背中合わせの恋心 1話















私にとって、手塚国光はライバルだった。

私達の勝負は、青春学園中等部の入学試験から始まっていた。

自分で言うのも何なんだけど、私は頭が良い。ついでに、顔もいい。

唯一難点を言うと運動神経が無い。50M走を10秒以上かかるという壊滅的な有様なのでその点だけはどうにもならないので、そこいら辺は諦めていた。

昔ある出来事があって、勉強で一番を取る事が自分の価値観を満たす事だと思っているので、正直入学式で答辞を読むことが目標で受験したので、入学式で答辞を読む手塚国光を見た時はライバルとしての嫉妬心を持つ事はあっても好感度はゼロだった。

毎年トップ入学したものが、答辞を読む決まりとなっていたので自分にオフォーが来なかった時点で諦めていたのだけど、実際に目の前で一番入学の奴を見るとある意味闘志が沸いてきた。

入学してから数年たち最高学年の3年生になっても、私の手塚国光への評価は目の上のタンコブでしかなかった。

中間試験、期末試験の中で一度も私は1番を取れたことが無かった。
いつも、いつも2番目ばっかりで不本意な結果に終わっていた。

2年生の時に生徒会選挙があった時も手塚国光が立候補すると聞いて生徒会になど興味は無かったが、勝つチャンスとすかさず自分も立候補した。

青春学園の生徒会選挙は変わっていて生徒会長とか役職に立候補するのではなく、得票が一番多い人が生徒会長でその次は副会長、書記2名、会計2名という風に獲得票順に決まっていく。

開票された結果は、自分は得票数から言えば5位の会計だった。1位はあの手塚国光でここでも勝てないのかと思うとため息が出る思いだった。

ましてや、副会長ならまだしも一番下の役職の会計にしか成りえなかったということにひどくプライドが刺激されたが、時期テニス部の部長と期待されている男と運動オンチで勉強しか脳が無い自分とでは、歴然とした人気の差があることはある意味当然だった。

正直勢いで出た生徒会選挙で不本意についた会計という役職だったが、仕事は仕事で完璧にこなした。

いい加減とか適当という言葉が、大嫌いな私には手抜きという言葉は存在しなかった。

その日も来る体育祭に向けて、競技に応じての場所割りやらタイムスケジュールやらを一人で組んでいた所だった。

本来ならこの役目は、会長か副会長が率先してすべき仕事なのだが会長、副会長共にクラブの部長をしており、多忙なのと他の書記達は会長副会長目当ての立候補だったらしく、すさまじく約に立たないので、下手に視界に入られるよりも自分一人で作業したほうが効率がいいので帰ってもらっていた。

なので、生徒会室には私――一人で作業していた。

ある程度のタイムラグも計算に入れながら、ハンドボールはこっち野球はこっちサッカーはこっちという風に振り分けていくと、以外にグランドを使う競技が多い事に気付く、だけど青学のグランドは、きちきちでサッカーグランドが2面しか取れないのでどうするか唸りながら、考え込んでいると。


ガラリ


と突然扉が開いて、ジャージ姿の男が入ってきた。レギュラージャージと言われる一部レギュラーしか着用を許されない特徴的なデザインのジャージを着た男は、私が最も苦手としていてこの生徒会室の主である手塚国光だった。


「いつも、すまないな」

「いえ、仕事ですから」


特に共通の話題も無く。シンとした静寂があたりを包む。

友好的にいこうという気が皆無な私は、特に話題を探すでもなく目の前の資料とにらめっこしていた。


「……さんは……いないのか……」

「へっ?」


何か話しかけられたみたいだけど、全然聞いてなかったというか聞く気が無かったので聞き飛ばしていた。


「はい、何か言いましたか?」

「いや、……あのだな……。俺は、さんの事が好きだ」

「はいーー?」


目の前のカタツブと噂される男は、今何と言いましたか?

わ、わ、わ、私の事をす、す、す好きだってー??

心の中では、激しく動揺しているけど表面上の表情は多分変わってないはずだ。

ずっとネコをかぶり続けて優等生を演じ続けているので普段から動揺は顔に出にくい。

というか、あまりに動揺激しくて表情が固まっているともいうのだけれど。


「生徒会長は私の事を好きなのですか?」


内心の動揺をこそとも出さずに、平然とした顔で問い返した自分を褒めてやりたいと思いました。

改めて、問い返してマジマジとその顔を見ると目じりがうっすらと赤くていつもより口元が歪んでいて、発汗している様子が伺える。

うわっ、もしかして冗談とかじゃなくてこの人私が本気で好きだとか言うのかしら?

元々私が知っている手塚国光という男は冗談を言うようなタイプでは無かったと思うが、それ以前にこんな風に女にうつつを抜かすようなタイプでも無いと思っていたのだけど。


「俺は、さんが好きだ。付き合ってほしい」


そうはっきりと言われて、何だか裏切られたような気分になった。

私にとっての、手塚国光はあくまでライバルで絶対超えたい壁のような存在でその気持ちに色恋の気持ちは無かった。出来るなら、好敵手で対等に向き合える存在になりたいとそう思っていたのに……。

なのに、まさかの告白で戸惑うというより晴天のヘキレキとはこのことだと思って思わず苦笑が漏れる。

どうやって断ろうかと、思案しているとふと目に入ったのは、何事にも動じずいつもどうどうとしている男の、不安げなその姿だった。

いつかは越したいと思っていた壁の意外な姿を見て、ふっと間がさしたとでもいうのだろうか。

思いを受け入れる気はさらさら無いのだけど、ここでイエスと言えばこの男はどんな姿を見せてくれるのだろうか?

そんな好奇心がふと頭をもたげた。

ずっと背中を追いかけていた男の視線を一心に浴びるのは、存外に心地いいと思った。


「私、会長の事良く知りません」


その言葉にギクリと緊張する姿。
私の言葉一つで、動揺する姿を見て気持ちいいとか思ってしまった。


「だから、お友達からでいいのなら」


そう言ってはにかんだような笑顔で微笑むと、あのブチョウ顔しか見せなかった男が嬉しそうに破顔したのだ。

ニコと微笑みを返しながら、あらやっぱり面白いかもと思っていたのはナイショだ。



そんなこんなで、私と宿敵手塚国光はその日からお付き合いする事になりました。







 
ということで、五萬打企画リクエスト早瀬様のリクエストの手塚夢です。
10話以内の連載の予定です。こちらも、頑張りますので宜しくお願い致します。




2005.02.03UP

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