タイトル『高飛車お嬢様の初恋』
どうして気になってしまうのかしら。
この私に
たくさんの男たちにちやほやされて
まるで姫のように扱われてきたこの私に
しかられたことなんてほとんどなかったこの私に
あんな…あんなにキツイ言葉を私に浴びせたあの男のことなんて…
思い出したくもないはずなのに!
なによ!……なによ。
「練習の邪魔だ!どいてくれないか?」
当たり前のように私はそのままグラウンドの方を見つめていた。
トイレに行くと言って去っていた彼女を待っているだけの私。
そう,そんなわけで友人に連れられついてきただけで特に思い入れがあるわけでもなく
だから当然のように,その言葉を流していた。
まさか私に浴びせられていた言葉だったなんて全く思っていなくて。
「おい!邪魔だって言ってんだろそこの女!」
ぎゅっと耳をつかまれイライラしたようにその男は私に怒鳴った。
……なんですって……!!
私は自身の耳を疑った。
しかし耳の中に残る余韻がそれを嘘でないと教えてくれる。
……なんてことを……この男。
「それは私を誰かと知って言っているのかしら?」
煮えくり返るはらわた,激しい怒りを必死に抑えながら
いつものように微笑みかけて私は言った。
ここですみませんと言えば許してやらないこともなかったのに
それなのにこの男……!
「知るか!いいから早く行け!」
なんて失礼な男なのかしら
この……この私に向かって!
「な……っ。」
あまりのショックに私は言葉も失った。
そして固まったまま動かない私に男はとどめを刺すように肩を掴み
「これから野球部の練習!れ・ん・しゅ・う!わかるか?無知なお嬢様。」
な……な……なんて失礼な男なの!許せないわ!
「私は
よ!名前を言えばわかるでしょ!私がここまでしてあげたのよ,いい加減観念なさい!」
ふふん,これでこの男も私にひざまづくわね。
そう思ったのもつかの間,私のそんな思いは軽々とひっくり返されてしまった。
「あのなぁ…。はっきり言わせてもらうと俺にとってはお前の名前がどうとか,そんなことはどうでもいいんだ。」
私は微笑みを崩さないはずの顔を真っ赤にして怒り狂ってしまった。
こんなはずでは……。
「それに…俺たちは甲子園に出なくちゃいけないんだ!絶対に…絶対に全国制覇しなくちゃならないんだ。だから…」
彼の顔は必死だった。
怒り狂ってたはずの私の瞳も,彼の綺麗な深紅の瞳に吸い込まれてしまうくらい。
握り締めた拳からは少しだけにじむ血の色。
……私はあんなに必死に真剣に,何かを想ったことがあっただろうか……。
「あの…ごめんなさい。」
あ……あ,私……。
「わかってくれればいいんだ。それと応援……してくれようとしてここに来てくれたんだろ。」
さっきまでの彼の怒っていた顔が
燃えるような真剣な瞳が
嘘みたいに
今ははにかんで笑ってる。
「あの…私は……」
戸惑ってる私に彼は思いもよらなかった言葉をかけた。
「それは……サンキュ。」
……わわ…なんですのこれ。
頬が熱く火照って…自分が自分じゃないみたい。
「そ……それじゃあな。」
なんだか心がぎゅっとつかまれたみたいで。
こんな気持ち……わからないですわ。知らない…ですわ。
でも…でも何故か,呼び止めてしまった。
「あ!…あの名前は…」
どうでもいいはずのこんな男のこと,なんで名前なんか知りたいのかしら私。
「二宮…二宮瑞穂。」
遠く去っていく彼の背を見つめる私は何を想ってるんだろう。
怒りは
イライラは
煮えくり返ったはらわたは
どこに行っちゃったんだろう。
なによこれ……なによ……
「遅くなってごめんね!トイレが混んでて……ってどうしたの
?顔真っ赤にして。」
「え?顔真っ赤って…。な…んでもないですわ!」
どういうことですのーっ!!
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高飛車なお嬢様のお話は書いてて楽しいです(笑)
ちょっといつもとは路線が違う感じで。ぐるぐるぐる〜っとこうパニックになるお嬢様。
最初のコンセプトとしてはとりあえず『しかられる』を入れたかったんですよねとにかく。
しかってくれる人がいるって実は幸せなことなんですよねぇ。
お嬢様だからそんなこと知らなくて,しかる人に何かイライラしつつも
興味を持ってしまうだろうということで…実際自分はお嬢じゃないのでわからんですが。
でもしかる,怒るだけじゃなくて素直に謝れば笑ってくれる人…ミズくんはこんなキャラで
良いんですか…?う…ちょっとだけ不安になってきました……。
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