眠ったふりをしてまるくなりちょっとだけキアの手にふれる。
でも恥ずかしくなってやっぱりひっこめようとした手。
それなのにそのがっしりとした大きな手は
そんな一瞬のすきをも許さない。
その手を離してくれない。
これでもサッカー選手。
身体は使ってるし体力もある。
それなのに無理にでも振り切れないのは
やっぱり相手がキアだからだと思う。
その手にふれたい
「寝たふりなんて男らしくねぇなぁイェンス。」
それでもなんだか恥ずかしくて
ちょっとだけキアに触れたかっただけだなんて
絶対にいい出せなくて
やっぱり寝たふりを続ける。
いびきたてたりすればいいのかも……と
寝息にまじらせ鼻から大きな音をたててみた。
でもやっぱりキアはお見通し、
敵う相手じゃないみたいだ。
「お前なぁ、ったく……お前はいつも寝てるとき、いびきなんてたてねぇんだよ。」
俺はお前のこと全部わかってんだよと
キアの笑いをかみ殺すような声がふってきた。
俺の考えてることなんて全部わかってるみたいなその態度が
なんだか無性に悔しい。
だから絶対に本当のこと言ってやるもんかって思ってしまう。
それもわかってるんじゃないかってくらいに未だに意地悪な手は
俺の手を離してくれない。
だからそれならいっそとその手ごとひっぱって
ぐるっと寝返りをうってみた。
寝たふりしてることがバレてるっていっても
それでもまだ寝たふりでもしていないと
なんだかやっていられない。
所詮は悪あがきってわかってはいるけど。
だからといって素直になんて絶対いえない。
言わないから。
「ちょっ……っぅわ!」
するとキアの驚く声、同時にどすっといったにぶい音が響いた。
思いのほか強く引き寄せてしまったのかキアまでがひっくりかえってしまっている。
「……ご、ごめんキア!そんなつもりなかったんだけど!」
びっくりして飛び起きるように俺は声をあげた。
「いてててて……ってお前、やっぱりおきてたんじゃねーか。」
キアが優しそうにふわりと浮かべる笑み。
さっきまで意地悪だったのに急にそんな顔みせやがって……。
「ったくお前は素直じゃないんだから。」
ま、そんなとこもお前らしくて嫌いじゃないけどな、
故意ではないとはいえひっくりかえしてぶつけちまったのに
キアは怒ることもなくそんな俺を笑顔ひとつで簡単に許してしまう。
そしてそんなキアの言葉を俺も嬉しく思えてしまうように
素直になれない俺を簡単に自分のものにしちまう。
格好良かったり
意地悪だったり
優しかったり
「ずりぃよキアはさ、今まで俺が寝たふりしてたの……馬鹿みてーじゃん。」
ちょっとだけふてくされる俺を見るなりキアは俺のあごをひきよせ
そしてキス。
順をふんで段々と荒々しく息も出来ないような激しいキス。
「……んっ、ふぁ……んん。」
苦しくなって俺がもがきキアの胸板を叩くと
キアはようやくそんな俺を解放してくれた。
「っにすんだよ!……い、いきなり!」
ようやっと言葉にしながらも、呼吸はいまだ整わない。
それも待たずキアは勝ち誇ったような笑みを浮かべて問う。
「どうしたんだいきなり?俺の手なんかに触って。」
「……だってなんとなく……なんとなく触ってみたかったんだ!」
予想外の言葉だったのかキアは面食らったように表情を変えた。
「ふ、普通だろ!別に!それに……ちょっとだけでもいいから触れたいなんて思ったの、キアが初めてなんだから。」
いいだろう!
キアに全部ぶちまけてやる。
そうだよ、嘘なんてひとつもないんだからな!
でもそんな表情を見せたのも一瞬で
「ったく可愛いやつだな、お前ってやつは。」
そしてまた差し出されたその手に自分の手を重ねてしまうんだから
その手をふりきるなんて
到底無理な話だったんだなぁ。
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ほのぼの話が書きたかったので書いてみました。
ちょっと触れようとしたら掴まれて離されないって1シーンから派生した話。
素直にいえなくてなんぼの少年、かわいいことこの上なし。