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『絶対可憐チルドレン』の二次創作短編

(2009年1月 投稿分)

『バベルに帰ろう』
2009年6号サンデー掲載エピソードを元ネタとして
『エスパー・リターンズ』
2009年8号サンデー掲載エピソードを元ネタとして
『リターンズ・トゥ・ザ・ベース』
2009年9号サンデー掲載エピソードを元ネタとして
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『バベルに帰ろう』

 机の上には、書類の山。
 それを半分くらい片づけたところで、皆本は、溜め息をつく。

「ふうーっ」

 お見合い騒動に端を発した、バベルとパンドラの争い。
 だが、あれは仕事だったわけではなく、皆本は、休暇をもらって帰省中だったのだ。
 だから、職場に戻れば、当然のように仕事が溜まっているのだった。
 そんな彼に、

「夜遅くまで、ご苦労様です」

 柏木朧が声をかける。
 彼女がまだ帰っていなかったとは知らなかったし、部屋に入ってきたのも気が付かなかった。
 それだけ皆本は、仕事に集中していたのだろう。

「あ......。
 ありがとうございます」

 軽く頭を下げる皆本。
 朧の両手のティーカップが、目にとまったのだ。二杯ということは、一つは皆本の分のはず。

「どうぞ」

 と、勧められるがままに、口を付ける。
 一口飲んだ途端、

「......うまい」

 皆本の唇から、思わずストレートな感想がこぼれた。
 純粋な感嘆の口調と表情だ。
 気持ちが和らいだ皆本は、軽い冗談を続ける。
 
「さすが『柏木マジック』ですね」
 
 誰が呼んだか、柏木マジック。
 朧がいれる紅茶が、反バベル派の役人をも黙らせることから、そうした通称が生まれたのだった。

「あら、やだ。
 皆本さんまで、そんなことを。
 私は、ただ......」
「『真心をこめただけ』......ですか」
「うふふ。
 まあ、そんなところですわ」
 
 微笑みで誤摩化す朧。
 彼女が役人に向ける感情と、皆本に向ける感情。それらが同じはずはない。
 だから今回は『真心』ではなく、もう少し別の気持ちが入っているのだが......。
 そこに考えが及ぶ皆本ではなかった。




    バベルに帰ろう




「皆本さん、大変でしたね」

 ちょうど仕事もキリがいいところだったので、しばしのティータイムとなった。
 話題は、いつしか、先日のお見合い騒動に。
 そこで他人事のような感想を述べた朧を見て、皆本は苦笑する。

「柏木一尉だって参加してたじゃないですか」
「あら。
 それにしても......
 皆本さんも罪なオトコですわね」
「え?」
「お見合い相手の話ですわ」

 アッサリ受け流して、話題を変える朧。

「むこうは、皆本さんが初恋だったんでしょう?
 でも......お話を聞くかぎり、
 皆本さん、その気持ちに
 気づいてなかったみたいじゃありませんか」

 全く、そのとおりである。
 菜々子からも『皆本クン、ちっとも気づいてくれないんだもん。もう女の子にあんな思いさせちゃダメよ』と言われたくらいだった。

「いや......まあ、
 子供の頃の話ですから」

 と、言いわけする皆本。
 一般に女性の方が男性よりも精神年齢が高いとも言われているのだ。小学生くらいならば、その差は顕著に現れるのだろう。
 
「ふふ......。
 でも、鈍感なのもヒーローの条件ですからね」

 そう言って、皆本に微笑みかける朧。
 子供だったからではない。今だって皆本は、女性心理に長けたタイプではないのだ。
 以前、『皆本さんはツンデレ好き』と吹き込まれた朧は、皆本の部屋で食事まで作って待っておきながらツーンとした態度を示したことがある。
 だが皆本は、それを本気に受け取ってしまい、丸くなってガタガタ震えて『すいません。生まれてすいません』と繰り返すほどだった。
 そんな一幕も思い出しながら、

「......皆本さん、こんな話を知っていますか?」

 朧は、どこぞの大佐のようなセリフを口にする。
 それは、彼女が若い頃に流行った漫画の内容だった。

「主人公は鈍感な男のコで......。
 ヒロインがアパートの部屋に行って、
 掃除をしてあげたり御飯作ってあげたりしても、
 彼女の気持ちは、全く気づいてもらえないんです」

 そのヒロインだけではない。
 もう一人、ツンデレなヒロインも用意されていたが、そちらの気持ちにも、主人公は気が付かない。
 いや、他の女性キャラクターだって――中には恋心かどうか定かではない者もいるが――、ほとんどが主人公を大好きなのに......。

「それでも主人公は、
 自分のことを『モテない』と思い込んでるんです」
「ハハハ......。
 そこまで極端だと、まさに漫画ですね」

 笑って返す皆本。
 なぜ朧がそんな話を持ち出したのか、理由も分からなかったが、特に追求しようという気持ちにもならなかった。
 そこで、今度は彼の方から話題を変える。

「あ、ところで、見合いと言えば......」

 お見合いオバサンの槍手が、朧に照準を合わせたらしいのだ。
 あの場では『柏木さん、最近悪ノリが過ぎるからな。この際、放っておこう』と言ったものの、こうして朧と談笑していると、少し気が咎めてくる。
 だから皆本は、その件を警告するのだった。

「あら。
 大丈夫ですわ。
 私......
 お見合いする気なんてありませんから」
「でも、断るのも難しそうですよ?」

 しかし、よくよく考えてみれば、心配する必要もないかもしれない。朧ならば、その辺、上手く立ち回ることだろう。
 実際、今、朧の顔には余裕の笑みが浮かんでいる。

「ふふふ。
 まだ結婚する気なんてありませんわ」

 そう言って、なぜか朧は。
 空になったカップを、机に預けて。
 自らの両手を、皆本の左手の上に重ねていた。

「柏木一尉......?」

 不思議に思う皆本。
 よく見ると、朧の瞳に浮かぶ色が、いつもと違うような気がする。
 彼の視界の中で、朧の唇が動く。

「皆本さん、私......」

 言葉が紡ぎ出される唇。
 しかし、皆本は、それを遮ってしまった。

「また......ですか。
 ......今度は何でしょうか?
 あの、見てのとおり、
 今は仕事が溜まっているので......」
「え?」


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 皆本は、まだハッキリ覚えていた。
 かつて、チルドレンの指揮官になる際。
 渋る皆本に対して、朧が何をしたのか。

   「あなたには寄り道かもしれないけど......
    あのコたちには今、
    あなたのような人の手が必要なんです」

 そう言いながら、彼の手に、手を重ねてきたのだ。
 左手の人差し指に、左手の小指を沿わせて。
 親指と人差し指との間に、薬指を流しこんで。
 親指を、中指と薬指とで挟み込んで。
 同時に。
 肘を右手でつかんで、豊かな両胸の間に押し付けて。

   「一人はさびしくなかった?」
   「そ、それは......
    まあ......はい」

 その瞬間。

    バンッ!!

 桐壺局長が現れたのだった。

   「よし言った!!
    『はい』つった!!
    言質とったぞー!!
    柏木クン、ご苦労ー!!」
   「んな!?」

 今となっては、現状を悔やむ気持ちなどない。
 それでも、朧の色仕掛けがなかったら皆本指揮官が誕生しなかったことは、事実である......。


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___________


「......他のことにまで
 手が回る状態じゃないんです。
 だから、柏木一尉、
 急用でないならば、
 後にしてもらえますか?」

 どうやら朧は、また何か頼みたいらしい。
 皆本は、そう思ったのだった。
 お茶もごちそうになり、気分もリラックスさせてもらい、彼としては、断り辛い心境だ。そんな中での、精一杯の返答だった。


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 一瞬の沈黙の後。

「あら......そうですわね」

 朧は、そう言うしかなかった。
 今の仕草をどう解釈されたのか、理解したからだ。

「それじゃ、これ以上
 お仕事の邪魔しちゃいけないので、
 そろそろ私、おいとましますわ」

 立ち上がる朧。
 お茶の時間は――魔法のような時間は――、もう終わったのだ。
 だから、
 
「では今の話の続きは、また後ほど。
 ......もっともっと、ずっと後で」

 口に出せるのは、ここまでだ。
 そこから先は、心の中に留めてしまう。

(そう、もっともっと、ずっと後で。
 皆本さんが、乙女心を理解した後で......)

 そして朧は、いつもの笑顔で立ち去るのだった。




(バベルに帰ろう・完)

(初出;「ザ・グレート・展開予測ショーPlus」様のコンテンツ「展開予測掲示板」[2009年1月])

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『エスパー・リターンズ』

「ちょっと困ったことが起きた。
 手を貸してくれないか?」

 薫と葵のもとに、突然やってきた兵部京介。
 いや、兵部だけではない。エスパーモモンガの桃太郎も一緒である。
 
『2人トモ早ク来テ!!』

 パンドラの潜伏先を皆本・賢木・紫穂の三人が襲撃(注;パンドラ視点)。その際の戦闘でテレポート能力が暴走、全員まとめて行方不明となったのだ。

「全力で捜してはいるが、生死はおろか
 地球上にいるのかどうかすら判らない」

 一刻を争う非常事態ということで、兵部は、クイーンとゴッデスに協力を要請しに来たのだった。

「『地球上にいるのかどうかすら』って......。
 それって宇宙ってことか!?」
「そんなアホな!?
 宇宙じゃ息できへん!
 紫穂も皆本はんも死んでまうで!」

 取り乱す薫と葵。
 二人を落ち着かせるために、兵部は首を横に振ってみせた。
 
「いや......とにかく判らんのだ。
 こいつの話も要領を得ないしな......」
『オ前ガ馬鹿ナンダロ!
 モウ一度説明シテヤルカラ
 今度コソ理解シロヨ!』

 桃太郎が語る。
 パティが空間コントロールしている最中に、紫穂のスタンガン。これで暴走したエネルギーに巻き込まれて、皆、どこかに飛ばされてしまったのだ。
 桃太郎自身は、何とか避けたつもりだったのだが......。

『飛バサレタ衝撃デ
 意識ヲ失ッタヨウデ、
 気ガ付イタラ公園ニイタヨ』

 回避行動のおかげだろうか、幸い、遠くではなかった。急いで戻ったのだが、マンションが見えてきたところで、暴走の瞬間を目の当たりにすることとなったのだ。

『......ふろあ全体カラ衝撃波ガ
 外マデ漏レテクルホドダッタ。
 僕ガ逃ゲキレナカッタノモ無理ハナイ』

 納得顔で話を締めくくる桃太郎。
 しかし、聞き手は困惑気味だ。

「桃太郎、おかしいぞ、それって。
 どっかへ飛ばされて気絶して、
 それから現場へ戻ったんだろ?
 なんで『暴走の瞬間』に間に合うんだ!?」

 薫は、視線を兵部へと動かす。彼は、首を縦に振って同意を示していた。

「そうだ、矛盾している。
 唯一の証人が役立たずでは、とても......」
『ナンダト!』

 兵部はお手上げのポーズまで見せる。それに桃太郎が食ってかかるよりも早く。
 葵が、静かにつぶやいた。

「なあ、もしかして......。
 桃太郎は、
 過去へ飛ばされたんとちゃう?」




    エスパー・リターンズ




 都市に建ち並ぶ高層ビル。
 その屋上の一つに、今、女性が立っていた。
 小学生でも中学生でもない。成長した彼女は、もはや『チルドレン』ではなくなっていたのだ。
 その背中に、かつての指揮官が声をかける。

「動くなッ、
 破壊の女王(クイーン・オブ・カタストロフィー)!!
 いや......薫ッ!!」

 ゆっくりと振り向く薫。
 その顔に浮かんでいるのは、悲しげな微笑み。『破壊の女王』の二つ名には似つかわしくない表情だった。

「熱線銃(ブラスター)
 この距離なら......確実に殺れるね。
 撃てよ、皆本!」

 これが、二人の最後の会話だろう。
 まるで邪魔するかのように、葵から連絡が入るが、それも短く切れてしまった。
 もう、本当に最期だ。薫は、ギュンと力を集めた手を、皆本へ向ける。

「知ってる?
 皆本......あたしさ――」
「やめろ......!!
 薫――!!」
 
 それ以上、彼女は口に出せなかった。
 ただ、心の中だけで。

(大好きだったよ。
 愛してる)

 同時に。

 ドン!!

 衝撃で、彼女の体が宙を舞う。
 そして。

「......イタタ。
 今度は、いったい
 何が私たちの邪魔を......」

 起き上がる薫。
 ふと見ると、皆本も倒れて目を回していた。
 二人のちょうど中間には、小さなクレーターが出来ている。

「あ。......これか」

 タイミングよく降ってきて、落下の衝撃で二人を弾き飛ばしたもの。
 それは......。

「こんな未来へ飛ばされてたんだね。
 ......あの時の皆本は」

 マッスル大鎌の超能力で硬質化された皆本だった。
 薫は、それに歩み寄る。

「そっか。
 ちゃんと返してあげないといけないな。
 ......そうしないと歴史が変わっちゃうもんね」

 昔を懐かしんで、薫の表情がフッと変わる。
 忘れもしない、薫が中学生の頃の事件だ。

「私が変わり始めた頃......か」

 薫が、まだ『チルドレン』だった時代。
 同時に、薫の皆本への想いが、少しずつ変わっていく時代でもあった。
 
「まあ、ともかく......」

 何かを否定するかのように、薫は、ゆっくりと頭を振る。

「......私ひとりじゃ無理だな。
 葵と紫穂にも手伝ってもらわないとね。
 二人とも無事だといいけど......」

 彫像状態の皆本を念動力で抱えて、薫は飛び去っていく。
 この時代の皆本――まだ気絶している彼――を、その場に残して。


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___________


「なあ、もしかして......。
 桃太郎は、
 過去へ飛ばされたんとちゃう?」

 葵の言葉が、その場に静寂をもたらす。
 それを打ち破ったのは、兵部の笑い声だった。

「ハッハッハ。
 そういうことか......!」

 気付いてみれば、簡単なこと。
 しかし、薫や桃太郎は、二人の発想についていけない。

「どういうことだ?」
『僕モ判ラナイヨ。
 仲間ダナ、カオル!』

 モモンガから同類扱いされた薫に対し、葵が優しく説明する。

「つまりな。
 桃太郎は場所だけやのうて
 時間も移動したってことや」

 少し離れたところへテレポートした桃太郎。
 それは、時間的にも『少し離れたところ』だったのだ。テレポート能力が暴走するよりも、少し前の時点だったのだ。

「......時間テレポートか。
 パティだけじゃなく、
 あの場の他のエスパーの力も
 混ざったのだろうが......。
 偶然の産物だとしても、面白いな」

 納得する兵部。
 過去か未来へ行ってしまったというのであれば、いくら捜しても見つからないのは当たり前だ。

「そうと判れば、話は早い。
 どの時代へ飛ばされたかを調べて、
 あとはテレポートさせるだけだ」
「......ちょい待ち!」

 こともなげに言う兵部に、葵が待ったをかける。

「なんかムチャクチャやで!?
 だいたい、いくらウチでも
 時間を超えたテレポートなんて......」

 レベル7のテレポーターである葵は、空間を把握する感覚も鋭い。グリシャム大佐のお墨付きだ。
 だが、その『空間』とは、あくまでも三次元空間である。

「ハッハッハ。
 三次元も四次元も、
 一つしか違わないだろう?
 ほら、二次元と三次元だって
 似たようなものだから」
『イヤ違ウダロ』

 それはパティとマッスルくらい違う。二人の論争を見ているだけに、桃太郎は、実感タップリのツッコミを入れた。
 と、その時。

 ギュン......ッ!!

 室内の空間が歪む。
 そして、その中央に出現した物体は......。

「皆本!」
「皆本はん!」

 未来から送り返された皆本だった。
 ただし、まだ硬質化したままだ。だから、時空を超えた大移動をしたにも関わらず、彼自身の時は止まっている。
 安堵の表情で少女たちが駆け寄る中、

『......ナンダ、コレ?』

 最初に見つけたのは桃太郎だった。皆本の体には、まるで荷札のように、一通の手紙が括りつけられていたのだ。

「差出人の名前は、ないな。
 ......だが」

 勝手に開封した兵部は、ニヤリと笑う。
 そこには、賢木・紫穂・パティ・マッスル・葉の名前と共に、彼らが飛ばされた場所と時代が記されていた。
 しかも、ご丁寧に『はじめての時空テレポート』というタイトルでアドバイスらしき文章まで付加されている。

「......これで、ゴッデスは
 新たな力を身につけることになるな」


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 パチッ。

 皆本が、目を開く。

「ん? ここは......」

 意識を取り戻した彼は、まず、現状を認識する。
 彼が覚えているのは、マッスルに硬質化されたところまで。
 だが、今いる場所は、自分の部屋のベッドの上。
 布団をはねのけてガバッと起き上がるが、

「......おっ!」
「王子様のお目覚めね」
「皆本はん......!」

 葵が抱きついてきたことで、皆本は、再び押し倒されてしまう。
 それを複雑な表情で見守る薫。
 さらに少し離れたところから、紫穂が三人を眺めていた。

「......いいのかい?」
「ええ。
 今回は、葵ちゃんが大活躍だったから。
 ......ちょっとした御褒美ね」

 背後からの言葉に、振り向きもせず応じる紫穂。
 この部屋にいるのは五人だけ。つまり、声をかけてきたのは賢木だ。

「そうか。
 さすがに反省して、それで
 おとなしくしてるのかと思ったぜ」

 バベルもパンドラも、あの場に居た者は、全員バラバラの時代へ飛ばされてしまったのだ。
 それは、全ては、紫穂の無茶な一手から生じた出来事。
 なんとか全員サルベージされたのは、兵部の手助けのもと、葵が四次元テレポートという大技を成功させたからだ。
 しかも、トラブル解決と同時に休戦状態も終了ということで、パンドラメンバーは逃げ去っている。立ち去る前に皆本の硬質化を解いてくれたことには感謝するが、彼らに逃げられた以上、賢木や紫穂の任務は失敗ということになるだろう。

「......なに言ってんの。
 これも歴史の必然だったのよ」
「は?
 お前こそ、なに言ってんだ!?」

 紫穂の言葉の意味を、本当に理解できない賢木。
 それを察して、紫穂が、ゆっくりと振り向く。


___________


 あの時。

   「空間コントロールの最中に、
    電撃なんかくらったら暴走して......」
   「心配しないで。
    それが目当てよ」

 そう言ってニッコリ笑った紫穂。だが、彼女自身、何故そんな言葉が口から出たのか、実はわかっていなかった。
 しかし、今。
 あの『暴走』の歴史的意味を、彼女は本能的に悟っていた。
 別々の時代に飛ばされたパンドラメンバーは、それぞれの時代で、歴史に貢献していたのだ。
 マッスルはゲイ文化の発展に、パティは同人文化の発展に、葉はコスプレ文化の発展に......。

(......で、紫穂ちゃんは
 どの時代へ行って何をしてきたんだい?)

 賢木の腰にあてた紫穂の手を通して、彼の言葉が彼女に流れ込む。

(私のことは、どうでもいいわ。
 それより......一番重要なのはセンセイよ)
(えっ、俺?)
(そう。
 センセイの行った先って、原始時代でしょ)

 サイコメトラーどうしの、思考と思考とによる会話。 
 それは、他の者には聞かれる心配のない、そして、大きな嘘も含まれない会話。

(ああ、そうだが......)

 言葉が通じず、文明以前の人々の群れ。
 そんな中でも、賢木は、意思の疎通には困らなかった。
 サイコメトラーだというだけでなく、ボディランゲージとスキンシップを駆使して......。

(......原始時代でも
 『来るもの拒まず』だったのね)
(大人なんだからいいんだよ!)
(そうね。
 おかげで私たちエスパーが生まれたんだし)
(......え)

 なぜ人間には、超能力があるのか。
 人類の進化の過程で、いつ、超能力が獲得されたのか。
 答は、今、紫穂の目の前にあった。
 それは、エスパーが当たり前に存在する時代から、エスパーなど存在しない時代へ行き、そこでノーマルと交わったエスパー。言わば、未来の遺伝子を過去へと持ち込んだエスパー。

(おい。
 それって、もしかして......)
(そ。
 ......これからもよろしくね、
 私たちみんなの御先祖様!)

 それ以上を言うのはヤボだろう。
 だから。
 ニッコリと笑いながら、紫穂は、賢木から手を離した。




(エスパー・リターンズ・完)

(初出;「ザ・グレート・展開予測ショーPlus」様のコンテンツ「展開予測掲示板」[2009年1月])

 転載時付記;
 水曜日に発売されたサンデーを水曜日のうちに読んで、水曜日のうちに書き始めたSSです(投稿した時点で暦の上では木曜日になってしまいましたが、自分としては『まだ水曜日の夜』のつもりでした)。
 その時点では、まだ飛ばされた先が不明であり、だからこそ書けたSSでした。

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『リターンズ・トゥ・ザ・ベース』

「......女帝(エンプレス)!?
 紫穂ちゃんがか?」
「そ。
 だから『チルドレンには手出しすんな』ってさ」

 洞窟の中、トランプで時間をつぶす賢木修二と藤浦葉。
 その傍らで、皆本とマッスル大鎌は、彫像と化して並んでいた。
 また、紫穂とパティ・クルーは、肩を寄せ合った状態で岩壁にもたれて眠っている。
 ......と思われたのだが。

(まさに呉越同舟ね)

 実は、紫穂は既に意識を取り戻していた。
 先ほど賢木と葉が死闘を繰り広げていた――むしろ銃を向けた賢木の方が葉の態度に翻弄されていた――時も、二人に気付かれない程度にうっすら目を開けてシッカリ見ていたのだ。
 だから、賢木が葉にしてみせた状況説明も耳にしている。今この場で超能力が使えないことも、ちゃんと理解していた。

(......だけど大丈夫)

 サイコメトラーである紫穂は、力任せのタイプではない。銃やスタンガンといった武器を好むイメージとは異なり、サイコメトリーによって得た情報を活かす頭脳派だった。
 父は警察のお偉いさんだし、紫穂自身、小さい頃から、超能力で警察の捜査に協力してきた。そのために危険な目にも遭ったが......。

(そうだわ!)

 リミッター兼通信機で仲間に連絡して、助かったこともあるのだ。
 それを思い出す紫穂。

(今回も......)

 電子機器は全部ダメだと賢木は言っていたが、チルドレンのリミッターは伊達じゃない。改良に改良を重ねた特別製なのだ。

(......お願い!)

 紫穂は、祈りながら、スイッチを入れた。




    リターンズ・トゥ・ザ・ベース




「感じる......!!
 これは......!!」
「3人の居場所か!?
 わかったんやな、薫!!」
「ブブー!!
 ハズレでーす」

 センサーが違う方に向いてしまった薫。
 彼女がキャッチしたのは、でっかい乳の気配、つまり蕾見不二子だった。
 兵部に一言挨拶した後、不二子は、薫と葵の元へ。
 
「クイーンのこれは、
 治さないとダメだな......」

 兵部の小さなつぶやきは、両隣の真木司郎と加納紅葉だけに聞こえていた。二人も溜め息をもらしている。

「少佐といいクイーンといい......」
「私たち、つくづく
 リーダーに苦労させられる運命みたいね」

 だが、実は兵部は、あまり心配していなかった。

(大丈夫。
 クイーンのオヤジ属性なんて
 ......もうすぐ消えるさ)

 薫が最期の瞬間に、男性に対して『愛してる』と言う未来。
 兵部は、それを知っているからだ。

(相手が僕じゃないのは悔しいが......)

 皆本と関わることで薫が女性らしい感情を持つ。これは、薫のクイーンとしての覚醒に、またひとつ、皆本が貢献するということでもあった。
 兵部の顔に複雑な微笑みが浮かぶが、それも一瞬。

「あんたたちを生かしとくのは、
 うちの仲間を助けるまでよ」

 不二子が振り返ったので、兵部は、少しおちゃらけたような態度を見せる。

「年とって丸くなったね?
 君も一緒なら心強いよ」
「なれなれしくすんな!!」

 不二子の肩へ、兵部が親しげに腕をのせたが、彼女はそれに食ってかかる。
 一触即発の敵同士であると同時に、二人は、子供の頃からの友人でもあるのだ。
 親友のような悪友のような、そんな言い合いをする二人。しかし、それも長くは続かなかった。

 ビーッ!

 薫と葵のリミッターに、紫穂からの信号が届いたのだ。


___________
___________


「ここが限界のようだな」
「......そうね」

 断崖の洞窟を眼下に収め、夜空に浮かぶ兵部と不二子。
 もちろん、二人だけではない。薫・葵・真木・紅葉・桃太郎も一緒である。
 彼らは、紫穂からの通信を頼りに、テレポートを繰り返してやって来たのだ。
 だが、ここまでだった。

「ばーちゃん、どーゆーこと?」

 後ろから尋ねる薫に対して、不二子が説明する。

「バリヤーが張ってあるわ。
 サイコキネシスでもテレポートでも、
 これ以上は近付けない......」

 ECM(超能力対抗装置)の強化版なのだろう。
 超能力を一切受けつけない領域が作られており、問題の洞窟も、その中にあるのだ。
 
(見つからなかったのも、
 これでは無理ないな)

 そもそも超能力が通らないのでは、遠隔透視や精神感応系のエスパーが探索しても、無理だったのだ。
 そう納得する兵部の隣では、不二子が、まだ解説を続けていた。

「......バベルのよりも
 強力なんじゃないかしら。
 こんな装置を用意できるなんて、
 かなり大がかりな組織だわ。
 でも......ちょっとボケてるわね」

 ECMだけだから、不二子たちは、この場所を突き止めることが出来たのだった。もしも通信妨害も行われていたら、紫穂からの信号をキャッチすることも不可能で、今頃、途方に暮れていたかもしれない。

「ばーちゃん、それって、
 本編のネタばらしを四コマで
 やっちゃうくらいのボケ?」
「それはボケとちゃうやろ、薫。
 だいたい、あんた、いつから
 そんなメタな発言するようになったんや?」

 薫と葵が茶々を入れる。
 そんな二人を微笑ましく眺めながら、兵部は、さらに考えていた。
 
(なるほど。
 パティの能力が暴走した結果だから......)

 合成能力者のパワーは、元来、不安定だ。
 暴走でタガが外れて、限界を超えた力が発揮されたのだろう。
 それで、兵部や不二子でも歯が立たないほどのECMを破ってしまったのだ。
 いや、それだけではない。

(......パティだからこそ、ここへ来たわけか)

 元々パティは、どこの陣営だったのか。
 長き時を過ごしたのは、どこだったのか。
 それに思い至れば、この地がバリヤーで隠されていた理由も明白である。

(黒い幽霊(ブラック・ファントム)の基地の一つ。
 訓練のための施設......いや、
 やつらならば調教とでも言うべきか。
 あるいは......)

 ハッとする兵部。

「......本拠地か!?」

 と、口にした瞬間。

「正解でーす」

 耳元で囁かれる言葉。
 しかし、振り返る暇はなかった。
 視界がブラックアウトし、兵部は、地面に落下していく......。


___________


「少佐!」
「ばーちゃん!」

 兵部だけではない。
 不二子の背後にも、突然、敵が出現。
 同じく、強力な一撃を受けてしまったのだ。兵部に続いて、彼女も落ちていく。

『コノ2人ハ僕ニ任セロ!』

 墜落する兵部の制服の隙間から、桃太郎が叫ぶ。
 一方、残された四人は、現れた強敵に視線を向けていた。


___________


 兵部と不二子を強襲したのは、それぞれ、別々の存在。
 だが、どちらも外見は非常によく似ていた。
 しかも。
 服装こそ違えど、その顔は、薫や葵には見覚えがあるものだったのだ。

「悠理......ちゃん?」
「ちゃうで、薫。
 こいつらは......」

 雲居悠理そっくりの少女が二人。

「ふふふ......。
 いつも妹が御世話になっています」

 と、まずは右側が挨拶。

「......妹!?」
「ということは......」

 素直に反応する薫と葵。
 一方、真木と紅葉は無言を貫く。クイーンとゴッデスに事態の進展を任せて、彼女たちに従うつもりなのだ。それが、兵部が戦線離脱した場合の取り決めだった。
 敵も、真木と紅葉など眼中にないらしい。少女たちは、ただ、薫と葵だけを見つめていた。

「昔から、こういう組織の幹部は
 ガイコツか三つ子と決まってますから」

 左側も口を開く。
 彼女の言葉と同時に、動き出す少女たち。
 こうして、今。
 ブラック・ファントムとの最終決戦、その幕が上がった......!




(リターンズ・トゥ・ザ・ベース・完)

(初出;「ザ・グレート・展開予測ショーPlus」様のコンテンツ「展開予測掲示板」[2009年1月])

 転載時付記;
 水曜日にサンデーを読んで、その日のうちに書いて投稿したSSです。
 翌週以降の兵部の行動など私には全く予想出来ず、このようなSSになってしまいました......。

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