「や……あ、あっ」
媚びた声で甘えると、興奮する男の荒い鼻息は手にとるようにわかった。
もうどうにでもなればいい
そう思っているのに、まだほんの少しの心の悲鳴が拭いきれない、そんな自分が悔しい。
そんな感情を払拭するように相手に身を寄せ、猫のように甘い声をあげて擦り寄る。
彼に捨てられてしまった今、そんな自分を止めてくれる人は誰もいなくて―――。
刹那の感情に身を任せるばかりの毎日だった。
もうどのあたりからやり直したらよかったのかなんて、遠い昔に忘れてしまった。





「ねぇもっと……いじって」
そう相手の耳元に囁き、優しくわき腹を舐め上げると
ますますイヤらしい顔つきになった男が、俺の小さな胸のほころびをなじる。
まるでご褒美だとでもいうように今度は耳に熱い息を吹き込んで。
「や、め……んっ」
少し嫌がるような仕草をすることで相手の征服欲を駆り立て、性欲を煽るということも
堕落していく中で覚えてしまった。
何もかもが輝いていたあの頃の記憶は、こうして新しい記憶と共に霞んでいく……。





「はや……っく、もう……さわって」
身体の中心に触れられ、また新しく増えていく記憶、掠れていく想い。
さまざまな想いが交錯しあって悩んでいたあの頃の自分はもう遠い過去だから、





身体に刻み込んで忘れさせて欲しい。
「あ……ん、もっと、っとして……」
高ぶる気持ちとともに、忘れさせて。
そう、この空虚感さえも―――。















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071129 半年前にブログにだけこっそりあげていたお誕生日企画連続ミニ小説第3弾でした。

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