猫丸の移動クレープ屋はさっきまでの盗品騒ぎが嘘のように営業していた。

サスケ、ジライヤが高価なピンクダイヤの宝石三点を盗まれた宝石店に

こっそりと返却しにいっている為、クレープ屋はセイカイ、サイゾウ、鶴姫、だけの

ものだった。

オープンカフェ風のプラスチックテーブルに頬杖をつく鶴姫はどこか元気なく、

一人物思いに耽っていた。

箒と塵取りでせっせとテーブル周りを掃除するサイゾウ、セイカイも心配そうに

こっちを見ている。

バスの中でクレープを焼いていたはふうっとため息一つついて、

鶴姫の隣に椅子を引き寄せて座った。

こういうデリケートな問題を話すには女同士に限る。

「ねえ、鶴姫、あなたが夜な夜な踊った理想の王子様ってどんな感じの人なの?教えてくれない?」

「え?えと、あ〜・・そうね・・背が高くて黒髪、ほっそりしててで羽飾りのついた黒い帽子に青い絹の服を着てて

 顔はビロードの仮面をしてたからよく分からないわ。でもそこがまた神秘的で惹きつけられる感じなの・・」

いきなりそんなことを聞かれたので鶴姫はちょっと戸惑っていたが、女同士ならいいかと

記憶の断片をつなぎあわせて思い出して話していった。

「へぇ〜、じゃあ、結構カッコイイんだ・・」

「でも、まさか盗んだ宝石を私にくれてたなんて・・」

「確かにそれはちょっと複雑よね・・」


その時、「クレープちょうだい!」と元気のいい小学生のお客がやってきたので

話は打ち切られた。

セイカイは、カウンターに展示してあるメニューボードに小学生達を案内し、サイゾウは注文を受ける為にいそいそと猫丸の中へ入っていった。

鶴姫は頬杖をつき、複雑な思いがぐるぐる渦巻く中、また物思いに耽り始めた。

カフェエプロンをつけたも銀のトレイをかかえ、サイゾウを手伝おうと猫丸に

戻りかけたが、あれと思って立ち止まった。

鶴姫がはじかれたように立ち上がった。

が、銀のトレイを胸に抱えてじっとその様子を伺っていると鶴姫は

何かに取り付かれたように駆け出し、葉牡丹の咲き乱れる植え込みの方へ行ってしまったのである。



「あれは!?」

はカフェエプロンを投げ出し、抜き足差し足でこっそりと鶴姫の後をつけてみて驚いた。

何と、鶴姫の後ろに巨大な一つ目玉がぽっかりと浮かんでいるではないか。

茂みに隠れて様子を伺っていると、一つ目玉から青白い光線が発せられ、

鶴姫目掛けて浴びせられた。

彼女はその途端にふらりとよろめき、次の瞬間には夢の王子の腕に抱かれて踊っていた。

「ちょっと、ちょっと・・いったい何がどうなってるの?」

鶴姫は真っ白な襞の沢山ついたタフタのドレスをまとい、ツツジの咲き乱れる緑の絨毯で

優雅にダンスのステップを踏んでいた。

「あれが鶴姫の言ってた王子なの?信じられない・・」


王子はくるりくるりと鶴姫を回転の渦に巻き込み、鶴姫の顔をまじまじと見つめると

「鶴姫、私と結婚して下さい」と手の甲に優しくキスして囁いた。

びっくり仰天したのは茂みに隠れて見ていただ。

「は?」と口をポカンと開けてしまい、衝撃のあまり、両手で口を覆って呟いた。

おまけに彼女は「これにサインを」と差し出されたベルベットで装丁された

婚姻届に万年筆で自分の名前を書き込み始めたではないか。

王子は満足そうに微笑んでから婚姻届を閉じると

「これでお前は私のものだ!」と宣言した。

「これは・・大変!あなた達、誰でもいいから早く来てよ!」

王子の物憂げな声が急に怪しげな雰囲気を帯びたことには焦り、

ポケットに隠し持っていた印籠の赤外線通信ボタンをぎゅっと押した。



「はい、ありがとうございました〜!」

一方、猫丸でクレープを売っていたセイカイ、サイゾウは午前中最後のお客を送り出していた。

「おかしいな、さっきからと鶴姫の姿が見えないのよ」

「あれぇ?二人ともいつの間にどっか行っちゃったんだろ?」

二人が先ほどまで女性陣二人が座っていたプラスチックテーブルを眺めて小首を傾げていると、

同時にポケットに入れていた印籠が鳴った。



一方、の印籠からの赤外線発信によって何かが起こったらしいと

慌てて噴水前に集まった男達四人は信じられない面持ちでからの報告を聞いていた。

「あのね、鶴姫の言ってた夢の王子は本当にいたのよ。私、この目で見たのよ!」

「そうか、で、お前と鶴姫、今どこにいるんだ?」

「分からない。ロッカールームの中としか・・」



「キャーッ!!来ないで!!」

「別れるも何も私、あなたと結婚なんてした覚えないのよ!」

が鶴姫から少し離れたところにあるロッカールームでしゃがんで、ひそひそ声でサスケと会話していると

鶴姫の絹を切り裂くような悲鳴と、彼女にせまる妖怪の恐ろしい声が拡声されて

男性陣の印籠に響き渡った。


「結婚!?」

「ヤバイぜ、これは!」

「それに近くにいるも危ないネ!」

「発信源を頼りに二人を助けるんだ!」


サイゾウはあまりの珍妙至極な事態に素っ頓狂な声をあげ、セイカイ、ジライヤは

二人の女の子の身を案じてせっぱ詰まった声で叫んだ。

そして、サスケの一声で皆、はじかれたように駆け出した。




こちらではドロドロの修羅場が繰り広げられていた。

お世辞にもハンサムとは言えない百目の妖怪に向かって、鶴姫は持ち前の気の強さを

発揮して応戦していた。

彼女は目目連という百目妖怪から贈られた婚約指輪を抜き取り、彼の足元に叩きつけた。

一方、妖怪もせっかく手に入れた花嫁を逃す手はない。

婚姻届を盾に反駁した。



業を煮やした目目連は裁判所に訴えると脅し、鶴姫は目目連の作り出した幻覚の中、

妖怪裁判所に引っ立てられてしまった。


陪審員と傍聴者は並み居る最下級妖怪のドロドロで、裁判長は塗り壁だ。

塗り壁は鶴姫に「どうしても目目連と離婚したいか」と一方的に尋ねた。

鶴姫が「当たり前でしょう!」と突っぱねると、彼はいやにもったいぶって腹の上で

指を組み合わせると裁判官のポーズを取った。

そして、「酷い女だ!」とぎゃあぎゃあ騒ぐ傍聴者のドロドロの声をぬぐって

塗り壁は「じゃあしょうがねえな、おめえは目目連に慰謝料を払わなきゃならねえ」

と切り出してきた。

鶴姫が「お金はいくらでも払ってあげる」と言うと塗り壁はにやりと笑い、木槌を叩いて、

判決を言い渡した。


判決は「鶴姫の両目を抜き取り、それを目目連が焼いて食う」という残酷な刑罰を下すことだった。

鶴姫が両脇にいる二人のドロドロに押さえつけられそうになった時、

妖怪裁判所内を突風が吹き荒れ、鶴姫の両脇を固めていたドロドロもあっさりと切り殺された。

そして、鶴姫自身も姿をくらましてしまった。


「誰だ?」

焦った塗り壁は大声で叫んだ。

「愚かな詐欺師ども、醜悪なる裁きは終わりだ!」

二階のさび付いた欄干部分から威勢のいい声が響き渡った。

「そこにいる男は王子を語る不埒な偽者。本物の王子はこの私で妃となる鶴姫を貰い受けに来た!」

大型倉庫の廃屋の二階の欄干へ天の羽衣と共に姿を現した鶴姫は、ポカンとして、自分を抱えあげている

黒ビロードの仮面で顔を覆い、ダチョウの羽飾りの帽子にペールブルーの絹服をまとった王子の顔を見上げた。

「嘘、本物の王子様・・」

鶴姫はぼんやりと呟いた。


それを合図に裁判所にどやどやと男四人が乱入し、傍聴席から驚いて立ち上がったドロドロを

ぶちのめし始めた。

「おのれ、お前は忍びの衆のだな!」

何が何やらで事態が全くつかめない塗り壁は寂れた建物の外へ走り出て叫んだ。

そこには小童をとっくにぶちのめし、勢ぞろいした忍びの衆の六人の姿があった。

「ばれたらしょうがない。その通りよ!」

一人だけ、さっそうとした絹服に羽飾りをなびかせた帽子のいでたちで登場したは不敵な笑みを浮かべた。

「え、嘘、マジでだったの?」

「You,別人ミタイネ〜!」

セイカイとジライヤのリアクションに覆いかぶさるように、

ばさりと被り物を脱ぎすて、普段のオフホワイトのドレープのシャツにモカブラウンのチュニックドレスに

衣替えした。


その後は皆、印籠で戦闘衣に変化した。

女心を弄ばれた鶴姫の怒りは激しく、いつもより戦闘の熱が入るありさまだった。

目目連の目玉から発せられる赤い光線もなんのその、六人は大勢の妖怪衆相手に好戦した。

サスケは十八番のわけ身の術でドロドロをぶった切り、セイカイは特殊鉤爪をドロドロの一人に

引っ掛けて投げ飛ばしていた。

鶴姫はつぼきり型の武器で塗り壁の刃先を受け止めて返すと、すかさず忍刀の二太刀を浴びせた。

そして、ひるんだ塗り壁に「隠流、折鶴の舞」を繰り出した。

七羽の折鶴が優雅に舞い、塗り壁の側に近づくとたちまち爆発した。


こっちはこっちで、目目連の百目から繰り出されるしつこいビーム攻撃に悩まされているの姿があった。

緑色の戦闘衣の彼女はもんどりうって転んだが、腹を押さえながら体勢を立て直すと

起き上がりざまに「隠流、雹嵐!」をお見舞いした。

これは鶏の卵大の雹を暴風と共に発生させ、敵方にぶつける忍法である。

百目を無防備に広げていた目目連は防ぎようがない。

あっという間に足元から巻き起こった激しい雹嵐に捕らえられ、「痛い、痛い!」と叫びながら大爆発を起こして果てた。
















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