猫丸の移動クレープ屋は美味しいクレープとホットドッグなどのサイドメニュー、

それにかっこいい男性四人と可愛い女性二人の接客のおかげでけっこう繁盛していた。

今日も朝から鶴姫はボウルに入れた薄力粉、砂糖、卵を泡立て器で混ぜ合わせており、

その後ろではホットドッグロールをオーブンでこんがりと焼き上げていた。

その横ではジライヤが、中古のテレビから流れるの祖母が好きな時代劇「お助け侍」に夢中だ。

「Oh,Great!Exciteing,wonderful!!」

彼はごろつきにからまれた町娘を助けるお助け侍のあっぱれな剣術に、興奮を隠せないようだった。

「で、あれが柳生心眼流。ほら、今、柔術が出た!あの悪役の刀の振り下ろす間合いをぬって・・」

時々、刻んだキャベツの山を盛ったボウルを抱えてテレビの近くを

通りかかるの解説が入るのも、彼にとっては珍しいことばかりで面白かった。

はたでクレープの材料を混ぜ合わせる鶴姫には、アメリカ帰りとイギリス帰り共通の

ヒートアップする英語を交えた会話には、何だか入り込めず困惑するばかりだった。

遂に自らもお助け侍の剣術の真似をしたくなったジライヤは、車内に据え付けてある

モップを持ち出し、箒と塵取りで外のプラスチックテーブル付近を清掃していた

サスケに襲いかかった。

「おい、何だよ!うおっ?危ねえな、ジライヤ!」

びっくりしたサスケだったが、さすがに忍びだけあって、ジライヤの向かってくる太刀筋を

ジャンプしてきちんとよけていた。

「テンに変わりて悪を絶つ、人呼んでお助け侍!」

黒く太い眉をぎゅっと寄せて、大真面目に時代劇の台詞を話すジライヤは

そんじょそこらの若者よりずっとさまになっていた。

だが、サスケは彼が頭が変になったのではないかと本気で心配し、

見かねた鶴姫が「テレビの時代劇の影響」のことについて話す有様だった。

当然、その被害はサスケだけに及ばず、背後のプラスチックテーブルに座っていた

サイゾウとセイカイにまで及んだ。

「完全に危ないお兄さんだぜ!」

「落ち着け、ジライヤ、な?」

この二人もジライヤの攻撃を紙一重で避け、がたがたと肩を寄せ合って震え上がった。

「ダマレ、三途の川で鬼達がお出迎えだ、地獄へイケ!」

だが、聞く耳持たぬ彼はテーブルの足を蹴っ飛ばし、セイカイとサイゾウを追っかけ始めた。

「あんた達、やめなさいってば、壊れるじゃないっ!」

鶴姫が注意するのも何のその、ジライヤのテレビオタクぶりは攻撃を食らった

サスケが時代劇風に大げさに倒れるまで続いたのだった。





「どう、けっこう美味しいでしょ?」

「へぇ〜いいお店ね。まさかこんなところにあったなんて知らなかった・・」

所変わって、チェロの音色が静かに流れる喫茶店で、サイゾウとは湯気の立つコーヒーとケーキを前に向かい合っていた。

は大好きな抹茶ロールをケーキフォークで切り崩して口に運ぶと、店内をぐるりと見回した。

オフホワイト色と柔らかい照明で統一された店内は暖かい雰囲気で何だか落ち着く。

実はここかどうかは定かではないが、セイカイと鶴姫もだいぶん前に二人だけでケーキを食べに行ったらしい。

「ねえ、これ、うちの店のクレープのレシピに加えたらいいんじゃない?女性のお客さん、こういうの好きそうでしょ?」

「おっ、いいじゃない!じゃ、トッピングと生クリームはこんな感じでさぁ・・」

二人ともすっかり打ち解けて、お店の新メニューの相談までしてしまったので

喫茶店を出る頃にはけっこう時間が経っていた。


帰る道中、どこかへ出かけていたジライヤにばったりと会い、近くで黒山の人だかりが

見えたので三人はおやと思って立ち止まった。

長い黒髪の女性リポーターとテレビクルーが、大型ラーメン店の前で生中継をしている。

店内に入った女性リポーターは、店主から振舞われたしょうゆラーメンを三口ほどすすり、

好意的に微笑むと「とても美味しい」と感想を述べた。

その後、女性リポーターは忘れずにラーメン店の主人に味の秘訣を聞き、それを見ていた周囲の客が拍手を送った時だった。

あきらかに場違いな江戸時代の浪人風の服装をした男が、周囲の客を押しのけて

店の敷居をまたぎ、唖然とするテレビクルーや女性リポーターの前に進み出た。

「何なの、あなたは!?」

中継を妨害された女性リポーターはむっとして叫んだ。

サイゾウ、ジライヤ、はもっとよく見ようと周囲の客の後ろから

身を乗り出した。

「何だ、あの変な奴は?」

サイゾウは菅笠をぱっと取った太っちょの男の顔のメイクと、おかしなかつらに鼻で笑った。

だが、自分のお気に入りの時代劇の「お助け侍」の扮装とその台詞を喋る不審な男にジライヤは

心底腹を立てていた。

すっかり時代劇のお助け侍になりきった中年男は、腰に差した脇差を抜き、

ぶんぶんと振り回し始めた。

さらに熱くなった男は、泣きそうな顔で逃げ惑う女性リポーターや、驚いた周囲の客達に店主がどんぶりの中に入れていた

ラーメンの玉を奪うと、面白がって投げつけた。

それはサイゾウ、ジライヤの顔面にも直撃し、彼らは慌てて顔を覆って被害を避けた。

「何で逃げるんや?わい、かっこええやろ?映して、映してんか!」

同じく外に出た、関西弁丸出しの変な中年男はすごく迷惑な顔を浮かべて引き下がろうとした、テレビクルーと

女性リポーターになれなれしく近寄ってきてカメラを自分に向けて回すように要求した。

「STOP!!」

「何なの、お前は?」

「やめて下さい、皆、迷惑してるじゃない!喧嘩ならよそで・・」

ジライヤが超迷惑男の肩をつかみ、サイゾウ、が見かねて注意した。

「何どいな、お前達は?邪魔すんなや!!」

だが、激昂した中年男は脇差を振りかざし、三人に切りかかった。

サイゾウはを庇って、イミテーションの刀の一太刀と腹に強烈なパンチを食らい、痛そうに飛び上がっていた。

「サイゾウ、サイゾウ!ちょっと、大丈夫?」

は悲鳴をあげて、腹をおさえてぴょんぴょん飛び上がる彼に駆け寄った。

とうとう頭にきたジライヤは、男の脇差を上体を斜めに倒して避け、空手チョップで叩き落した。

それから彼は男の鼻をつまんでやり、わき腹に膝蹴りをお見舞いした。

女性リポーターは、ジライヤのブルース・リーばりのアクションに「かっこいい、しびれる〜!」と感激し、

ぼーっとしていたテレビクルー達を叱り付けると、カメラを「あの若い人達」に回すように命じた。

「この野郎!」と再起をはかった中年男の攻撃を三たび避け、背中にチョップを食らわした

ジライヤ、サイゾウはお返しとばかりに吹っ飛ばされた男の胸倉をつかんで

横っ面を張り飛ばし、もどさくさに紛れてお返しとばかりに、ジライヤの攻撃から戻されてきた男を最後に蹴り上げて

店先に叩き出してやった。


「おい、見ろよ!サイゾウとジライヤとがテレビに出てるぞ!」

一方、猫丸の店内ではサスケが中古テレビから流れてくる映像に見入っていた。

彼は驚いて仲間二人を呼んだ。

「うそぉ・・ったらあんなとこで何やっててるのよ・・」

鶴姫は、仲間内で唯一の女の子がとんでもない現場にいることにやきもきしていたが、

「うぉ・・すげえな」とセイカイはのん気に迷惑男をやっつける三人に見入る始末であった。






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