星獣剣と鴛鴦斧をしょって走る五人の男女。
「ヴェ〜!」と奇妙な呻き声がしたので彼らはいっせいに振り返った。
「ヒュウガ!」
たちまちの悲鳴が上がった。
カーリー神(インドの殺戮の女神)のごとく青い腕が伸びてきて
むんずと彼の首根っこをつかんだのだ。
「兄さん!」
彼女と同じく異変に気付いたリョウマは長剣で長い腕をぶった切ると、
げほげほとむせ返って起き上がろうとした兄の側に行った。
「大丈夫か?」
力の強いゴウキとハヤテが頑固な腕をへし折って、投げ捨てた時にはすでに
手遅れだった。
その一瞬の隙を狙うがごとく、一匹のはぐれトカゲがヒュウガの襟首に
忍び込んだのだ。
「ここは俺が引き受ける!」
「いや、俺が!」
ハヤテ、ゴウキが長剣を抜いて戦闘の構えを取る中で、ヒュウガは
リョウマを遮って頑として言い放った。
「そんな!」
ヒュウガが突き出した手にはトカゲに刺されたことを表す刻印が出来ており、
それを見てしまったは泣きそうな声で呟き、リョウマはさっと色を失った。
「あとは任せた!」
ヒュウガは実弟に力強く頷き、には「俺は大丈夫だ」と安心させるように微笑んだ。
彼はブルライアットを振り上げて勇ましく切りかかっていったが、普段より動きが鈍くなっている分、
その一振りはあっさりと捕まれてしまい、再び、首根っこをつかまれていた。
「兄さん!」
「ヒュウガ、どこが一人で大丈夫なの!?」
リョウマとは揃って悲鳴を上げたが、ヒュウガは敵に首を締め上げられながらも「早く行くんだ!」を繰り返すばかりだった。
「例え最後の一人になっても、お前の後ろで誰かが支えてることを忘れるな!」
ヒュウガはそう言ってうろたえる実弟を叱咤した。
「俺達は一緒だ、早く行け!」
ガーラガーラに胸を踏んづけられながらも、ヒュウガは叫び続けた。
「ヒュウガ!」
「彼女を頼む!」
泣かんばかりに叫ぶをハヤテに任せると、ヒュウガはガーラガーラの重い足をどけようと
孤軍奮闘した。
「分かった、俺達は先に行ってる!」
リョウマ、ゴウキはヒュウガに頷いて見せ、ハヤテを残して駆け出した。
「ヒュウガ!」
「、今はそんな場合じゃない!行くぞ!」
「嫌!あんな状態で、一人残して行くなんて到底出来ない!」
珍しく取り乱したをハヤテは半ば抱え込むようにして引きずり出した。
「お前の感情に振り回されるな!今日はどうかしてるぞ!」
ハヤテは嫉妬の入り混じった気持ちでを叱り付けた。
「放っといて!どうするかは私が決める!」
は彼の腕を乱暴に振り解くと、精霊らしく気まぐれなところを見せた。
パンッと鈍い音が響いた。
たまりかねたハヤテがの頬をぶったのだ。
「いい加減にしろ!お前はいったい何なんだ?」
ハヤテは声を荒げて怒鳴り散らした。
は叩かれた頬を押さえて呆然としていた。
彼はそのままくるりと背を向けると、彼女をそこに残したまま走っていった。
ハヤテはつむじ風のごとく駆けていた。
リョウマやゴウキが「はどうしたのか?」と聞いてきても轟然と無視した。
(そんなのあいつのことが心配か?今、目の前で起きている事態よりも・・)
彼の心は自分でも信じられないほど乱れに乱れていた。
この悪女め(笑)さてこのお話もそろそろ後半戦に突入です....。