私を取り巻く環境は日々変わっていくけれど
ずっと変わらないものが一つだけあった―――。
「好きよ……」
夜の闇の中で存在を誇張するように浮かぶ月。
冷たいベッドの中、私は隣で眠る傷ついた恋人の姿に
昔のことを思い出していた。
「お前に新しい世界を見せてやる」
あの日もいつもと同じように上流階級の子供たちからは蔑まれ
誰とも知れない男たちに容赦なく裸にされ身体中弄ばれて、
ようやく開放された頃。
幼き日の彼は私にそう声をかけてくれた。
他に何も触れずに、ただ来るか、来ないか、そう問いかけるだけ。
「行く」
飾り気もないたった二文字を、私は咄嗟に紡ぎだしていた。
彼は一瞬だけふっと笑みを零して、それから服、着ろよと
そう言って私に背を向けた。
今更ながらにまだ裸だったことを思い出して。
多分あのときの私は自分でも驚くほど赤面していたんだろうなと思う。
それから大急ぎで着替えをすませて、
そして、どこへ行くのかもわからない彼の背を追いかけた……
それが彼との出会いだった。
それまで見たこともなかった新しい世界がそこにはあった。
彼は私に知らなかった世界を教えてくれて、
あぁ、彼と一緒にいたらいつでも楽しいことが待っているんだなと、幼心に感じて
その背の向こうにどんな世界が、どんな出来事が待っているのか
考えてはドキドキしていた。
「私の世界はいつもあんたが作ってくれたんだよね」
いつだったか、私は気づいた。
彼の連れて行ってくれる世界じゃない
彼のいる世界に一緒に存在していたいんだって。
世界は変わっても、私の心は変わらない。
ずっと傍においてほしい。
愛しているあなたの傍に、私は生きていたい。
ねぇ、ずっと―――。
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2008/1/17
去年の11月頃書いた。名前は出してないけどロッソのカルジュリのイメージ。
おかまに火のついた冬。