今日は、朔の夜で一年に一度姫の妖力が消えて人間の姿に戻る日だ。
「何だい・・あんた、ほんとはそんな弱っちい女の姿だったのかい。
それじゃ雑魚妖怪一匹も殺せないに見えるぜ」
心地よい風が肌をなでる草むらで、神楽はため息をつきながら言った。
「私をあなどるないほうがいい。妖力が消えても人間の妖怪退治屋ぐらいの力はあるわよ」
美しい濡れ羽色の黒髪に、華奢な体の娘の姿の姫はにんまりとして切り返した。
「何のために刀々斎に矛の手ほどきを受けたと思ってるの?」
「へぇ・・あの犬夜叉の鉄砕牙を作った老いぼれ爺にかい?刀鍛冶の腕は一流らしいが、
剣術の腕前の方はどうだかね〜」
神楽はあいかわらず憎まれ口ばかり叩いていた。
「その老いぼれ賢者は、人間の私の身を案じてこの矛の極意を教えて下さった」
姫は懐かしそうに矛を手にとって呟いた。
「ふ〜ん、そんなもんかよ・・」
「邪険、奴の匂いだ」
「はぁ?あ、そーいえば、これは以前殺生丸様に無礼を働いた・・」
ところかわって、あるうっそうとした森の奥。忠実な緑の部下は鼻をくんくんさせて同じく主人がかぎつけた匂いをかごうとしていた。
「奈落。それにかすかに人間の女の匂いがする」
危険な崖の上の上で、つかの間の休息をとる殺生丸はいわくありげに言った。
「え、じゃあーもしかしてあれはその〜殺生丸様から逃げた半妖の雪女の娘ですね!今宵は朔の夜!そうじゃ〜そうに
間違いありませんとも。たくっ、さっきから嫌な匂いが混じるものだと思いましたら・・」
ぴんときた部下は調子に乗って、余計なことを口走ってしまった。
「邪険・・」
「はい?」
「黙っていろ」
案の定、どんなことも許さない殺生丸の目に睨まれ、邪険はすっかり縮み上がってしまったのだった。