ディアヌ・クラウン・レコードのよく磨きこまれたガラス張りのドアの前に到着した時、そこには
店長のミス・キムとなんと、驚くべきことにリーマス・ルーピンが揃って迎えに来てくれた。
「いらっしゃい。二人共。中に入って下さい。バギーと馬は私が倉庫に入れておきますから」
長い黒髪を真っ直ぐに後ろの垂らしたこの韓国人女性は、なまりのある英語で
そう言うと二人を店に引き入れた。
夜のディアヌ・クラウン・レコード店は森閑としていた。
幾つもの各国の音楽レコードが並べられたマホガニーの棚の間を通り抜け、彼らは二階に続く螺旋階段を
上った。
「生クリームたっぷりのコーヒーを入れてあるよ。どうぞ飲んでね」
とび色の羊革のジャケットに擦り切れたジーンズをまとったルーピンが言った。
「ありがとう。でも、ルーピンさん、なぜここに来たんですか?」
は思いがけない人に再会出来たので、嬉しいやら驚いたやらで彼に尋ねた。
「君の伯母さんにちょっとマル秘の報告があってね。それでここを訪れたのさ」
彼は二階の「ディアヌ・クラウン・レコード」と金文字が彫りこまれたマホガニーのドアを開けてやりながら説明した。
「これよ。昨日、彼女の宝石箱の中から偶然出てきたの。」
真っ白なカウチに
とルーピンが着席すると伯母は、革表紙の真紅の日記帳を事務デスクから
持ってきた。目の前の三角テーブルからは入れたてのモカの香りが漂ってくる。
渡された日記帳をひざの上に広げ、
はゆっくりとページを繰り始めた。
「今日は凍てつくような寒さの朝だった。私はクリスマスの飾り付けを手伝う
ためにある孤児院へと足を運んだ。
とっておきのウィスキーにつけたフルーツケーキを持ってきてよかった。寮母
のミセス・コールはお酒が好きらしく
私のケーキをとても喜んで受け取って下さったのだ。
切り立てのヒイラギと松の枝の放つ匂いはなんて芳しいんだろう。孤児達は
皆、可愛らしくて元気だ。
別の籠一杯に詰めてきたクッキーを渡すと歓声を上げ・・キスの雨を降らして
くれた。こんな幸せは
もう何年も味わったことがない・・。」
「孤児院をあとにした時、一人の黒髪の少年が黄色いドアを開けて雪の降りし
きる外へ飛び出してきた。
片手には真紅のバラの花束を持って・・「お花をどうぞ」と一言だけ呟き、彼
は真っ赤に頬を染め、私の手に
大きな花束を握らせるとドアの中へと駆け込んでしまった。
それはあっという間の出来事だった。私は名前を聞く暇もなく呆然としてい
た。
ふとバラの花束をまさぐってみると、そこには純白の新しいカードがついてい
た。
カードには「いつもご訪問して下さる優しいご婦人へ――愛をこめて
トム・M・リドル―」と
書かれていた。」
「トム?トム・M・リドルって――まさか!」
熱心に日記に目を通していた
は意外な人物の名前を目にして飛び上がった。
「そう―そのまさかだよ。トム・リドルとは現在、我々がやっきになって捜し求めている輩のことさ」
ルーピンがにがにがしげに言った。
「先に日記に目を通させてもらったから話すけど、どうやらヴォルデモートとミナは、この時をきっかけに親しく付き合い始めたみたい。
次のページを読んで御覧なさい。ほとんどトムのことで占められてるわ」
フェリシティー伯母はとんでもないことだといいたげに、首をふりふり説明した。
「愛をこめてですって?フン、私ならさっさとその花束を暖炉にくべてやるね!!」
そして突然、フェリシティー伯母は二人の弟を相次いで惨殺された時のことを思い出して叫んだ。
「フェリシティー、コーヒーを飲んで少し落ち着きなさい」
ルーピンは、神経が高ぶっているこの未婚の婦人をなだめようと声をかけた。