「これ……なんだ？」
綺麗なラッピングの包みの中を覗き、ドロドロになった何かを見つめ少年はまゆをひそめた。
う〜ん、ほのかに甘い匂いのするようなしないような。
「もしかして……」
さきほどまでじっと見つめていたその何かからぐっと目を遠ざけた。
「そうだ、わざわざオレ様が手作りしてやったんだぞ。お高くつくぜ……そのチョコレート」
「……やっぱり……」
ちょこれーとふぉんでゅ
よく見ると何かの形にくりぬいたようなものが複数合体したようにも見える。
そのチョコレートに、イェンスは思わず苦笑をこぼした。
「これ、溶けちまって底に溜まっちゃってるぜキア」
「オレ様の熱に当てられて、チョコレートも我慢できなかったんだな、そりゃま、仕方ねぇな。お前もそうなんだろ？」
「……っ！な、に言ってんだ、ったく」
口でこそそんなことをぶつぶつと呟いているが、鼓動は驚くほど早く鐘を鳴らしていた。
キアが自分で作ったチョコレート……か。
っていっても、見る限りおそらくこれは市販のチョコレートを溶かして型に流しただけって感じだけど
そんなことはあまり関係ない。
「ありがとな」
とにかく落ち着こうと一息ため息をつくと、イェンスはにっと笑った。
イェンスは甘い香りに誘われるように、その袋に指を近づけた。
とろとろに溶けているそのチョコレートはそのやわらかい指に簡単に絡みつき,、みるみる内に茶色く染めていく。
そしてぺろりとその指をひとなめすると、恍惚とした表情を浮かべ
止まらない、というように何度も何度もそんな自らの指を舐めつづけた。
「うめぇよ、キア！」
そんな無邪気な様子がキアにはひどく妖艶に思えた。
ときどきぱっと見上げる幸せそうなその口には、べっとりとチョコレートがまとわりついている。
頬を染め、自らの指をむしゃぶりつくようになめまわすそんな仕草はまるで―――。
ぺろり、とイェンスの頬をざらざらした、そして生ぬるい何かが通っていった。
驚いて振り返るその、今度は指にそれがまるで風のようにふわっと……。
「な……っ！」
「あぁ、うまいな。甘くて」
降ってくるようなその声につられるように顔をあげる。
するとそこにはチョコレートを舐めた舌を、まるで見せ付けるかのようにひらひらするキア。
「それっ、まさか今の……！」
沸騰したような赤い顔で、イェンスは口をぱくぱくさせた。
舐められた部分が外気に触れてふるりと身体をふるわせる。
「う……っ」
そんな反応に満足したかのように、頷き
キアはもう一度その頬を、今度はじっとりと舐めた。
角度を変えて、それは唇の近くだったり、顎のあたりから頬までのラインを描くかのように。
その度に目をつむり背中をふるっと身体を震わす。
「お前がチョコレート独り占めっていうのは、ずるいだろ？」
「だから……って、袋の中にいっぱい、あん、だろ！」
一通り舐めとると、キアはにやりとした笑みを浮かべた。
イェンスが片目を見開いてその顔を覗く、今だ！
ぺろり
キアの少しこぼれていたチョコレートをぴちゃりと舐めた。
「へへ、すきあり！」
してやったり、という顔でイェンスが笑う。
当のキアはしかし、嬉しそうな顔でその頭をなで、
そして突然その髪を掴み、その唇を唇に触れさせた。
こじあけるように開かされ、絡まる唾液と甘いそれ。
「ん……っ、な、ぁ！」
ぼーっとする頭の片隅で、つめが甘かったなぁなんて思う。
余裕かましてたところを簡単につけこまれて……。
それにしても甘い……なぁ。さっきよりずっと、とろとろして、甘い。
ちゅっとわざとらしく音を立てながらキアがその唇を放すと
名残惜しそうな唾液とチョコレートが、一滴こぼれて落ちた。
無意識の内にキアの服の袖を握り締めてしまうと
「このまま終わりのわけねーだろ、何焦ってんだよ」
キアが笑う。
なんだかいたたまれなくなってふいと視線を逸らすとおもむろにまた、キアの声。
「今日はお前のチョコレートフォンデュ、な……」
「は？」
問うのに、答えはなくて。
その代わり、ベッドに連れて行かれて、裸にされて、そして―――。
「おい、何でシャワー室のカギ締めてんだよ！」
「……っ！入ってくんな！」
「ちっ、折角洗い流してやるっていってんのによー、素直じゃねーんだから」
事後、ようやく“チョコレートフォンデュ”の意味を理解した。
要するに、そういうことなのだ。
全身にくまなく塗りだくられたそれを落とそうとシャワーを浴び、
やりどころのない恥ずかしさにただ、打ち震えながら。
「……ったくもう……」
しかし憎まれ口を叩くその顔は真っ赤で、そして蜂蜜よりも甘かった。
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070214 全身チョコまみれだからイェンスたんのチョコフォンデュ、っていうオチ。