エゾマツのうっそうと生い茂る森の中、ぺペンシー兄妹、
ビーバー夫妻はぴっちりと身を寄せ合って木の根っこが
からみあう大きな割れ目にひそんでいた。
皆、うっかりと咳やしゃみ、しゃっくりの音などを一つも
もらさぬようにし、ただひたすら魔女の六頭立てのそりが
通り過ぎるのを待ち続けた。
ピーターは怖がる幼いルーシーを片腕に抱いており、は
彼のコートを救いの綱でもあるかのようにぎゅっと握り締めていた。
数分後、その上をどさどさと大量の残雪を振り落として、
大きなものが通過していった。
「僕が見て来る」
しばらくすると、しがみつくルーシー、を優しくひきはがしてから
ピーターが隠れていた場所から立ち上がろうとした。
「だめだ!危険すぎる!あなたの身にかかわります!」
すかさずビーバー氏が反対し、体中の勇気を振り絞りこっそりと足音を忍ばせて
出ていった。
「あら、ごめんなさい・・私、さっきからずっと・・」
はまだ自分の手がピーターのコートをつかんで
いるのに気づき、かあっと赤くなって振り払った。
「別に僕は・・あの・・かまわない・・けど」
ピーターの心臓は急に早鐘を打ち出した。そして、その動揺を隠すため、
ぷいっとから目を離し、怖がる末っ子の手をさすってやる始末だった。
(まったくもう・・ピーターったら・・こんな時にな〜にやってるのかしら)
何事も現実的なスーザンは、また兄の態度がおかしくなったことに
いちはやく気づいてためいきをついていた。
「皆出て!良い子達に是非、会いたいという素敵な方がお待ちかねですよ!」
ビーバー氏がひょっこりと隠れていた場所に戻ってきて知らせた。
一行を待っていたのは真っ白なあごひげをたくわえたサンタクロースだった。
彼は「ホッホッホ!」と豪快に笑うと「メリークリスマス!!」
と挨拶した。
「君達のおかげじゃよ。この娘を白い魔女ののろいから解放し、
春を蘇らせた!」
「。本当に元気そうで何よりじゃ!」
サンタクロースは三兄妹に感謝の意を表し、それから春の女神を優しく抱きしめて、両者は久方ぶりの再会の喜びを分かち合った。
「君達が持ち出した希望の力と春を司る女神のが解放されたことにより、
雪解けが始まり、白い魔女の魔法は弱くなってきたのだ」
サンタクロースはごそごそと赤と白のストライプをひいたそりの中を
かきまわし、座席から大きな皮袋をもってきた。
「さあ、これを持って行きなさい。これはきっと君たちの役に立つだろう」
このようなものに弱い末っ子のルーシーはまっさきに皮袋に飛びついた。
さあそれからだ。わくわくするようなものが皆の目の前に並んだ。
ルーシーにはハート型の小瓶に入った一滴でどんな怪我も治せてしまう魔法の薬と短剣を。
スーザンには信じて放てば絶対に的をはずさない魔法の弓矢のセットと助けをよぶことのできる魔法の角笛、
ピーターにはアスランの紋章が描かれた盾と立派な長剣のセット、
には彼女の魔力に呼応して炎を誘発する魔法の弓矢と湾曲した短剣が贈られた。
ピーターたちはそれらを受け取ると、再び山を越え、氷河の上を渡り始めた。
サンタクロースやの予想通り、大河は雪解けがすすみ、分厚い氷が割れて
流れていくところだった。
ビーバー氏の先導で一行は薄い刃の上を渡る旅を続けた。
「狼よ!」
末っ子のルーシーが巨大なつららが垂れ下がる山頂を見上げて
悲鳴をあげた。
狼どもはあっというまに雪のつもる危なっかしい崖を駆け下り、
ビーバー氏の前に降り立って行く手をふさいだ。
ビーバー氏は勇ましく狼に立ち向かっていったが、あっけなく
首根っこにかみつかれ、返り討ちにあってしまった。
「その剣をおさめろ、この者が死んでもいいのか?」
一匹の狼がゆっくりと近づいてきて、勢いよく鞘から長剣を抜いたピーターに警告した。
「俺たちに魔法をかけるおつもりだろうが、妖精女王。そいつは賢明じゃないな」
ピーターと背中合わせに対峙したは、宝石を散りばめた純金の笏杖を大きく振り上げ、
狼どもを純金の銅像にかえてしまおうとしたが、それを見透かすかのように彼らは鼻で笑った。