神楽の手当てのおかげもあって、姫の傷は日に日に快方に向かい、妖力も取り戻していった。
神楽はへらず口ばかり叩く生意気ですれっからしな女だったが、
邪心にまみれる奈落と違い、根はそんなに悪くないらしかった。
一方、神無も何を考えているかわからなかったが、奈落の影が隠れると
時折幼女のあどけなさを垣間見せる場面もあった。
姫の手作りの鞠で一心不乱に鞠つきをする神無を見つめながら、
神楽は「この女、ご主人様の邪気あふれる城をあっという間に楽しい場所に変えてしまいやがった」とあごを腕の中に深くうずめてつぶやいた。
事実、神無をただの幼子に戻してしまい、自分を奈落の分身ではなく、一人の普通の女として扱ってくれたことに
神楽はただただ驚くばかりだったのだ。
ただ、神楽はあれほど敵対していた妖怪退治屋の娘と
四魂の欠片で操った弟を敵対させ、残酷にも殺し合わせた奈落のやり方を深く嘆いた
姫はいずれここの城を去ってしまうだろうと予測していた。
しかしながら、今のところ姫は四魂の欠片を盗もうとした犬夜叉一行と敵対関係にあり
神楽の仕事を手伝ってくれたりもするのだった。
今、彼女は犬夜叉の操る鉄砕牙と対決する、殺生丸の操るの闘鬼神の戦いの行方を神楽とともに
上空から見守っていた。
凄まじい邪気を放つ闘鬼神を楽々と操る殺生丸に、終始押されぎみな犬夜叉に勝ち目はない
ことを見抜いた姫は神楽の羽根の向きを変えるよう言ったが、草むらのかたわらで成り行きを見守っていた
刀々斎が、頬を膨らませて犬夜叉に襲いかからんばかりの
殺生丸に口から火炎放射を放ったので、やむなく彼女は氷の矛を操り、大吹雪を起こして
地上に放って対抗した。
「む、あの娘・・」
「あの、殺生丸様、どちらへ〜犬夜叉は追わなくてよいのですか〜!?」
いきなり大吹雪が振ってきて火炎放射を消してしまったのを見計らって、忠実な部下がひょこひょこと
やってきて尋ねた。
「プギャッ!」
邪険を踏み台にして、勢いよく空中に飛び上がった殺生丸は
「早く出して!」と神楽に命じている懐かしい雪女の姿を上空高くに認めた。
「逃げたか・・」
「何でわしばっかりこんな目に・・」
踏みつけにされ悲しそうに呻いている邪険を尻目に、殺生丸は目にも留まらぬ速さで
大空に消えてしまった雪女の姿を何ともやりきれぬ顔で見つめていた。