「あなたのお気に入りのプリンスは、ひょっとしたら女
の子かもね」
土曜日の夕方、談話室でハリーが「半純血のプリンス蔵書」に熱心に目を通していると
ハーマイオニーがいやみったらしく言った。
「何でそう思うんだい?」
「だって、この筆跡は男性のよりも女性みたいに思えるわ」
ハリーがイライラと聞き返すと、
がひょいと彼の腕から本を取り上げて言った。
「いいか?「プリンス」って意味なんだよ!」
彼はむっとして彼女から教科書をひったくると言い返した。
「それに確か――女の子だったらプリンスじゃなくて、プリンセスじゃありゃしませんでしたか?」
彼はにやりと付け加えると、勝ち誇ったように女の子たちの顔を斜め下から見上げた。
はフーンと顎をそらし、ここにくる数十分前に届いたフェリシティー伯母からの手紙を読み始めた。
ハーマイオニーは顔をしかめ、ロンが先ほどまで取り組んでいた宿題を見てやり始めた。
「じゃぁね。私、今から出かけてくるわ」
しばらくして、
は襟にとめたシリウスにあげた懐中時計を見やり、椅子から立ち上がった。
「えっ、こんな時間にどこへ行くんだい?」
ハリーが途端にバタンと本を閉じて尋ねた。
「プリンス様のことで忙しいんでしょう?」
は彼の目の前に、真っ白な羊皮紙を叩きつけるとさっさと部屋を出て行った。
あとに残された三人は、気まずい雰囲気の中、こわごわと彼女が置いていった巻紙を開けてみた。
ミナが書いていた日記が見つかったわ。
あなたに是非読んで欲しいの。
夕食を食べ終わったら八時に時計台の搭へ来れる?
そこからディアヌ・クラウン・レコード店まで飛ぶわ。
都合が悪い場合はすぐに連絡してね。待ってるわ。
追伸――スネイプ先生に見つからないようにいらっしゃいね。
F伯母より
「スネイプに見つからないように来いだって―大丈夫だろうな?」
ロンが今頃、運悪く捕まっているのではないかと心配そうな顔で言った。
「彼女なら大丈夫さ。君の兄さん達のおかげでフィルチより多くの抜け道を知ってる。
スネイプに捕まるなんて十年先の話だよ」
ハリーが心配ないと物知り顔で言った。
「こんな緊急に呼び出すなんて、その―ブラド夫人の日記によほど重要なことが書かれてるんだわ!」
ハーマイオニーがちょっと考え込んで言った。
は今、ハリーから忍びの地図を借りればよかったと後悔していた。
何故か彼女の行く先々にスネイプの姿が現れるのだ。
彼女は「嘆きのマートルのトイレ」前にある大きな純白のスワンの大理石の彫刻の影にしゃがんで
彼が通り過ぎるのを待っていた。
彼はしきりにあたりをきょろきょろと見回しており、彼女より数十メートル離れた
廊下のつきあたりにいた。
冷たい石の床が黒絹のスカートを通り越して、じわっと肌に冷たく浸透した。
「なぜ、今日に限ってこんなところをうろちょろしてるのよ!」
「行って、あっちへ行ってよ!」
彼女は必死に彼が通り過ぎてくれるよう懇願した。
「
!そこで何をしている?」
「遅れる!」
彼女は一言短く呟くと、心を決めて次の瞬間、近くにあった大階段の大理石の手すりを引っ掴み
駆け上った。
「待て、どこへ行く!?」
「すいません〜約束があるんです!!」
「止まれ!いいから止まるのだ!」
「嫌です!!」
激しい会話の応酬とバタバタと階段を駆け上がる音が辺りに響いた。
彼女は足がもつれて何度も階段につまずきそうになった。
だが、フィルチや双子と追いかけっこを繰り返したおかげで走力には自信があった。
案の定、あまりの彼女の速さにバタンという音がし、スネイプが階段でローブを引っ掛けて、
ごろごろと下まで転げ落ちるのが欄干から見えた。
「ああ、
。やっと来たのね。五分も遅れてるわよ。どうしたの?」
「伯母さん、早く!出して!」
虹色のステンドグラスがはめこまれた天窓への階段を上りきった
は息せき切って叫んだ。
そこには、純白の両翼を持つ馬に引かれたバギーとフェリシティー伯母が乗り込んで待っていた。
「スネイプよ!追っかけられてるんです!」
彼女はそう喘ぐと、黒塗りの華奢なバギーに飛び乗り、伯母の握っていた手綱を引ったくると
馬の背中をそれで思いっきり叩いた。
乱暴な扱いに慣れていない白馬は憤慨して、石の床を蹴ると大空へと駆け出した。