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『絶対可憐チルドレン』の二次創作短編

(2009年2月 投稿分)

『女帝万歳!』
2009年10号サンデー掲載エピソードを元ネタとして
『戦場で生まれる恋?』
2009年11号サンデー掲載エピソードを元ネタとして
『その力、つきる時』
2009年11号サンデー掲載エピソードを元ネタとして
『薫も そろそろ お年頃』
2009年12号サンデー掲載エピソードを元ネタとして
『おるすばん』
2009年12号サンデー掲載エピソードを元ネタとして
『戦いのあと』
2009年13号サンデー掲載エピソードを元ネタとして
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『女帝万歳!』

 暗い洞窟の中。
 先輩男性に手をひかれて、フラフラと立ち上がる美少女。
 胸元のリボンやヒラヒラした袖口が特徴の洋服、そして、頭にはカチューシャ。そうした恰好が、実によく似合っていた。 
 お嬢様っぽくも、ゴスロリ趣味にも見えるが、彼女は、普通の乙女ではない。
 自他共に認める腐女子エスパー、パティ・クルーであった。




    女帝万歳!




 今、少し離れたところでは、敵である賢木と紫穂が言葉を交わしている。
 小声ではあったが、しょせん狭い洞窟内。二人の会話は、パティの耳にも届いていた。

「あの鳥の巣頭だけでも
 殺(や)っといてくれれば......」

 この言葉が、パティの脳天を貫く。

(え?
 『やっといてくれれば』......?
 今、『ヤっといてくれれば』って言ったの!?)

 続く賢木の発言も、パティの想像を裏付けてしまう。

「お前な......。
 女の子がそういうこと言うな!」

 女の子が口にすべきでない、はしたない言葉。
 つまり。
 紫穂の言った『やる』は、物騒な『殺る』ではなく、下品な『ヤる』だったのだ。
 実はパティと同じく、紫穂も、そーゆー展開を望んでいたようだ!

(そうだったのね......)

 紫穂と賢木は、まだまだ、アブナイ会話を続けている。

「二度と逆らえないような
 精神的屈辱を与える方法を......!!」
「悪くねえな。
 具体的にどーする?」

 賢木にヤられてしまったら、葉にとっては、それこそ精神的屈辱だろう。
 それも『二度と逆らえないような』だなんて......。
 いったい紫穂は、どんなプレイを想定しているのだろうか?
 紫穂の想像力は自分以上だ。パティは、ワクワクしてしまう。
 そんな彼女に、葉が声をかける。

「......正直ヤベエな。
 能力はともかく、
 あいつらの腹黒さがヤベエ」
「反撃できるようになる
 5秒前くらいに殺られそうですね」

 と返すパティ。ただし『殺られる』のは自分だけで、葉は『ヤられる』に違いないと思っていた。

(本当に......『腹黒』ね)

 自分と同じ趣味でありながら、それを完全に隠していたとは、なんとも腹黒い! 紫穂、恐ろしい子......!!
 だが、それでも。
 彼女が同好の士であったというのは、喜ばしいことだ。
 特に、この紫穂は、将来パンドラを率いる三人のうちの一人なのだから。

(あなたがリーダーとなった暁には
 ......私は、どこまでも従います!!)
 
 心の中で、紫穂に忠誠を誓うパティ。
 また一人、女帝(エンプレス)の僕(しもべ)が誕生した瞬間であった。




(女帝万歳!・完)

(初出;「ザ・グレート・展開予測ショーPlus」様のコンテンツ「展開予測掲示板」[2009年2月])

 転載時付記;
 水曜日にサンデーを読んで、その日のうちに書いて投稿したSSです。
 翌週以降の展開を知らぬからこそ書けたわけですが、翌週、さっそく後悔しました(笑)。

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『戦場で生まれる恋?』

「今だ!!
 やっちまえ、パティ!!」

 洞窟内の一時休戦も終了。
 パンドラの先輩である葉の言葉に従い、パティが、二人のサイコメトラーへ攻撃を仕掛ける。

「いわゆるひとつの『攻め』ですね!?」

 当然パティは、葉の『やっちまえ』という言葉を、パティなりの意味に受け止めていた。
 だから、賢木(男)の相手は葉(男)に任せて、自分は紫穂へと向かう。
 自身の体そのものを粒子化させて、そのカラダ全体で、紫穂のカラダに絡み付くのだ。
 これが、パティの『攻め』!

「ぐ......」

 拘束されて、呻き声をもらす紫穂。
 その様子は、まるで......。

(......触手プレイね。
 触手に巻き付かれたヒロインだわ)

 ややズレた感想を持ってしまうパティ。
 パンドラには本当にカラダを触手化できる能力者が居るし、また、有明・池袋の世界にも触手のプロが居る。だが、どちらの意味でも専門家ではないだけに、パティには、触手が触手でなければいけない重要性なぞ分かっていなかった。
 そんなパティに対して紫穂が反撃を試みるが、

「しょーがないわ......!!
 もう一度暴走させて――」
「そうはいくかよ!!
 いったん下がれパティ!!」

 再び、先輩の指示が飛ぶ。
 葉に言われるがまま、紫穂のカラダから離れるパティであったが......。




    戦場で生まれる恋?




「葉、どういうことだ、これは?」

 今。
 パティの目の前で、葉は拘束されていた。

(おお!
 これこそ本物の触手ですね!!)

 葉の四肢と胴体に絡み付いているのは、真木の炭素結晶繊維。厳密には触手ではないのだが、ビジュアル的には、触手の本家カズラ以上に『触手』である。
 だから、パティにとっては、これは『真木 x 葉』の触手プレイにしか見えなかった。

「少佐の許可なく、
 ヤツらを傷つけていいと思ってるのか!?」

 真木が『触手』を巧みに操り、グイッと葉のカラダを引き寄せる。
 その様子は、まさに王道! 男の、男による、男のための触手!
 しかも、これは二人だけの世界ではない。触手とは違う形で、さらに、もう一人。兵部少佐が関わってくるのだ。
 今、少佐にジロッと睨まれ、

「す......すんません」

 葉はシュンとなっていた。
 いつも彼は『......って真木さんが言ってました』という言い方で少佐に悪口を投じているが、もちろん、それは好きだからこその『悪口』。好きなコに意地悪しちゃう小学生と同じレベル。
 その証拠に、ついさっき賢木とのカラみの最中だって、葉は、

   「あのバカをからかっていいのは俺らだけだ」

 と宣言していたくらいだった。


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 これまでの洞窟内での言動が、目の前の光景と重なって......。

「ぶっ、ぷぷっ」
 
 思わず声が漏れてしまう赤面パティ。
 それを少佐に聞き咎められ、

「あっ、いえ。
 なんでも」

 と、顔を横に向ける。
 だが、あらぬ方向を見つつも、彼女の妄想は止まらなかった......。


___________


 敵である賢木とカラんで。
 真木には、触手プレイで拘束されて。
 少佐には、あからさまな好意を示して。
 ああ、葉先輩は、なんとオールマイティなキャラなのだろうか。

(......本当にステキな先輩!)

 パティの心の中で、葉の占めるウエイトが大きくなっていく。
 だから。


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「あ......危ない、少佐!!」
「みんな伏せて!!」

 洞窟に人工衛星が撃ち込まれた時。
 少佐にでも、真木にでも、マッスルにでもなく。
 パティは迷わず、葉にしがみついていた。
 胸に飛び込んだような形。正確には、腰の上あたりで、彼の上着をギュッとつかむ恰好になっていた。
 一方、葉の方も、

「紅葉!!」

 弾き飛ばされた同僚に声をかけながらも、そちらには、手を伸ばしすらしなかった。彼の腕は、自分に抱きついてきた少女に――その背中から肩に――回されている。

(......!)

 しかし少女は、男の腕を強く意識していたわけではない。
 葉が『ステキな先輩』なのは、恋愛の対象としてではなく、あくまでも『掛け算』の対象としてなのだから。

 ......それが、パティ自身の認識。

 そう。
 今は、まだ。
 自分自身の気持ちに気付かぬ、少女であった。




(戦場で生まれる恋?・完)

(初出;「ザ・グレート・展開予測ショーPlus」様のコンテンツ「展開予測掲示板」[2009年2月])

 転載時付記;
 水曜日にサンデーを読んで、その日のうちに書いて投稿したSSです。
 水曜日、仕事の合間の昼休みにコンビニに行ってもサンデーがなかったので、「そういえば、世間では、今日は祝日。日本の雑誌って、祝日は休刊なんだっけ?」と思ってしまったのですが......。夜、帰宅後に前週号を見直して、この週は火曜日発売だったことを知り。それから慌てて、売っている店を探して買ってきて、読んで、書いて......という顛末でした。

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『その力、つきる時』

「きょ、京介!?」
「え......何!?
 どーゆう事!?」

 宇宙(そら)での休戦協定は、突然、破られた。
 人工衛星を攻撃してから、兵部たちは消えていく。

「あんのヤロー!!
 裏切ったのよ!!
 こんなものが都市にでも落ちたら......」

 不二子が目の色を変えて大騒ぎする中。
 薫は遠い目をして、小さくつぶやいていた。

「京介......!!
 やっぱり京介は――あたしの敵......」




    その力、つきる時




 ゴゴゴゴゴゴ......。

「超度(レベル)たったの6。
 ゴミやな」
「あたしたち、おだやかな心で
 すっげー怒ってるよ?」
「なんだかワクワクしてきちゃった」

 洞窟へ着いた三人の態度は、兵部が冷や汗を流すほどである。
 そんな彼女たちに向かって、

「あたしも久しぶりの出番でワクワクしてるわ!
 少佐に手は出させないわよッ、女狐!!」

 戦線復帰したマッスルが、攻撃を仕掛けた。
 しかし。

「脇役はどいてなさい!」

 以前と同じく不二子に一蹴され、マッスルは、口から泡を吹いて倒れる。
 真木は岩壁に頭から埋まっているし、紅葉も弾き飛ばされて倒れたままだ。
 つまり、この場のパンドラメンバーのうち、早くも半数が脱落した形だった。
 一方、バベルの面々は、全員無傷。
 固められていた皆本は元に戻っており、傍らには賢木が。
 そして紫穂は、薫と葵のところへ駆け寄っていた。
 こうした状況の中。

「チルドレン三人娘の勢揃いかよ」

 腕をパティの背中に回したまま、葉が、言葉を吐き捨てる。
 もちろんパティは十分な戦力であり、今、葉が彼女をかばう必要などない。だが、まるでそれを失念したかのように、二人は動けなかった。それほどの気迫が、目の前のチルドレン――特に薫と葵――から発せられているのだ。

「ただのチルドレンやないで、ウチらは」
「おだやかな乙女心をもちながら
 激しい怒りによって目覚めた美女......   
 スーパーチルドレンだーッ!!

 薫の言葉と同時に、強烈な一撃が葉を襲う。

「くっ!」
「きゃっ!?」

 パティ共々、岩肌に叩き付けられる葉。
 あっさりノビてしまった二人には、
 
「そんな設定ないわよ、葵ちゃん、薫ちゃん」

 という紫穂の言葉も、もはや聞こえていなかった。


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「あとは兵部だけよ。
 ......やっておしまい!」
「『ザ・チルドレン』トリプルブースト!!
 完全解禁!!」

 管理官と指揮官の言葉を背に受けて。

「皆本さんを裏切る未来なんて......」
「......ウチらの力で変えてみせるで!」 
 
 三つの力を一つに合わせて、今。

「念動(サイキック)......
 京介のバカーッ!!

 裏切られた薫の怒りが――踏みにじられた乙女心が――、兵部へと向かう。
 それは、衝撃の破壊力と回避不能な光速とを伴った、禁断の一撃!


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(これが!!
 覚醒した女王(クイーン)の......いや、三人の力!)

 兵部少佐はダテじゃない。
 まるで落下する隕石を一人で支えるかのように、全力で受け止め、抵抗していた。
 しかし。

(くっ!)

 突然、苦痛に顔を歪め、自らの胸を鷲掴みにする。

(よりによって、こんな時に......!!)


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___________


「待て、薫!
 もう十分だ」

 皆本に制止され、薫は、ハッと自分を取り戻した。
 既に兵部は地に倒れており、意識も失っているようだった。
 いや、それだけではない。

(どうしちゃったんだ、京介......)

 薫が抱いた違和感。
 それは戦いの最中に生まれたものだったが、我に返った今になって、ようやくハッキリしたのだった。

(まるで......エスパーじゃなくて、
 皆本を壁に押し付ける時のような感じだった)

 その皆本は、兵部に向かって走り出そうとしている。
 今こそ、兵部を捕まえる好機!
 だが、足を踏み出した途端、体が突然、動かなくなった。

「空間固定よ。
 ......って、さっきも説明したわね」

 いつのまにか復活していた、紅葉である。
 そして、もう一人、

「これ以上は......困るのでな」

 兵部のもとへ歩み寄る真木。
 彼は紅葉に向かって、首を横に振ってみせる。

『キョースケ死ンジャッタノカ!?』

 二人のやりとりを見て、桃太郎が驚いている。
 その頭を、

「そんなわけねーだろ。
 少佐は、ただ......」

 意識を取り戻した葉が、右手で小突いた。
 左腕ではパティを抱えているが、彼女は、まだグッタリしているようだ。

「あーら、
 三つのしもべの復活ね。
 主人をやられて、
 そのリベンジってとこかしら」
「......ババアッ!!」
「熱くなるな、葉。
 状況を考えろ」

 不二子の挑発を、真木が受け流す。
 彼は、意識のない兵部を腕で――炭素結晶繊維ではなく彼自身の腕で――抱きかかえていた。
 さらに、倒れている仲間を炭素繊維の手で拾って、紅葉や葉と共に退却していく。
 去り際に、

「これでパンドラは......」

 何かボソッと、つぶやきながら。


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「逃げられてもーたな。
 ま、でも、
 ボスを倒したようなもんやから......」
「......これでパンドラも
 おとなしくなるわね」

 兵部のやられ方は、尋常ではなかった。
 子供心にも理解できたようで、葵と紫穂が、そんな会話を交わしている。
 一方、少し離れたところでは、不二子が複雑な表情を浮かべていた。

(兵部京介......)

 不二子も兵部も、同じ時代に生まれ、同じ時代を生きる者。二人とも若い外見を保っているが、その仕組みは全く別だ。
 彼女の老化停止現象は、他人のエネルギーを吸収する際の副作用。それ故『他人の若さを吸い取る』と評されるのだ。
 しかし兵部の場合は、彼自身の遺伝子を超能力で発現制御している。老化遺伝子(テロメア)のコントロールだと言われているが......。

(しょせん私たちの知識では、
 遺伝子制御なんて無理なのよ)

 テロメアがどう機能しているのか。
 それを正確に知らなければ、テロメアの働きをコントロールすることなど難しい。
 もちろん、人間が幾つかの筋肉を意識せずに動かしているように、兵部だって、意識してテロメアに干渉していたわけではないだろう。ピンポイントでテロメアを狙っていたのではなく、漠然と老化を止めようという意図で能力を使い、結果的に作用していた対象がテロメアだっただけだ。
 だが、そんな形で超能力を使い続けては、無理がたたるのも当然である。

(もしかすると、あいつは、もう......)


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「さあ、僕たちも帰ろう」
「......うん」

 皆本にポンと肩を叩かれた薫。
 彼女もまた、不二子とは違った意味で、複雑な気持ちになっていた。
 一番前で戦っていたせいだろうか。薫だけは、真木が立ち去る際の発言を、完全な形で耳にしていたのだった。

  「これでパンドラは、
   リーダー不在となってしまった。
   ......責任をとって欲しいものだな」

 明らかに、チルドレンへ――特に薫へ――向けられた言葉だ。
 それが、彼女の頭の中でリフレインする。
 そして薫は、兵部から聞いた『未来』の話――兵部ではなく自分たちがパンドラを率いるのだという話――を、あらためて思い出すのであった。




(その力、つきる時・完)

(初出;「ザ・グレート・展開予測ショーPlus」様のコンテンツ「展開予測掲示板」[2009年2月])

 転載時付記;
 上記『戦場で生まれる恋?』にて頂いた感想を受けて、その日のうちに書いて投稿したSSです。
 土曜日でしたので、まだまだ翌週以降の展開を知らない状態です。だからこそ書ける内容でした。

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『薫も そろそろ お年頃』

「待機室に
 こーゆー本を持ち込むんじゃないっ!!」

 皆本が手にしているのは、エッチな雑誌。
 小学生には早過ぎるどころか、普通ならば女のコではなく男のコが読むような本。『成人男性向けエッチ本』だ。

「いーじゃん別に。
 皆本だってホントは好きなクセに――!!」

 叱られても意に介さず、ウヒャヒャヒャッと笑う薫。
 なにしろ、検査の最中でも堂々と、そうした本を読んでしまう彼女なのである。


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 そんな薫も、いつのまにか、小学生から中学生へと成長。
 そろそろ、お年頃になったので......。


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「い、いーじゃん別にっ!!
 み、皆本だって本当は好きなクセにっ!!」

 真っ赤になって、文句を言う薫。
 皆本が持ってきた『エッチな雑誌』を、まるで隠すかのように、胸に抱きかかえている。

「いや待て、僕には違いがわからん」

 という感想を口にする皆本だったが......。


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「あー、恥ずかしかった」

 皆本がいなくなってから、薫は、エッチな雑誌を机の上に置いた。
 彼はそういう意味で『違いがわからん』と言ったわけではないが、この雑誌は、実は昔と全く同じもの。薫が小学生の頃に発行された、もはや今では古雑誌なシロモノだった。
 ただし、

「あたしが、こんなもの読んでるなんて......」

 古い『成人男性向けエッチ本』なのは、表向き。
 薫は、それをカバーとして使っているのだ。
 中に挟み隠されている本は、全く別物......!
 今、彼女が開いたページには、

   『今月の特集!!
    ステキなカレをゲットするためには!?』

 という煽り文句が記されている。

「......皆本には知られたくないもんな」

 そう。
 成人向けでも男性向けでも何でもない。
 普通に、ティーンの少女が読む雑誌だった。
 しかし、お年頃の薫としては、自分の嗜好が真っ当な方向に変化していることを、かえって気恥ずかしく感じるのだ。

「ふう......っ」

 ティーン少女向け雑誌のページをめくりながら、薫の頭に浮かんでくるもの。
 それは、エロオヤヂっぽくない妄想。むしろ少女趣味な妄想。
 最近読み始めた少女漫画の主人公に、ついつい自分を重ね合わせてしまうのであった。

   『アンド......いや皆本。
    大好きだったよ、愛してる。
    おそらく、ずっと前から......。
    でも、あまりに普通に、あまりに優しく、
    皆本があたしを見守っていたものだから、
    あたしは、その愛に気づかなかったんだ。
    皆本、許して欲しい。
    裏切ることよりも、
    愛に気づかぬほうがもっと罪深い......』




(薫も そろそろ お年頃・完)

(初出;「ザ・グレート・展開予測ショーPlus」様のコンテンツ「展開予測掲示板」[2009年2月])

 転載時付記;
 水曜日の朝にサンデーを買って読んで、お昼休みに書いて投稿しました。
 やはり、短時間でサッと書いてしまった内容ですね。今になって読み返すと、こういうSSを書いていたことを恥ずかしく思う気持ちもありますが......。

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『おるすばん』

 ジャングルの密林は、昼間でも薄暗い。
 鬱蒼とした葉や枝に遮られ、太陽の光が地表まで届きにくいのだ。
 ましてや、今は夜。昼よりも、闇の深い時間帯。
 それでも少し開けた場所に集えば、星明かりに照らされて、お互いの顔も見える。

「ザコはまかせるわ!
 不二子と薫ちゃんは......」
「わかってる!!
 京介をしとめることに集中!!」

 バベルのエスパーたちの、ちょっとした作戦会議である。
 普通人(ノーマル)の皆本をその場に残し、

「心配いらんて!」
「すぐ片づけるから!!」

 葵・紫穂・賢木グループと、不二子・薫コンビとに別れて。
 それぞれ、瞬間移動で追撃に向かった。


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「......ダメだな。
 気配をつかまれてる」

 一方、パンドラ側も、

「不二子さんと女王(クイーン)は僕が引き受ける。
 残りは任せた」

 兵部少佐の指示で、二つにグループ分け。
 桃太郎を肩に乗せた兵部が、ヤバい相手を迎撃。
 そして、マッスル・葉・パティ・真木・紅葉――ただし真木と紅葉は意識不明でマッスルに担がれている――が、それ以外の相手。
 奇しくも、バベル側と同じ割り振りとなっていた。

「!」

 夜空の一点がキラッと光り、兵部が気付く。

「やべ......!!
 離れろ!! 早く!!」

 慌ててマッスルたちをテレポートさせる兵部。
 こうして、今。
 激闘の幕が上がった。




    おるすばん




 ヒュッ!!

 熱帯雨林の中に、突然、人影が現れる。
 その数、三つ。

「この辺りやで。
 ザコの気配は......」

 ピッと音がしそうな手つきで、眼鏡に手をやる葵。

「だから、葵ちゃん、 
 そんな設定ないってば」

 軽いツッコミを入れる紫穂。
 二人の後ろには、賢木の姿もある。
 だが。

 ゴツン!

 何者かに後頭部を強打され、彼の意識が闇に沈んだ。

「賢木せんせ!?」
「センセイ!?」

 振り向いた二人の目に映ったもの。
 それは、真っ暗な闇の中に浮かぶ、白い女の腕。
 肘から先だけの部分だった。
 ただし、怪談......などではない。

「これは......!」
「あら、あのコね」

 白い腕がスッと消えると同時に。
 持ち主の――その『あのコ』の――声が、別の方角から聞こえてくる。
 
「まずは一人撃沈。
 ......これで二対二よ!」

 そちらに目を向けると、腰に手をあてた少女が立っていた。

「......澪!」
「やっぱり」

 パンドラのエスパー、澪。
 そして、もう一人。まるで人見知りする子供のように、澪の背中に半ば隠れる位置にいるのは......。
 
「えーっと......」
「......あなた誰?」

 髪をサイドでポニーテール状に結わえた少女。
 澪やチルドレンと同じくらいの年頃のようだ。ジャンパースカートの胸当て部分と下のシャツとの間に、両腕を突っ込んでいる。
 だが、葵も紫穂も、彼女に見覚えがなかった。

「......パンドラの一員やな?」
「皆本さんのお見合い騒動にも
 来ていた一人かしら......?」
「そういえば、あの時、
 見たことない連中もおったな」
「名もないパンドラメンバー......ってわけね」

 そんな言葉を交わす二人に対して、澪が少女の説明をする。

「忘れちゃったの!?
 このコはカズラよ。
 テレポートがベースの合成能力で、
 自分の体を触手に変えちゃう。
 触手はサイコメトリーも使えるわ」

 以前に紅葉がしてみせた紹介の口上を覚えていて、それを真似たのだ。
 紅葉が語った相手が葵や紫穂でなく薫だったこととか。
 その後で薫の記憶を消したこととか。
 これから戦うというのにワザワザ能力説明するのはデメリットだとか。
 そうした点にまで、澪の頭は回っていなかった。


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 案の定、葵と紫穂は、早速カズラの能力に関してコソコソ会話している。

「テレポートベースの合成能力?
 自分の体を変えちゃう......?」
「あら、まるっきりパティじゃないの」
「それに......触手やて」
「......真木のおじさん?」

 二人の言葉は、あまり離れていない澪とカズラの耳にも届いていた。
 それを承知で、紫穂はカズラの方に振り返り、さらに言葉を足す。

「ようするに......
 能力が被ってるから
 レギュラー落ちしたのね?」


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「どうせ私は......
 レギュラー集合の扉絵にも
 入ってなかったわよーっ!」

 泣きながら走り去っていくカズラ。
 残された澪は、少しの間、茫然としてしまう。
 だが、すぐにハッと振り向くのだった。

「......精神攻撃ね!?
 さすがサイコメトラー!」

 紫穂の恐ろしさを、今さらながらに思い出す。

「忘れちゃいないわ。
 私を騙して、金塊を買い叩いたこと!!」 

 以前、アイスを買う際、現金じゃなくて金塊を使おうとした澪。
 店員は受け付けてくれなかったが、たまたま通りかかった紫穂たちが換金してくれたのだ。

「......あ」
「あれは......まあ、
 社会勉強みたいなものね」

 どうやら、これは葵と紫穂も覚えていたらしい。
 当時のレートは、キロあたり 260万円くらいだったが、彼女たちが提案したのは正規のレートではなかった。

「『1キロ千円にしてあげる』
 とか言って......」

 澪が持っていたのは、5kg の金塊。
 それに対して、紫穂が差し出したのは......。

「......五千円じゃなくて
 四千円しかくれなかったじゃないの!」

 おさつの枚数が少なかったことに、今さらながらに憤る澪。
 換金レート自体がボッタクリだったことには、まだ気付いていなかった。


___________


 そして。
 こうした怒りも上乗せして。
 澪が、二人に突撃する!

「マッスルたちが逃げる間、
 時間稼ぎのつもりだったけど......」

 もともと澪たちは、仲間の脱出を援護する意味で、ここへ来たのだった。
 だが、チルドレン三人を一人で相手した経験もある澪だ。
 今は一番厄介な薫が不在で、葵と紫穂だけなのだから......!

「......私一人で
 二人まとめて倒してあげる!」

 かつての戦いでは、なまじ三つに分身したせいで、暴走してしまった。
 だが、同じドジは二度と踏まない。
 今回は、分身などしない!

「うわっ!?」
「きゃっ!!」

 得意の部分テレポートで、体の一部だけを二人の死角へ。
 そこから二人を攻撃する。

「どうかしら?
 ......私のオールレンジ攻撃は!」

 澪が、葵と紫穂を翻弄する。
 うっかり足をテレポートさせて転んでしまうこともあったが、それも、ご愛嬌。
 最後に笑うのは......。


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「......フン。
 私が本気を出せば、ザッとこんなもんよ!」

 腕を組み、不敵な笑みを浮かべる澪。
 折り重なるように倒れた二人の背中に足を乗せて、葵と紫穂をギュッと踏みつけていた。
 
「次は......あんたの番だわ。
 首を洗って待ってなさい!」

 夜空を仰ぎ見ながら、そう口にする。
 もちろん、その言葉は、どこかで戦っているであろう強敵(とも)に向けられたものだった。


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「起きなさい。
 ......起きなさいってば!」

 一人の少女が、同室の少女を揺り動かす。
 だが、寝ている彼女が目を覚ます気配はない。
 幸せな夢を見ているようで、ニヤリとだらけた表情をして、口の端には小さく寝ヨダレも垂らしていた。
 そんな澪に、つぶらな瞳を向けるカズラ。彼女の顔には少し困ったような色が浮かんでいる。

「『待機』の意味、わかってるのかな?」

 ここは、パンドラのアジトの一つ。
 同じくらいの年齢の少女たちの住処となっており、いわばパンドラ女子の寄宿舎のような感じだ。
 現在は、多くのメンバーが行方不明の仲間探しに駆り出されており、建物は閑散としている。残っているのは、澪やカズラのように、遠距離探索には向かない能力者ばかりだった。

「......仕方ないわね」

 澪を起こすのを諦めたカズラは、ベッドから離れて、壁際へ。
 大きな丸い鏡があるのは、やはり女のコの部屋だからなのだろう。


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 鏡に映るカズラの姿は、いつもの恰好だ。
 一見、ラフな子供っぽい服装。ショートのオーバーオールだが、それを可愛らしく着こなすのは、カズラのファッションセンスなのだ。
 また、髪だって片側サイドで無造作に束ねているように見えるが、これはこれでオシャレなのである。結わえる前には、いつも丁寧に櫛で梳いていた。

「もう少し待ちますか......」

 朝の身支度は、既に終わっているが。
 まだ部屋から出ないというのであれば、もう一度。
 そう思って、ヘアゴムを外すカズラ。
 意外に長い髪が、パサッと広がる。
 ちょうど、その時。


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「......ん?」

 澪が、ゆっくりと瞼を開く。
 その目に映ったのは、見慣れぬ長髪美少女。
 夢から覚めたはずの澪は、夢の中の葵や紫穂と同じ言葉を、口にするのであった。 

「えーっと......あなた誰?」




(おるすばん・完)

(初出;「ザ・グレート・展開予測ショーPlus」様のコンテンツ「展開予測掲示板」[2009年2月])

 転載時付記;
 火曜日の夜に書いて投稿したので、一応、翌週の内容を知らない時点でのSSです。
 GS美神も絶チルも同じ椎名作品ですが、私にとっては、その魅力は全く別物。GS美神でも好きなキャラはいますが、それが一番の魅力ではなく、物語やギャグに『深さ』を感じるからこそ、私はファンになりました。一方、絶チルではそれは感じられず、やむを得ず(?)『キャラ萌え』で読んでいる気がします。
 そんな私ですので、絶チルSSを書く上で、一度は、こうした『好きなキャラをメインにしたSS』を書いたわけでした。......あんまり『メイン』になっていませんが(笑)。

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『戦いのあと』

「どうしよう、あたし――
 京介を殺しちゃった......!!」

 パンドラとバベルのエスパーたちの乱戦の中。
 動かぬ兵部を運んだ薫がやってきた。

「あたしの攻撃を...... 
 ワザとよけなかったの......!!
 それで――」

 薫が手短かに状況を説明する。
 横たわる兵部へと駆け寄った葉。彼は、今の今まで殺し合いをしていた相手に助けを求める。

「息をしてない......!!
 先生っ!! 先生ーっ!!」

 他のところで戦っていた者も、異変を察知して一時休戦。気絶しているマッスルを除いて、その場の全員が、兵部の周りに集まってきた。

「......大丈夫だ。
 意識はねえけど心臓は動いている」

 賢木が、医師として太鼓判を押す。
 手当てするよう頼まれて、

「今できることと言えば――
 人工呼吸だけだろ。ヤだね」

 と拒否したことから、一騒動。
 すったもんだの挙げ句、駆けつけた皆本が行うことになったが......。

 パチ。

「え?」

 王子様のキスでお姫様が目を覚ますのは、童話の中の話。
 現実には、皆本に触れられただけで、兵部は意識を取り戻した。
 そしてバベル一同に電撃をかまして、

「不二子さんは
 すぐに戻って来る!
 同じ手はもう使えない!
 さっさとズラかるぞ!」

 パンドラメンバーを引き連れて、撤退していくのであった。


___________
___________


「......という状況だったそうですね。
 葉から聞きましたよ、少佐」
「パティの話とは少し違うけど......。
 おそらく葉の報告の方が正しいんでしょう?」

 パンドラのアジトに戻り、一人、部屋で休む兵部。
 彼のもとへ足を運んだのは、真木と紅葉である。
 あの場にいながらも、早々と戦線から脱落した二人。そこに自責の念を抱かぬわけはないが、だからこそ、自分たちが意識を失っていた間の出来事が気がかりなのだ。

「女王(クイーン)の攻撃をワザと受けるなんて......。
 無茶は止めて下さいよ、少佐」

 やわらかな口調で、紅葉が苦言を呈した。
 真木も同じ思いだが、あえて口を開かない。彼の視線は、ソファに座る兵部自身にではなく、ベッドの近くのサイドテーブルに向けられていた。
 その上にあるのは、水差しと、空になったコップ。だが、それだけではない。

(やはり......)

 カプセルや錠剤など、複数の薬が無造作に置かれていた。綺麗に片づけられた部屋だからこそ、その乱雑さも目立つ。
 そうした状況を一瞥してから、真木は、表情も変えずに兵部の方へと目を動かした。

「いや『ワザと』じゃないよ。
 本当に、よけられなかったんだ」
「......そんなバカな。
 いくら連戦だったとはいえ、
 少佐が本気を出せば
 回避不能ということはないでしょ?」

 軽い態度で手を振ってみせた兵部に対し、紅葉が、さらに言葉を返している。
 兵部が一人で不二子と薫の両方を相手どったことは、紅葉も真木も、既に他のメンバーから聞いていた。
 紅葉は、その点に触れたのだが、

「連戦......?
 いや、不二子さんには苦労しなかったさ。
 とっておきの手札を切ってみせたからね。
 だけど......」

 フッと横を向く兵部。
 彼は、遠くを眺めるかのような目付きで、あの一瞬の攻防を回想する......。


___________
___________


 バッ!! ゴォオオッ!!

 薫が一直線に夜空を飛ぶ。
 瞬間移動で戦場から離脱した兵部だったが、それでも、すぐに追い付かれそうな勢いだ。

「やれやれ......。
 逃してくれないのなら――
 ちょっと痛い目にあってもらうしかないね」

 と、振り返る兵部。
 そんな彼の目に映ったのは、泣きそうな表情の薫。
 いや。

「京介の......バカ!!
 戻ってきてくれて、嬉しかったのに......!!」

 既に彼女の瞳からは、大粒の涙が溢れていた。

「......ずるいよ、女王(クイーン)

 迎え撃とうとした手から、力が抜けて。
 ダラリと曲がった指先は、まるで手招きするかのような形となり。
 そのまま、相手の攻撃に手を添えるかのような形となり。
 彼は......。
 致命的な一撃を、胸に受けたのだった。


___________
___________


(あれでは......ね)

 あらためて思い返してみても、やはり、仕方がない状況だった。
 兵部は、紅葉と真木の前で、頭を軽く横に振ってみせる。
 そして、ボソッとつぶやいた。

「女の子の涙には、かなわないからね」

 薫が来る直前には、爬虫類ヒュプノ攻撃で不二子を大泣きさせているのに。
 不二子は『女の子』としてカウントしていない、兵部であった。




(戦いのあと・完)

(初出;「ザ・グレート・展開予測ショーPlus」様のコンテンツ「展開予測掲示板」[2009年2月])

 転載時付記;
 水曜日にではなく、二日ほど悩んだ後、金曜日に書いて投稿したSSです。
 さて。
 作品の善し悪しをコメントされるのではなく、おつきあいで御挨拶のレスをいただいてしまうのは、なんだか心苦しいです。原作が好きだから二次創作を書くのではなく、おつきあいでSSを書いてしまうのは、もっと心苦しいです。いや、そもそも「現在の『GS美神』ファンの方々とチャットなどで交流すると、最新作である『絶チル』も読まないといけない気がする」という理由で原作を読んでしまうのは、とってもとっても、心苦しいです。
 そんな状態でSSを書き続けることが、本当に許されるのでしょうか......?
 そんなわけで、絶チルSSを書くのも、チャットなどでの交流を前提とする(ように感じられる)サイトへの投稿も、これで最後としました。これは、そんなSSです。

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