「よし、合図が来た、行くぞ！」
ちっちゃな銀の甲冑をまとったビーバー氏のかけ声で
エドマンド、は矢を撃つのを止めて見晴らしのよい
崖から離れた。
退却する者、敵陣へ突っ込む者でムアはごったがえした。
ピーターは岩場まで来ると馬の向きをかえさせ、
先陣をきって敵陣へと突っ込んでいった。
岩場までせまる白い魔女の軍を食い止めるため、と女セントールらは
エドマンドの指揮のもとに矢を放っていた。
ハリエニシダの咲く岩場の影から白い魔女の従者であるジナーブリックが
放った矢が飛んだ。
矢はピーターの愛馬、ユニコーンの背に突き刺さり、
馬はもんどりうって転んだ。
そして、その勢いで乗り手は地面に投げ出されてしまった。
岸壁からその恐ろしい様子を伺っていたとエドマンドは絶句した。
ピーターが危ない！
それもそのはず、倒れた総司令官のもとに
長剣と魔法の杖をちらつかせた白い魔女が着実にせまってくるのがわかったからだ。
見かねた副官のオレイアスは、サイを従え、白い魔女めがけてムアを駆け下りていった。
オレイアスは副官のミノタウロスや敵方を何人もを倒し、勇ましく白い魔女に突っ込んでいったが
返り討ちにあって石にされてしまった。
一方、「ここは私たちに任せて早くお行き下さい！」と促した女セントールに従って
エドマンド、はピーターを助けるため、ムアの丘を駆け下りていた。
はポニーテールにした長い黒髪を振り回し、炎を誘発する湾曲した短剣で敵の剣を次々とはじいて逆手切りにしていた。
彼女と背中合わせに対峙したエドマンドも、戦闘になれないながらも長剣で敵のむこうずねを切り裂いてひっくりかえらせていた。
「エドマンド、ここは敵が多すぎる！彼女と妹達を連れて逃げろ！」
乱戦状態で一時も気が抜けないピーターが盾を振り回しながら叫んだ。
の短剣が右や左に目にも留まらぬ速さで敵を切り裂き、エドマンドが敵の喉笛に剣を振り下ろしたところでのことだった。
「何ですって？」
向かってきた人食い鬼を高く足を掲げて蹴飛ばしてからは叫んだ。
「聞こえたでしょうお二方！さあ早く逃げるんです！！」
ビーバー氏が有無をいわさぬ顔つきで、エドマンドとを岩場の向こうへと引っ張っていくのが
わかった。
切りたった岩場の敵の届かぬ場所までよじのぼってしまうと、ピーターが凶暴なミノタウロス相手に苦戦を強いられているのが
二人の目に映った。
そして、二人がすばやい視線を斜めに飛ばすと、アスランから奪ったたてがみのふさかざりに、鎖帷子のゆったりとしたドレスをまとった
白い魔女がピーターを守ろうと立ちはだかるアスラン軍の豹やグリフォンらを容赦なく返り討ちにしていた。
「助けに行かなきゃ！」
は一声短くつぶやくと、ビーバー氏の手を振り解き、急勾配を駆け下りていった。
「ピーターは僕の兄だ！放っておけるわけないだろ！」
エドマンドもさっとベルトから剣を抜き、ビーバー氏の制止を振り切って彼女の後に続いた。
エドマンドはあぶなかっしい足取りでせまく切りたった岩場を走り、が行く手を遮る人食い鬼
やミノタウロスを逆手切りにしてやっつけた。
「ここは任せて早くピーターを！」
人食い鬼の斧を持った腕をつかみ、炎を誘発する湾曲した短剣で突き刺して
下の緑の絨毯へと足蹴りにして突き落としてしまうとは
エドマンドに向かって叫んだ。
エドマンドは彼女が凶暴で大きなミノタウロスの攻撃を、錫杖で必死に受け止めていたため
心配になったが、「早く行って！」との切羽詰った声と次の瞬間、敵が黄金の像に変わったのを
見届けると決心して走り出した。
そのまま彼は氷の錫杖と長剣をかまえてピーターにせまろうとしていた白い魔女に
すんでのところで襲いかかった。
魔女は、岩場の影からジャンプして現れた意外な人物に驚愕したのと彼の長剣の動きを
読みきれずに自身の氷の錫杖を真っ二つに折られるはめになった。
これには攻撃したエドマンド自身が驚き、その結果、耐え難い怒りにかられた
魔女に盾を吹っ飛ばされ、わき腹を刺されてしまった。
「エドマンド！」
の絹を裂くような悲鳴と飛び散る冷たい閃光で
ミノタウロスと一戦交えていたピーターは振り返った。
次の瞬間、はものすごい勢いで飛んでいき、ヒースの咲く岩場の影からジャンプすると
エドマンドを刺した姉に背後から襲いかかった。
姉妹はごろごろと芝生を転がり、二人とも痛みなどつゆしらず、猫のように素早く起き上がって
攻撃の構えをとった。
「私にたてつくとはいい度胸だ、愚かで忌々しい妹よ。どこまでも私の邪魔をするつもりだな」
白い魔女は長剣をかまえ、ぐるぐるとの周りを歩きながら言った。
「ここで会ったが最後だ。どちらがナルニアの女王にふさわしいか決着をつけてやろう・・」
「望むところよ！これで姉妹の縁は切れた！」
その声とともに、姉妹はほぼ同時に長剣二つと湾曲した短剣二つを振り上げて突っ込んでいった。
