「死んでよかっただけではすまぬ。騙された我々の方にも落ち度があったのだ」

「何でですか!?陛下や誰のせいでもあらへんじゃないですか!!あんな奴、死んでよかったんですよ!!

 や鬼宿が身体張って美朱守ってなかったら――危ないとこやったやありませんか!!」

翼宿が己を攻める皇帝の苦渋の表情を見て、いきりたって叫んだ。


「そんなふうに言わないでよ!!敵かもしれないけど、根っからのワルじゃないでしょ!!

 ワルがあんないい笛吹けるはずはない――」

朱雀の巫女は翼宿の一方的な言い方にカチンときて、

悲痛そうに叫んだ。


「信じるのは勝手だけれども、あなたのその人の良さ――いつか命取りになるわよ。

 まあ、それがあなたの長所でもあり短所でもあるのだけれど」


が美朱の肩にポンと手を置いて、励ましと忠告の二重の意味をこめて言ったときだった。


「僕もそう思います!」






凛とした可愛らしい声が朱雀殿の開け放たれた入り口に響いた。


「こらこら、子供、勝手に入ってきちゃいかん!!」


兵士らは慌てて槍を鳶色の髪の背の低い少年に向けて威嚇した。


子供はそれを見ると、懐からあらかじめ用意しておいた木の葉の笛を取り出し

口に当ててゆっくりと吹き始めた。


「この草笛で彼の曲の波動を惑わせました」


先ほど亢宿を破った草笛の曲を吹き終わると、少年は落ち着きはらって言った。


「あなたの名前は?」


朱雀の巫女の問いかけに、少年は黙って黒革の靴から突き出た片足を差し出した。


そこには正真正銘赤く光る「張宿」の文字が浮かんでいた。



「な、なんやて?」


「じゃ、お前が―」


「本物の朱雀七星なの!?」




「はい、本名は王道訓、七星士名は張宿と申します」


驚愕する朱雀、白虎七星士達に向かって満面の笑みを浮かべて少年は自己紹介した。



少年はさらにいままで科挙の受験勉強中で自宅にこもっていたこと、

朱雀七星士達の運に凶が現れていたので気になって大急ぎでかけつけたことなどを話した。





皇帝、星宿も若干13歳で科挙の二次試験で最高成績をあげた張宿の評判を

耳にはさんでおり、いたく感心していた。




ここでやるべき仕事がまだ残っていたことを忘れていた


美朱の一声で、仲間達は円陣に戻り、慌てて隊形を建て直し


儀式に集中し始め、朱雀が燃え盛る炎の中から現れるのを待った。




「なーにやっとんじゃい、この大馬鹿者どもが!!」



「うぎゃあぁあ〜っ!!」





炎の中から現れたのは待ちにまった朱雀ではなく、老婆の姿をした天帝その人だった。



「おやおや、な〜んじゃない〜だらしのない」


天帝は呆れ果てて、びっくりしてずっこけた七星士たちに向かって言い放った。








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