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なんだか、周りが全てぼやけていて…そして、揺らめいて見える。
…温かい。
視界と同じようにはっきりとしなかった頭は、時間をかけて鮮明になってきて。
水の中だ、と分かった。
それでもなお、冷静でいて、動こうとしない己を、
そして水の中に居るというのに苦しくないということに疑問を持っていない己を不思議に思いながら。
とりあえず、体を起こす。
『えらく早起きじゃないか?』
……
………
…………。
この声は…………
あぁ、眞王か。
「どの位、だ?」
「2日だ。」
確かに、今までに比べれば大分早い。
それもそうだ。
己のことは誰よりも知っているつもりだ。
何故かなんて、すぐに予想がついた。
2日…か。そう呟いて。
思わず、笑みを浮かべていた。
僅かだけれども。
「最低限の記憶しか取り戻していないんだ。
今回は少しずつ取り戻していくことになると思う。」
しばしの沈黙の後、謝罪の言葉が響いてきた。
「…何故、謝る?」
俺の知らないところで何かしたのだろうか。
『俺が無理矢理あのようなことをしたせいだろう?』
あのような、こと?
「何のことだ?」
返事は、すぐには返ってこなかった。
『…覚えていないのか?』
「だから、何をだ。」
それらしいことが思い当たらない。
ちゃんと俺に分かるように話してくれないか。
『…いや。覚えていないのなら、その方が良い。忘れてくれ。』
変な奴。
でも、お前がそう言うのなら俺も無理には思い出さないさ。
安心してくれ。
「何か、変わったことはあったか?」
俺が眠っている間に。
もちろん、この2日のことではなく約500年間の話だ。
「そろそろ血盟城へ行くかな。」
今のところ聞きたいことはもうないだろうから。
『そうか。』
「また来る。」
でなきゃお前うるさいからな。
『あぁ…、大丈夫だとは思うが、気をつけろよ。』
軽く、笑みを零して。
部屋を出ると、そこには侍女が居た。
「こちらでございます。」
案内されたのは、風呂場。
俺は湯浴みをして、正装に身を固める。
次に案内された部屋には、こちらに来た当初に会った少女が居た。
「言賜巫女のウルリーケと申します。お会いできて光栄ですわ。」
適当に挨拶をして。
いざ血盟城へ向かうべく外に出る。