルイズの警護には、わたくしが行きましょう」

 若い二人の押し問答を止めたのは、カリーヌの言葉。『烈風』カリンがルイズを守るというのであれば、安心である。

「では......話は決まりましたね」

 そして。
 リーヴスラシル3と母娘が出撃した。

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 鳥のような機械増幅竜(メカブースト)、バイブロンと戦うリーヴスラシル3。
 吐き出される炎やミサイルを、巧みにかわす。

「わかってるだろうね? サイト、僕たちは一種の陽動だよ」

「それくらいわかってるって。ようするに、時間かけて戦えばいいんだろ」

 別に手を抜いたりせずとも、この機械増幅竜(メカブースト)は強敵のようだ。
 組み付いて肉弾戦を繰り広げながら、それでも才人は、余裕の言葉を口にしていた。

「へっ。作戦は順調だぜ!」

 急いでくれよルイズ、と心の中だけで呼びかける......。

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 ルイズは母カリーヌに守られながら、予定どおり『瞬間移動』で、潜入に成功していた。
 しかし巨大機動要塞の内部構造は、二人にはよくわからない。色々とさまよっているうちに......。

「あれ? 外に出ちゃったのかしら?」

「違いますよ、ルイズ。......屋外のような部屋が、要塞内に造られていたようですね」

 迷い込んだ先は、緑にあふれた広い部屋。ちょっとした植物園だった。
 直径百メイルほどの大きな泉がある。水面は真っ青に輝いており、色鮮やかな泉の周りを、見慣れぬ木々や茂みが囲んでいた。木々の隙間からは、遠くの砂地も見える。
 どうやら、砂漠のオアシスを模した部屋らしい。
 そうやって二人が、室内を見回していると......。

「悪魔め! こんなところまで乗り込んできたのか!」

 よく通る声が、背中から響いてきた。
 二人は思わず振り返る。
 見ると、士官服っぽい服装の少女を先頭にして、エルフの一部隊が立っていた。手には銃のようなものを持っている。
 カリーヌは後ろ手にルイズをかばいながら、同時に少し後ずさりしながら、少女に尋ねた。

「あなたは......?」

「悪魔を滅ぼすために蛮人どもの国までやってきた......『鉄血団結党』のファーティマ・ハッダードだ!」

 今ここに、二人は敵の指揮官と直接対面したのであった。

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「なぜ人間の国に攻め込むのです!?」

「悪魔だからだ」

 ファーティマは、カリーヌの質問に即答した。

「『我ら砂漠の民、鉄の如し血の団結でもって、西威を殲滅せんとす。大いなる意志よ、我らを導き給え』......これが党是だ。だから私は、悪魔を殺しに来たのだ!」

 もともと教義を妄信するのが『鉄血団結党』であるが、ファーティマの場合、それだけではなかった。
 蛮人の世界に走った叔母という、部族の恥がある。部族の汚名を返上するためにも、ファーティマは、抜きん出た才能と党への忠誠心を示す必要があった。

「西威......ですって!? かつて始祖ブリミルが降臨した『聖地』を占領し、『シャイターン(悪魔)の門』と呼ぶあなたがたが、今度はハルケギニアの国々まで蹂躙するというのですか!?」

「そうだ! それが『大いなる意志』の御心に沿うことなのだ!」
 
 カリーヌと言葉を交わしながら。
 ファーティマは、カリーヌの後ろの少女ルイズが、何やら呪文を唱え始めたことに気がついた。

「悪魔め! なんの呪文を唱える気だ? やってみろ! 一度、悪魔の業を見たいと思っていたのだ」

 ファーティマは叫んだ。
 しかし、カリーヌが娘を止めてしまう。

「やめなさい、ルイズ! あなたは精神力を温存するのです!」

「......そうか。ならば、ここで死ね!」

 ファーティマの銃が火を吹いた。

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 ゴォオオオオッ!

 巨大な竜巻が荒れ狂う。
 カリーヌの『カッター・トルネード』だ。それは屋内植物園の草木を切り裂き、敵の銃弾をも跳ね返した。
 だが、強力なスペルは、それだけ精神力を消耗する。このままではまずいと、カリーヌは理解していた。

「ひるむな! 銃がダメならば魔法を使え!」
 
 暴風で視界が遮られる中、敵の指揮官の声が聞こえてくる。
 そう、エルフには恐ろしい先住魔法があるのだ。ただでさえ強力な魔法だが、池の水や木々や砂土など、ここには先住魔法で操れるものが豊富にある......。

「逃げますよ、ルイズ! ここで戦うのは不利です!」

「母さま! では私の『瞬間移動』で......」

「ダメです! それは要塞から脱出する際に使うのです! それまであなたは、精神力を温存しておきなさい!」

 この部屋から逃げ出すのが一番、続いてバリヤー発生装置の破壊。要塞から出るのは、その後......。
 カリーヌは、任務を忘れていなかった。

########################

「どうしたのかね、サイト? 動きが鈍くなっているぞ」

 機械増幅竜(メカブースト)と戦い続けるリーヴスラシル3。体のコントロールをしているのは才人なので、ピンチになればジュリオが文句を言うのも当然であった。

「それが......左目がヘンなんだ」

 ガンダールヴでもある才人は、ルイズが危機に陥ったことで、彼女の視界を共有し始めていた。
 とりあえず今のところは、カリーヌの奮闘で、なんとか逃げ回れているようだ。

「もう機械増幅竜(メカブースト)なんて無視して、ルイズのところに駆けつけたいんだが......」

「ダメだ、サイト! それでは作戦が台無しになってしまう!」

「......お? いや大丈夫みたいだぜ、ジュリオ」

 視界共有のおかげで、才人は知ることが出来た。ルイズたちがバリヤー制御室にたどり着いたことも、発生装置の破壊に成功したことも。
 しかし才人はそちらに意識を向けていたため、いつのまにかリーヴスラシル3は、機械増幅竜(メカブースト)に体を拘束されていた。
 ベルト状の武器が、リーヴスラシル3を締め上げる。

「ええいっ! もうおまえと遊んでる場合じゃないんだよ!」

 力づくで強引に振りほどき......。
 リーヴスラシル3は、要塞攻撃に向かう!

########################

「バリヤーが破られました! 悪魔の巨大使い魔が、要塞を直接攻撃しております!」

「バイブロンは何をしているのだ!? 敵の戦法を見習え! 敵の基地を襲わせるのだ!」

 ファーティマの命令で、機械増幅竜(メカブースト)がビアル・トリステインを襲撃する。
 巨大機動要塞を少しずつ斬り崩していたリーヴスラシル3も、この動きに気づいた。

「サイト! ビアル・トリステインだけでは、とても機械増幅竜(メカブースト)にはかなわないぞ!」

「ジョゼフ様の身に危険が! 急いで戻るんだよ!」

「......仕方ねーな。もうちょいだったのに......」

 実際には、まだまだ大きなダメージは与えられていない。巨大機動要塞の攻略には、かなり時間がかかりそうだ。これでは先に自分たちの母艦がやられてしまう。
 やむを得ず引き返すリーヴスラシル3。
 これに応じて機械増幅竜(メカブースト)も、攻撃の対象をビアル・トリステインからリーヴスラシル3に変更。

「うわああ」

 機械増幅竜(メカブースト)の炎を浴び、さらにベルト攻撃で締め上げられ、リーヴスラシル3は苦戦するが......。

「ブリミル・アタック!」

 体を拘束されながらも、超至近距離から必殺技を叩き込む。
 なんとか機械増幅竜(メカブースト)を撃破したが、しかし、自身もかなりのダメージを負ってしまった。
 これでは、もう要塞攻撃など不可能。空高くに逃げて行く巨大機動要塞を、才人たちは、ただ見上げるしかなかった。

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 ルイズとカリーヌは、要塞がどこか遠くへ行ってしまう前に、ルイズの『瞬間移動』で無事脱出。
 ビアル・トリステインに戻ったカリーヌは、皆の前で、敵の指揮官と出会ったことを告げる。

「ファーティマという、とても美しい少女でした。しかし、あくまでも彼女は前線指揮官です。その背後にある巨大な存在......『鉄血団結党』こそが、本当の敵なのです......」

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 第十二話 誕生日も死闘


 ビアル・トリステインの艦内の一室で。
 才人とジュリオは、虚無の使い魔同士、二人でくつろいでいた。
 出会ったばかりの頃、才人はジュリオを良く思っていなかった。だが、共にリーヴスラシル3として戦ううちに、戦友の情が湧いたらしい。今では、こうして二人で過ごすことにも抵抗はなかった。
 そんな二人のところに......。

「......どう? 似合うかしら?」

 いつもと雰囲気が違う、シェフィールドがやってきた。
 彼女は『東方』の出身であり、そのため、他の者とは服装のセンスが若干異なるのだが......。
 それにしても、今日は特殊すぎる。才人の目には、地球の着物......真っ赤な振袖にしか見えなかった。
 両裾と、膝から下の辺りには、橙色の模様があり、ほどよいアクセントになっている。もみじのような、星のような形だ。
 帯は濃い緑色。中央と上部に黄緑色のラインが入っているように見えるのは、それぞれ、帯締めと帯揚げだ。

「シェフィールドさん。どうしたんですか、それ?」

「今日は私の誕生日なのよ」

 幸せそうに答えるシェフィールド。その態度を見れば、才人にもジュリオにも、もう明らかだった。この『振袖』は、ジョゼフからの誕生日プレゼントなのだ。
 遠い東方の服なのか、あるいは地球から紛れ込んできたものなのか......。それは定かではないが、それでも才人は、目の保養だと思った。
 やはり、和服には黒っぽい髪が似合う。妙齢の美女の振袖姿は、よいものである。

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 なお、今日も機械増幅竜(メカブースト)は攻めてきた。
 機械増幅竜(メカブースト)モグンダーは、リーヴスラシル3にデルフリンガーで斬られて爆発。時間をおいてから機械増幅竜(メカブースト)ハリンダーとして復活したが、今度はブリミル・アタックでやられるのであった。

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 第十三話 果てしなき戦いの中で


「ねえ、あれギーシュじゃないかしら?」

「......ん? そうみたいだな。降りてみるか」

 偵察・警戒の意味で、ルイズと二人でゼロ戦に乗り、空を飛んでいた才人。
 彼らは、荒れ果てた街道をゆく、一台の馬車を見つけていた。
 ギーシュが御者をしており、彼の隣には、一人の少女が寄り添うように座っている。栗色の髪をした、可愛い少女だ。

「よう、ギーシュ!」

 ゼロ戦を近づけ、才人は声をかける。ギーシュは、ちょっと複雑そうな表情で、

「......サイトか。この間は悪かったな」

 仲間と共にブリミル・ビアルに乗り込み、艦を荒し回ったことを謝っているらしい。あの時カリーヌに怒られて、ギーシュの態度も軟化したのだ。
 ならば、下手に波風たてるような対応はしない方がいい。ギーシュの言葉にどう応えるべきか、才人が少し迷っていると、ルイズがひょいっと顔を出した。彼女はギーシュの馬車を覗き込み、

「仲間と一緒に大移動中なのね。......あれ? 隣の子、モンモランシーとは違うような......」

「ああ。彼女はケティ。僕たちは避難を兼ねて、彼女をラ・ロッタ領まで送り届けるところなのだよ」

 ギーシュは説明する。
 ケティは魔法学院の崩壊に巻き込まれて、恐怖で口がきけなくなってしまった。こうやってビスケットを焼くことしか出来ないのだ、と......。
 見れば、確かにケティは、ビスケットの包みを手にしていた。ふんわりと、甘く柔らかい香りが包みから漂う。

「彼女のような少女が、今のトリステインにはたくさんいるのだ。だから僕は、愛を振りまかなければならない。......そしてサイト、これ以上こんな少女を出さないためにも、もっと君は戦いかたを考えたまえ」

「何!? 俺たちが何も考えないで戦ってると思ってんのかよ!」

「そうは言っていないが......。ともかく、早くトリステインから、エルフの化け物を追っ払ってくれ!」

 それだけ言うと、ギーシュは馬車のスピードを上げ、才人たちから離れていく。
 あまり低空飛行を続けるのも危険なので、才人も再び、ゼロ戦を大空へ。

「......でもよ......」

 小さくなるギーシュの姿を見送りながら、才人は思う。
 生き別れとなった妹の代わりに、別の少女を妹のように世話する。それならば美談であろう。
 だがギーシュの場合は......。
 生き別れとなった恋人の代わりに、別の少女を恋人のように世話する。これって単なる浮気ではなかろうか?

「いいじゃないの。ある意味、ギーシュらしいわよ」

 才人の心を読んだかのように、冷静にコメントするルイズであった。

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 そして。
 今日も機械増幅竜(メカブースト)は現れる。
 機械増幅竜(メカブースト)ダボンガー。地中に潜行する能力を持ち、胸から吐き出す火炎や強風で攻撃する機械増幅竜(メカブースト)だ。

『もっと君は戦いかたを考えたまえ』

 ギーシュの言葉を思い出しながら、才人は、リーヴスラシル3となって戦う。

「ちくしょう! 機械増幅竜(メカブースト)め! 俺のメンツを潰しやがって!」

「何を言ってるんだ、サイト?」

「サイト。何があったか知らないけど......。地中へ潜る時に胸の攻撃装置が止まる、それがあの機械増幅竜(メカブースト)の弱点だよ!」

 言われたとおりに、タイミングを見計らって、デルフリンガーで弱点を攻撃。さらに、とどめのブリミル・アタック。
 色々と思い悩みながらも、いつものように敵を倒す才人であった。

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 第十四話 マントよ永遠なれ


 エルフの『鉄血団結党』による侵略は、トリステイン一国ではなく、いつしか隣国にまで広がっていた。
 ゲルマニアのツェルプストー領。トリステインとの国境沿いにあるその地に、機械増幅竜(メカブースト)カメヅオンが襲いかかる!

「大変だわ! あれキュルケのお屋敷よ!」

「なんだって!?」

 ちょうどゼロ戦で国境近辺を飛んでいた才人は、後部座席のルイズに言われて、深い黒い森に目を向ける。森の中央には、見た目と格式をまったく無視した、乱雑な造りの城があった。
 森の周囲には、機械増幅竜(メカブースト)の接近を恐れて、逃げ惑う人々の姿も見える。

「サイト! あんただけじゃ、とても機械増幅竜(メカブースト)は倒せないでしょ!? みんなが来るまでの間、私たちは人々の避難を手助けしましょう!」

 ルイズの判断は正しい。才人は森の外にゼロ戦を着陸させて、群衆に近づく。すると、二人の視界に入ってきたのは......。

「ダメよ! あたしたちも逃げなくちゃ!」

「......私は行かない。城に戻る。母さまをおいて逃げるわけにはいかない」

 言い争いながら、人々の流れとは逆行しようとする少女二人組。キュルケとタバサだった。

「何やってんのよ、あんたたち!」

「あら、ルイズじゃないの!」

 無視している余裕も、喧嘩している余裕もない。
 キュルケは、手早く事情を説明する。
 タバサには病床の母親がおり、最近はキュルケの屋敷で休ませていたこと。その母親が逃げ遅れていること......。

「......動けないほど重病なのか?」

「うーん。まあ......そんなところね」

 才人の問いに、答えをごまかすキュルケ。タバサの母親は心を病んでいるのだが、詳しい背景は才人たちにも秘密にしておくべき、と判断したのだ。

「それじゃ、俺のゼロ戦で運んでやるから......」

「......いらない。あなたの助けはいらない」

 あくまでも才人を拒絶するタバサ。

「出てって。あなたたちブリミル・ファミリーがいけないの。だから出てって」

 タバサにしては雄弁である。しかし、やはり言葉足らずだった。
 ブリミル・ファミリーに属するガリア王こそがタバサの母親の心を壊した犯人であり、だからタバサはブリミル・ファミリーを悪く言うのであるが......。
 才人にしてみれば、また「ブリミル・ファミリーがいるからエルフが攻めてくる」と非難されたように聞こえてしまう。
 そうした行き違いを理解しているキュルケが、

「タバサのことは悪く思わないでね。まあ......色々と事情があるのよ」

「ふーん。わかったわ」

 ルイズは、深く尋ねることはしなかった。キュルケの口調から、何やら複雑なウラがあると感じ取ったのだ。

「じゃあ私たちが、敵を食い止めてあげる! そうすれば、城から逃げる必要もなくなるでしょ」

 方針変更である。ツェルプストーの城を守るため、才人とルイズは、ゼロ戦で機械増幅竜(メカブースト)に立ち向かう!

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「何やってんのよ、サイト!」

「これでも精一杯やってんだよ!」

 ゼロ戦の機銃だけでは、機械増幅竜(メカブースト)に致命傷を与えることはできなかった。ルイズも杖を振るうが、精神力が不十分。機械増幅竜(メカブースト)を葬り去るほどの『エクスプロージョン』は放てなかった。
 一方、敵の攻撃は......。

「わっ!? また当たってるじゃないの! ちゃんと避けなさいよ!」

「......つうか、やべーぞ! これ以上くらったら、いくらゼロ戦でも、墜落しちまう!」

 もう限界だ。才人がそう思った時。

「サイト、もう大丈夫だ。僕たちが来たからね!」

「すぐあとからジョゼフ様もいらっしゃるよ!」

 ジュリオの風竜と、シェフィールドのヨルムンガンドが駆けつけてきた。シェフィールドの言葉どおり、少し遅れて、ビアル・トリステインが来るのも見える。

「よし! 合体だ!」

 いったんビアル・トリステインに戻り、リーヴスラシル3となって再出撃。デルフリンガーを振るい、必殺技ブリミル・アタックを叩き込んで、機械増幅竜(メカブースト)を撃破した。

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 戦い終わった才人のところに、大きな包みを持って、キュルケがやってくる。

「タバサが、これ渡してくれ、って」

「タバサが......?」

 才人たちに対して、あまりにもひどい態度をとってしまった、とタバサは少し反省したらしい。お詫びの意味を込めたプレゼントだった。
 開けてみると......。
 中から出てきたのは、巨大なマント。

「メイジではないけど......でもリーヴスラシル3にも、マントがあった方がいいでしょう?」

「そうか......。ありがとう、タバサ!」

 タバサがいるであろう、ツェルプストーの城に向かって。
 才人は、大きく叫びながら手を振った。よほど嬉しいとみえて、子供のようにはしゃぐ才人である。

「あの......。それ、あたしも作るの手伝ったんだけど......」

 キュルケの言葉は、才人には聞こえていないらしい。

「......み、みじめ......」

 小さくつぶやくキュルケであった。

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 第十五話 海に消えた旧友


 海に面した小さな街、ドーヴィル。その海岸に、若い二人の声が響いていた。

「ちょっと! 待ちなさいよ、サイト!」

「ははは。いいじゃないか、ルイズ。こういうところじゃ、水をかけ合って遊ぶもんだぜ!」

 水辺でじゃれあう、才人とルイズである。
 少し離れたところでは、ジュリオが青い水着で、シェフィールドが薄緑色の水着で、砂浜に寝そべり、日光浴をしている。
 そうした光景を眺めつつ、オスマンが言う。

「食糧と水の補給に寄っただけなのに、思いがけない休養になったようじゃな」

「まったくです。修理さえ順調なら、ビアル・アルビオンもビアル・ガリアも、みんなここに呼んでやりたかったですね」

 オスマンの傍らで、コルベールが同意を示す。
 珍しくのどかな風景であった。
 だが、その平穏を破るかのように。

「大変です! オールド・オスマン!」

 バタバタと騒がしくやってきたのは、シュヴルーズだ。

「なんじゃね? そんなに慌てて」

「伝書フクロウが届いたのです! トリステイン王家から!」

「なんじゃと!?」

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 伝書フクロウが運んできた内容は、むしろ朗報だった。
 先日のマザリーニ枢機卿救出の効果だろうか。トリステイン王家が、物資の補給をしてくれることになったのだ。
 すでに輸送船団が出発しているらしい。しかも、わざわざ護衛として、優秀な傭兵メイジまで雇って......。
 だが、記されていた傭兵メイジの名前を見た途端、コルベールの顔色が変わる。

「......『白炎』メンヌヴィル......」

 かつてコルベールがトリステインの軍人だった頃、彼の部隊で働いていた男だ。当時は軍の命令で、かなり非道な行為にも手を染めたのだが......。その際メンヌヴィルは、むしろ喜々として人々を焼いていたのだ......。

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 トリステインの空をゆく輸送船団。しんがりは一隻の小さなフリゲート艦だが、そこには手だれの傭兵たちがたくさん乗り込んでいる。船団の護衛艦なのだ。
 その甲板に立って、メンヌヴィルは、まっすぐに宙を見つめていた。
 突然。

「オレを試してなんとする? 子爵」

 振り向きもせず、メンヌヴィルは背後に声をかけた。王家の役人がこっそり近づいてくるのに気づいたからである。

「そんなつもりはない。......それより、しっかり働いてくれよ。我々が向かうフネには、私の婚約者も乗っているのだ」

「子爵。心配するな。もらった金の分だけ、きっちり仕事はしてみせる。あんたは黙って見ていればいいのさ」

 王家が同乗させた役人は、ワルド子爵といって、魔法衛士隊の一つグリフォン隊の隊長だ。相当な腕前のメイジのはずだが、そのワルドでも機械増幅竜(メカブースト)にはかなわない、という判断で、トリステインは傭兵を雇ったのだ。ワルドのメンツが丸つぶれなことくらい、メンヌヴィルも理解していた。

「......ずいぶんな自信だな」

「オレの炎は、全てを燃やし尽くすからな」

 メンヌヴィルは、ニヤッと笑う。

「楽しみだなあ。機械増幅竜(メカブースト)......。いったいどんな匂いがするんだろうねえ? オレは、人間が焼ける匂いが大好きなのだが......きっと機械増幅竜(メカブースト)とやらは、ひと味違った匂いをかもし出すんだろうなあ」

 少し前までレコンキスタに雇われていたメンヌヴィルが、こうしてトリステインに鞍替えしたのも、より楽しみな素材があるからこそ。
 一番焼きたいのは昔の隊長だが、それには及ばぬとしても、機械増幅竜(メカブースト)だって楽しませてくれるに違いない......。
 期待に胸を膨らませて、高らかに笑うメンヌヴィル。その『昔の隊長』がビアル・トリステインに乗っていることを、彼は知らなかった。

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 ビアル・トリステインが見えてきた辺りで、輸送船団は、機械増幅竜(メカブースト)デスカメルに襲われた。

「艦を突出させろ! 船団を守るのが、オレたちの仕事だ!」

 メンヌヴィルは、傭兵部隊の面々に指示を出す。

「オレが正面から仕掛ける。ジャン、ルードウィヒ、ジェルマン、ついてこい。ジョヴァンニ、四人連れて『フライ』で敵の右側に回り込め。牽制だ。セレスタン、残りを連れて、左へ行け」

 そして彼は甲板の上へ。

「嗅ぎたい。お前の焼ける香りが嗅ぎたいぞ!」

 巨大な機械増幅竜(メカブースト)に向かって、臆することなく杖を振るメンヌヴィル。
 杖の先から炎が巻き起こり、巨体を包み込もうとした瞬間......。
 その炎が、ぶわっと別の炎によって押し戻された。機械増幅竜(メカブースト)の尻尾の先で燃え盛る、巨大な炎だ。

「うわああああああ」

 部下の傭兵たちが情けない声を上げる。
 送り返されてきたメンヌヴィルの炎と機械増幅竜(メカブースト)の炎。ダブルの炎で、生きたまま焼かれたのだ。

「......お前たちの焦げる匂いじゃあ、オレは満足しねえな......」

 燃える部下に、ただ文句だけを吐き捨てるメンヌヴィル。
 人間トーチだけでなく、あっというまに、火は甲板にも燃え広がっていく。
 加えて、機械増幅竜(メカブースト)の首の後ろからトゲ状の弾丸が放たれ、メンヌヴィルの乗るフリゲート艦を襲う。

「わかっただろう!? メイジの魔法は、機械増幅竜(メカブースト)には通用せぬ! おとなしく逃げるのだ!」

「馬鹿を言うな、子爵。逃げたきゃ勝手にお前だけ逃げろ。戦いは始まったばかりだ。オレはまだまだ楽しませてもらうぜ!」

「......ちっ! 勝手にしろ! もう知らんぞ!」

 ワルドだけではない。傭兵たちの中にも、我れ先にと逃げ出す者が出始めた。
 それでもメンヌヴィルは気にせず、杖を振るい続ける。

「ははは! 世界は広いなあ! オレの炎でも燃やせないものがあるなんて!」

 メンヌヴィルの炎は、人間だけではなくトロール鬼さえ炭と化す炎なのだ。亜人が武器として使う鋼鉄のメイスだって、ドロドロに溶かし尽くすのだ。
 その彼の炎が直撃しても、機械増幅竜(メカブースト)は動じた素振りを見せなかった。表面に少々の焦げ目がついたが、ただそれだけだった。

「オレの炎が通じねえなら......」

 すでにフリゲート艦の甲板は、ひどく炎上していた。地獄のような炎の中、むしろメンヌヴィルは楽しそうに笑う。

「隊長! 技を借りるぜ!」

 それまでとは違う呪文を唱えるメンヌヴィル。
 突き出した炎の先端から、巨大な炎の蛇が躍り出る。
 蛇は機械増幅竜(メカブースト)の巨体に絡みつき、熱く締め上げた。

「おお! 効いているぞ! 今度は効いているぞ!」

 歓喜に顔を歪め、メンヌヴィルはまるで別人のように喚いた。

「隊長! さすが隊長の炎だ! オレから両の目を......光を奪った炎だ! ははははは! 二十年前とは違う! オレにも隊長の......いや隊長以上に強力な炎が使えるようになったのだ!」

 燃える炎に囲まれて、メンヌヴィルは幸せだった。
 今まで嗅いだことのない極上の香りが、彼の鼻孔を刺激する。

「これだ! この匂いだ! なんと甘美な! なんと素晴らしい!」

 それが自身の焼ける匂いだと悟ることなく......。
 メンヌヴィルは燃え尽きた。

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 戦場に駆けつけたリーヴスラシル3の目の前で。 
 護衛のフリゲート艦が炎上し、海に沈んでゆく......。
 だが護衛艦が身を挺して守ってくれたおかげで、輸送船団は無事である。しかも敵にダメージを与えることに成功したらしく、機械増幅竜(メカブースト)は少し苦しそうに、体をくねらせていた。

「誰だか知らねーけど......あんたたちの犠牲は無駄にはしないぜ!」

 顔も名も知らぬ傭兵メイジを偲びながら。
 才人は必殺のブリミル・アタックを叩き込み、機械増幅竜(メカブースト)を葬るのであった。

「......仇はとったよ。死んでいった傭兵さんたち......」

 めでたく届いた物資を運び込みながら、夕日に向かってつぶやく才人。
 なおワルドはグリフォンで脱出し、一目散に逃げ帰ったため、ビアル・トリステインのルイズと顔をあわせることはなかった。

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 第十六話 メイジ爆弾の恐怖


 街道をゆく馬車が、海港に停泊中のフネが、空を飛ぶ空船が。
 次々と爆発するという怪事件が、ハルケギニアのあちこちで発生していた。
 いや厳密には『次々と』ではない。まるで示し合わせたかのように、きまって同じ時刻に爆発しているのだ。

「十二時ピッタリに爆発事故が起こったというのが、どうも気に食わんな......」

 ビアル・トリステインのブリッジで、オスマンが口ひげをこすりながらつぶやく。

「きっと『鉄血団結党』の仕業ですな」

 コルベールの言葉は、一同の考えを代弁するものだった。そこまでは皆が思うことなのだが、その方法がわからなければ、事件を止めようがないのだ......。

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「イザベラさま、本当によいのですか? 勝手に出てきたりして......」

「いいのよ。私は王女なんだから」

 世間を騒がす爆発事件のことなど知らずに、竜籠で空をゆく少女二人。
 ビアル・アルビオンにいるはずのミケラと、ビアル・ガリアにいるはずのイザベラである。

「修理ばっかりじゃ、退屈じゃないの。だから父上のところに合流するの」

「はあ。お気持ちはわかりますが......」

「私だって戦えるのよ? こう見えても『北花壇騎士団』の団長なんだから!」

 ガリアの北花壇騎士団といえば、ガリア王家の汚れ仕事を一手に引き受けている組織であった。
 情報通のロマリアで働くミケラも、その名前は知っている。同時に、イザベラは団員をこき使うだけでたいしたことはしていない、ということも理解していた。
 実際、今のイザベラは、イザとなったら北花壇騎士たちに連絡をとればよい、と考えている。甘ちゃんな王女さまであった。

「ミケラ、あなただってビアル・トリステインのみんなと一緒に戦いたいんでしょ?」

「......そうでございます」

 教皇のもとで、その片腕として役に立ちたい......。そんな気持ちを見透かされて、ミケラはイザベラに誘い出されたのだ。
 なお、イザベラはビアル・ガリアから一人で抜け出してきたものの、心細くなって、ビアル・アルビオンから適当にミケラを選んだだけ。そうした実状も、ミケラは理解していた。
 理解しつつも、彼女の口車に乗せられて、ついつい出てきてしまったわけだが......。
 完全に後悔していた。

「で? ロマリア宗教庁にいたあなたなら、敵の基地の場所、ある程度見当つくんじゃないの?」

「そんなことを言われましても......。おそらく雲の中にでも隠れているのではないか、と......」

「雲の中......ねえ。じゃあ、とりあえず竜籠の高度を上げようかしら」

「いえ、イザベラさま! 竜籠というのは、そのようなものではございません!」

 と、バタバタしているうちに。

「大変です、イザベラさま! 鳥です! たくさんの鳥が、こちらに向かってきます!」

「鳥にしては変な形ね......? まあ、大変! ガーゴイルだわ!」

 二人の竜籠は、ガーゴイルの群れに襲われてしまった!

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「ありがとうございます。私たちを助けていただいて......」

 さいわい二人は、通りかかった空船に救助された。
 一応の礼を述べるミケラ。しかし彼女は、怪しいと感じる。
 フネの航路から外れた場所であり、なによりフネの形が、明らかに軍艦なのだ。空賊のフネかと思ったが、それにしては乗組員の対応が優しい。

「ちょうどよかったわ。フネをトリステインに向けてちょうだい」

 イザベラは、王族特有の傲慢さで船員たちに頼み込む。

「トリステインに......でありますか?」

「そう。トリステインへ行くのが無理なら、この辺りにあるはずのエルフの基地を探して、大砲で攻撃しなさい。私たち、ブリミル・ファミリーの一員なのよ」

「......ブリミル・ファミリー......?」

 船長の目が光ったことに、イザベラもミケラも気づかなかった。

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 ビアル・トリステインに、『鉄血団結党』のファーティマから連絡が入った。
 敵の指揮官からの連絡というだけでも驚かされたが、その内容は、さらに衝撃的なものだった。

『イザベラとミケラという少女を預かっている。返して欲しければ悪魔の力を持つ者たちを引き渡せ』

 二人を救助した空船は、エルフのものだったのだ! 船員たちも全員、『変化』で人間に化けたエルフたちだ!

「......『悪魔の力を持つ者たち』って......虚無のメイジと使い魔のことよね?」

 ルイズの言葉に、ヴィットーリオが頷く。

「ですが......私たちがいなくなったら、エルフと戦える者はいなくなってしまいます。二人のことは、もう諦めるしか......」

「なんだって!? ミケラって子は、あんたのところの巫女だろ! それを見捨てるって言うのかよ!」

「サイト! 失礼でしょ! 教皇聖下に向かって!」

 ルイズが止めるのも聞かない。続いて才人は、もう一人のお偉いさんにも食ってかかる。

「あんたはどうなんだよ!? イザベラは、あんたの娘だろ!」

「イザベラか......。娘を愛さない父親はいない、などと言うが、俺からすればそんなことはただの美談の一種だ。子を愛せぬ親など、掃いて捨てるほどいるだろう」

 淡々と答えるジョゼフ。才人の理解を超えた返答だった。

「そうかい、そうかい! もうお前たちなんて仲間でも何でもねーや!」

 ついにキレた才人。

「女の子二人助けられないで、何が『ハルケギニアを守る』だ! 俺は一人でも助けに行くぞ!」

 ブリッジから飛び出そうとするが......。

「待ちたまえ、サイトくん! 君の言うとおりだ!」

 コルベールの叫びが、才人を引き留めた。
 続いてカリーヌが歩み寄り、彼の肩に優しく手を置く。

「......あなたは優しい子なのですね。さすがルイズとティファニア嬢の使い魔です。女の子を守ろう、という気持ちは、人一倍激しいのでしょう」

 ただの母親の表情ではない。カリーヌの顔は、かつて魔法衛士隊の隊長だった頃の、冷静な作戦指揮官のものでもあった。

「大丈夫です。無事に救出できますよ。私たちには......ルイズがいるのですから」

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 その日の夕刻。
 エルフの空船が待つ場所に、ビアル・トリステインがやってきた。

「約束どおり来たようだな」

 船長に化けたエルフは、ニヤリと笑う。作戦を成功させれば、大手柄だ。もうファーティマのような小娘に従う必要もなくなる......。

「さあ! 悪魔の力を持つ者たちを寄越せ!」

 目前に迫るビアル・トリステインに、彼は呼びかけた。しかし何の返事もない。向こうは、こちらをまるで無視している。

「どういうつもりだ!? おとなしく、悪魔の力を持つ者たちを引き渡せ! さもないと、人質の命はないぞ!」

 彼は、帆柱の上を指し示す。目だつように、人質の二人はそこに縛りつけてあるのだ。
 しかし......。
 そちらに目を向けた彼はギョッとする。いつのまにか、人質がいなくなっていたのだ!

「なんだ!? いったい何が起こったのだ!? どうやって逃げたというのだ!」

 タネを明かせば、簡単な話。
 こっそりルイズが『瞬間移動』でやってきて、二人と一緒に『瞬間移動』で逃げ出したのだ。はっきりと標的が目視できて、距離が短ければ、今のルイズの精神力でも『瞬間移動』による往復は可能なのだ。
 ......もちろん、エルフの船長には、そんな事情はわからない。

「こうなったら実力行使だ!」

 空船がその正体を現す。
 船体下部から、うにょうにょと伸びる触手......。
 戦艦に偽装していたが、このフネは実は、機械増幅竜(メカブースト)ブウボンだったのだ!

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 機械増幅竜(メカブースト)出現となれば、リーヴスラシル3の出番である。

「よくもうちの女の子たちを困らせてくれたな!」

 怒りに燃える才人は、デルフリンガーで斬り掛かる!
 だが戦艦に化けていたこともあって、今日の機械増幅竜(メカブースト)は、いつも以上に装甲が分厚い。剣では、たいしたダメージは与えられなかった。

「相棒! 心を震わせろ!」

「もう十分震えてるぞ、デルフ!」

 剣と喋っている場合ではなかった。戦艦部分の大砲が、リーヴスラシル3を狙い撃つ!

「うわああああ」

 直撃をくらって、苦しむ才人たち。リーヴスラシル3となっている今ならば、普通の人間以上の耐久力があるのだが......。
 それでも、これは痛い。
 しかも、機械増幅竜(メカブースト)の下部から伸びてくる触手が、リーヴスラシル3を拘束する!
 身動きのとれないリーヴスラシル3に、戦艦の巨大な主砲が向けられる。

「ま、まずい......」

 だが、その時。
 突然の爆発音と共に、機械増幅竜(メカブースト)が中から火を吹き始めた。
 触手の拘束も緩む。

「ど、どうしたんだ!? ビアル・トリステインからの援護射撃か!?」

「違うよ、サイト。そうではないが......」

「どうやら腹の中に大量の爆弾を抱え込んでたみたいだね。そいつが弱点だったんだよ。何かの拍子に爆発して、次々と誘爆しているみたいだわ」

「よくわかんねーけど......チャンスってことだな!? いくぜ! ブリミル・アタック!」

 必殺技を叩き込み、機械増幅竜(メカブースト)を撃破。
 あの爆発が何だったのか、釈然としない気持ちは残ったのだが......。

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 ビアル・トリステインに戻った才人たちは、その答えをイザベラとミケラから聞くことになる。

「それはメイジ爆弾ね。メイジ爆弾が爆発したのよ」

「あのフネは、メイジを恐ろしい爆弾に変えてしまう工場だったのです......」

 捕えられている間に、二人はあの機械増幅竜(メカブースト)の秘密を垣間みていたのだ。
 ......メイジが持つ魔法の力を利用して、メイジ自身を生きた爆弾にしてしまう。その爆発の威力は、メイジの魔力に依存する......。
 なんとも恐ろしい話であった。
 エルフの技術で作られたものだけに、メイジの『ディティクト・マジック』では探知できないらしい。

「......すると一連の爆発事件も......。うむむ......」

 オスマンが険しい顔で唸る。

「メイジ爆弾......。じゃあ、みんな機械増幅竜(メカブースト)の中にいたのか!?」

 爆弾にされたメイジが、これから爆弾にされるメイジが......。つまり多くの人間があの中にいたのだ。機械増幅竜(メカブースト)と一緒に爆発してしまったのだ。
 才人は唖然とするが、とりあえず今は、仲間の無事を喜ぶべきであろう。

「二人は大丈夫なのか? 爆弾にされなかったのか?」

「私はメイジではなく、ただの巫女ですから。大丈夫でした」

 才人の言葉に、ミケラは軽く笑ってみせた。続いて才人がイザベラに目を向けると、

「わ、私は......運がよかったの。運がよかったから、爆弾にされずにすんだのよ」

 ちょっと横を向きながら答えるイザベラ。
 本当は『メイジの魔力に依存する』爆弾だからこそ、魔法の苦手なイザベラは免れたのである。だがそれを正直には言えないイザベラであった。

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 第十七話 赤い星が光る時


 脚の代わりにキャタピラを持つ、名もない機械増幅竜(メカブースト)が、シェフィールドのヨルムンガンドに撃破される。
 一つ目巨人のような名もない機械増幅竜(メカブースト)が、続いて怪鳥のような名もない機械増幅竜(メカブースト)が、どちらも風竜を駆るジュリオに撃破される。
 なんとも弱々しい敵の出現であるが......。
 その裏では、『鉄血団結党』の恐るべき計画が進行しつつあった。

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「ねえ、ギーシュ。もう帰ろうよ。ここ、まるで監獄じゃないか」

「ギーシュ。僕もマリコルヌに賛成だが......。でも、そもそもここから抜け出すのが容易ではないね」

 マリコルヌとレイナールが、ギーシュに意見する。
 彼らは今、牢に閉じ込められていた。『避難民の世話をする寺院』にやってきたところ、メイジだとわかった途端、ここに放り込まれたのだった。
 ギーシュは、二人に返事する代わりに、あらためて部屋の中を見回す。
 おそらくは貴人用に造られた牢なのだろう。十畳ほどの部屋には、ベッドや机も用意されている。部屋の隅には、簡易シャワーまであった。

「やはり怪しいね。僕がにらんだとおりだ。『避難民の世話をする寺院』なんていっても、実態は......エルフたちが作った強制収容所なのかもしれない」

「ええっ!? ギーシュは、ここがエルフの施設だっていうのかい!?」

「なるほど......。ギーシュとしては、これは潜入捜査のつもりだったんだね」

 驚くマリコルヌとは対照的に、ピキーンと眼鏡を光らせるレイナール。
 そもそもギーシュたちは、トリスタニアからは避難してきたとはいえ、実家の領地はまだ無事なはず。自分たちの身の安全だけを考えるならば、おとなしく家に帰ればよかったのだ。
 それなのに、こうしてエルフに捕まるような真似をしたのは......。エルフ軍の内情を探るためだったのである!

「よかった。ギーシュは、すっかり更生してくれたんだね......」

 小声でつぶやくレイナール。
 かつてギーシュは、いわれなき憎悪で才人たちを非難し、母艦に乗り込んで損傷を与えることまでしたのだが、その際に大人から怒られて、態度をあらためたらしい。
 逆に今では、エルフと戦おうとしているのだ。敵に後ろを見せずに、敵と戦ってこそ、貴族である!
 ......メイジの魔法が機械増幅竜(メカブースト)に通用しないとしても。間諜の真似事をして、エルフたちのことを色々と調べることは可能......。

「ギーシュがそのつもりなら、僕も、いくらでも協力するよ。......じゃあ、まずは......」

「え? レイナール、僕にはそっちの趣味はないからね! 二人だけでやってくれよ!」

 服を脱ぎ出したレイナールを見て、マリコルヌが慌てて後ずさりする。

「勘違いしないでくれ。『いかにも避難民らしく振る舞おう』ということだ。逃げ回ってたのが、ようやくホッとできる......。そんな状況なら、体でも洗おうか、って気持ちになるだろう?」

 レイナールがシャワーへ向かうのを見て、ギーシュも。

「そうか。それもいいかもしれないな。さあマリコルヌ、僕たちも行くぞ」

「......わかったよ。君たちが、そこまで言うなら......」

 こうして。
 男三人、仲良く並んで水浴びをする。

「......おや? レイナール、君の背中には奇妙なアザがあるのだね。魔法学院にいた頃は気づかなかったのだが......」

「僕にはアザなんてないよ。アザがあるのは僕じゃなくてマリコルヌだろう?」

 鏡がなければ見えない位置だが、そんなものなかったはずだ、とレイナールは思う。

「本当だ。レイナールだけでなく、マリコルヌにもあるね。星形のアザが。......君たち、まさかエルフに何かされたんじゃないだろうね? ほら、牢に連行されてくる途中、しばらく三人バラバラにされたじゃないか。その間に......」

「はあ? 僕たち、ずっと三人一緒だったよね?」

 マリコルヌが不思議な顔をする。『三人が別行動』なんて記憶は、レイナールにもない。
 またギーシュは少しおかしくなったのかな、と思ってしまうレイナールであった。

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「......なんだか外が騒がしいな......」

 夕方。
 牢のベッドで横になっていたギーシュが、ムクリと起き上がる。鉄格子のはまった窓に近づき、外の様子を眺めれば......。

「サイト! サイトじゃないか!」

 リーヴスラシル3が、機械増幅竜(メカブースト)ヒラヤンガーと戦っていた。
 すぐ近くというわけではないが、戦闘の余波は、ギーシュたちがいる寺院まで届いているようだ。建物が大きく揺れ、ところどころ、壁が崩れ始めていた。別の牢から逃げ出した人々が、中庭を走っているのも見える。

「ギーシュ。この機会に僕たちも脱出しようよ」

「......そうだな。ここは危険だ」

 緩くなった鉄格子を外して、ギーシュたち三人も脱走する。
 中庭は、逃げ出したメイジたちで溢れ返っていた。そこに、数台の馬車がやってくる。

「みなさん! 心配せずに、この馬車に乗ってください!」

「別の避難所へお連れします!」

 神官に化けたエルフたちが口々に叫ぶが、脱走メイジたちは、誰も馬車に乗ろうとはしなかった。もう敵の正体に気づいているのだ。

「ええいっ! 乗れと言ってるのが、わからんのか!」

 エルフたちも本性をあらわした。馬車から木製の巨大な管が伸びてきて、メイジたちを吸い込み始める。

「レイナール! マリコルヌ! 君たちは逃げてくれ! 逃げて、ここの実態をサイトたちに知らせるんだ!」

 友をかばって。
 ギーシュは、その管に吸い込まれていった。

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「ギーシュ!?」

「マリコルヌ、僕たちは逃げよう! 彼の犠牲を無駄にしてはいけない!」

 レイナールに言われて、マリコルヌは走り出す。
 だがエルフの馬車は何台もあり、恐ろしい管触手も同じ数だけ存在する。
 四方八方から伸びてくる管が、後ろの友を捕えた。

「ああ! レイナールまで!」

 マリコルヌは見た。レイナールが、ギーシュとは違う馬車へ、吸い込まれていくのを。
 その時。

 どかーん。

 レイナールの馬車が爆発する。その爆発の中心がレイナールの体であることを、マリコルヌは直感で悟っていた。
 エルフたちの会話が、耳に入ってくる。

「馬鹿め! メイジ爆弾まで馬車に収容するとは、なんという愚か者だ! 吸い込んだ衝撃で爆発してしまったではないか!」

「し、しかし......。背中の手術痕をいちいち確認している暇はないので......」

 その意味するところは明白だった。
 マリコルヌは、いつのまにか自分が爆弾に改造されていたことを、今、知った。

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「ブリミル・アタック!」

 リーヴスラシル3が必殺技で機械増幅竜(メカブースト)を撃破。
 エルフたちは、逃げ出した全員を収容することは諦めて、かろうじて回収できた一部のメイジを乗せて、馬車で逃げ出していく。
 戦闘を終えた才人たちが寺院を訪れた時、中庭には、脱出に成功したメイジたちがたくさんいた。
 しかし、彼らの表情は暗かった。才人たちは、その理由を聞かされる。

「なんだって!? ここにいる人々の半分以上が......メイジ爆弾にされてるのか!?」

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 メイジ爆弾となった人々は、夕日に向かって歩き始める。いつ爆発するかわからないから、少しでも他の者から離れよう、というのだ。
 もちろん、マリコルヌも爆弾集団の一人である。別れ際、彼は才人たちに告げた。

「僕は勇気を身につけたいんだ」

「勇気?」

「ああ。最後くらいは勇気が欲しくってさ。最期は震えて、怖くて、泣いちゃうかもしれないけど......。それでも逃げ出さない、勇気が欲しいのさ」

「そっか......」

「そんな勇気があったら、モテるかもしれないだろ?」

 今さら手遅れだ、というツッコミは誰も口にしなかった。

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 もう、かなり歩いた。
 一緒に歩く人々は皆、肩を落とし、俯いている。
 マリコルヌは、ふと、後ろを振り返った。
 才人たちの姿は、すっかり小さくなっていた。これだけ遠ければ、もう安全だろう。彼らに被害は及ばない......。
 マリコルヌは、かすかに微笑んだ。
 彼の表情の変化が、才人たちに見えるはずもない。それでも、ちょうどルイズが悲しみに肩を震わせ、泣き崩れるところだった。そんなルイズを、才人が優しく抱擁する......。

「なぁギーシュゥ......。僕、限界だよゥ......」

 まるでギーシュが近くにいるかのように。
 マリコルヌは、行方知れずの友に向かって呼びかける。

「僕の最期だっていうのに、それをダシにしたラブゲームゥ......」

 突然、彼は足を止めた。

「......僕の最期......。こんなのが最期だっていうのか!? 僕、嫌だ!」

 向きを変えて、才人たちの方へ走り出そうとするが......。
 周りの大人たちに止められる。

「君! やめたまえ!」

「私たちはもう戻れないのよ!」

 群がるメイジの中には、明らかに年下の少女もいた。マリコルヌは彼女に飛びかかる。

「もうこうなったら君でいい。抱け。抱いてよ」

「あああ、まったく......。そんなことしてる場合じゃないだろうが!」

 幼女の兄らしきメイジから怒られた。それでもマリコルヌは暴れ回る。

「嫌だよ! 恋人も作らずに死ぬなんて嫌だ! 一人で死ぬなんて嫌だよ!」

 マリコルヌが泣きながら叫んだ瞬間......。
 彼を中心にして、閃光と大音量が響いた。

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 第十八話 タバサと才人


 ビアル・トリステインのもとへ、ビアル・アルビオンとビアル・ガリアが戻ってきた。それぞれ、ようやく修理を終えたのだ。
 三つの巨大戦艦は合体し、久しぶりに『ブリミル・ビアル』となった。

「では、わしらもこの艦でパトロールに加わるとするかのう」

 艦長席のオスマンが、合流した面々に告げる。
 ブリミル・ファミリーの当面の任務は、『鉄血団結党』のメイジ爆弾作戦を叩き潰すこと。爆弾製造基地を見つけるために、すでに才人たちは、ハルケギニアのあちこちを探索中であった。

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 ルイズと共にゼロ戦で海上を飛んでいた才人は、一隻のフネが機械増幅竜(メカブースト)に襲われる現場に遭遇した。
 空飛ぶクラゲのような形をした機械増幅竜(メカブースト)、クラーゲンである。

「サイト! やっつけるわよ! あんなヘナヘナしたやつ、あんた一人で十分でしょ!」

「おう!」

 前回の戦いでは、ジュリオに倒される機械増幅竜(メカブースト)や、シェフィールドにやられる機械増幅竜(メカブースト)も出てきたのだ。才人もルイズも、ゼロ戦だけで目の前の敵を破壊できると信じていた。
 しかし敵は、ちょっと戦っただけで、あっさり逃げて行ってしまう。

「まあ、いいわ。サイト。今のうちにフネの人々を救助しましょう」

 機械増幅竜(メカブースト)の攻撃で、すでにフネは沈没しつつあった。乗っていた人々は、小さな救命ボートや大きな破片につかまり、海を漂流している。
 そうして海に浮かぶ人々の中には、才人やルイズの知り合いもいた。

「タバサじゃないか!」

 まずは友人を助ける才人たち。
 どうせゼロ戦に多くは乗せられないし、あとからジュリオやシェフィールドも来るだろう。他の漂流者は後回しにして、タバサ一人を乗せて、ブリミル・ビアルへ戻る才人とルイズであった。

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「どうも変じゃな」

 ブリミル・ビアルのブリッジでは、さきほどの戦闘を『遠見の鏡』で見ていたオスマンが、髭をこすりながら唸っていた。

「と、言いますと?」

「機械増幅竜(メカブースト)が簡単に引き揚げた理由じゃ」

 老人の言葉に、教皇も同意を示す。

「もしかしたら......。フネに乗っていた人々を私たちに救助させるのが、敵の狙いかもしれませんね。あの人々の中に、メイジ爆弾が混ざっているのかも......」

 かわいそうだが、背中を見てアザの有無を確認するまで、助けるわけにはいかない。
 それがブリッジの総意だった。
 才人とルイズが既にタバサを救助したことを、彼らは知らない。

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「タバサ。あんた、なんであんなフネに乗ってたの?」

 艦内の通路を歩きながら、ルイズがタバサに尋ねる。
 海に落ちて濡れてしまった彼女を休ませるため、ルイズと才人は、まず自分たちの船室にタバサを連れていこうとしていた。

「......わからない」

 ポツリと答えるタバサ。
 タバサ自身、その辺りのことはよく覚えていない。記憶が欠如しているのだ。
 だがルイズと才人は、別の受け取り方をしてしまった。無口で無表情なタバサが不十分な返答をするのはいつものこと、ということで、特に不思議にも思わなかったのである。

「病気のお母さんはどうしたんだ? まだキュルケのところか?」

「......別のところに移した。父の家臣だった人が、世話してくれてる」

 才人の質問に答えるタバサは、いつもより少し雄弁だった。
 彼女の口調から、ルイズが気づく。

「『父の家臣だった人』......? じゃあ、あなたのお父さんは、もう......」

「......故人。父は伯父に殺された」

 ルイズも才人も、それ以上は質問できなかった。タバサにしては十分すぎるほど、心を開いているのだ。
 ここまでタバサがしゃべったのは「だからジョゼフのいるブリミル・ファミリーは嫌い」という気持ちがあったからである。もちろん、そこまで才人たちに伝わりはしないが、今は、これが精一杯。

「と、とりあえず......タバサは、ここで休んでいてくれ。ここが俺たちの部屋だ」

 ちょうど部屋の前に着いたので、才人はタバサを中へ。

「濡れたままじゃ、風邪ひいちゃうわね」

「体を拭いて、着替えろよ。タバサの体型なら、ルイズの服がピッタリだろ」

 ルイズと才人に促されて、タバサは服を脱ぎ始める。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、タバサ! ほら、サイト! 私たちは出てくの!」

「いいじゃん、裸くらい。ルイズだって昔は見せてくれたじゃん」

「それとこれとは別! あんたは私の使い魔であって、タバサの使い魔じゃないでしょ!」

 タバサを残して、二人は部屋を出ていく。
 もしももう少し長居したら、タバサの生背中を目にしただろうに......。

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「何!? 人を乗せた!?」

「はい。オールド・オスマンもご存知の......魔法学院の生徒だったタバサですわ」

「いかん! すぐ降ろすのじゃ!」

「いいじゃないか、一人くらい」

 ブリッジに戻った二人は、オスマンから怒られた。だが二人とも、なぜ怒られるのか、最初は理由がわからなかった。

「その一人がメイジ爆弾かもしれんのじゃ!」

「タバサがメイジ爆弾に? まさかぁ」

「その『まさか』が起こり得るのじゃ! 背中は確認したのか!?」

「タ、タバサがメイジ爆弾......」

 才人とルイズの顔色が変わる。
 部屋に戻ろうとして、慌ててブリッジから走り出す才人。

「待って、サイト! 私も......」

「いけません!」

 あとに続こうとしたルイズの腕を、カリーヌがガシッと掴む。

「もう間に合わないかもしれません。彼も止めなければ!」

 しかし才人は、すでに遠くに走り去っていた。タバサの名前を叫びながら。

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 着替え終わったタバサは、才人とルイズのベッドに腰掛けていた。
 二人が共に寝ているベッドである。若い恋人同士......というより、メイジと使い魔だからであろう。
 タバサにも使い魔がいるのだが、この戦乱の中、離れ離れになってしまった。ただの風竜に見えて、実は韻竜なので、簡単にはやられないはず。きっと、どこかで元気にしているに違いない。世の中が落ち着いたら、また会えるに違いない......。
 そんなことを考えながら、タバサは枕元の本を手にとった。誰の本でも構わない。ぱらぱらとページをめくる。タバサは読書が大好きなのだ。

「......?」

 ふと、誰かが自分の名前を呼んだような気がして、タバサは本から顔を上げた。
 その時。
 背中の星が光った。

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 轟音がブリミル・ビアルの船体を揺るがす。
 才人とルイズの部屋が爆発したのだ。

「急いで隔壁を閉じろ! 爆発した区画を封鎖するのじゃ!」

 被害を艦全体に及ばさないために。
 通路にシャッターが降りてくる。
 才人は現場を見に行くことすら出来なかった。行く手を遮る壁を前にして、才人はきびすを返す。
 甲板に上がると、外壁に大きな穴が開いていた。部屋のあった辺りから外へ向けて、火柱が上がっていた。
 爆風で、部屋にあった私物も吹き出している。風に舞って、才人のところに落ちてきたのは、タバサのマントの切れ端だった。

「......タバサ......」

 涙に体を震わせる才人。
 そんな時、艦内に警報が鳴り響く。機械増幅竜(メカブースト)の接近だ。

「くそう! タバサの弔い合戦だ!」

 リーヴスラシル3に合体することなく、才人はゼロ戦で飛び出していく。
 敵は、一度戦い取り逃がした、あのクラゲのような機械増幅竜(メカブースト)。
 ブリミル・ビアルの爆発までは『鉄血団結党』の作戦どおりであり、好機とみて攻めて来たのだ。今回は、機械増幅竜(メカブースト)も簡単に撤退することはなかった。
 本気を出した機械増幅竜(メカブースト)は、電磁鞭のような触手でゼロ戦を締め上げ、才人を痺れさせる。

「サイト! 一人では無理だ! 合体しよう!」

「うるせえ! ひっこんでろ!」

 ジュリオとシェフィールドの加勢で助けられても、才人は協力を拒む。

「これでも食らえ!」

 ありったけの弾丸を撃ち込み、なんとか独力で機械増幅竜(メカブースト)を撃破した。

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「機械増幅竜(メカブースト)が来た方角を探るのじゃ! そこに『鉄血団結党』の基地があるはずじゃ!」

「ありました! 海底です! 海の中に巨大機動要塞が隠れています!」

 ブリッジからの指示に従い、今度はリーヴスラシル3となって、才人は海に突っ込んでゆく。

「......タバサ......お前は何のために生まれてきたんだ......。父親を肉親に殺されて......自分は爆弾にされて......。そんな人生なんか......」

 これは才人の独り言だ。心の声だ。ジュリオは聞かなかったことにして、無言を貫いた。
 シェフィールドは、その『父親を殺されて』と深い関わりがあるため、やはり無言を貫いた。
 そして。
 海底深くに潜ったところで、ようやく巨大機動要塞に行き当たった。

「必殺! ブリミル・アタック!」

 しかし水中では威力が落ちて、要塞に攻撃が通じない。しかも、深海ではリーヴスラシル3だって満足に動けない。

「......タバサ......許してくれ......」

 憎き敵を目前にして。
 水圧で押しつぶされそうになったため、才人たちは、撤退するしかなかった。

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 海上に浮上した才人たちは、波間に漂う小型脱出艇を発見する。乗っていたのは、キュルケだった。
 背中にアザがないことを確認されてから、彼女はブリミル・ビアルに収容された。

「タバサが......タバサが死んじゃったのよ! あの小さなタバサが......」

「キュルケ、お前なんでそれを知ってるんだ?」

「敵の基地の中で聞いたの」

 キュルケはメイジ爆弾の素材として、巨大機動要塞に捕えられていたのだ。爆弾に改造される前に脱出できたのは、ギーシュのおかげだという。

「婦女子や友を守ってこそ騎士道だ、って、ギーシュはカッコつけちゃって......」

「ギーシュもあの中に捕えられてたのか!」

「......ギーシュは基地もろとも死ぬつもりなんだわ。あなたに借りを返したい、とも言ってた。もしも生きて戻ってきたら、その時はあなたと握手できる、とも......」

 まるで無力な少女のように、体を震わせながら才人に告げるキュルケ。
 キュルケらしくない有様だ。だからルイズは、才人から彼女を引き剥がすようにして、外の光景を示す。

「見なさい、キュルケ」

 ブリミル・ビアルの甲板上では、才人とルイズの部屋を抉り出して、撤去する作業が行われていた。その区画のユニットを外してしまって、新しいのと交換するのだ。
 爆発で見る影もない、二人の部屋......。

「あれがタバサの死んでいった部屋よ」

 海に放棄される、壊れた部屋。まるで巨大な棺だった。それが沈みゆくさまを、残された者たちは見届ける......。

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 第十九話 未来への脱出


 すぐ目の前の海に巨大機動要塞があるというのに、深海の底では、攻撃の手段がない......。
 海上に留まるブリミル・ビアルの中で、ブリミル・ファミリーは焦っていた。そんな彼らを嘲笑うかのように、『鉄血団結党』は、今日も機械増幅竜(メカブースト)を送りこんでくる。
 機械増幅竜(メカブースト)ゴルガス。下半身がコマのような形状で、クルクルと回っている機械増幅竜(メカブースト)だ。
 いつものようにリーヴスラシル3となって迎え撃つ才人。だが今日の彼は、デルフリンガーで斬りつけるばかりで、なかなか必殺技を出そうとはしない。

「どうしたんだ、サイト? 何か策でもあるのか?」

「そうさ、ジュリオ。この機械増幅竜(メカブースト)を武器にするんだ!」

 弱らせた機械増幅竜(メカブースト)を抱え込み、才人は海中に引きずり込む。限界深度まで潜って、巨大機動要塞が見えてきたところで......。

「これ以上は潜れないな。ええいっ!」

 機械増幅竜(メカブースト)を爆弾の代わりにして、巨大機動要塞に投げつける!
 ダメージを負った機械増幅竜(メカブースト)を叩き付けられて、巨大機動要塞が爆発する!

「やったか!?」

「いや、まだだ!」

 機械増幅竜(メカブースト)は爆散したが、頑丈な機動要塞は、表面が少し抉れただけ。損傷は小さかった。
 それでも、海底深くに留まることは無理になったらしい。巨大機動要塞は、浮上を開始する。

「追うぞ! 陸に上がったところで、攻撃だ!」

 水中ならば威力が半減する必殺技も、海から上がってしまえば、フルパワーだ......。
 才人はそう考えたのだが、彼は一つ、大事なことを忘れていた。陸に上がると同時に、巨大機動要塞はバリヤーを張ってしまったのだ。

「しまった! あいつにはこれがあったんだ!」

 ブリミル・アタックを仕掛けるが、機動要塞のバリヤーは破れない。
 かつては、ルイズの『瞬間移動』で内部に潜入してバリヤー制御装置を壊す、という作戦を実行したが、同じテが二度も通じるとは思えない。
 それに、今の機動要塞は、メイジ爆弾の製造工場にもなっているのだ。そんな危険のところにルイズを潜り込ませたくはなかった。

「じゃあ、どうしろっていうんだ......」

 焦る才人たちの目の前で。
 突然、巨大機動要塞が中から爆発し始めた。外壁の一部に穴が開いただけだが、これが突破口になりそうだ。

「メイジ爆弾だ! 中のメイジ爆弾が爆発したんだ!」

 もしかしたらギーシュが爆弾となって、自爆したのではないか......。
 心配する才人だったが、それは杞憂に終わる。爆発で生じた穴から逃げてくる人々の中に、ギーシュの姿もあったのだ。

「ギーシュだ! ギーシュが脱出してきたぞ!」

 しかし喜んではいられない。逃げ出した人々は、まだバリヤーの内側である。バリヤーが邪魔で、こちらへは来られないのだ。これでは、すぐにまた捕まって、連れ戻されてしまうだろう。

「やっぱり、あのバリヤーを何とかしないと......」

 その時、機動要塞から、本日二匹目の機械増幅竜(メカブースト)が発進してくる。敵も焦っているのだ。

「サイト! とりあえず僕たちは、機械増幅竜(メカブースト)をやっつけよう!」

「わかった!」

 リーヴスラシル3は、岩の獣のような外見の機械増幅竜(メカブースト)ガイダーと戦う。
 見た目どおりに、やたら硬い機械増幅竜(メカブースト)だ。デルフリンガーで斬りつけても、まるで切れそうにない。
 目からは熱光線を発している。なんとか剣で受け止めるが、剣は赤く輝き「熱いぜ、相棒!」と文句を言っていた。

「そうだ! この硬さを、逆に利用してやるぞ!」

 機械増幅竜(メカブースト)を抱え上げて、バリヤー向かって投げつける!
 バリヤーと機械増幅竜(メカブースト)が干渉作用を起こしたのだろうか。バチバチと火花を上げ始めた。

「今だ! ブリミル・アタック!」

 機械増幅竜(メカブースト)もろともバリヤーを貫いて。
 始祖ブリミルの名を冠した光が、巨大起動要塞に届いた。
 要塞が大きく揺れて、一部が爆発炎上する。もはや戦闘不可能と判断したらしく、要塞は空へと浮かび、東へ向かって逃走を始めた。

「待て! 逃がすか!」

 追いかけようとする才人だが......。

「待ってください! 逃げ出した人々を救助するのが先です!」

 ブリミル・ビアルのブリッジから、教皇ヴィットーリオの悲痛な叫びが。

「もうこれ以上、人々が犠牲になるのを見たくはありません。救える命を、まずは救ってください......」

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 ブリミル・ビアルの甲板上で、ギーシュと才人が固い握手を交わす。

「ラルカスという一人のメイジに助けられたのだ。僕たちは」

 ギーシュの説明によると。
 爆弾に改造されたメイジの中に、ミノタウロスのような外見の男がいた。ラルカスはかつて禁忌とされる移植手術を行っており、特殊な手術には詳しかった。だから今回、改造手術を受ける途中で、他の者にはわからぬシステムまで理解したのだという。
 ちょっと無理がある話のような気もするが、ギーシュがそう説明するのだから、信じるしかなかった。

「......彼は、本来はエルフに制御される爆破システムを乗っ取って......自分の意志で、自分のタイミングで、自分の体を爆発させたのだ。そうやって脱出口を作ってくれたのだ......」

 うつむきながら語るギーシュ。それから顔を上げて、

「僕は、エルフの親玉の顔を見たよ」

「......エルフの親玉!?」

「そうだ。要塞を指揮してるファーティマ・ハッダードって女は、やつらのボスではない。美少女ではあったが......。ともかく彼女は、通信スクリーンというものに映し出された男に向かって、ペコペコしていた」

「ミスタ・グラモン。それで、どんな男だったのかね?」

 才人の後ろで話を聞いていたオスマンが、身を乗り出して尋ねる。

「はい。短い前髪の下、吊り上がった目をギラギラと輝かせて、美少女エルフの失態を厳しく叱責していました。見るからに嫌な感じのヤローで......たしか彼女は『エスマーイル同志議員』と呼んでいました」

「そうか......。ファーティマなどは、しょせん飾りものらしいな」

 感慨深げにつぶやくオスマンの傍らで。
 教皇ヴィットーリオが、決然とした表情で口を開く。
 
「今回の戦闘で、巨大機動要塞には手傷を負わせました。今こそ、敵を殲滅する好機でしょう」

「殲滅?」

「そうです。彼らは東へ向かって逃げた......。その行く先は、一つしかありません」

 誰かがゴクリと喉を鳴らすのが聞こえた。ヴィットーリオの言葉の意味を理解したのだ。
 一同の顔を見回して。
 確認するかのように、ヴィットーリオは告げる。

「私たちの方から砂漠の国へ......『聖地』へ乗り込むのです。つまり......『聖戦』の発動です」

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 第二十話 聖戦前夜


 教皇ヴィットーリオの『聖戦』宣言により、ハルケギニアの人々も幾分協力的になったようだ。
 特にトリステイン王国は、かつてマザリーニ枢機卿を助けた影響もあり、大きな支援を約束してくれた。軍事協力をする、との話であり、ブリミル・ビアルの面々は、ワクワクして待っていたのだが......。

「きき、きみたちは、な、なんだね」

 鎖帷子に、腰にさした長剣に、拳銃。そんな物々しい出で立ちの女たちが我が物顔で乗り込んできたので、ブリッジは軽くざわめいた。

「アンリエッタ姫殿下の銃士隊だ。殿下の名において諸君らに命令する。これより本艦は我ら銃士隊が接収する」

 隊長のアニエスが、コルベールの問いかけに答えた。
 短く切った金髪の下、澄みきった青い目が泳ぐ。身を包む鎖帷子はところどころ板金で保護されており、上に羽織ったサーコートには百合の紋章が描かれている。

「接収ですって!? いくら姫さまの部下でも、そんな勝手なことはさせないわ!」

 ルイズが叫んだ。
 エルフの侵攻により魔法衛士隊からも多くの犠牲が出たため、戦力補充の意味で平民まで登用し、新設されたのが銃士隊である。王女アンリエッタ直属ということで、若い女性ばかりで構成されている。
 それくらいはルイズも聞き知っていたのだが、まさかこんな横暴な連中とは思わなかった。

「こんな得体の知れぬフネなど、私だって欲しくはないが......。これも命令でね」

 首をすくめるアニエスの態度に、ルイズの怒りはおさまらない。

「姫さまの命令だろうがなんだろうが、あんたたちにブリミル・ビアルの運用は無理だわ! この艦で戦えるのはブリミル・ファミリーのみ! 始祖ブリミルの血を引く者たちと、導いてくれる魔法学院のスタッフだけ! あんたたちは姫さまのおそばで戦争ごっこでもやってればいいんだわ!」

 ルイズの言葉に、ブリッジの者たちが同意の表情を示す。それを見たアニエスは剣を引き抜き、近くにいたコルベールの喉元に突きつけた。

「戦争ごっこと言ったな。本職を愚弄するか? ミス、そしてミスタ、こちらがメイジではないと思って、あまりナメた態度をとられるな」

「べ、別に私が言ったわけでは......」

 喉に突きつけられた剣を見つめて、コルベールは冷や汗を流した。とんだとばっちりである。

「お前、『炎』使いだな? 焦げ臭い、嫌な匂いがマントから漂ってくる。教えてやる、私はメイジが嫌いだ。特に『炎』を使うメイジが嫌いだ」

「ひう......」

 こうしてブリッジが揉めているところに、機械増幅竜(メカブースト)が攻めてきた。

「ちょうどいい。そんなに本艦の運用が特殊だというならば、見せてもらおうじゃないか」

 アニエスはコルベールたちを、まるでゴミでも見るような目で見つめたあと、剣を鞘に収めて、近くの椅子に座り込んだ。

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 才人たち三人が、無敵超人リーヴスラシル3となって出撃する。
 襲ってきた機械増幅竜(メカブースト)は、かつて戦ったガルチャックそっくりだ。

「なんだ? リサイクルか? 再生怪人は弱いっつうのがお約束だが......」

「サイト。言葉の意味はよくわからないが、もしかして敵を軽視してないかね?」

「あの機械増幅竜(メカブースト)が前と同じ性能を持っているなら、ブリミル・ビアルから『エクスプロージョン』を撃ってもらわないと......」

 ジュリオとシェフィールドから意見される才人。しかし。

「ルイズに期待し過ぎちゃダメだ。あんな大きな『エクスプロージョン』はもう撃てない、って話だ。......ここは俺たちでやるしかない!」

 無謀にも才人は、ブリミル・アタックを放つ。

「うわああああああ!?」

 やはり以前のように、跳ね返されてしまった。

########################

「すごいものだな......」

 ポツリとつぶやくアニエス。
 苦戦する無敵超人リーヴスラシル3の様子は『遠見の鏡』にはっきりと映し出されており、ブリッジの一同は、固唾をのんで見守っていた。
 遠距離攻撃は跳ね返されてしまうので、リーヴスラシル3は今、デルフリンガーで戦っている。剣を振るうその姿に、一人の剣士として親近感を覚えて、アニエスの表情も少し柔らかくなっていた。
 彼女は、冷静に戦況を観察する。

「押されている。確かに押されているが......。あの三人は、まるで恐怖など感じていないかのように戦っているな」

「彼らは使い魔だからのう」
 
 オスマンがアニエスに説明する。

「使い魔として主人と契約した時から......。主人の命令で主人を守って戦う生き物としての教育が、意識の奥の奥まで刷り込まれておる。もはや普通の人間ではないのじゃ」

「使い魔......。そうか、使い魔か」

 感慨深げに、アニエスが繰り返した時。
 コルベールが悲鳴を上げる。

「たた、大変です! さらに三匹の機械増幅竜(メカブースト)が、こちらに向かっています!」

########################

 新たに現れた三匹も、一度倒した機械増幅竜(メカブースト)ばかり。ドヨズラーとアモンスガーとトラシッド。まるで大人の事情による使い回しである。

「サイト! 接近戦にこだわらない方がいいぞ!」

「わかってるって!」

 安請け合いする才人だが、いざ戦ってみると......。

「前よりパワーアップしたんじゃないのか、こいつ?!?」

 トラシッドの砲撃をくらって、吹き飛ばされて。
 上からガルチャックとアモンスガーに体当たりされて、突き落とされて、
 落ちてきたところをドヨズラーに攻撃されて、跳ね飛ばされて。
 そして再び、トラシッドの砲撃により......。

「うわああああああ」

 脱出困難なコンボ技にハメられてしまった。

########################

「なんとか海に脱出するのじゃ! そうしたら、あとはこちらで何とかする!」

 艦長席のオスマンが指示を飛ばす。
 ブリッジの面々が見守る中、『遠見の鏡』に映し出されたリーヴスラシル3は、ドヨズラーめがけてブリミル・アタックを放っていた。
 銃士隊の女たちが、驚きの声を上げる。

「あ、あんな状態から必殺技が撃てるのか!?」

 囲みの一角を崩したリーヴスラシル3は、残りの三匹を引き連れたまま、大陸から離れた海へ。

「サイト! 今よ! 海に飛び込んで!」

 ルイズが叫ぶと同時に。
 ブリミル・ビアルから、ジョゼフが『エクスプロージョン』を放つ。ルイズの『エクスプロージョン』にはとても及ばぬ威力だが、狙いはガルチャックではない。アモンスガーだ。

 ビキッッッ!

 機械増幅竜(メカブースト)の表面に亀裂が走る。ジョゼフの『エクスプロージョン』が刻んだ小さな傷により、爆弾の塊であるアモンスガーは、内から溢れようとする爆発力を抑えられなくなったのだ。
 亀裂の隙間から噴出した炎が、すさまじい速度で膨張する。
 三匹の機械増幅竜(メカブースト)は、悲鳴をあげる間もなく、その巨大な炎の玉に飲み込まれた。

「半径十リーグくらいを期待したのに。今のは五リーグほどではないか」

 憮然とつぶやくジョゼフであった。

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 海中に避難したリーヴスラシル3は、爆発に巻き込まれることなく、無事に生還した。
 戦闘の一部始終を見届けて。

「貴公らの言いぶんは、よくわかった。このフネは、今までどおり貴公らに任せよう」

 アニエスは銃士隊を引き連れて、ブリミル・ビアルから降りることを決めた。

「ちゃんと姫さまに伝えておいてね。姫さまと国を守るため、ルイズが頑張ってきます、って」

「......伝えておこう」

 一同を代表して、最後にオスマンがアニエスに告げる。

「我々は今日中に、東へ向けて出発するつもりじゃ。はるか『聖地』を目ざして」

 過酷な最終決戦の幕が、ついに上がろうとしていた。

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 第二十一話 決戦! ブリミル・ファミリー


「なるほど。......で、ここは?」

 図面を見ながら、オスマンがギーシュとキュルケに尋ねる。

「メイジ爆弾の手術室でした」

「......ということは、ここがバリヤーの制御室か」

「おそらく」

「では、弱点はここじゃな」

 捕えられた経験のある二人は、有益な情報提供者である。二人の話をもとにして、ブリッジでは、巨大機動要塞攻略の作戦が検討されていた。

「装甲は『エクスプロージョン』で貫通できるかな?」

「かなり接近して撃てば......」

 その間にも、ブリミル・ビアルは、東へ東へと進む。

「今、どの辺りなのかしら? もう国境は越えた?」

「俺に聞くなよ、ルイズ」

 若い二人の会話を耳にして、コルベールが、外の景色に意識を向けさせる。

「前方に川が見えるだろう?」

 遥かな雲の下、地平線と平行に流れる川が見えた。

「あの川を越えれば、いよいよ『未開の地』だ。正確にはエルフの土地ではないが、勢力圏ではある」

「川を越えた後は、一直線にエルフの国ネフテスの首都、アディールを目ざすべきですね」

 教皇ヴィットーリオも会話に加わってきた。

「そうです。アディールには、カスバと呼ばれる大きな塔があるそうです。そこが『鉄血団結党』の本拠地でしょう」

 正確にはカスバは『評議会』の城であって、エルフの一グループに過ぎない『鉄血団結党』のものではない。しかし現在のネフテス評議会は、狂信者の集団『鉄血団結党』に乗っ取られたようなものであり、コルベールたちの理解も、あながち間違ってはいなかった。

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 砂漠の上空に浮かぶ、巨大機動要塞が見えた。
 しかし、ここでブリミル・ビアルは、竜騎兵の大群に襲われてしまう。
 敵は先住の風魔法で、こちらを攻撃してくる。竜巻のように回転する空気の渦が、ボンッと甲板にぶち当たり、大穴を穿つ。

「恐れることはありません! エルフの先住魔法とはいえ、しょせん竜騎兵です! 機械増幅竜(メカブースト)とは違うのです!」

 カリーヌの指揮のもと、艦内のメイジ総動員で応戦。
 だがいくらも戦わないうちに、強敵である機械増幅竜(メカブースト)も出現した。

「あいつは俺たちに任せろ!」

 リーヴスラシル3が飛び出して、機械増幅竜(メカブースト)ダンガルンと戦う。

「あいつの弱点は......」

 魔道具で機械増幅竜(メカブースト)の弱点を探ろうとするシェフィールドであったが......。
 赤い炎のような怪光線を吹きかけられて、大事な魔道具が破壊されてしまった。
 魔道具だけではない。リーヴスラシル3の本体にも、かなりのダメージが。

「うわああああ」

 苦しむ才人たち。
 その状況は『遠見の鏡』により、艦のブリッジにもはっきり伝わっていた。

「いかん! あれではリーヴスラシル3が保たんぞ!」

 ようやく竜騎兵を一掃したブリミル・ビアルが、突っ込んでゆく。ブリミル・ビアルとて、この戦闘で既に船体は傷だらけだというのに......。
 間に割って入った巨大戦艦に、機械増幅竜(メカブースト)の怪光線が直撃する。二つに分かれて両横からドッキングしているビアル・アルビオンの、左側の船体の後部が爆発した。

「ブリミル・ビアル、大丈夫か!?」

 母艦に助けられた形の才人たちは、そちらの心配をしながらも、機械増幅竜(メカブースト)に攻撃を。
 必殺のブリミル・アタックだ。
 だが機械増幅竜(メカブースト)は、これを怪光線で相殺してしまう!

「うわっ、両方が消えちまった! 凄いパワーだぜ!」

「こうなったら接近戦に持ち込むしかない。やれるな、サイト?」

「ああ! 飛び込んでみせるぜ、ジュリオ!」

 デルフリンガーを構えて、リーヴスラシル3が特攻する。その剣は、機械増幅竜(メカブースト)の中央を貫き......。

「やったか?」

 才人が振り向いた時。
 傷ついた機械増幅竜(メカブースト)の尻尾の先から、トゲ付き鉄球が発射された。トゲの部分からワイヤーが伸びて、リーヴスラシル3の四肢を拘束する。

「サイト! 弾力のあるワイヤーよ! 力任せじゃ切れないわ!」

 弱点探知用の魔道具を失っても、アドバイス役を続けるシェフィールド。とはいえ、これでは不十分なアドバイスである。

「じゃあ、どうやって......」

「来た! 機動要塞だ!」

 ジュリオが叫んだとおり。
 動けぬリーヴスラシル3に向かって、巨大機動要塞が迫りつつあった。

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「機械増幅竜(メカブースト)はリーヴスラシル3に任せて、私たちは、あの機動要塞を破壊するのです!」

 カリーヌの号令で、ブリミル・ビアルは巨大機動要塞に攻撃を仕掛ける。
 巨艦同士の戦いだ。
 砲弾が、魔法が、雨あられと飛び交う。
 そこに自ら飛び込んでワイヤーを焼き切る、などという頭脳プレーをリーヴスラシル3が見せる傍ら。

「うわあああ」

 ブリミル・ビアルは、再び左舷に大きなダメージを受けていた。
 それでもかまわず、艦を寄せていく。

「......この距離ならば! さあルイズ、今です!」

 ルイズが、同時にジョゼフが、巨大要塞めがけて『エクスプロージョン』を放つ。
 しかし......。

「ダメだわ! まだ威力が足りない!」

「しかも弱点の場所より、少し下側だったようだな」

 ブリミル・ファミリーの攻撃は、決定打を与えることが出来なかった。逆に敵の主砲を受けて、船体右舷......つまりビアル・アルビオンの部分に、大きな穴が開いてしまった。

「ビアル・アルビオンの乗員を、すべてこちらに避難させましょう!」

「全員、ビアル・トリステイン部分に乗り移れ!」

「それどころじゃない! 巨大要塞、急速接近中! うわっ、体当たりだ!」

 船体が大きく揺れて、ブリッジが騒然となる中。

「『烈風』殿......。あとは頼みましたぞ」

 誰にも聞こえぬ程度の小声でつぶやきながら。
 オールド・オスマンが、そっとブリッジから抜け出した。

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 ビアル・アルビオン部分へ向かって、艦内の通路を歩くオスマン。
 一人のつもりだったが、いつのまにか、ミセス・シュヴルーズが隣に並んで歩いていた。

「一人では無理でしょう、オールド・オスマン」

「いいのかね? わしはビアル・アルビオンで......」

「私たち二人ですむなら、犠牲は少ないというものですよ」

 彼女の決意を知って、オスマンは、シュヴルーズの尻を撫でた。場を和ませようと思ったのだ。
 しかし。

「......おや?」

 オスマンは気づいた。
 この尻の感触は、ミセス・シュヴルーズのものではない! もっと若い女の尻だ! 学院長室で何度も撫でた感触だ!

「なんと!? ミス・ロングビルではないか!」

 オスマンは、魔法学院で秘書をしていた女性の名前を叫ぶ。
 どう見てもミセス・シュヴルーズにしか見えないが......。彼女はミス・ロングビルの変装だったのだ!

「いつからすり替わっていたのじゃ!? 最初からか!? ......にしても、なぜわざわざ正体を隠して......!?」

「いいじゃありませんか、そんな些細なこと......」

 彼女は笑顔でごまかした。ブリッジに常駐するメンバーの中に知り合いがいることも、その人物を守るために命をかけるのだということも、彼女は敢えて話さなかった。

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 ブリッジの『遠見の鏡』には、ビアル・アルビオンが分離する光景が映し出されていた。

「オールド・オスマン! どういうおつもりですか!? この大事な時に!」

『うろたえるな、ミスタ・コルベール! 必ずや巨大機動要塞に致命傷を与えてみせる!』

 老人とは思えぬ決然とした声が、ビアル・アルビオンから届いた。

「ま、待ってください! もう少し待てばリーヴスラシル3が......」

『それまで我々が保たん! だから、わしらが突破口を開くのじゃ!』

『みなさんは生きて、戦い抜いてくださいね』

 ティファニアがハッとする。ミセス・シュヴルーズの声が、妙に優しく聞こえたのだ。まるでずっと面倒を見てくれた、あの人のように......。

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 迎撃されて火を吹きながらも、ビアル・アルビオンは特攻する。

「突っ込むぞ! ミスタ・グラモンが教えてくれた、敵の急所へ!」

「オールド・オスマン! もう推進力が限界です!」

 巨大機動要塞は後退するが、それでも距離は縮まっていく。

「逃がすか!」

「今です! オールド・オスマン......」

 ついにビアル・アルビオンは、巨大機動要塞に激突。大爆発を巻き起こした。
 ......百歳とも二百歳ともいわれる老人と、正体を隠して戦い続けた女性。二人の最期であった。

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 その爆発が起こった時。
 才人たちは、ちょうど機械増幅竜(メカブースト)を一刀両断し、ようやく葬ったところだった。

「......オールド・オスマン......」

 唖然とする彼らの見守る中、爆煙が晴れていく。
 ビアル・アルビオンは完全に爆散。もう影も形もない。
 一方、巨大機動要塞は、大破こそしたものの、まだ動ける状態だった。エルフの国へ向けて、ヨロヨロと逃げ去っていく。

「逃がすかあっ! このおっ!」

 デルフリンガーで斬りかかるリーヴスラシル3。
 敵は逃亡の時間を稼ぐために、本日二匹目の機械増幅竜(メカブースト)を出してきた。四本腕の機械増幅竜(メカブースト)、ゾンダアである。

「来るなっ! 邪魔だっ!」

 四本の腕すべてで剣を振るう機械増幅竜(メカブースト)に、デルフリンガー一本で戦うリーヴスラシル3。
 しかし、戦いは武器の数で決まるものではない。才人の心は今、猛烈に震えていた。

「隙ありーっ!」

 剣を交わしながら蹴り飛ばし、大きく開いた胸元を刺し貫く。
 機械増幅竜(メカブースト)は爆発した。
 だが......。

「い......いない......」

 すでに巨大機動要塞の姿は、見えなくなっていた。

「ど、どこ行った。どこ行ったんだ、要塞は!」

 才人はオールド・オスマンとは、それほど深い付き合いがあったわけではない。それでも彼の目から、涙が止まらなかった。

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 第二十二話 ファーティマ最後の日


「......君には失望したよ、同志少校」

「申し訳ありません」

 逃げ帰ったファーティマは、エスマーイルの叱責を受けていた。

「砂漠の民としての自覚と誇りに溢れた若者だと信じていたのに......。しょせん君も、裏切り者を出した家の一員だった、ということか」

 悔しさに顔を歪ませながら、ファーティはギリッと唇を噛んだ。このように言われるのが、何よりも堪えるのだ。そしてエスマーイルは、それを承知した上で、わざと言っているのだった。

「ファーティマ同志少校。君にもう一度だけチャンスを与えよう。これが汚名を返上する最後の機会だと思いたまえ」

「は! ありがとうございます!」

「『死の騎士』とも呼ばれた、二匹の『竜』の封印を解くがよい。それらを連れて、自ら先頭に立って戦うのだ」

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「一番艇、発射します!」

 ブリミル・ビアルから、小型脱出艇が射出される。これ以上の犠牲は出したくないということで、女子供だけでも先に退艦させることになったのだ。
 ただし女子供と言っても、虚無のメイジとその使い魔たちは、リーヴスラシル3のために必要不可欠。ルイズやティファニア、才人とジュリオとシェフィールドは、艦に留まっていた。
 また、カリーヌも「『烈風』カリンは男装の麗人でした。女性扱いせずとも結構」というよくわからぬ理屈で、残留組に。
 逆に、ロマリアの聖堂騎士隊には大人の男性も多いのだが、「もうビアル・アルビオンがないので、いなくて結構」ということで、退去メンバーに含まれていた。
 つまり、今回フネを去るのは、エレオノール、魔法学院のメイドたち、ガリアのモリエール夫人と王女イザベラとその侍女たち、ロマリアの聖堂騎士と巫女たち、そしてギーシュとキュルケである。

「続いて二番艇、発射!」

 次々と打ち出される脱出艇。ブリミル・ビアルのパワーで、一気にトリステインまで飛ばされていく。
 脱出艇は完全自動航行である。乗員は全て『スリープ・クラウド』で眠らされていた。そうしないと脱出を拒む者が出てくるからである。

「三番艇、発射! ......あとは四番艇だけです」

「エレオノールは、その最後のフネですね?」

「そうです」

 コルベールに確認をとるカリーヌの様子を見て、ルイズは思う。やはり母は母なのだ、と。娘の身を案じているのだ、と。
 ちょうどカリーヌは、ルイズの方を振り返り、

「......本当は、あなたにも戻ってほしいのですけど......」

 その時。
 ブリミル・ビアルのレーダーが、敵の接近をキャッチした。

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 巨大機動要塞は、二匹の機械増幅竜(メカブースト)を従えていた。
 魔獣に騎士が跨がったような、見るからに強そうな外見の機械増幅竜(メカブースト)。赤い方がデスカイン、青い方がヘルダインである。
 そして機動要塞の甲板の先端には、一人の少女エルフが立ち、透き通るような金髪を風になびかせていた。
 リーヴスラシル3となって出撃した才人は、そのエルフを目にして、思わずつぶやく。

「......ファーティマ・ハッダード......!」

 そう。
 敵の指揮官が、彼らの前に姿をさらけ出していたのだ。
 戦意が高揚する才人たちに、赤いデスカインが向かって来る。 
 才人はデルフリンガーで斬りかかるが、デスカインは、左手の盾と右手の剣を駆使して、これと真っ向から渡り合う!

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 デスカインがリーヴスラシル3と斬り合っている間に、青いヘルダインは、ブリミル・ビアルへ。
 砲撃をかわしながら、左手の盾から怪光線を放つ。
 ブリミル・ビアルが光に包まれる。ブリッジでは、悲鳴が渦巻いていた。

「このままではやられてしまうぞ!」

「ミスタ・コルベール! なんとか脱出艇だけでも、無事に射出してください!」

「母さま! どこへ行くのです!?」

 ルイズの制止も聞かずに、一人ブリッジを飛び出すカリーヌ。ビアル・ガリアへと移動し、ドッキングを解除した。

「わたくしが敵を引きつけている間に、脱出艇をお願いします!」

 今やビアル・トリステインだけになってしまった『ブリミル・ビアル』のブリッジへ連絡を入れてから。
 彼女は、ビアル・ガリアを発進させた。

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 ヘルダインとデスカインが、二匹がかりでリーヴスラシル3を痛めつける。
 その二匹の背中へ、カリーヌは『カッター・トルネード』を放った。
 スクウェアの巨大竜巻とて、機械増幅竜(メカブースト)にダメージを与えるのは難しいのだが、それでも牽制程度にはなる。二匹の注意が完全にリーヴスラシル3とビアル・ガリアへ向けられた隙に、ビアル・トリステインからは、最後の脱出艇が打ち出されていた。
 しかし。

「......ん? 早くも逃げ出す奴がいるのか? だが悪魔はすべて滅ぼさねばならん! ヘルダインよ、カプセルを破壊するのだ!」
 
 機動要塞のファーティマが命令を飛ばし、これに従って、ヘルダインは向きを変えた。脱出艇めがけて、右手の槍を投擲する!

「そうはさせません!」
 
 ビアル・ガリアのカリーヌが杖を振る。だが彼女の『烈風』でも、機械増幅竜(メカブースト)の武器は止められない。彼女は艦を突出させた。

「うわっ!」

 槍は、脱出艇の代わりにビアル・ガリアを貫いた。船首が大爆発し、床に激しく叩きつけられても、カリーヌは再び立ち上がる......。

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「あ! 流れ星!」

 遠方の上空からトリステインに向かう小型脱出艇は、地上の人々からは流星に見えた。

「ギーシュに会えますように......」

 ラグドリアン湖の岸辺で、金髪ロールに赤リボンの少女が、流れ星に祈る。
 魔法学院で生き別れになった、最愛の恋人の名前を口にして。
 きっとどこかで、彼は無事に生きているはずだ......と信じて。
 もしかしたら浮気してるかもしれないけど......と、ちょっぴり疑いながら。

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「みんな起きろ! 起きたまえ!」

 地上に降り立った脱出艇の中、最初に目を覚ましたのはギーシュだった。
 続いて、他の者たちも目を開ける。

「どうしたの、あたしたち? ここは......?」

「トリステインだ。どうやら僕たちは、先に送り返されたようだね」

「そういえば......。ずいぶん変わっているけど、ここはトリステイン魔法学院の跡地だわ!」

 周囲を見回しながら、キュルケが叫ぶ。
 自分たちの学び舎だった場所、思い出が詰まった場所だ。見間違えるはずがない。
 平和だった頃を思い出し、キュルケがしみじみとした顔をする傍らで。
 ギーシュは、脱出艇に備え付けられた通信用の魔道具で、ブリミル・ビアルに連絡をとっていた。

「どういうことですか、ミスタ・コルベール! 水臭いじゃないですか、僕たちを降ろすなんて! 僕たちも貴族です、最後まで戦わせてください!」

『無事に着いたのかね。それはよかった』

 そうこうしているうちに、最後の脱出艇も同じ場所に到着した。
 ギーシュに叩き起こされたエレオノールは、通信用魔道具に向かって叫ぶ。

「お母さま! そちらはどうなっているのですか!?」

『エレオノール。あとのことは頼みます』

 返答は、短いものだった。
 母の声の調子から、エレオノールは状況を悟った。オスマンの悲劇が繰り返されるのだということを。
 それでもエレオノールは泣かない。彼女は貴族なのだ。ヴァリエール公爵家の貴族なのだ。三姉妹の長姉なのだ。

「......わかりました。任せてください、お母さま。私はトリステインで、ルイズが無事に戻るのを待ちます」

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 砂漠の空では、激闘が繰り広げられていた。
 エルフの国でも『死の騎士』と恐れられていただけあって、ヘルダインとデスカインには、リーヴスラシル3の武器も通じない。全ての攻撃が盾に弾かれてしまった。
 しかも二匹は、ただでさえ凄い盾を合体させて、いっそう激しい光を放つ。

「サイトくん! 危険だ! 脱出しろ!」

「こ、こんな光が......なんだっつの!」

 ビアル・トリステインからの言葉に反発する才人だが、実際には、目も開けていられず、体を動かすこともできない。 
 そして眩しい光の中から、ハンマーや曲刀が飛んでくる。

「うわああああ」

 第一波は、リーヴスラシル3の体をかすめて、ビアル・トリステインに命中。船体に大きな穴が開く。
 そして、さらに第二波が、リーヴスラシル3とビアル・トリステインを襲う。
 だが......。

「やらせません!」

 半壊したビアル・ガリアを前に出して、カリーヌが身を挺してかばった。ただでさえボロボロのフネが投擲武器に貫かれ、あちこちから火を吹き出す。もう爆発寸前だった。

「みなさん! 敵の巨大機動要塞を倒すには、ルイズの『エクスプロージョン』しかありません! そしてサイトさん! あなたはルイズの使い魔として、最後までルイズを守って戦い抜くのです!」

 炎上するビアル・ガリアで、カリーヌはヘルダインとデスカインに特攻する。いくら『死の騎士』といえども、巨大なフネを爆弾と化せば......。
 そして。
 カリーヌのビアル・ガリアは、二匹の機械増幅竜(メカブースト)と共に、爆発四散した。

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「か、母さまぁぁぁっ!」

 母の死を目にして、ルイズは叫ぶ。
 彼女の心は、大きく震えていた。
 一時的に激しく高まる精神力。それを自覚せぬまま、彼女は杖を振り下ろす。

 ドゴオォォォォオオォォンッ!

 巨大な光に包まれて、ついに『鉄血団結党』の巨大機動要塞が爆発する。

「やったか!?」

 とどめを刺すべく、近づくリーヴスラシル3。
 そして才人は見た。墜落する機動要塞の甲板上で、火に巻かれながら、毅然とした表情で才人たちを睨みつける少女......。

「......ファ、ファーティマ......。こいつ......まだ......」

「悪魔め......。最後の一人となっても、私は戦い抜くぞ!」

「悪魔だと......? 何言ってんだ、そっちこそ悪魔じゃねーか! 俺たちは平和を守るために......」

「悪魔のくせに正義づらするな! 勝手に砂漠まで攻めて来ておいて!」

「か、勝手に......じゃねえ! 俺たちは......」

「じゃあ何か、誰かに頼まれたとでも言いたいのか!? 頼まれて、ここまで攻めて来たというのか!?」

「い、いや......そうじゃなくて......」

 話をすり変えられつつあることに、才人は気づかなかった。
 そもそも先に戦いを仕掛けてきたのは、エルフの方である。だから才人たちは、わざわざここまで来たのだ。
 しかし、彼がそう言うより早く。

「やはり、お前たちは悪魔だ! 何度殺しても蘇る悪魔だ! だが蘇るなら、そのたびに殺すまでだ! 我ら『鉄血団結党』が、必ずや......」

 そこまでだった。
 推進装置に火が回ったのだろう。轟音と共に、大きな火柱が立ちのぼり......。
 ファーティマは、炎に包まれた。

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 こうして。
 エルフの指揮官は死に、巨大機動要塞も消滅した。

「終わった......ついに終わったんだ......」

 ホッとする才人。
 ハルケギニアに召喚されてきて、多くの人々と知り合って、同時に、多くの人々を失って......。
 才人の目から、一筋の涙が流れる。
 だが。

「サイト! 惚けている場合じゃないぞ!」

 ジュリオに呼びかけられて。
 前方に意識を向ければ。

「なんだ、あれは!?」

 見る者を圧倒する、巨大な城だった。空飛ぶ巨大な城が、はるか遠くから、こちらに迫りつつあった。
 いつのまにか『鉄血団結党』によって動く要塞に改造されていた、かつての評議会本部......。

「......あれが......敵の本拠地『カスバ』だ......」

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 第二十三話 燃える砂漠


 まだ、ブリミル・ファミリーと『鉄血団結党』の戦いは続いていた。
 ファミリーの女性と子供たちをハルケギニアに送り返した後、『烈風』カリンはビアル・ガリアで体当たりを敢行、機械増幅竜(メカブースト)を倒し、残ったルイズたちが巨大機動要塞を破壊して、ファーティマを葬り去った。
 だが、それは勝利ではなかったのだ......。

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 ついに姿を現した巨大浮遊城『カスバ』。
 そこから不思議な光が放たれて......。

「ど......どこだ、ここは!? 砂漠にこんなところがあるのか!?」

 光が収まった時。
 才人たちの周囲の景色は一変していた。
 まるで子供の頃に特撮番組で見た異次元世界だ。色とりどりの絵の具をゴチャ混ぜにしたような、奇妙な配色の空間。体の感覚もおかしくなっており、上も下もわからない。

「罠だ! ひょっとすると......」

「何かが来るわ!」

 ジュリオとシェフェールドの言うとおりだ。
 青い石柱のようなものの陰から、巨大な化け物が現れた。『化け物』としか形容できない、おどろおどろしい物体である。

「これも機械増幅竜(メカブースト)の一種なのか!?」

 デルフリンガーで斬りかかる才人。『化け物』は砲撃で反撃し、リーヴスラシル3は被弾。

「うわっ」

 ジュリオの悲鳴だ。才人は痛くなかったのだが、ジュリオにとっては、当たりどころが悪かったらしい。
 だが、これが戦況に大きな変化をもたらす。

「サイト! 攻撃しちゃダメだ! 僕たちはビアル・トリステインを攻撃しているぞ!」

「何!? 何を寝ぼけてるんだ、ジュリオ!」

「私にも敵しか見えないよ!」

 二対一。多数決ではジュリオが不利だが、それでも必死に、

「エルフの魔法で、僕たちは幻を見せられているのだよ! ......この傷を受けなかったら、僕だって正気には戻れなかっただろう......」

「そんなこと言ったって......どう見ても化け物じゃねえか、あれは!」

「僕の言うことを信じてくれ! 正面の化け物ではなく......浮遊城カスバは、右上にいるぞ! 右上を攻撃するのだ!」

「右上......? 何もねーぞ、そこには! ......うわっ!」

 リーヴスラシル3は、また正面の『化け物』からの攻撃を受けてしまった。

「サイト! 僕を信じて、右上にブリミル・アタックを撃ち込め! ここで撃たなかったら、君からルイズを奪ってしまうぞ!」

「み、右上だな!? どうなっても知らねえぞ!」

 ジュリオの脅し文句が効いて、素直に従い始めた才人。

「仰角13.21、方位8.23! そこだ、サイト!」

「よーし! ブリミル・アタック!」

 才人やシェフィールドには見えぬ敵に、リーヴスラシル3の必殺技が命中する。
 爆煙の中......。
 幻が解けて、浮遊城カスバが、再び姿を現した!

########################

「私たちは、同士討ちをさせられていたようですな......」

 ビアル・トリステインのブリッジでも、ようやく幻から解放されて、コルベールたちが真相を悟っていた。
 ちょうど『遠見の鏡』には、剣を手にしてカスバへと突っ込む、リーヴスラシル3の勇姿が映し出されていた。
 砲撃をかわして上部中央を斬り開き、そのまま巨大な城に突入して......。

「サイト!」

 中でひと暴れした後、リーヴスラシル3は、浮遊城の底部に大穴を開けて、外に飛び出してきた。
 ブリッジの一同がホッとしたのもの束の間。

 ゴオッ!

 脱出直後で一瞬動きが止まったリーヴスラシル3に、浮遊城の熱光線が直撃。リーヴスラシル3の『左足』......つまりシェフィールドの体の一部が溶け落ちた。

########################

「もう一度行くぜ! ジュリオ! シェフィールドさん! いいな!?」

「ああ。大丈夫だよ、サイト」

「私の方も......ちょっと体のバランスを修正すれば、まだ行けるわ」

 再び剣で突撃。今あけたばかりの底部の大穴から突入し、城の背面へと斬り抜けた。
 しかし、またもや出たばかりのところで、熱光線を食らってしまう。今度は『腕』......ジュリオの体の一部が消滅する。

「サイト......僕たちはもう駄目だ」

 ジュリオは強制的に、リーヴスラシル3の合体を一部解除。大ケガを負ってない才人だけを放り出し、自分はシェフィールドと合体したまま、浮遊城カスバへと向かう。

「何のつもりだ、ジュリオ!? まだ一緒に戦えるんだぞ! 俺たちは兄弟みたいなもんだ、って......最初に会った時、言ってたじゃないか!」

「そうだよ、僕たちは虚無の使い魔......みんな兄弟だ。しかしね、才人。リーヴスラシル3は『手足』をやられてしまった。僕たち二人は、ここまでだ」

「二人でも体当たりくらいは出来るわ。敵にとどめを刺してみせる!」

 ジュリオとシェフィールドがゆく。
 才人は止めたかったが、リーヴスラシル3でなくなった以上、もう空は飛べない。ビアル・トリステインに拾われて、甲板の上から、二人の最期を見届けるしかなかった。
 ジュリオは巨大な浮遊城を目前にして、シェフィールドに語りかける。

「まさか、あなたと共に死ぬことになるとは......。すまない。もう少し被害が小さければ、僕一人で行けたのに......」

「気にすることはないよ。刺し違えてでもエルフを倒す......。それがジョゼフ様の御意志ならば......ジョゼフ様が少しでも喜んでくださるならば......。私は嬉しい......」

「......カスバの死角に入ったぞ......」

「ぶつかると同時に、『虚無』の力を全開にして自爆するよ」

 そして、激突の瞬間。

「先に逝きます! ジョゼフ様ーっ!」

「さらば兄弟! サイトーっ!」

 それぞれ名前を叫びながら。
 ミョズニトニルンとヴィンダールヴは、砂漠の空に散った。

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 二人の犠牲で大破したものの、いぜんとしてカスバは、空に浮かんでいる。

「ジュリオ......シェフィールドさん......お前たちだけを死なせはしないぞ......」

 涙を堪えながら、才人はゼロ戦に乗り込もうとするが......。

「バカ犬! 死にに行くようなこと言ってはダメよ!」

 振り返ると、ルイズがいた。
 いやルイズだけではない。小さな彼女の背中に隠れるようにして、ティファニアも一緒だった。

「な、なんだよ......? 二人がかりで、俺を止めようっていうのか!?」

「そんなこと言わないわ」

 ルイズはティファニアの手を引きながら、二人でゼロ戦の後部座席へ。
 指定席に座ったルイズは、あらためて才人に目を向けて、

「サイト。私は『死にに行く』のをダメって言ってるだけ。『生きて戻る』ために行くなら、かまわないわ」

「サイトさん。私たちはサイトさんの主人ですから......」

 モジモジと、ティファニアも口にする。
 これで才人にも理解できた。
 主人を守るのが、使い魔の役目。主人と共に出撃する以上は、絶対に生きて戻らねばならないのだ......。

「わかった。最後だから......一緒に行こう!」

 そう、これが最後の出撃なのだ。今度こそエルフの城を破壊するのだ。

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 ジュリオとシェフィールドが開けた穴から、才人のゼロ戦が突入する。

「サイト! 何よこれ!?」

「エルフの先住魔法だ! リーヴスラシル3で入った時もこうだった! でも心配すんな! だいぶ少なくなってる!」

「これでも減ったっていうの!?」

 城の内部で、雨あられと降りそそぐ魔法攻撃。
 ゼロ戦の主翼が、胴体が、少しずつ抉れていく。

「相棒! ここは俺にまかせろ!」

「頼んだぞ、デルフ!」

 ゼロ戦に乗ったまま、才人が剣をかざす。
 デルフリンガーの魔法吸収能力だ。
 飛来する先住魔法を、剣は次々と吸い込んでいくが......。

「......さすがに敵の本拠地だぁな。ハンパじゃねえ魔力だ......。参った......こりゃ参った。どうやらオレの体はもたねえみてえだ」

「デルフ? 何を言ってるんだ......?」

「あばよ。セリフは少なかったが、実に楽しかった。六千年生きてきた甲斐があるってもんだ」

「やめろ! やめろデルフ!」

 事態に気づいて才人が叫ぶが、もう遅かった。デルフリンガーの表面にヒビが走り、そしてボロボロに崩れていく。

「ちゃんと生き残って、娘っ子たちと幸せになるんだぜ......」

 吸い込む限界に達したデルフリンガーは、バラバラに砕け散った。

「デルフ......無理しやがって......」

「サイト! 落ち込むのは後にして! 今はそれどころじゃないわ!」

 ルイズの言うとおりだった。
 ティファニアも、こわごわとした様子で声を上げる。

「サイトさん......。いつのまにか、右の翼がとれちゃってるんですけど......」

「本当だわ! どうすんの!? これじゃ落ちちゃうじゃないの!」

「あー。言いにくいんだが、プロペラも止まりそうだ。......つうわけで、どっか手近なところに胴体着陸するぞ」

「サイト! あそこに広い部屋があるわ! あの中にしましょう!」

########################

 扉を突き破って、ゼロ戦が飛び込む。
 ザザーッと滑りながら、なんとか機体を止めて......。
 才人たちは部屋の様子を見回す。
 本当に広い部屋だ。かつては議会場だったのかもしれないが、今では会議テーブルもなく、一つの椅子が玉座のように鎮座するのみ。
 そして。
 その『玉座』には、冷たい雰囲気のエルフが座っていた。

「ほう......。悪魔め、ついにここまでやって来たのか。ということは、もうこの城も墜ちるな」

 エルフの男が立ち上がる。
 静かな、それでいて激しい気迫に、才人たち三人は圧された。

「お、お前は......」

「私は『鉄血団結党』の長......エスマーイルだ」

 この男がエスマーイル! 敵の親玉!
 身構える才人たちの前で、エスマーイルは、才人たちが乗ってきたゼロ戦に目をやり、

「それは『悪魔(シャイターン)の門』から吐き出された『武器』だな?」

「シャイターンの門......だと?」

「知らんのか? 自分たちが使う『武器』のことすら知らんとは......やはり蛮人どもは愚かだな」

「な、何を言ってるのかわからねえが......これはゼロ戦だ。俺の世界の戦闘機だ!」

「俺の世界......か。なるほど、貴様は『門』の向こうから来た蛮人なのだな。だから『武器』を使いこなせたわけか......。ならば知っているはずだ、この数十年で『武器』が恐ろしいほどの進歩を遂げている、ということを」

 才人の表情が変わる。第二次世界大戦やその後の歴史について、学校で習ったことを思い出したのだ。
 たしかに最近、地球の軍事技術の発展は目覚ましい。核兵器も開発され、アメリカなどの大国は、地球を何度も滅亡させるだけの力を保有している......。

「......思い当たることがありそうな顔だな」

 エスマーイルが冷笑する。

「サイト? どういう意味よ?」

「待て、ルイズ。長くなるから、説明は後で......」

 才人は、エスマーイルに向き直り、

「なんでお前が......地球の軍事技術のこと知ってんだよ!?」

「......そのチキュウとやらの『武器』が、この世界に来ているからだよ。『悪魔(シャイターン)の門』を通して。......貴様の『ゼロ戦』よりも、もっともっと恐ろしい『武器』が」

 話が最初に戻った。そして、今度こそ才人も理解した。

「そうだ! わかっただろう、悪魔め! 我々エルフが悪魔と戦うのは、『悪魔(シャイターン)の門』を開かせないためだ! あの『門』が開けば『武器』だけでなく、強大な技術を持つ蛮人たちが大挙して、この世界に侵略してくるであろう! そうした『大災厄』を防ぐために......この世界を守るためにこそ、我々は生きているのだ!」

 両手を広げて語るエスマーイルの姿に、まだ事情を知らぬルイズは混乱する。

「ちょっとサイト! あとじゃなくて、今ここで説明しなさいよ! あのエルフはいったい何を言ってるの?」

「あー。簡単に言うと......あいつは『エルフの方が正義だ』って言ってんだよ」

「......ふん。そんなのエルフたちの妄信に過ぎないわ。私たちを『悪魔』扱いして!」

 ルイズはそれで片づけてしまったが、ここでティファニアが叫ぶ。

「あんまりだわ! エルフと人間だって、仲良くできるはずです。私の母はエルフだったけど、父とはとても仲が睦まじくって、愛し合っていました。だから、人とエルフってわかり合えると思うんです」

 帽子をとって、長い耳を見せるティファニア。それを見たエスマーイルが顔を歪め、

「裏切り者め。エルフの血を引く者が、悪魔に加担するとは......。まさか貴様......シャジャルの娘か?」

「え......? あなた、母を知っているのですか......?」

「そうか、やはりシャジャルの娘だったか。......教えてやろう、シャジャルはファーティマの叔母だ。裏切り者の叔母という部族の恥があるからこそ、部族の汚名を返上するためにこそ、あのファーティマは、過酷な前線に赴いて戦っていたのだよ!」

「......そんな......」

「つまりファーティマは、貴様にとっては従姉妹にあたる娘だったのだ。それを貴様たちは手にかけたのだ! 肉親を殺したのだよ!」

 絶句するティファニアに代わり、才人が声を荒げる。

「それもこれも、全部お前らが悪いんじゃねーか! そっちがトリステインに攻めて来たから、俺たちは立ち上がったんだ!」

「善人ぶるな、悪魔め! ファーティマだけではないぞ! 貴様らは、たくさんの肉親を見殺しにしたではないか! 家族を失い、友を失い......その結果、何が得られたというのだ?」

 エスマーイルの言葉は続く。

「聞いているぞ。すでに蛮人どもの間ではブリミル信仰が崩れつつある、と。すべて貴様らのせいだという風潮がある、と。......貴様らは、国に帰っても感謝などされないのだ。蛮人どもからも『悪魔』という扱いを受けるのだ!」

「感謝なんてされなくてもいいわ! 私たちは貴族よ! たとえどう思われようとも、平民を守るのが貴族の義務なの!」

 ルイズが反論した時。
 彼らの部屋にも、火の手が回った。炎が赤いカーテンとなり、エスマーイルの姿を隠した。

「......『鉄血団結党』は負けた......。しかし貴様らも滅ぶ。いつか悪魔は滅ぶのだ。それが『大いなる意志』の御心なのだ......」

 声だけを残して。
 エスマーイルは、業火の中に消えるのであった。

########################

 浮遊城カスバが爆発炎上する様子は、ビアル・トリステインからも、しっかりと見えていた。

「サイトくんたちは......まだ、あの中で生きているのか?」

 つぶやくコルベールの肩に、ヴィットーリオが手をおく。

「生きていますよ。彼らは。必ず」

「教皇聖下......」

「しかし、このままでは城もろとも墜落死だな」

 非情な現実を告げるジョゼフ。
 確かに、浮遊城カスバは、地上に向けて落下中であった。小さければ『レビテーション』で浮かせて落下を止めるのも可能だが、カスバほどの巨大質量では、それは無理である。

「......しかし、若い彼らを見殺しには出来ません。三人一緒に死なせるために、送り出したわけではないのですから。助けましょう!」

「なるほど。それも面白いかもしれんな」

 二人の虚無のメイジには、救出の算段がついたようだった。

「ミスタ・コルベール。このフネを浮遊城の下方へやってください。ビアル・トリステインで支えて......脱出の時間を稼ぐのです」

「それでは、このフネも爆発に巻き込まれてしまいますが......よろしいのですか?」

 教皇は、慈愛に満ちた微笑みで頷いて。
 呪文を唱え始めた。

########################

 その頃。
 三人は、火に囲まれていた。

「サイト! このままじゃ私たちも焼け死んじゃうわ! 早く脱出しないと!」

「でもよ......。どうすんだ? こいつも、もうこんな状態だし......」

 才人が左手でゼロ戦に触れる。ルーンが知らせるまでもなく、もう飛べるシロモノではなかった。
 その時。
 残骸と化したゼロ戦が、光り出した。

「ん?」

 光る機体から、才人たち三人の心に『記憶』が流れ込んでくる。

『これ、シエスタの故郷の近くから運んできたそうよ』
 
『ゼロ戦じゃねえか、これ』

 ゼロ戦との出会い......。

『ねえ。せっかくだから、あたしたちも乗せてよ』

『......あとで怒られても知らねえぞ、相棒。そこは娘っ子の席だろうに。しかも二人も乗せるなんて......』

 ちょっとした浮気のようなもの......。

『サイトさん。私たちはサイトさんの主人ですから......』

『わかった。最後だから......一緒に行こう!』

 三人でいっしょ......。
 全て、これまでの戦いの記憶だった。
 さらに、三人の脳裏に声が響く。

『みなさん。これはリコード(記憶)です。対象物に込められた、強い記憶を鮮明に映し出す呪文です』

 教皇ヴィットーリオの声だった。

『あなたがたとの連絡手段として、この呪文を使っています。今回はゼロ戦に宿る記憶を......強い念を映し出させていただきました』

 そして彼は告げる。外ではビアル・トリステインが時間稼ぎをしているので、今のうちに脱出せよ、と......。

「でも! もうゼロ戦もボロボロで......」

『ルイズ殿。あなたには魔法があるではありませんか。あなたはもう、ゼロのルイズではないのですよ』

 虚無の魔法『瞬間移動』。それで脱出すればいいのだ。

「では、いったんビアル・トリステインまで『瞬間移動』して、それから再度『瞬間移動』して......」

『それは無理でしょう。こちらの三人も加えて全部で六人になっては、いくらあなたでも跳べませんよ』

 つまり。
 ヴィットーリオは、ルイズと才人とティファニアだけで脱出せよ、と言っているのだ。

『ここはエルフの勢力圏内です。精神力の続くかぎり、とにかく西へ、西へと跳んでください。さあ、もう時間がありません......』 

########################

「もう大丈夫です。三人は、無事に脱出しました」

 ビアル・トリステインのブリッジで、ヴィットーリオが、コルベールとジョゼフに告げる。
 しかし彼らのフネは、もう限界だった。ビアル・トリステインは赤く燃えながら、浮遊城カスバと共に落下していく......。

「サイトくん。この目で君の世界を見てみたかったよ」

「ハルケギニアを地獄にするより、よっぽど楽しめたかもしれん。なあシャルルよ、これで良かったんだろうな」

「『聖地』奪還とまではいきませんでしたが......。狂信者集団『鉄血団結党』は壊滅させたのですから、それで良しとしましょう。『聖地』を取り戻すという偉業は、次代の子らに任せます。頼みましたよ......」

 コルベールは、別の世界から来た少年に。
 ジョゼフは、かつて自ら殺めた弟に。
 ヴィットーリオは、身を挺して逃がした三人に。
 それぞれ、その場にいない者に語りかけながら......。
 大人たちは、爆発に呑まれた。

########################

 ルイズの精神力は、予想以上に高まっていたらしい。
 三人は、一気にトリステインまで『瞬間移動』した。
 彼らが降り立ったのは......魔法学院の跡地である。
 ただし、精神力を使い果たしたルイズは気絶。
 才人も目を閉じていた。

「サイトさん......? 疲れて眠っちゃったの?」

 ひとり意識のあるティファニアが、彼の体にソッと触れて......。

「そんな!?」

 驚愕に目を見開く。
 才人の心臓は止まっていたのだ。
 これまで『リーヴスラシル3』として戦ってきた疲労の蓄積だ。やはり生身の体では、耐えられなかったのだ。
 虚無魔法『生命』を使った結果、『器』となったリーヴスラシルが命を落とす......。これも使い魔の運命である。
 しかし。

「嫌よ! サイトさんが死んじゃうなんて......私はイヤ!」

 ティファニアの想いを受けて。
 彼女の指輪が光る。死んだ母親の形見......『先住』の水の力が込められた、エルフの指輪だ。
 それは魔力を使い果たして溶けてしまうが、代わりに......。

########################

 目を覚ました才人は、頭にやわらかい感触を感じた。

「これって......」

 思わず、頬が緩む。彼はルイズに膝枕されていたのだ。

「あら。ようやくお目覚めね」

「よかった。サイトさん、気がついたんだ......」

 自然界の法則を無視した大きな塊が、才人の目の前にあった。ティファニアの胸である。
 至福の目覚めであるが、じっと見続けていたら、ルイズに怒られてしまう。彼は視線を逸らし、遠くに目をやった。すると......。

「サイトだ! サイトがいるぞ!」

「生きてるわ! 生きて帰ってきたんだわ!」

 三人に駆け寄る大勢の人々が、才人の視界に入ってきた。中心にいるのは、ギーシュやキュルケやシエスタなど、かつての学院の仲間たちだ。

「......み、みんな......」

 才人は、もう地球に帰ることはないであろう。
 家族にも友人にも、もう会えはしない......。
 だけど、涙はいらないのだ。
 才人にはルイズがいる。仲間がいる。平和で豊かなハルケギニアがあるのだから。
 命をかけて守ったハルケギニア。
 ハルケギニアの平和よ、永遠に......!




(「無敵超人リーヴスラシル3」完)

(初出;「Arcadia」様のコンテンツ「チラシの裏SS投稿掲示板」[2012年2月])

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